ナカマル
DONE #ナカマルのクアザ勇気を出す莇くんの話
こちらの「ハイライト」からストーリーズ形式でお読みいただけます。イメージソングも流れますので良かったら見てみてください。
https://www.instagram.com/nakamarusuisan?igsh=YTh1d2ltZGtja2ow&utm_source=qr
たった2文字◇◆──────────
カン、と軽快な音を立てて、ボールは遠く飛んでいく。これで三球目。あと十七球ある。九門がバットを振るうのを、俺はフェンス越しに眺めていた。
この全二十球が終わったら、寮に帰ることになっている。チャンスがあるとしたら、九門のバッティングが終わって、一緒に帰路について、寮に着くまでの間だ。
一体何から言えば。こういうことに関するボキャブラリーが少なすぎて、どうすればいいのかわからない。それでも今日言わない手はなかった。だって、もたもたしていたら取り返しがつかなくなる。
今日は、校門の前で九門を待っていた。別に約束はしていない。ただ、最近はタイミングが合えばなんとなく一緒に帰るようになっているから、九門を待つことはなんらおかしなことではないはずだった。本当は教室の前まで行って待とうかと思ったけれど、それはやめた。
2442カン、と軽快な音を立てて、ボールは遠く飛んでいく。これで三球目。あと十七球ある。九門がバットを振るうのを、俺はフェンス越しに眺めていた。
この全二十球が終わったら、寮に帰ることになっている。チャンスがあるとしたら、九門のバッティングが終わって、一緒に帰路について、寮に着くまでの間だ。
一体何から言えば。こういうことに関するボキャブラリーが少なすぎて、どうすればいいのかわからない。それでも今日言わない手はなかった。だって、もたもたしていたら取り返しがつかなくなる。
今日は、校門の前で九門を待っていた。別に約束はしていない。ただ、最近はタイミングが合えばなんとなく一緒に帰るようになっているから、九門を待つことはなんらおかしなことではないはずだった。本当は教室の前まで行って待とうかと思ったけれど、それはやめた。
ナカマル
DONE #ナカマルのクアザバレンタイン当日の九莇。付き合ってないし、今後付き合うかどうかもわかりません。
ほんのりピンクのエゴイズム ◇◆──────────
チョコを、断った。
好きな人がいるから。理由は、正直に本当のことを言った。甘いものが苦手だから、と言い訳しようかとも考えたけれど、それではやっぱり不誠実だ。
オレのためにせっかく用意してくれたものを断るなんて初めてだった。二月だというのに背中と腋と額に汗をかいたし、心臓が異常なほどバクバクして、逃げ出したくなった。それでも、オレは一人ひとりに丁寧にお礼を言って、頭を下げて謝った。下駄箱に入れてくれた人のことも探して、直接返した。
泣きそうな顔をしている人もいたけれど、みんな「教えてくれてありがとう」と言って、綺麗にラッピングされたチョコを引き取ってくれた。
そんなわけで、今年は今朝カントクから貰ったチョコを除けば、ゼロ個。
3135チョコを、断った。
好きな人がいるから。理由は、正直に本当のことを言った。甘いものが苦手だから、と言い訳しようかとも考えたけれど、それではやっぱり不誠実だ。
オレのためにせっかく用意してくれたものを断るなんて初めてだった。二月だというのに背中と腋と額に汗をかいたし、心臓が異常なほどバクバクして、逃げ出したくなった。それでも、オレは一人ひとりに丁寧にお礼を言って、頭を下げて謝った。下駄箱に入れてくれた人のことも探して、直接返した。
泣きそうな顔をしている人もいたけれど、みんな「教えてくれてありがとう」と言って、綺麗にラッピングされたチョコを引き取ってくれた。
そんなわけで、今年は今朝カントクから貰ったチョコを除けば、ゼロ個。
ナカマル
DONE #九莇村ワンドロワンライ より 「雨上がり」#ナカマルのクアザ
哀々傘 ◇◆──────────
別に、傘なんて要らなかった。
「今日は大雨が降るのか……」
今朝、キッチンに立つ臣さんが言った。
「へー。夕立ってやつ? 長い傘持って行ったほうがいいな」
俺がそう言うと、独り言のつもりだったらしく、臣さんは少し驚いていた。
「まぁ、莇たちが帰る頃には止んでいるかもしれないが。もし降られても、寮のLIMEに連絡すれば、誰かしら車を出してくれると思うぞ」
「子供じゃねーし、そこまで甘えなくても平気。でも、ありがと」
「はは、そうだな。ほら、今日の弁当だ。九門の分も」
「サンキュ。忙しいのにわりーな」
いつも通りなら少し余裕を持って朝食を摂れる時間だったが、今朝の九門は日直で早く出なければならないからと、既にテーブルについてトーストを頬張っていた。だから、俺と臣さんの会話は聞いていなかったと思う。
3608別に、傘なんて要らなかった。
「今日は大雨が降るのか……」
今朝、キッチンに立つ臣さんが言った。
「へー。夕立ってやつ? 長い傘持って行ったほうがいいな」
俺がそう言うと、独り言のつもりだったらしく、臣さんは少し驚いていた。
「まぁ、莇たちが帰る頃には止んでいるかもしれないが。もし降られても、寮のLIMEに連絡すれば、誰かしら車を出してくれると思うぞ」
「子供じゃねーし、そこまで甘えなくても平気。でも、ありがと」
「はは、そうだな。ほら、今日の弁当だ。九門の分も」
「サンキュ。忙しいのにわりーな」
いつも通りなら少し余裕を持って朝食を摂れる時間だったが、今朝の九門は日直で早く出なければならないからと、既にテーブルについてトーストを頬張っていた。だから、俺と臣さんの会話は聞いていなかったと思う。
ナカマル
DONE #ナカマルのクアザ おべんとおべんとうれしいな♪の九莇です。屋上で「待ち合わせ」◇◆──────────
最近の泉田莇は、少し「変わった」。クラスメイトたちは口には出さないまでも、皆なんとなくそう思っている。
ある男子生徒はたった今、泉田莇の「変化」を目の当たりにしたところである。
「んで、こないだ彼女と……」
「おい、後ろ!」
彼は週末のデートでガールフレンドがいかに可愛らしかったかを自慢していた。彼を嗜めたのは話を聞いていた友人の一人だ。
「あっ、泉田いたのか! わり……」
この男子生徒は以前、長く片想いしていた今のガールフレンドと交際を始めたことを上機嫌で語っていたとき、顔を真っ赤にした莇に「破廉恥だ」と怒られてしまったことがある。泉田莇の硬派すぎる「信念」について知って以来、彼は莇の居るところで恋愛の話をしないよう気をつけていたはずだった。しかし今日は話に夢中になりすぎて、近くに莇がいることに全く気がつかなかったのだ。
3636最近の泉田莇は、少し「変わった」。クラスメイトたちは口には出さないまでも、皆なんとなくそう思っている。
ある男子生徒はたった今、泉田莇の「変化」を目の当たりにしたところである。
「んで、こないだ彼女と……」
「おい、後ろ!」
彼は週末のデートでガールフレンドがいかに可愛らしかったかを自慢していた。彼を嗜めたのは話を聞いていた友人の一人だ。
「あっ、泉田いたのか! わり……」
この男子生徒は以前、長く片想いしていた今のガールフレンドと交際を始めたことを上機嫌で語っていたとき、顔を真っ赤にした莇に「破廉恥だ」と怒られてしまったことがある。泉田莇の硬派すぎる「信念」について知って以来、彼は莇の居るところで恋愛の話をしないよう気をつけていたはずだった。しかし今日は話に夢中になりすぎて、近くに莇がいることに全く気がつかなかったのだ。
ナカマル
DONE #happykuazayear2023あけましておめでとうございます!最後までは書けていないのですができたところまで。
年末年始の間、お互いに見せたい景色をインスタントカメラで撮ってくることにした九莇未満のお話を書きました📸続きは期間中には載せたい所存です。
#ナカマルのクアザ
「 」を写そう 使い方は簡単。袋から取り出したら、まずはフィルムをしっかりと巻く。そして、小さなファインダーを覗きながらシャッターを押す。これだけだ。
「へぇ、使ったことなかったけど、スゲー簡単なんだな」
莇は玩具のように軽いそれを、手のひらで転がしてみたり側面を撫でてみたり、珍しそうにもてあそんでいる。
「これ、オレからのクリスマスプレゼントね」
「サンキュー。けど、なんでカメラ?」
重さはわずか九十グラムのインスタントカメラ、正式にはレンズ付きフィルム。スマートフォンが普及するずっと前から販売されている商品だ。九門は数日前に、ひとつ税込一七六〇円のそれを駅の近くの電器屋で二つ購入した。片方は自分の分、もう片方はたった今莇へ渡したところだ。
5191「へぇ、使ったことなかったけど、スゲー簡単なんだな」
莇は玩具のように軽いそれを、手のひらで転がしてみたり側面を撫でてみたり、珍しそうにもてあそんでいる。
「これ、オレからのクリスマスプレゼントね」
「サンキュー。けど、なんでカメラ?」
重さはわずか九十グラムのインスタントカメラ、正式にはレンズ付きフィルム。スマートフォンが普及するずっと前から販売されている商品だ。九門は数日前に、ひとつ税込一七六〇円のそれを駅の近くの電器屋で二つ購入した。片方は自分の分、もう片方はたった今莇へ渡したところだ。
ナカマル
DONE #ナカマルのクアザひらぶーで書いてたやつ③
真ん中バースデーの話
九月七日◇◆──────────
今日も、昼飯は屋上で食べる。あいつと二人で。
授業終了のチャイムが鳴って数秒で教室を出たのは、気に入っている惣菜パンが買いたいからで、屋上へ上る階段を一段飛ばしで駆け上がったのは、腹が減っていて、早く昼飯を食べたいから。
「今日もオレの勝ちーっ!」
そう自分に言い訳しても、扉を開けた瞬間に陽の光と一緒に目に飛び込んでくるあいつの笑顔はどうしたって俺を惑わせる。
「別に勝負してねーし」
「えへへ。楽しみすぎて階段駆け上がったらちょっと先生に怒られちゃった」
「何やってんだよ」
教師に見つかるようなヘマはしなかったにせよ、自分も同じことをしていたのに、また素っ気なく応答してしまう。
1303今日も、昼飯は屋上で食べる。あいつと二人で。
授業終了のチャイムが鳴って数秒で教室を出たのは、気に入っている惣菜パンが買いたいからで、屋上へ上る階段を一段飛ばしで駆け上がったのは、腹が減っていて、早く昼飯を食べたいから。
「今日もオレの勝ちーっ!」
そう自分に言い訳しても、扉を開けた瞬間に陽の光と一緒に目に飛び込んでくるあいつの笑顔はどうしたって俺を惑わせる。
「別に勝負してねーし」
「えへへ。楽しみすぎて階段駆け上がったらちょっと先生に怒られちゃった」
「何やってんだよ」
教師に見つかるようなヘマはしなかったにせよ、自分も同じことをしていたのに、また素っ気なく応答してしまう。
ナカマル
DONE #ナカマルのクアザひらぶーで書いてたやつ②
くもんくんのお鼻の話
スキンケア大臣の気まぐれ◇◆──────────
透明なパッチが慎重に剥がされるのを、九門は目を瞑って待った。
「よし、治ってる」
「ほんと?」
「ほら」
手渡された鏡を覗くと、この数日間悩まされた吹き出物が消失していた。
「あ〜、よかった〜!」
「また出てくるようなら、一度皮膚科行ったほうがいいかも」
「うん! そうする」
鼻筋の真ん中に突如出現した赤い吹き出物。触ると痛くて、人に見られるのは少し恥ずかしくて、そしてとても邪魔だった。
莇の言う通りに薬用の洗顔料で顔を洗って、薬を塗って、日中は触らないようにパッチを貼った。ラーメンや辛い食べ物やお菓子は禁止。夜更かしも当然禁止。それを根気強く毎日続けて、九門はようやく忌々しいニキビとお別れすることができたのだった。
1468透明なパッチが慎重に剥がされるのを、九門は目を瞑って待った。
「よし、治ってる」
「ほんと?」
「ほら」
手渡された鏡を覗くと、この数日間悩まされた吹き出物が消失していた。
「あ〜、よかった〜!」
「また出てくるようなら、一度皮膚科行ったほうがいいかも」
「うん! そうする」
鼻筋の真ん中に突如出現した赤い吹き出物。触ると痛くて、人に見られるのは少し恥ずかしくて、そしてとても邪魔だった。
莇の言う通りに薬用の洗顔料で顔を洗って、薬を塗って、日中は触らないようにパッチを貼った。ラーメンや辛い食べ物やお菓子は禁止。夜更かしも当然禁止。それを根気強く毎日続けて、九門はようやく忌々しいニキビとお別れすることができたのだった。
ナカマル
DONE #ナカマルのクアザひらぶータグで書いたやつです 告白が上手く伝わらない九莇のはなし
「大好き」っていうのは◇◆──────────
空が薄暗くなる時刻が早くなった。制服が夏服から冬服に戻った。街路樹の葉が赤や黄色に染まり始めた。隣で歩く莇との会話の内容は大して変わらないのに、二人を取り巻く風景が、少しずつ次の季節へ変わっていく、そんな時期だった。
莇と同じ制服を着て、同じ学校への行き帰りに、二人で会話をする。あと数ヶ月もすれば、それができなくなるんだ、と、当たり前のことなのに、九門は急に寂しく思えてきた。
この焦燥感は、この切なさは一体何だろうか。思いのほか冷たい風が頬にぶつかって、何故だか鼻の奥がつんとした。
そして、赤信号で立ち止まり会話も途切れたとき、つい、言ってしまった。
「オレ、莇のこと好きだ」
1158空が薄暗くなる時刻が早くなった。制服が夏服から冬服に戻った。街路樹の葉が赤や黄色に染まり始めた。隣で歩く莇との会話の内容は大して変わらないのに、二人を取り巻く風景が、少しずつ次の季節へ変わっていく、そんな時期だった。
莇と同じ制服を着て、同じ学校への行き帰りに、二人で会話をする。あと数ヶ月もすれば、それができなくなるんだ、と、当たり前のことなのに、九門は急に寂しく思えてきた。
この焦燥感は、この切なさは一体何だろうか。思いのほか冷たい風が頬にぶつかって、何故だか鼻の奥がつんとした。
そして、赤信号で立ち止まり会話も途切れたとき、つい、言ってしまった。
「オレ、莇のこと好きだ」
ナカマル
DONE⑤ 奏真 様より「もう一回好きって言ってもいいかな…と悩んでいるような二人」成人済み、一度別れた九莇 #ナカマル水産SSスケブ #ナカマルのクアザその小指に誓え◇◆──────────
「オレと、お別れしてください」
消えいるような声で、しかし目線は真っ直ぐこちらを向けて、九門はそう告げた。莇は、縋ることも反論することもなく、「わかった」と返した。そのときに九門が浮かべた安堵の表情が、今でも忘れられない。
九門と莇が「友達」に戻ってから、もう少しで四年が過ぎようとしている。
◇
莇の高校卒業に伴ってルームシェアをすると言い出したとき、劇団の仲間はみな九門と莇の「仲良しコンビ」ならきっと上手くやっていけるだろう、くらいの反応しか示さず、さまざまな言い訳を考えていた二人は拍子抜けした。
念願の二人暮らしを始めるに際して、最初に話し合って、生活上の約束を決めていった。まず炊事、洗濯、掃除、その他諸々の家事は交代でこなすことにして、ホワイトボードを使って分担表を作った。それから互いの学校や稽古、アルバイトの予定などはスケジュールアプリを共有して把握できるようにした。
5670「オレと、お別れしてください」
消えいるような声で、しかし目線は真っ直ぐこちらを向けて、九門はそう告げた。莇は、縋ることも反論することもなく、「わかった」と返した。そのときに九門が浮かべた安堵の表情が、今でも忘れられない。
九門と莇が「友達」に戻ってから、もう少しで四年が過ぎようとしている。
◇
莇の高校卒業に伴ってルームシェアをすると言い出したとき、劇団の仲間はみな九門と莇の「仲良しコンビ」ならきっと上手くやっていけるだろう、くらいの反応しか示さず、さまざまな言い訳を考えていた二人は拍子抜けした。
念願の二人暮らしを始めるに際して、最初に話し合って、生活上の約束を決めていった。まず炊事、洗濯、掃除、その他諸々の家事は交代でこなすことにして、ホワイトボードを使って分担表を作った。それから互いの学校や稽古、アルバイトの予定などはスケジュールアプリを共有して把握できるようにした。
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 ) 様よりお題「桃」をお借りしました。風邪ひき九門くんと優しい莇くんとおいしい桃の話
#ナカマルのクアザ
甘い、やさしい、ずるい◇◆──────────
エアコンが冷風を吐き出すゴー、ゴー、という音だけが聞こえる。もう十分すぎるくらい眠って、九門の瞼はちっとも重くない。天井を見つめるだけでは暇で仕方がないけれど、全身の関節という関節が痛くて、スマートフォンを触る気力も出ない。
枕元に置いたビニール袋には、鼻をかんで丸めたティッシュが大量に詰まっている。元来の性質のせいで発熱には慣れている九門だったが、風邪をひくのは随分と久しぶりだった。熱自体はプレッシャーで出ていた高熱と比べれば低いほうだが、咳とくしゃみと鼻水が加わると苦痛が何倍にも感じられる。
同室の三角は、今日は一日中アルバイトだ。朝出かける前に、九門の枕元に水とスポーツドリンクとビニール袋を置いてくれた。ちょうどその時は意識がもうろうとしていて、ちゃんとお礼を言えたかどうか定かではない。
2447エアコンが冷風を吐き出すゴー、ゴー、という音だけが聞こえる。もう十分すぎるくらい眠って、九門の瞼はちっとも重くない。天井を見つめるだけでは暇で仕方がないけれど、全身の関節という関節が痛くて、スマートフォンを触る気力も出ない。
枕元に置いたビニール袋には、鼻をかんで丸めたティッシュが大量に詰まっている。元来の性質のせいで発熱には慣れている九門だったが、風邪をひくのは随分と久しぶりだった。熱自体はプレッシャーで出ていた高熱と比べれば低いほうだが、咳とくしゃみと鼻水が加わると苦痛が何倍にも感じられる。
同室の三角は、今日は一日中アルバイトだ。朝出かける前に、九門の枕元に水とスポーツドリンクとビニール袋を置いてくれた。ちょうどその時は意識がもうろうとしていて、ちゃんとお礼を言えたかどうか定かではない。
ナカマル
DONE④ 匿名希望 様より 「熱中症ネタ」※後味あまりよくない
#ナカマル水産SSスケブ
#ナカマルのクアザ
朦朧ランデブー◇◆──────────
莇の身体が、ぐらり、と傾いた。
「お、おい! 大丈夫か⁉︎」
九門はすかさず、その身体を支える。
「は、はは…ありがとう…僕は大丈夫だよ、大丈夫…」
真夏の日中にもかかわらず、天鵞絨町の駅前で披露しているストリートアクトには、多くの観衆が集まっている。彼らは九門と莇の即興演技を息をのんで見つめた。
九門は活発な青年、莇は病弱な青年の役、ということしか決まっておらず、あとの設定は演技をしながら考えて、台詞を繋げていく。暑さのせいか莇の頬は普段より赤く、少し息切れしているようだが、それがかえって身体の弱い者が急激に運動をして疲労が出たときの様子に似ていて、劇のリアリティが増していた。
1932莇の身体が、ぐらり、と傾いた。
「お、おい! 大丈夫か⁉︎」
九門はすかさず、その身体を支える。
「は、はは…ありがとう…僕は大丈夫だよ、大丈夫…」
真夏の日中にもかかわらず、天鵞絨町の駅前で披露しているストリートアクトには、多くの観衆が集まっている。彼らは九門と莇の即興演技を息をのんで見つめた。
九門は活発な青年、莇は病弱な青年の役、ということしか決まっておらず、あとの設定は演技をしながら考えて、台詞を繋げていく。暑さのせいか莇の頬は普段より赤く、少し息切れしているようだが、それがかえって身体の弱い者が急激に運動をして疲労が出たときの様子に似ていて、劇のリアリティが増していた。
ナカマル
DONE③ みやき 様より 「男2人、密室、真夏の日。何も起きないはずがなく…(健全)」#ナカマル水産SSスケブ
#ナカマルのクアザ
Pandora◇◆──────────
「九門くん、莇くん! 今、手空いてる?」
「空いてるよ! どしたの、カントク?」
「悪いんだけど、そこにある段ボール箱を倉庫に運んでもらえないかな?」
監督が指差したのは、人が一人入れそうなくらい大きな段ボール箱だった。
「しばらく使わない小道具が入ってるから、壊さないように気をつけてね」
「わかった」
「莇いくよー、せぇの!」
十分に力のある男二人がかりでも、持ち上げるのに少し手間取った。二つか三つに分けたほうがいいんじゃないか、と莇は思った。
「いっちに、さんし、にーにっ、さんし」
九門の掛け声のお陰で、二人は息を合わせて重い段ボール箱を移動させる。前を持つ九門は、後ろ向きに歩かねばならない。後ろを持つ莇は、箱が大きすぎて前が見えない。側から見るとなんとも危なっかしい光景に違いない。
2632「九門くん、莇くん! 今、手空いてる?」
「空いてるよ! どしたの、カントク?」
「悪いんだけど、そこにある段ボール箱を倉庫に運んでもらえないかな?」
監督が指差したのは、人が一人入れそうなくらい大きな段ボール箱だった。
「しばらく使わない小道具が入ってるから、壊さないように気をつけてね」
「わかった」
「莇いくよー、せぇの!」
十分に力のある男二人がかりでも、持ち上げるのに少し手間取った。二つか三つに分けたほうがいいんじゃないか、と莇は思った。
「いっちに、さんし、にーにっ、さんし」
九門の掛け声のお陰で、二人は息を合わせて重い段ボール箱を移動させる。前を持つ九門は、後ろ向きに歩かねばならない。後ろを持つ莇は、箱が大きすぎて前が見えない。側から見るとなんとも危なっかしい光景に違いない。
ナカマル
DONE② なん様リクエスト「どっちかのクラスメイトのモブ男視点」#ナカマル水産SSスケブ
#ナカマルのクアザ
LOVEが止まらない!◇◆──────────
「なぁなぁ、お前、最近彼女ができたって本当?」
クラスメイトの兵頭九門が、いきなりそう話しかけてきた。俺は、なぜお前が知っているのかと聞き返そうとしたが、九門が再び口を開くほうが早かった。
「しかも、幼なじみなんでしょ⁉︎」
「ま、まぁ…幼なじみっつーか、小学校が同じだったんだけど…」
「ってことはさ、元友達ってことだろ?」
ものを訊ねるときに、語尾が上がる癖があるのだな、と思った。
俺に最近彼女ができたのは本当のことで、その子が九門のいう通り「元友達」なのも事実だ。ただ、俺は小学生の頃から彼女のことが好きだった。
「…何か聞きたいことでもあるのかよ」
「大いにある…」
俺が小声で返したのを察してか、九門も声を顰めた。俺は彼女から、「付き合っていることは他の友達には内緒にしようね」と約束されている。だからあまり大きな声で言いふらされたくないのだ。
2097「なぁなぁ、お前、最近彼女ができたって本当?」
クラスメイトの兵頭九門が、いきなりそう話しかけてきた。俺は、なぜお前が知っているのかと聞き返そうとしたが、九門が再び口を開くほうが早かった。
「しかも、幼なじみなんでしょ⁉︎」
「ま、まぁ…幼なじみっつーか、小学校が同じだったんだけど…」
「ってことはさ、元友達ってことだろ?」
ものを訊ねるときに、語尾が上がる癖があるのだな、と思った。
俺に最近彼女ができたのは本当のことで、その子が九門のいう通り「元友達」なのも事実だ。ただ、俺は小学生の頃から彼女のことが好きだった。
「…何か聞きたいことでもあるのかよ」
「大いにある…」
俺が小声で返したのを察してか、九門も声を顰めた。俺は彼女から、「付き合っていることは他の友達には内緒にしようね」と約束されている。だからあまり大きな声で言いふらされたくないのだ。
ナカマル
DONE① 老婆 様より「水泳の授業前に更衣室で莇くんの落とし物を拾った九門くん」#ナカマル水産SSスケブ
#ナカマルのクアザ
真夏の大罪 今日の最高気温は、三十五度に達するらしい。
そんなのほぼ体温じゃん、と九門は思う。いくら夏生まれでも、暑いものは暑い。
「クソ暑いな…」
隣を歩く莇が悪態をつく。日傘で影になっていても、顔を顰めているのがわかる。
「ほんと、あっついね〜…」
暑いけれど、九門は嬉しかった。莇と「暑い」を共有できていることが。兵頭九門という男は、活発な印象とは裏腹にナイーブな一面があり、些細なことにも傷つきやすい心を持っているが、それは小さなことでも幸せを感じることができるという長所でもあった。
「一年は今日、水泳何時間目?」
「一時間目」
「えーっ! いいなぁ」
「いいだろ」
莇が得意げに笑った。
「じゃ、また昼に」
「じゃあね!」
3196そんなのほぼ体温じゃん、と九門は思う。いくら夏生まれでも、暑いものは暑い。
「クソ暑いな…」
隣を歩く莇が悪態をつく。日傘で影になっていても、顔を顰めているのがわかる。
「ほんと、あっついね〜…」
暑いけれど、九門は嬉しかった。莇と「暑い」を共有できていることが。兵頭九門という男は、活発な印象とは裏腹にナイーブな一面があり、些細なことにも傷つきやすい心を持っているが、それは小さなことでも幸せを感じることができるという長所でもあった。
「一年は今日、水泳何時間目?」
「一時間目」
「えーっ! いいなぁ」
「いいだろ」
莇が得意げに笑った。
「じゃ、また昼に」
「じゃあね!」
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 ) 様よりお題「氷」をお借りしました。コンビニでアイスコーヒーを買う話。特に何も起きないよ
#ナカマルのクアザ
ひんやり税込百円◇◆──────────
コンビニでアイスコーヒーを買った。
氷が詰められたカップをセットしてスイッチを押すと、焦茶色の液体が注がれていく。氷が熱いコーヒーに溶かされていくのを見るのが、結構好きだ。
「やっぱ、俺もそれにする」
莇はレジに出しかけたレモンティーのペットボトルを持って踵を返した。そしてオレのコーヒーが注ぎ終わり、液晶に「おいしいコーヒーができあがりました」と表示された頃、氷の詰まったプラスチックのカップを持って戻ってきた。
たった今オレのカップを置いていたコーヒーメーカーに、莇がカップを置く。スイッチを押すと熱いコーヒーが出てきて、氷を溶かしていく。オレは透明のフタをはめながら、莇のコーヒーが注がれるのを待った。
2015コンビニでアイスコーヒーを買った。
氷が詰められたカップをセットしてスイッチを押すと、焦茶色の液体が注がれていく。氷が熱いコーヒーに溶かされていくのを見るのが、結構好きだ。
「やっぱ、俺もそれにする」
莇はレジに出しかけたレモンティーのペットボトルを持って踵を返した。そしてオレのコーヒーが注ぎ終わり、液晶に「おいしいコーヒーができあがりました」と表示された頃、氷の詰まったプラスチックのカップを持って戻ってきた。
たった今オレのカップを置いていたコーヒーメーカーに、莇がカップを置く。スイッチを押すと熱いコーヒーが出てきて、氷を溶かしていく。オレは透明のフタをはめながら、莇のコーヒーが注がれるのを待った。
ナカマル
DONE #ナカマルのクアザ2022年7月2日開催の九莇webオンリーにて頒布予定の新刊サンプルです。
170p/A6カバー付き文庫/¥1,000
タイトルロゴデザイン Ocm. 様
表紙カバーイラスト 老婆 様
「隣に居たいだけ Ⅰ」 の続編です。 37
ナカマル
DONE #ナカマルのクアザ3/21 フルブルで出す九莇本のサンプルです。前後編の前編になります。
でっかくページ数書いてあるのはサンプル用に編集しただけなので実物にはないです。
このあとなんやかんやあって莇が九門の隣に引っ越してきてドキドキ⁉️隣人生活❗️が始まります。 34
ナカマル
DONE最後まで読んだらタイトルに戻ってね!#ナカマルのクアザ
キスしてもいいかな#九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 ) 様より
お題「思い出」
◇◆──────────
「ここ! 莇ここだよ!」
「はぁ?」
莇の手を引っ張って中庭に連れ出した九門は、ベンチを指差した。
「ここに座ってさ、一人でご飯食べてたじゃん、莇。オレすげー覚えてるよ。野良猫みたいだった」
「野良猫って…それ言うならお前だって、俺を呼びに来てすぐ熱出してぶっ倒れたじゃねーか」
「あ、あれれ…そうだっけ?」
突然崩れ落ちた身体を受け止めたときの重み、動揺───莇は今でも鮮明に思い出せる。あれから数年が経って、九門はもう滅多に熱を出さなくなった。
「つく高生だったときは、一緒に登下校したよね!」
1927お題「思い出」
◇◆──────────
「ここ! 莇ここだよ!」
「はぁ?」
莇の手を引っ張って中庭に連れ出した九門は、ベンチを指差した。
「ここに座ってさ、一人でご飯食べてたじゃん、莇。オレすげー覚えてるよ。野良猫みたいだった」
「野良猫って…それ言うならお前だって、俺を呼びに来てすぐ熱出してぶっ倒れたじゃねーか」
「あ、あれれ…そうだっけ?」
突然崩れ落ちた身体を受け止めたときの重み、動揺───莇は今でも鮮明に思い出せる。あれから数年が経って、九門はもう滅多に熱を出さなくなった。
「つく高生だったときは、一緒に登下校したよね!」
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 ) 様よりお題「桜」「ドキドキ」 をお借りしました🌸
アンタ呼びが書きたいがためのACT2軸です。
#ナカマルのクアザ
風が吹いた◇◆──────────
親友と和解できなかった。
今まで何度も喧嘩をしては仲直りしてきたつもりだ。だけど今回だけは駄目だった。
仲違いというのは、片方が、もしくはお互いに相手に憎悪や嫌悪を抱くから生じるものだと思っていた。だから、きちんと話し合って、自分に非があるなら謝って、誤解があるならそれを解けば元に戻れるものだと、そう信じていた。実際、これまでのたった十五年の人生ではそうだった。
中学の卒業式の記憶が、今後ずっと俺の中で「親友と決別した日」として残り続けるのかもしれない。俺はこの一年、間違い続けていたんじゃないかと思えてくる。信頼していた人物が自分より先に夢を叶えてしまうことの悔しさや虚しさは、俺が一番知っているはずだったのに。
2040親友と和解できなかった。
今まで何度も喧嘩をしては仲直りしてきたつもりだ。だけど今回だけは駄目だった。
仲違いというのは、片方が、もしくはお互いに相手に憎悪や嫌悪を抱くから生じるものだと思っていた。だから、きちんと話し合って、自分に非があるなら謝って、誤解があるならそれを解けば元に戻れるものだと、そう信じていた。実際、これまでのたった十五年の人生ではそうだった。
中学の卒業式の記憶が、今後ずっと俺の中で「親友と決別した日」として残り続けるのかもしれない。俺はこの一年、間違い続けていたんじゃないかと思えてくる。信頼していた人物が自分より先に夢を叶えてしまうことの悔しさや虚しさは、俺が一番知っているはずだったのに。
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 ) 様より、「猫」をお借りしました🐈⬛ かまってにゃーにゃー🐾#ナカマルのクアザ
meow,meow九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 )
「猫」
◇◆──────────
「なぁ九門」
「なに?」
「今度の休みさ…」
呼ぶとすぐに反応するところが、犬に似ているな、と莇は思う。遊びの予定を提案すると、目を輝かせながら「うんうん!」と頷いて、まるで尻尾を振っているみたいだ。去年までは九門の方から誘ってくるばかりだったからなのか、こうやって莇の方から誘うと大げさなくらいに喜ぶ。莇は九門のその顔が嫌いじゃなかった。
「いいね、行こ行こ!」
土曜日に映画を観に行くことになった。九門が面白いと言っていた漫画を原作としたアニメ映画だ。莇はその漫画を電子書籍で買って、スマートフォンで読んだ。少々残酷なシーンがあるが、ストーリーがよくできていて面白いのだ。それに九門と同じものを面白いと感じられることが嬉しくて、最新巻まで読み切るのにそう時間はかからなかった。
1391「猫」
◇◆──────────
「なぁ九門」
「なに?」
「今度の休みさ…」
呼ぶとすぐに反応するところが、犬に似ているな、と莇は思う。遊びの予定を提案すると、目を輝かせながら「うんうん!」と頷いて、まるで尻尾を振っているみたいだ。去年までは九門の方から誘ってくるばかりだったからなのか、こうやって莇の方から誘うと大げさなくらいに喜ぶ。莇は九門のその顔が嫌いじゃなかった。
「いいね、行こ行こ!」
土曜日に映画を観に行くことになった。九門が面白いと言っていた漫画を原作としたアニメ映画だ。莇はその漫画を電子書籍で買って、スマートフォンで読んだ。少々残酷なシーンがあるが、ストーリーがよくできていて面白いのだ。それに九門と同じものを面白いと感じられることが嬉しくて、最新巻まで読み切るのにそう時間はかからなかった。
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 ) 様より、お題「睫毛」過保護ぎみの九門くん。ちょっと生々しい描写あります、注意!
#ナカマルのクアザ
君を傷つけるもの全てを許さない◇◆──────────
隣を歩く莇が「ん」と小さく唸って足を止める。九門も立ち止まって振り返ると、莇は顔を顰めて、瞬きをしていた。
「莇どした?」
「目に何か入った……」
今は監督に頼まれたおつかいの途中で、莇はちょうど帰宅したところを九門が引きずるようにして連れ出した。手ぶらのまま外に出された莇は当然目薬なんて持っていないだろう。
「大丈夫?一回寮戻る?」
九門は眉間に皺を寄せる莇のことが心配になった。もし何かよくないものが入っていて、莇の瞳が傷ついてしまったらどうしよう。一度ネガティブな想像をすると、どんどん悪い方向に考えてしまう。
「いや、ごみが入っただけだろ。瞬きしてりゃそのうち出てくる。それより大根買うだけだろ、早く行こうぜ」
1302隣を歩く莇が「ん」と小さく唸って足を止める。九門も立ち止まって振り返ると、莇は顔を顰めて、瞬きをしていた。
「莇どした?」
「目に何か入った……」
今は監督に頼まれたおつかいの途中で、莇はちょうど帰宅したところを九門が引きずるようにして連れ出した。手ぶらのまま外に出された莇は当然目薬なんて持っていないだろう。
「大丈夫?一回寮戻る?」
九門は眉間に皺を寄せる莇のことが心配になった。もし何かよくないものが入っていて、莇の瞳が傷ついてしまったらどうしよう。一度ネガティブな想像をすると、どんどん悪い方向に考えてしまう。
「いや、ごみが入っただけだろ。瞬きしてりゃそのうち出てくる。それより大根買うだけだろ、早く行こうぜ」
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 ) 様より、お題「視線」をお借りしました。
めりーくあざます!
#ナカマルのクアザ
Can't take my eyes off you◇◆──────────
ベッドの上に寝転がると、視界には天井しか入らない。いつもなら、布団に入って目を瞑れば数分で眠りに落ちる。しかしこの日ばかりは、莇の意識はなかなか休んではくれなかった。
今日の帰り道で同じ制服を着た年上の友人に告げられた言葉が、いつまでも脳内にリフレインしていた。眠れない理由はこれだった。
枕元に置いたスマートフォンで確認すると、時刻は二十一時四十分、入浴は済ませたし、宿題も終わらせてある。スキンケアも完璧。二〇六号室で酒盛りをしている左京は、あと三時間は帰ってこない。
入眠までの時間を考えると、このまま自然に意識が遠のくのを待つべきだが、どうにも自分の心臓の音がうるさかった。
3285ベッドの上に寝転がると、視界には天井しか入らない。いつもなら、布団に入って目を瞑れば数分で眠りに落ちる。しかしこの日ばかりは、莇の意識はなかなか休んではくれなかった。
今日の帰り道で同じ制服を着た年上の友人に告げられた言葉が、いつまでも脳内にリフレインしていた。眠れない理由はこれだった。
枕元に置いたスマートフォンで確認すると、時刻は二十一時四十分、入浴は済ませたし、宿題も終わらせてある。スキンケアも完璧。二〇六号室で酒盛りをしている左京は、あと三時間は帰ってこない。
入眠までの時間を考えると、このまま自然に意識が遠のくのを待つべきだが、どうにも自分の心臓の音がうるさかった。
ナカマル
MAIKINGジメジメした九莇のつづき。まだ破廉恥じゃない#ナカマルのクアザ
◇◆──────────
九門は莇の手を引いて、例の古い男子トイレに足を踏み入れた。
九門の記憶よりもさらに暗く、そして肌寒い。以前来た時は五月の晴れた日だったからだろうか。くすんだ水色のタイルがところどころ割れたり剥がれたりしているのは変わっていなかった。
「莇はここ、入ったことある?」
「いや、ねえけど。向こうのトイレの方が綺麗だし」
莇はあまり綺麗ではない壁や床を見渡して、露骨に顔を歪めた。
「そう。だからこっちは滅多に人が来ないんだって」
「ふうん、そりゃそうだろうな…………てか、寒くね」
九門は何ヶ月も触られていなさそうな窓に手をかける。そして力を込めて、開けた。びゅう、と風が吹き込んで、一緒に入ってきた雨粒で、顔が濡れた。
2204九門は莇の手を引いて、例の古い男子トイレに足を踏み入れた。
九門の記憶よりもさらに暗く、そして肌寒い。以前来た時は五月の晴れた日だったからだろうか。くすんだ水色のタイルがところどころ割れたり剥がれたりしているのは変わっていなかった。
「莇はここ、入ったことある?」
「いや、ねえけど。向こうのトイレの方が綺麗だし」
莇はあまり綺麗ではない壁や床を見渡して、露骨に顔を歪めた。
「そう。だからこっちは滅多に人が来ないんだって」
「ふうん、そりゃそうだろうな…………てか、寒くね」
九門は何ヶ月も触られていなさそうな窓に手をかける。そして力を込めて、開けた。びゅう、と風が吹き込んで、一緒に入ってきた雨粒で、顔が濡れた。
ナカマル
MAIKING #ナカマルのクアザあんまり爽やかじゃない感じのくあざ
いずれ破廉恥になるはず
図書室のある階の奥に、古くて薄暗いトイレがある。あまりに古いので、生徒たちは少し面倒でも五年前に改装した棟まで移動して、そちらのトイレを利用することが多い。
ましてや九門は、授業以外で図書室を使うことなどないに等しく、ゆえにそのトイレには一度しか入ったことがない。
一度というのは二年生の頃、ちょうど劇団に入って寮生活を始めた直後のことだ。土筆高校の卒業生である三角に、そのトイレの窓から出ると屋上によじ上ることができる、と聞いて、どうなっているのか見てみたくなったのだ。
九門が窓を開けて顔を出してみると、たしかに、向かいには屋上のフェンスが見えた。しかし下には硬いコンクリートの地面しかなく、もし足を踏み外そうものなら────想像するのも恐ろしい。あそこを渡ろうと思う生徒は後にも先にも三角だけとしか思えなかった。
2531ましてや九門は、授業以外で図書室を使うことなどないに等しく、ゆえにそのトイレには一度しか入ったことがない。
一度というのは二年生の頃、ちょうど劇団に入って寮生活を始めた直後のことだ。土筆高校の卒業生である三角に、そのトイレの窓から出ると屋上によじ上ることができる、と聞いて、どうなっているのか見てみたくなったのだ。
九門が窓を開けて顔を出してみると、たしかに、向かいには屋上のフェンスが見えた。しかし下には硬いコンクリートの地面しかなく、もし足を踏み外そうものなら────想像するのも恐ろしい。あそこを渡ろうと思う生徒は後にも先にも三角だけとしか思えなかった。
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 @kuaza_dr_wi_1 様よりお題「リボン」をお借りしました。両片思いっていいよね!#ナカマルのクアザ
ラッピングはいかがですか◇◆──────────
莇は悩んでいた。
誕生日でも何でもないプレゼントにリボンを付けるか付けないかを、である。
レジに差し出したセーターは、店員の手によって一瞬で綺麗に畳まれた。現金で会計を済ませた後、店員に「ご自宅用ですか」と聞かれた莇は、「いえ」と短く答えた。すると店員は続けてこう尋ねた。
「プレゼント用でしたら、有料になりますがラッピングはいかがですか?このようにリボンもお付けいたします。こちらの三種類の色からお選びいただけますよ」
三色のリボンを見て、莇は顎に手を当てて考え込んだ。店員は莇がどのリボンにしようか悩んでいるのだと思ったろうが、実のところ莇はもっと前の段階で二の足を踏んでいた。
2696莇は悩んでいた。
誕生日でも何でもないプレゼントにリボンを付けるか付けないかを、である。
レジに差し出したセーターは、店員の手によって一瞬で綺麗に畳まれた。現金で会計を済ませた後、店員に「ご自宅用ですか」と聞かれた莇は、「いえ」と短く答えた。すると店員は続けてこう尋ねた。
「プレゼント用でしたら、有料になりますがラッピングはいかがですか?このようにリボンもお付けいたします。こちらの三種類の色からお選びいただけますよ」
三色のリボンを見て、莇は顎に手を当てて考え込んだ。店員は莇がどのリボンにしようか悩んでいるのだと思ったろうが、実のところ莇はもっと前の段階で二の足を踏んでいた。
ナカマル
DONE #九莇版ワンドロワンライ一本勝負 ( @kuaza_dr_wi_1 )様のお題「犬」「イタズラ」「スニーカー」をお借りしました。大変遅刻してしまいすみません…………く(自覚あり)→←あざ(自覚なし)だと思って読むと楽しいかもしれない
⚠️くもんくんが🏍を購入する捏造要素あります
#ナカマルのクアザ
お前と居るとお題「犬」「イタズラ」「スニーカー」
◇◆──────────
九門が靴を買いたいと言ったので、俺たちは地下一階からエスカレーターに乗った。売り場のフロアは七階だから、ここからは少し遠い。けれど、奥のエレベーターはどうせ混んでいるだろう。
俺は九門の二段後ろに立った。すると流石に九門の方が目線が高くなる。紫色の髪と、ピアスのぶら下がった耳が見えた。
「買うものあんなら、俺のこと待ってないで行ってきてよかったのに」
「えっ、全然待ってないよ!」
話しかけると、九門はすぐに振り返って目を合わせてきた。その振り返り方があまりに急なので、パーカーのフードが一瞬宙に浮いた。
俺のコスメフロアでの買い物は、短くても小一時間はかかる。フロア中の商品を買い占めることなんてできないから、じっくりと吟味しなければならないのだ。待たせてしまうのは悪いと思うが、こればかりは仕方がない。
2975◇◆──────────
九門が靴を買いたいと言ったので、俺たちは地下一階からエスカレーターに乗った。売り場のフロアは七階だから、ここからは少し遠い。けれど、奥のエレベーターはどうせ混んでいるだろう。
俺は九門の二段後ろに立った。すると流石に九門の方が目線が高くなる。紫色の髪と、ピアスのぶら下がった耳が見えた。
「買うものあんなら、俺のこと待ってないで行ってきてよかったのに」
「えっ、全然待ってないよ!」
話しかけると、九門はすぐに振り返って目を合わせてきた。その振り返り方があまりに急なので、パーカーのフードが一瞬宙に浮いた。
俺のコスメフロアでの買い物は、短くても小一時間はかかる。フロア中の商品を買い占めることなんてできないから、じっくりと吟味しなければならないのだ。待たせてしまうのは悪いと思うが、こればかりは仕方がない。
ナカマル
TRAINING #ナカマルのクアザ練習です。く→あざ。
何か不備あったらこっそり教えてください。
強炭酸◇◆──────────
委員会の仕事を二十分で終わらせた九門は、階段を二段飛ばしで駆け下りて、素早く靴を履き替え、ローファーの踵を踏んだまま校舎を飛び出した。そのままグラウンドの横を全力で駆け抜けたい気持ちを抑え、下校する生徒たちの間を縫って校門へ急ぐ。
同じ制服を着た黒髪の少年は門に寄りかかって、スマートフォンの画面を見ていた。九門が近づいて声をかけようとしたとき、彼は顔を上げた。
「おつかれ」
莇は気怠そうだった顔を少し綻ばせてから、片手で操作していた端末をポケットに仕舞う。
「踵踏んでるけど。急ぎの用でもあんの?」
「ああ、いや、莇を待たせちゃってると思って!」
九門は話しながら、慌てて靴を履き直す。莇はそれを見て軽く笑った。
1514委員会の仕事を二十分で終わらせた九門は、階段を二段飛ばしで駆け下りて、素早く靴を履き替え、ローファーの踵を踏んだまま校舎を飛び出した。そのままグラウンドの横を全力で駆け抜けたい気持ちを抑え、下校する生徒たちの間を縫って校門へ急ぐ。
同じ制服を着た黒髪の少年は門に寄りかかって、スマートフォンの画面を見ていた。九門が近づいて声をかけようとしたとき、彼は顔を上げた。
「おつかれ」
莇は気怠そうだった顔を少し綻ばせてから、片手で操作していた端末をポケットに仕舞う。
「踵踏んでるけど。急ぎの用でもあんの?」
「ああ、いや、莇を待たせちゃってると思って!」
九門は話しながら、慌てて靴を履き直す。莇はそれを見て軽く笑った。