シミュレーターは白昼夢に似ている。
今回の依頼は山中の大岩の発破解体だった。下手な崩し方をすれば山肌ごと大規模に崩落するそれを、うまい具合に岩の部分だけ発破で壊してしまおうという試み。B.B-BOMBカンパニーのブラストマンならできるはず、と名指しで注文が入ったそれに、失敗は決して許されない。
だから事前に入念なシミュレーションが必要だった。数十万のポリゴンで形成された山と岩のデジタル模型の内部に手入力でダイナマイトの位置を設定していく。数ピクセルの差が数メートルの誤差になるそれを何度も試行して、ブラストマンは決行のコマンドを打ち込んだ。
──爆発のアニメーションは山のリアルな再現度には似つかわしくないチープさだった。無理もない、煙の物理演算は面倒なので。それにこれはシミュレーションだから、リアルすぎなくても目的は達せられる。音声も実装されていたならガラガラと音を立てていそうな勢いで岩がバラバラになっていく。危険領域への崩落はなく、土砂の散逸も想定内。ブラストマンはそれを記録してから、データを発破前の状態まで巻き戻す。そこから天候や風速なんかの数値を弄ってから、もう一度発破の決行。……このデータを元にして現実の山に手を加えれば、そこでもシミュレーター通りの結果を得られるはずである。
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