いのちのぬくもり病院内の正月飾りが、片付けられていく。
その様子を見ながら寂雷は、年を越せなかった患者の顔を思い出した。さいごまでありがとう、と弱った声帯で絞り出された声を。
(始まりがあれば、終わりがある)
分かっていても、精神を消耗することはある。特に、こんなに寒い日は。
半分開いた廊下の窓を閉めようとした寂雷は、夜空を見てふと、手を伸ばした。
「雪……」
粉雪が一粒、その手のひらに落ちる。血の通わない皮膚と、どちらが冷たかっただろうか。
(ああ、いけない)
沈む思考を断ち切るように、窓をピシャリと閉める。風の音が遠くなり、寂雷は自分に近づいてくる足音に気がついた。知っている音だ。
「お、いた。探したぜ、センセー」
「……左馬刻くん」
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