マルガレテの面影②第二章
Ⅰ
足下に踏む下草は露に濡れてやわらかく、瑞々しい緑の匂いを立ち上らせた。
街外れの高台に位置する療養所は、その周辺の自然をも敷地として抱え込んでいる。便宜上裏庭と呼ばれている区画は手つかずの野原にしか見えないが、怪我や長患いで逗留する患者たちにとっては、外界を感じることのできる唯一の憩いの場であるのかもしれなかった。
麻の白い上下を纏い、看護士に介添えされながら散策する、数組の先客たちがいる。
種子を飛ばして拡散する類いの草の、ちいさな綿毛が微風に流れてゆく。
緩やかな傾斜をゆっくりと下る背中に追いついた時、その綿毛がひとつ、亜麻色の長い髪に絡まっているのが見えた。
「……ちょっと、じっとしていてください」
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