静態のリスク 遠征試験前、荒船と奈良坂は時間を惜しむように一緒に過ごした。学校の帰り道、本部の狙撃用訓練施設やトレーニングルームで。奈良坂は口数の多い方ではないが、それでも荒船の話に耳を傾けて、時折柔らかく微笑む。その表情を見るだけで、荒船は十分幸せだった。
訓練帰りに寄ったファーストフード店で、奈良坂はポツリと言った。
「別れましょう、俺たち」
「は? 」
まさかこんな形で別れを切り出されるなんて思ってもいなかった。
「……理由、聞かせろよ」
ついぶっきらぼうな声を出してしまって、荒船は前髪をかき上げため息をついた。
陽気なBGMとは裏腹に二人の間に重い沈黙が流れる。
「俺のせいで、あなたが弱くなるのは見たくない」
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