バンエレ誕2024その2「カカッ、我が息子ながら味な真似しやがる♬」
朝の出来事の少しあと、事態を消化したバンはさっそく旅支度を整えながら、ランスロットがくれた《旅行チケット》を眺めた。幾分、いやかなり、にまにましまがら。
そのチケットはどう見ても手作りで、はっぱでできていているそれには大まかな旅程が手書きで書かれている。行き先はどこもだいたい知った場所で、たかが父親の誕生日の為に方方に手を回し骨を折ったのかと思うと、うっかりするとらしくもなく涙が出そうになった。
「父親、か……」
父親。自分にとってはジバゴのことだ。共に過ごした時間はけして長くはなかったが、目一杯父親の愛情を注いでもらったと恩と愛情を感じている。けれども自分はそのジバゴに、いったい何かしてやれただろうか?
どう考えても、貰ってばかりで何もしてやってねぇ。
バンは少し暗い気分になる。何しろ最終的には文字通り魂まで救って貰ったのだから。
今の生に後悔などない。だがふと背後を振り返った時にはやはり考えてしまうのだ。人でなしの生みの親を持って、ろくでなしであった自分が親であるという事実に。自分はジバゴのようにうまくやれているのか。息子であるランスロットは多少意地っ張りなところもあるが本当にまっすぐ育っている。自分は彼にふさわしい、父でいてやれているだろうか。
「バカなこと考えているわねっ!」
いつのまにかふわりと寄り添ってきたエレインが、バンのほっぺをつねって怖い顔をした。もちろん本気ではないだろうが、怒ってはいるのは伝わってくる。
「えれいん?」
「心を読んだわけじゃないわよ? でもわかるわ、そんな顔をしているときは……」
そしてひょい、とバンの手から旅行チケットを取り上げる。
「正直ランスロット一人残していくのは少し心配だけど……そんな事言ったらきっとランスに怒られちゃうわね。それにしても楽しみ! いっぱい《おみやげ》買って帰りましょうね」
「お、おう」
ちょっと怒っていたくせに、その事についてエレインは何も言わない。バンは少しだけ狐につままれたような心地になったが、理由に思い当たるとフッと息を吐いた。
要するに、それ以上言及する価値もない、って事か♪
「……確かにバカだな♪」
「えっ。なにか言った?」
「いや、最高の息子だな、と思ってよ♪」
「そりゃそうよ、貴方の子供ですもの!」
「そしてお前の、な♬」
二人はおやすみなさいのキスを交わし、寝台に横になる。
「確かに楽しみだが、明日からあいつ一人で留守番か……」
「しばらくランスと離れるの、寂しいんでしょ」
バンは「正直、少しな♬」と言って、カカッと笑った。
つづく!