アシンメトリー・メモリーズ 1「早川先生〜ここわかんないんですけどぉ」
「ねえ早川先生〜調理実習で作ったクッキーいる?」
目立つ高身長と特徴的な髪型の男に、女子が群がっている。
わんさかわんさか、甘い蜜に釣られた蟻のように。
「今日もすごいね?"早川先生の会"」
「ハア?俺ぁ別に興味ねー」
同級生の吉田に返すのは、ハスキーで気怠げな声。ぞんざいで柄の悪い喋り方に、一人称は俺。麦穂色の髪はボサボサで、短く切っている。瞳は地味な赤っぽい茶色。身体は鶏ガラで胸もろくにない。親が適当に付けたから、名前だって『デンジ』なんて名前だ。
もし女子生徒の制服を着ていなかったら、自分のことを女子高生だなんて思う奴はいないだろう。実際ホームレス時代は、身の危険を考えて男を装い、何年も生活してきたくらいだ。それがまかり通るくらい、デンジには女らしいところが一つもなかった。
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