YmLiBItnyo12595
DONE『背中合わせ』深境螺旋に出かけた先で、背中を預け合って戦うおはなし。
※秘境に対する捏造設定が多々あります※
登場人物⇒鍾離、魈、空、七七
第1回、鍾魈版週ドロライ企画に寄稿したもの
■表紙は「装丁カフェ様」を利用させて頂きました。
(https://pirirara.com/) 8
YmLiBItnyo12595
DONE『恋のはじまり』帝君のことをもっと知りたいと思い始めた、魈くんのおはなし。
※魈の過去に対する捏造設定が多々あります※
登場人物⇒魈、水の夜叉、空、パイモン
第1回、鍾魈版週ドロライ企画に寄稿したもの
■表紙は「装丁カフェ様」を利用させて頂きました。
(https://pirirara.com/) 8
YmLiBItnyo12595
DONE『詩歌、管弦の遊び』23年10月イベント『流れゆく水に詩を紡いで』の後日談的なもの
魈が鍾離先生にお手紙を書こうか迷って、詩のみを送ったおはなし。
登場人物⇒鍾離&魈
第1回、鍾魈版週ドロライ企画に寄稿したもの
■表紙は「装丁カフェ様」を利用させて頂きました。
(https://pirirara.com/) 6
sayuta38
DONEしょしょワンドロ2回目写真撮影 鍾離様はいつも、我を試す。
我が断らないことを知っていながら、いつも「どうだろうか?」と我に判断を委ねてくる。
今日もそうだ。民衆の間で流行っているという、風景の写真撮影イベントに行くべくカメラを持ってきたが、一緒にどうだ? と望舒旅館へ訪ねてこられた。わざわざそのようなことで道具まで持っていらしているところを断れるはずがない。風景にも写真にも興味はないが、それが鍾離様の誘いとあらば話は別だ。返事はいつも「我で良ければ。お供します」である。
出掛ける際にヴェル・ゴレットに声を掛けているので、そろそろ彼女には鍾離様と頻繁に出掛けていることを勘付かれてしまっているかもしれない。
今回の撮影イベントのお題が出るのはフォンテーヌからだが、撮影対象はフォンテーヌ内でなくても良いそうだ。今日は青い野生生物が指定されていた、と鍾離様が話をしていらした。
3978我が断らないことを知っていながら、いつも「どうだろうか?」と我に判断を委ねてくる。
今日もそうだ。民衆の間で流行っているという、風景の写真撮影イベントに行くべくカメラを持ってきたが、一緒にどうだ? と望舒旅館へ訪ねてこられた。わざわざそのようなことで道具まで持っていらしているところを断れるはずがない。風景にも写真にも興味はないが、それが鍾離様の誘いとあらば話は別だ。返事はいつも「我で良ければ。お供します」である。
出掛ける際にヴェル・ゴレットに声を掛けているので、そろそろ彼女には鍾離様と頻繁に出掛けていることを勘付かれてしまっているかもしれない。
今回の撮影イベントのお題が出るのはフォンテーヌからだが、撮影対象はフォンテーヌ内でなくても良いそうだ。今日は青い野生生物が指定されていた、と鍾離様が話をしていらした。
sayuta38
DONE鍾魈短文いい夫婦の日「魈、今日は何処にも出掛けずに俺の洞天で過ごさないか?」
朝、日の出と共に望舒旅館へ訪れた鍾離は、魈の部屋へ一歩入ると、椅子に座ることもなくそう仰った。
「え、あ、はい……それは、降魔も行ってはならないということでしょうか?」
「そうだ。今日のお前は何もしなくていい。ただし、やりたいことかあれば何でも言って欲しい。勿論降魔以外での話だが」
「……? 承知しました」
鍾離の真意がわからない。先程までだいたいの魔は屠ってきたため、しばらくは魔を掃討せずとも大丈夫ではあるのだが、何故突然このような誘いを受けているのかの説明がない。
「では、早速向かうとしよう」
手のひらをこちらに差し出され、握るように促される。説明を受けたところで断ることはしないのだから良いかと思いながら、そっと手のひらを重ね、軽く鍾離の手を握った。
2093朝、日の出と共に望舒旅館へ訪れた鍾離は、魈の部屋へ一歩入ると、椅子に座ることもなくそう仰った。
「え、あ、はい……それは、降魔も行ってはならないということでしょうか?」
「そうだ。今日のお前は何もしなくていい。ただし、やりたいことかあれば何でも言って欲しい。勿論降魔以外での話だが」
「……? 承知しました」
鍾離の真意がわからない。先程までだいたいの魔は屠ってきたため、しばらくは魔を掃討せずとも大丈夫ではあるのだが、何故突然このような誘いを受けているのかの説明がない。
「では、早速向かうとしよう」
手のひらをこちらに差し出され、握るように促される。説明を受けたところで断ることはしないのだから良いかと思いながら、そっと手のひらを重ね、軽く鍾離の手を握った。
sayuta38
DONE鍾魈小話 現パロ。飲み会に行く魈くんを迎えにいく鍾離先生の話。飲み会「ま、また飲み会なのか……?」
「はい。明後日に会合があると空に呼ばれました」
「先日も飲み会に行ったばかりではないか」
「あれはサークルの飲み会です。明後日のはクラスの集まりです」
「……それは……どうしても行かなくてはいけないものなのか?」
「いえ、鍾離様がなるべく色々な人と交流するよう我に言ったので、行こうと決めたまでです。行くなと仰るなら金輪際行きませんが」
「うぅ、そうではなくてだな……」
零か百か。魈の辞書に程々という文字はない。折角大学に行ったのだから、色々な人と交流を深め、様々な考えに触れる良い機会だ。交流の場があれば行くといい。と言ったのは確かだ。
だがしかし、こんなにも大学生は飲み会に行くものなのか? 頻度が高すぎる。その前もバイトの集まりとやらで飲み会に行ったばかりではないか。
3228「はい。明後日に会合があると空に呼ばれました」
「先日も飲み会に行ったばかりではないか」
「あれはサークルの飲み会です。明後日のはクラスの集まりです」
「……それは……どうしても行かなくてはいけないものなのか?」
「いえ、鍾離様がなるべく色々な人と交流するよう我に言ったので、行こうと決めたまでです。行くなと仰るなら金輪際行きませんが」
「うぅ、そうではなくてだな……」
零か百か。魈の辞書に程々という文字はない。折角大学に行ったのだから、色々な人と交流を深め、様々な考えに触れる良い機会だ。交流の場があれば行くといい。と言ったのは確かだ。
だがしかし、こんなにも大学生は飲み会に行くものなのか? 頻度が高すぎる。その前もバイトの集まりとやらで飲み会に行ったばかりではないか。
sayuta38
DONE鍾魈小話11.11「今日は面白いものを手に入れたんだ」
「面白いもの……ですか……?」
鍾離の邸宅にて名を呼ばれ、数秒とかからずに馳せ参じた。ひとまず鍾離に大事がないことが確認できて、ほっと息を吐く。
鍾離の手には見た事もない小さな箱が握られている。赤一色で塗られた箱の中心には棒のような絵が書かれていた。魈は、鍾離の言う『面白いもの』とやらをしばし凝視してみたが、突然何かが飛び出してきたりするような気配は感じなかった。
「これは異国の菓子で、旅人がくれたものだ」
「菓子……」
「甘味が強いもののようなので、お前にも食べられるだろう。今日はこれを共に食べたくて呼び出したのだが、どうだろうか」
鍾離がただ甘味を魈と食べたい、と呼び出されたことに対しては、素直に嬉しいとは思う。しかし、そのような用向きならばいつも鍾離が望舒旅館へと足を運んでいるような気がしたので、些か不思議に思った。
1867「面白いもの……ですか……?」
鍾離の邸宅にて名を呼ばれ、数秒とかからずに馳せ参じた。ひとまず鍾離に大事がないことが確認できて、ほっと息を吐く。
鍾離の手には見た事もない小さな箱が握られている。赤一色で塗られた箱の中心には棒のような絵が書かれていた。魈は、鍾離の言う『面白いもの』とやらをしばし凝視してみたが、突然何かが飛び出してきたりするような気配は感じなかった。
「これは異国の菓子で、旅人がくれたものだ」
「菓子……」
「甘味が強いもののようなので、お前にも食べられるだろう。今日はこれを共に食べたくて呼び出したのだが、どうだろうか」
鍾離がただ甘味を魈と食べたい、と呼び出されたことに対しては、素直に嬉しいとは思う。しかし、そのような用向きならばいつも鍾離が望舒旅館へと足を運んでいるような気がしたので、些か不思議に思った。
sayuta38
DONEしょしょワンドロ1回目背中合わせ 俺の名は鍾離。またの名を岩神モラクス。契約の神だ。
一度契約を交わした内容は、それを反故にすることは絶対しない。それは当たり前のことではあるのだが……。
俺には今、どうしても破棄したい契約がある。
「魈……」
「いけません。そういう契約をしたのですから」
「しょう……」
縋り付くような声色で名を呼んでみたのだが、ぴしゃりと拒絶の声音で返ってきた。さすがは俺に長年仕えているだけのことはある。融通が効かない。契約は絶対的である為に、二の句が告げなくなってしまった。
ここは俺の寝台であり、俺が横になっている後ろ側の、拳一つ分くらい空間を空けた先に魈が横になっている。こんなに近くにいるのに、背中合わせで眠ることになってしまったのは、魈とそのような契約を交わしたからである。
2196一度契約を交わした内容は、それを反故にすることは絶対しない。それは当たり前のことではあるのだが……。
俺には今、どうしても破棄したい契約がある。
「魈……」
「いけません。そういう契約をしたのですから」
「しょう……」
縋り付くような声色で名を呼んでみたのだが、ぴしゃりと拒絶の声音で返ってきた。さすがは俺に長年仕えているだけのことはある。融通が効かない。契約は絶対的である為に、二の句が告げなくなってしまった。
ここは俺の寝台であり、俺が横になっている後ろ側の、拳一つ分くらい空間を空けた先に魈が横になっている。こんなに近くにいるのに、背中合わせで眠ることになってしまったのは、魈とそのような契約を交わしたからである。
sayuta38
DOODLE鍾魈短文、詩歌イベントありがとうという勢いで書いた短文です。最後の一杯「今日もここに来ていたのか」
「鍾離様……」
璃月港を離れ、銅雀の寺が見渡せる丘の上まで来てみた所、景色に溶け込むように魈は立っていた。
水のせせらぎが聞こえ、茜色に染まる空の、夕陽の落ちていく様子が一望できる静かな場所だ。ここ数日、何をする訳でもなく魈がそこに立っていることがあると旅人から聞き俺も足を運んでみたのだが、やはり彼はそこにいて銅雀の寺を見ていた。
「少し、話でもどうだろうか」
「しかし……」
「酒も持ってきた。たまには俺も銅雀と盃を交わしたいと思ってな」
「……承知しました。では、我も少しだけいただきます」
寺の中に入ると平安に見つかってしまうかもしれないので、その場に座り込んで酒瓶と盃を取り出した。
1629「鍾離様……」
璃月港を離れ、銅雀の寺が見渡せる丘の上まで来てみた所、景色に溶け込むように魈は立っていた。
水のせせらぎが聞こえ、茜色に染まる空の、夕陽の落ちていく様子が一望できる静かな場所だ。ここ数日、何をする訳でもなく魈がそこに立っていることがあると旅人から聞き俺も足を運んでみたのだが、やはり彼はそこにいて銅雀の寺を見ていた。
「少し、話でもどうだろうか」
「しかし……」
「酒も持ってきた。たまには俺も銅雀と盃を交わしたいと思ってな」
「……承知しました。では、我も少しだけいただきます」
寺の中に入ると平安に見つかってしまうかもしれないので、その場に座り込んで酒瓶と盃を取り出した。
sayuta38
DONE鍾魈小話。看病ネタです。流行り病 はた、と気が付いて辺りを見渡した。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。確か、まだ降魔の途中だったはずだ。
魔の気配がする。行かなくては。
すっくと立ち上がるも一瞬気が遠くなり、背にあった岩にもたれ再びその場にずるずると座り込んでしまった。何故か視界が霞む。目をいくら擦っても良くはならなかった。それ程に自分は疲労を感じていたのだろうか。いつもより身体が重く感じる。そういえば、寝起きにしては息が切れている気がする。業障の影響かと思ったが、周りから聞こえる音は幾分か鈍い。
今度は岩を支えにしてゆっくりと立ち上がり、場所の特定を測る。濃霧が出ていて分かりづらいが、絶雲の間辺りだということがわかった。
6583魔の気配がする。行かなくては。
すっくと立ち上がるも一瞬気が遠くなり、背にあった岩にもたれ再びその場にずるずると座り込んでしまった。何故か視界が霞む。目をいくら擦っても良くはならなかった。それ程に自分は疲労を感じていたのだろうか。いつもより身体が重く感じる。そういえば、寝起きにしては息が切れている気がする。業障の影響かと思ったが、周りから聞こえる音は幾分か鈍い。
今度は岩を支えにしてゆっくりと立ち上がり、場所の特定を測る。濃霧が出ていて分かりづらいが、絶雲の間辺りだということがわかった。
sayuta38
DONE鍾離魈小話。喫茶店謎現パロ。あまりショショではないかも。とっておきの一杯 いつからそこにあったのか。もう記憶にはない。
幼い頃からそこにあったような気もするし、違うかもしれない。
その場所に今、僕は立っている。
秋になると、店の庭に植えてあるイチョウの葉がよく舞っているのが目に入る。軒下には、橙色の光る石が置いてあり、夜に通りかかると足元を照らしてくれている。この石は何という名のものなのかはわからないが、この辺ではここでしか見掛けないものだ。
何屋だろう? と長年疑問に思っていたが、そこが喫茶店だということを最近祖母に教えてもらった。
外には看板もなく、何が置いてあるのかもさっぱりわからない。ただ、いつ見てもその店の外観は変わっていない気がする。壁にひび割れや、朽ちている箇所もない。
4046幼い頃からそこにあったような気もするし、違うかもしれない。
その場所に今、僕は立っている。
秋になると、店の庭に植えてあるイチョウの葉がよく舞っているのが目に入る。軒下には、橙色の光る石が置いてあり、夜に通りかかると足元を照らしてくれている。この石は何という名のものなのかはわからないが、この辺ではここでしか見掛けないものだ。
何屋だろう? と長年疑問に思っていたが、そこが喫茶店だということを最近祖母に教えてもらった。
外には看板もなく、何が置いてあるのかもさっぱりわからない。ただ、いつ見てもその店の外観は変わっていない気がする。壁にひび割れや、朽ちている箇所もない。
sayuta38
DOODLE鍾魈短文。詩歌2日目のネタバレ含む、小話はじめての「はぁ……」
魈は深いため息をつかずにはいられなかった。
理由は明白だ。望舒旅館に現れた客人のことである。
ウェンティと胡桃に呼び出され、此度のイベントについての説明を聞かされた。是非来て欲しいと言われたが、是非の部分がどうにも納得できなかった。何故自分が。その場を賑やかすことも出来ず気の利いたことも言える気がしない。そのうえこの二人……なんとも断りにくく、言葉を濁して去ったのもつかの間、今度は旅人が現れたのだ。なんだかんだと断ってみたものの、あの者達の目はちっとも諦めてはいないように見えて、ますます深いため息をついてしまう。凡人の催しに参加するには、まだ心の準備が出来ていない。
「随分と熱烈な誘いだったな。行かないのか?」
1256魈は深いため息をつかずにはいられなかった。
理由は明白だ。望舒旅館に現れた客人のことである。
ウェンティと胡桃に呼び出され、此度のイベントについての説明を聞かされた。是非来て欲しいと言われたが、是非の部分がどうにも納得できなかった。何故自分が。その場を賑やかすことも出来ず気の利いたことも言える気がしない。そのうえこの二人……なんとも断りにくく、言葉を濁して去ったのもつかの間、今度は旅人が現れたのだ。なんだかんだと断ってみたものの、あの者達の目はちっとも諦めてはいないように見えて、ますます深いため息をついてしまう。凡人の催しに参加するには、まだ心の準備が出来ていない。
「随分と熱烈な誘いだったな。行かないのか?」
sayuta38
DONE鍾魈短文「お月見」お月見 今日は、妖魔の動きが活発だった。
翳りもなく見える丸い月に照らされ、次々と魔を屠っていく。生のあるものに群がり、取り付き、害を成さんとするそれを片っ端から鎮めていく。
一通り見回ったところで、少しばかり休息を取ろうと望舒旅館の露台へ戻ると、そこにはよく見知った影があった。
「鍾離様……」
「ああ、邪魔している」
露台の縁に腰掛け、空を見ていた鍾離様がこちらへ振り返った。眩い月が鍾離様の表情に影を落としている。なんと絵になる方だろうか。思わず感嘆の吐息を漏らしてしまったが、鍾離様はいつものようにウキウキと俗世の話をする雰囲気ではなく、少しばかり憂いを帯びた寂そうな表情をしていた。
いかがされたのだろうか。
2471翳りもなく見える丸い月に照らされ、次々と魔を屠っていく。生のあるものに群がり、取り付き、害を成さんとするそれを片っ端から鎮めていく。
一通り見回ったところで、少しばかり休息を取ろうと望舒旅館の露台へ戻ると、そこにはよく見知った影があった。
「鍾離様……」
「ああ、邪魔している」
露台の縁に腰掛け、空を見ていた鍾離様がこちらへ振り返った。眩い月が鍾離様の表情に影を落としている。なんと絵になる方だろうか。思わず感嘆の吐息を漏らしてしまったが、鍾離様はいつものようにウキウキと俗世の話をする雰囲気ではなく、少しばかり憂いを帯びた寂そうな表情をしていた。
いかがされたのだろうか。
sayuta38
DONE鍾魈短文。壺の中で二人ぼっちで暮らす話。ちょっと暗めです。まだ、終われない 二人で住むには些か広すぎる洞天に来て、もう何年経っただろうか。
魈はここから出ることが出来ない。鍾離が通行証をどこかに封じてしまったからだ。鍾離もここから出ていくことはない。壺の管理人はいるので、暮らしに不自由はしていなかった。
作物を育て、自分たちで料理を作って食べる。魈の一生の中で、凡人の暮らしと何ら変わらない暮らしをすることになるとは思っていなかった。
鍾離の洞天に来たばかりの頃は、鍾離がずっと傍にいるという事実に狼狽えていたが、その状況にも慣れてしまった。
身体が訛るといけないのでたまに修練場で鍾離と手合わせをするが、その技を活かせる時はまた来るのだろうか。
考えてしまってはいけない気がして、思考を奥底へと追いやった。
5583魈はここから出ることが出来ない。鍾離が通行証をどこかに封じてしまったからだ。鍾離もここから出ていくことはない。壺の管理人はいるので、暮らしに不自由はしていなかった。
作物を育て、自分たちで料理を作って食べる。魈の一生の中で、凡人の暮らしと何ら変わらない暮らしをすることになるとは思っていなかった。
鍾離の洞天に来たばかりの頃は、鍾離がずっと傍にいるという事実に狼狽えていたが、その状況にも慣れてしまった。
身体が訛るといけないのでたまに修練場で鍾離と手合わせをするが、その技を活かせる時はまた来るのだろうか。
考えてしまってはいけない気がして、思考を奥底へと追いやった。
sayuta38
DONE鍾魈短文「恋とは、どのような」自信満々に告白しにいったら魈くんに振られる話です。
恋とは、どのような 俺には、絶対的自信があった。
封印した魔神は数しれず、どれだけの民を救ったかもわからない。魔神でありながら民の信用を得、契約を以て契約の通りに責務をこなす。傲慢だと言われても、俺の所業は書物に多く残されており、そのほとんどが事実だ。今思い返すと、若かりし頃の勇ましい記録も残っており、燃やしてしまいたいと思ったこともあるが、まぁいいだろう。
それはさておき。俺は最近気づいてしまったのだ。魈のことを好いているのだと。
神であった頃も気には掛けていたものの、それ以上の気持ちはなかったように思う。凡人としてゆったり生活していると、なぜだかよく足が望舒旅館へ向くようになったのだ。魈がいない時もあるが、見つけると自分の心が嬉しく思っているのを感じる。何か話がしたくて、要点もない話をして引き止めてしまうこともあった。魈は困惑の表情をしていたものの、決して嫌な顔はしていなかった。そればかりか、俺が声を掛けるといつも少し慌てだして、俺が訪れた真意をいつも探ろうと必死になっている。可愛らしいことこの上ない。魈は中々俺に近寄っては来ないが、俺から行くと少しだけ嬉しそうな顔をする。俺にはわかる。魈も俺のことを好いているのだと。思い返せば思い当たる節がいくつもあった。間違いないと思っていた。
3857封印した魔神は数しれず、どれだけの民を救ったかもわからない。魔神でありながら民の信用を得、契約を以て契約の通りに責務をこなす。傲慢だと言われても、俺の所業は書物に多く残されており、そのほとんどが事実だ。今思い返すと、若かりし頃の勇ましい記録も残っており、燃やしてしまいたいと思ったこともあるが、まぁいいだろう。
それはさておき。俺は最近気づいてしまったのだ。魈のことを好いているのだと。
神であった頃も気には掛けていたものの、それ以上の気持ちはなかったように思う。凡人としてゆったり生活していると、なぜだかよく足が望舒旅館へ向くようになったのだ。魈がいない時もあるが、見つけると自分の心が嬉しく思っているのを感じる。何か話がしたくて、要点もない話をして引き止めてしまうこともあった。魈は困惑の表情をしていたものの、決して嫌な顔はしていなかった。そればかりか、俺が声を掛けるといつも少し慌てだして、俺が訪れた真意をいつも探ろうと必死になっている。可愛らしいことこの上ない。魈は中々俺に近寄っては来ないが、俺から行くと少しだけ嬉しそうな顔をする。俺にはわかる。魈も俺のことを好いているのだと。思い返せば思い当たる節がいくつもあった。間違いないと思っていた。
sayuta38
DONE鍾魈小話「ピロートーク2」魈くん視点です。
ピロートーク2「しょ、りさまは……我の、どこを……好いてらっしゃるのでしょうか」
熱に浮かされて、うっかり出てしまった言葉だった。一度出た音は戻らない。その一瞬、鍾離様は石珀色の瞳を目いっぱい覗かせて、それから、少しだけ寂しそうな顔をしながら我に口付けを落とした。
ああ、言ってしまった。
今し方、愛していると囁いてくださったのに。鍾離様が我を好いてくださっていることは、よくわかっているつもりだった。言葉をたくさんくれる。行動でも示してくださる。疑いようのないはずなのに、口からまろび出てしまった心の奥底の不安に思っている本心が、鍾離様に届いてしまった。
それから訳も分からなくなるくらい鍾離様に愛されてしまって、頭では何も考えられなくなった頃、いつの間にか眠ってしまっていた。
1368熱に浮かされて、うっかり出てしまった言葉だった。一度出た音は戻らない。その一瞬、鍾離様は石珀色の瞳を目いっぱい覗かせて、それから、少しだけ寂しそうな顔をしながら我に口付けを落とした。
ああ、言ってしまった。
今し方、愛していると囁いてくださったのに。鍾離様が我を好いてくださっていることは、よくわかっているつもりだった。言葉をたくさんくれる。行動でも示してくださる。疑いようのないはずなのに、口からまろび出てしまった心の奥底の不安に思っている本心が、鍾離様に届いてしまった。
それから訳も分からなくなるくらい鍾離様に愛されてしまって、頭では何も考えられなくなった頃、いつの間にか眠ってしまっていた。
sayuta38
DONE鍾魈短文「ピロートーク」ピロートーク「しょ、りさまは……我の、どこを……好いてらっしゃるのでしょうか」
あまりに自信なさげに揺れ零れていく儚い金木犀のような瞳が愛しくて、その口を塞いだ。それでもまだ、伝わってはいないのだろう。
何度夜を重ねても、朝を共に迎えても、彼の疑問は中々解消されないようだ。俺がいくら好いていると愛を伝えて行動で示しても、未だに恋仲であるということにどこか後ろめたさを持っていることがわかる。思考が溶けた頃に愛の言葉を伝えたところ、冒頭のような疑問が返ってきたのである。
散々啼かせてしまったせいもあり、魈は今、隣で泥のように眠っている。俺の方に身体を向けて小さい吐息を漏らして呼吸をしているその姿からは、とても二千年以上の時を生きた夜叉には見えない。まろい頬を撫で、顔に掛かっている深い緑色の髪をかきあげ耳に掛ける。新緑色のキラキラ光る髪色を美しいと思いながら、指にくるくると巻き付けて遊んだ。
1406あまりに自信なさげに揺れ零れていく儚い金木犀のような瞳が愛しくて、その口を塞いだ。それでもまだ、伝わってはいないのだろう。
何度夜を重ねても、朝を共に迎えても、彼の疑問は中々解消されないようだ。俺がいくら好いていると愛を伝えて行動で示しても、未だに恋仲であるということにどこか後ろめたさを持っていることがわかる。思考が溶けた頃に愛の言葉を伝えたところ、冒頭のような疑問が返ってきたのである。
散々啼かせてしまったせいもあり、魈は今、隣で泥のように眠っている。俺の方に身体を向けて小さい吐息を漏らして呼吸をしているその姿からは、とても二千年以上の時を生きた夜叉には見えない。まろい頬を撫で、顔に掛かっている深い緑色の髪をかきあげ耳に掛ける。新緑色のキラキラ光る髪色を美しいと思いながら、指にくるくると巻き付けて遊んだ。
sayuta38
DONE鍾魈小話「それは、とても小さな」何か俺としてみたいことはないか?と聞かれて悩む魈くんの話です。
それは、とても小さな「何か、俺としてみたいことはないのか?」
唐突だった。鍾離に連れられて、軽策荘で筍を掘っていた時だった。無言で土から出たばかりのそれを取っては籠に入れていると、同じく筍を吟味していた鍾離に声を掛けられたのだ。
「……特には、ないです」
一秒程考えてはみたが、何と答えるのが正解かわからず、思い浮かぶものはなかった。
「ほう? 俺は、お前と筍を掘ることも、お前としたいことの一つだった」
「左様でございますか…… 」
自分と筍など、いくらでも掘れる機会はあるというのに、それが鍾離のしたいことだというのが意外だった。
「どんな些細なことでも構わないんだ。お前の好きなことを俺に共有してくれるのでもいい」
「なるほど……」
3469唐突だった。鍾離に連れられて、軽策荘で筍を掘っていた時だった。無言で土から出たばかりのそれを取っては籠に入れていると、同じく筍を吟味していた鍾離に声を掛けられたのだ。
「……特には、ないです」
一秒程考えてはみたが、何と答えるのが正解かわからず、思い浮かぶものはなかった。
「ほう? 俺は、お前と筍を掘ることも、お前としたいことの一つだった」
「左様でございますか…… 」
自分と筍など、いくらでも掘れる機会はあるというのに、それが鍾離のしたいことだというのが意外だった。
「どんな些細なことでも構わないんだ。お前の好きなことを俺に共有してくれるのでもいい」
「なるほど……」
sayuta38
DONE鍾魈小話「看病」フォロワーさんの素敵な壺からパッションを受け書いたものです。
看病 カツン、カツン、よく手入れされた靴音が夜灯りに響く。
腕に抱えた夜叉の子は、ぐったりとして意識がなく、横抱きにして運んでいても身動ぎ一つしなかった。
また無理をしたのだろう。無理をするなと百年以上は言い続けているのに一向に改善されない彼の戦い方は、時折心が痛くなる。もしかすると、心配で摩耗してしまうから止めて欲しいと言えば止めるかもしれないが、魈のことだ。必要以上に落ち込む姿が目に浮かぶ。それは本意ではない。なるべく魈には自由に生きて欲しいのだ。ならば、魈のやりたい事を陰ながら支えるのが自分の務めでもある。
腕に無数の傷、額から流れて既に固まっている血痕。小さい体躯、軽い身体。今日も璃月の安寧を守るために駆け回ってくれた魈のことを、大事にしてやりたい気持ちが募る。彼は仙人だ。故にその辺で眠っていても回復するに違いない。きっと魈は、鍾離が洞天に運んで治療してやることも不要だと言うだろう。それでも早く治療してあげたいと思うのは、鍾離の我儘だ。
3221腕に抱えた夜叉の子は、ぐったりとして意識がなく、横抱きにして運んでいても身動ぎ一つしなかった。
また無理をしたのだろう。無理をするなと百年以上は言い続けているのに一向に改善されない彼の戦い方は、時折心が痛くなる。もしかすると、心配で摩耗してしまうから止めて欲しいと言えば止めるかもしれないが、魈のことだ。必要以上に落ち込む姿が目に浮かぶ。それは本意ではない。なるべく魈には自由に生きて欲しいのだ。ならば、魈のやりたい事を陰ながら支えるのが自分の務めでもある。
腕に無数の傷、額から流れて既に固まっている血痕。小さい体躯、軽い身体。今日も璃月の安寧を守るために駆け回ってくれた魈のことを、大事にしてやりたい気持ちが募る。彼は仙人だ。故にその辺で眠っていても回復するに違いない。きっと魈は、鍾離が洞天に運んで治療してやることも不要だと言うだろう。それでも早く治療してあげたいと思うのは、鍾離の我儘だ。
sayuta38
DONE鍾魈短文。帰る場所。筍掘った先生が帰りに望舒旅館に寄る話です。
帰る場所「は……、はっ……」
今の魈には、体内に酸素を送り込むことで精一杯だった。今すぐここに座り込んで、眠ってしまいたい。
今日は妖魔の気配が一際多く、夜通し殲滅することになってしまった。朝の澄み切った陽の光が、璃月の一日を照らしていく。
眩しさに目が眩む。ぐらぐらと揺れる頭が重い。でも、帰らなければならない。
「めんどうな……」
以前の自分だったら、その辺で眠っていただろう。誰にも気にされなかった存在のはずなのに、近頃は鍾離へ報告が入るらしく、目が覚めたら隣に鍾離がいることがよくある。不甲斐ないことこの上なしではあるが、鍾離が好きでやっていることだから気にしなくていいと言われる始末である。が、気にならない訳がない。
3631今の魈には、体内に酸素を送り込むことで精一杯だった。今すぐここに座り込んで、眠ってしまいたい。
今日は妖魔の気配が一際多く、夜通し殲滅することになってしまった。朝の澄み切った陽の光が、璃月の一日を照らしていく。
眩しさに目が眩む。ぐらぐらと揺れる頭が重い。でも、帰らなければならない。
「めんどうな……」
以前の自分だったら、その辺で眠っていただろう。誰にも気にされなかった存在のはずなのに、近頃は鍾離へ報告が入るらしく、目が覚めたら隣に鍾離がいることがよくある。不甲斐ないことこの上なしではあるが、鍾離が好きでやっていることだから気にしなくていいと言われる始末である。が、気にならない訳がない。
sayuta38
DONE鍾魈短文「安眠」安眠 凡人になってから睡眠を取るようになったのは良いが、寝付きも悪ければ眠りも浅く、寝付いたと思えば悪夢を見る。と鍾離様は言っていた。
これは悩みを自分に吐露されているのだと思い、自分に出来ることがあればなんなりと申し付けてくださいと伝えたところ、夜の間傍にいて欲しいと仰った。
鍾離様の眠る様をただ見つめているとは、なんと贅沢な時間なのだろうか。そんな不敬なことを思いながら、夜の帳が下りる頃、寝台の傍らに立った。
「魈。何をしている?」
「あ……鍾離様の方へ視線は向けないようにしますので、どうぞお気になさらずお休みください」
ゆらゆらと揺らめく灯りの傍で、睡衣をお召しになっている鍾離様を見るのは我にとって目に毒であった。雄々しい輪郭がいつもより露わである。やましい気持ちなど一切ないが、鍾離様の普段は見えない肌が嫌でも瞳に写ってしまう。
3546これは悩みを自分に吐露されているのだと思い、自分に出来ることがあればなんなりと申し付けてくださいと伝えたところ、夜の間傍にいて欲しいと仰った。
鍾離様の眠る様をただ見つめているとは、なんと贅沢な時間なのだろうか。そんな不敬なことを思いながら、夜の帳が下りる頃、寝台の傍らに立った。
「魈。何をしている?」
「あ……鍾離様の方へ視線は向けないようにしますので、どうぞお気になさらずお休みください」
ゆらゆらと揺らめく灯りの傍で、睡衣をお召しになっている鍾離様を見るのは我にとって目に毒であった。雄々しい輪郭がいつもより露わである。やましい気持ちなど一切ないが、鍾離様の普段は見えない肌が嫌でも瞳に写ってしまう。
sayuta38
DONE鍾魈短文「抱擁」抱擁 凡人というのは意外と忙しいものだ。
岩王帝君として君臨していた時もゆっくりする時間などあまりなかったように思うが、問題が起きても采配を下し自ら動くことは少なくなっていったように思う。
往生堂の頼まれごとは自ら解決に当たらなければならない。凡人以上の力を発揮してもいけない。中々制約の多い中でその日に出来ることをこなし、眠りにつき、翌日を迎え、また仕事をする。
凡人の職業の中には休みがあるものもいるが、俺の場合は休みなどあってないようなものだ。堂主に頼まれれば、夜だろうと職務にあたる。
これはこれで楽しく、凡人目線で色々なことがわかって面白い。特に噂なんてものはひとづてに話が途中で変わっていき、一週間もすれば別の話になっている。
2368岩王帝君として君臨していた時もゆっくりする時間などあまりなかったように思うが、問題が起きても采配を下し自ら動くことは少なくなっていったように思う。
往生堂の頼まれごとは自ら解決に当たらなければならない。凡人以上の力を発揮してもいけない。中々制約の多い中でその日に出来ることをこなし、眠りにつき、翌日を迎え、また仕事をする。
凡人の職業の中には休みがあるものもいるが、俺の場合は休みなどあってないようなものだ。堂主に頼まれれば、夜だろうと職務にあたる。
これはこれで楽しく、凡人目線で色々なことがわかって面白い。特に噂なんてものはひとづてに話が途中で変わっていき、一週間もすれば別の話になっている。
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DONE鍾魈短文。眠りの酒眠りの酒 コツコツと扉を叩く音がした。こんな夜更けに一体誰だろう。と凡人の俺は思うべきだろうが、生憎と扉の向こうにいる人物は気配でわかるものである。
「どうした? 鍵は開いているぞ。入ってくればいい」
扉の向こうへ声を掛けてみたが、全く扉が開く様子がない。俺が開けるのを待っているのだろうか。なんともまぁ律儀なものだ。
去る気配もなければ、そこから動く様子もない。どうしたものかと思い扉を開けたところ、やはり目の前にいたのは、凡人の身からすれば中々お目に掛かることのない仙人様だった。
「魈、どうした?」
「……」
彼は断りもなく俺の家を訪ねて来ることは今までないに等しい。大事があったのかと思い尋ねてみるが、魈は俯いたまま返事の一つもしない。言い難いことでもおきたのか。特に彼から酷い業障の気配もしなかったので、全く状況がわからなかった。
1741「どうした? 鍵は開いているぞ。入ってくればいい」
扉の向こうへ声を掛けてみたが、全く扉が開く様子がない。俺が開けるのを待っているのだろうか。なんともまぁ律儀なものだ。
去る気配もなければ、そこから動く様子もない。どうしたものかと思い扉を開けたところ、やはり目の前にいたのは、凡人の身からすれば中々お目に掛かることのない仙人様だった。
「魈、どうした?」
「……」
彼は断りもなく俺の家を訪ねて来ることは今までないに等しい。大事があったのかと思い尋ねてみるが、魈は俯いたまま返事の一つもしない。言い難いことでもおきたのか。特に彼から酷い業障の気配もしなかったので、全く状況がわからなかった。
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DONE鍾魈短文「わたあめ」わたあめ 稲妻では祭りの時に着る服などと言って、揃いの浴衣とやらを着せられ稲妻の祭りに行くことになった。
人が多いので、はぐれては大変だと言って手を繋がれた。
鍾離様の御手は、我の手より幾分か大きく、包まれてしまえばその温かさに心臓まで温もりを感じる。いつもは手套に隠されているお互いの皮膚が触れ合っているというだけで、なんともいたたれない気持ちになった。
時折力を込められたり、指ですりすりと撫でられたりすると、自分の体温がどんどん上がっていく気さえした。ちらりと鍾離様の顔を盗み見れば、とても楽しそうに笑っておられる。このように人が多く、誰に見られるかも知れない場所で手を繋ぐなど勘弁して欲しいところであるが、鍾離様が楽しそうだと我も楽しいのは事実である。
2537人が多いので、はぐれては大変だと言って手を繋がれた。
鍾離様の御手は、我の手より幾分か大きく、包まれてしまえばその温かさに心臓まで温もりを感じる。いつもは手套に隠されているお互いの皮膚が触れ合っているというだけで、なんともいたたれない気持ちになった。
時折力を込められたり、指ですりすりと撫でられたりすると、自分の体温がどんどん上がっていく気さえした。ちらりと鍾離様の顔を盗み見れば、とても楽しそうに笑っておられる。このように人が多く、誰に見られるかも知れない場所で手を繋ぐなど勘弁して欲しいところであるが、鍾離様が楽しそうだと我も楽しいのは事実である。
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DONE鍾魈短文、七夕七夕 降魔が終わったら、碧水の原に来てくれないか?
昼間望舒旅館へ来た鍾離はそれだけ魈に伝えると、どのような要件かも伝えずに去ってしまった。その場所で呼び出されることに一体どんな真意が? などと思いつつ、日が暮れると同時に降魔へ向かう。今日は何故かいつもよりも魔が多く、屠るのに時間が掛かってしまった。終わった頃にはすっかり夜も更け、ふと空を見上げれば眩い月灯りと、無数の星が地上を照らしていた。鍾離を随分と待たせてしまったことに少し罪悪感を感じながら碧水の原へと疾風のように宙を駆け向かう。璃月港から随分距離がある地なので、鍾離は既にもう帰っているかもしれない。
「あ、鍾離様……申し訳ありません。遅くなりました」
2320昼間望舒旅館へ来た鍾離はそれだけ魈に伝えると、どのような要件かも伝えずに去ってしまった。その場所で呼び出されることに一体どんな真意が? などと思いつつ、日が暮れると同時に降魔へ向かう。今日は何故かいつもよりも魔が多く、屠るのに時間が掛かってしまった。終わった頃にはすっかり夜も更け、ふと空を見上げれば眩い月灯りと、無数の星が地上を照らしていた。鍾離を随分と待たせてしまったことに少し罪悪感を感じながら碧水の原へと疾風のように宙を駆け向かう。璃月港から随分距離がある地なので、鍾離は既にもう帰っているかもしれない。
「あ、鍾離様……申し訳ありません。遅くなりました」
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DONE鍾魈短文、一休み一休み「なんだ、ここに居たのか」
望舒旅館のオーナーに魈の所在を尋ねてみると、ここ数日姿を見ていないと返答があった。
いつもなら出直すところだが、こっそりと彼の気配を辿ってみると、意外と近くにいることがわかる。オーナーに礼を告げ、魈の居る方向へ足を進める。望舒旅館の近くの木々の下に魈は居た。
体躯をぐっと丸め、陽が当たらない雑草の上で眠っている。鍾離が声を掛けたにも関わらず、彼は身動ぎ一つしなかった。相当疲れているのか、或いは……。
最悪のケースを想定し、魈に近寄り座り込んでよくよく観察してみると、僅かながらに胸は上下していた。良かった、無事であるようだ。
気付かれないように手を翳し、魈へと神力を送る。そこまで毎日戦いに明け暮れなくても良いと何度も伝えてはいるが、彼は意外と頑固であることは鍾離もわかってはいる。
519望舒旅館のオーナーに魈の所在を尋ねてみると、ここ数日姿を見ていないと返答があった。
いつもなら出直すところだが、こっそりと彼の気配を辿ってみると、意外と近くにいることがわかる。オーナーに礼を告げ、魈の居る方向へ足を進める。望舒旅館の近くの木々の下に魈は居た。
体躯をぐっと丸め、陽が当たらない雑草の上で眠っている。鍾離が声を掛けたにも関わらず、彼は身動ぎ一つしなかった。相当疲れているのか、或いは……。
最悪のケースを想定し、魈に近寄り座り込んでよくよく観察してみると、僅かながらに胸は上下していた。良かった、無事であるようだ。
気付かれないように手を翳し、魈へと神力を送る。そこまで毎日戦いに明け暮れなくても良いと何度も伝えてはいるが、彼は意外と頑固であることは鍾離もわかってはいる。
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DONE鍾魈短文、魈のお誕生日誕生日「魈……いる?」
「どうした」
旅人の一大事かと思い、魈は仙力を使ってすぐ傍へ現れた。望舒旅館の最上階。普段なら誰も踏み入ることはない場所だ。
「今日はお前の誕生日だって聞いたぞ~! だからオイラ達、魈を祝いに来たんだ~」
ところが、旅人の用事は拍子抜けするくらい些細なことだった。
「なんだ、そんなことか。我は特に誕生日だからといって別段何かがあるわけではない」
今日が自分の誕生日ということすら魈は忘れていたくらいだった。もはや何歳の誕生日なのかすら忘れかけている。他の夜叉達が存命していた頃には、誰かの誕生日に酒を酌み交わすこともあったけれど、ここ数百年余り、そのようなことをすることもなくなっていた。
1593「どうした」
旅人の一大事かと思い、魈は仙力を使ってすぐ傍へ現れた。望舒旅館の最上階。普段なら誰も踏み入ることはない場所だ。
「今日はお前の誕生日だって聞いたぞ~! だからオイラ達、魈を祝いに来たんだ~」
ところが、旅人の用事は拍子抜けするくらい些細なことだった。
「なんだ、そんなことか。我は特に誕生日だからといって別段何かがあるわけではない」
今日が自分の誕生日ということすら魈は忘れていたくらいだった。もはや何歳の誕生日なのかすら忘れかけている。他の夜叉達が存命していた頃には、誰かの誕生日に酒を酌み交わすこともあったけれど、ここ数百年余り、そのようなことをすることもなくなっていた。