協力しないと出られない部屋「喜べ、プレストン」
その声にプレストンはめんどくさそうに振り向いた。マンデルが笑みを浮かべて立っている。
「例の部屋がとれたぞ」
「ほんとうか?」プレストンも思わず目を丸くした。
ファッションウィーク中は、文字通り目が回るほど忙しい。
ショーの前日の準備を終えたマンデルとプレストンは、足を引きずるようにホテルの部屋へ転がり込んだ。
街でもトップクラスの高級ホテルのスイート。それに相応しい地位を築いたことへの誇らしさを感じる余裕すらないほどだ。だが、荷物を置いて一息ついたプレストンは部屋を見回して溜息をついた。
「すごいな」
ドアを開ければ、少しばかり廊下などがあってから、広々としたリビングが二人を迎える。テーブルには、花が生けられた大きな花瓶。床には現代彫刻のようなオブジェ、洒落たランプ。部屋を横切ってドアを開けると、これまた広々としたベッドルームと、五人くらいは寝られそうなサイズのベッド。ふわりと清潔感のある香りが漂う。ベッドルームを横切るとバスルームの白い扉。その中もこれまた広々としていて、蛇口とボウルは二セットだ。さらにバスルームとは別にシャワーブースもある。奥の扉を開けるともう一つベッドルーム。今日のベッドは別々だろうか、という疑問がプレストンの胸によぎる。
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