道中、夜空の下で 深く飲み込んだ吐息を、静かにゆっくりと吐き出す。暗い森の中を走り続けて落ち着くことのなかった鼓動は、浅い息を何度も繰り返してやっとの思いで沈めていった。
「大丈夫ですか」
一陣の風の後に降りかかった声音は、まるで銀鈴のようだった。襲いくる筈だった悲痛な叫びとは、あまりにもかけ離れている。何が起こったのかとゆっくりと瞳を開けば、目の前には誰かの人影があった。
「あなた、は」
「わたしは、――」
月明かりに照らされた美しいそのヒトは、『救世主』の名を名乗った。
◻︎◻︎◻︎
ぱちり、と弾かれるように目を覚ます。視線の先には、見慣れてしまった白い天井があった。
「っ……」
身体を起こそうと腹部に力を入れようとしたところで、鋭利な痛覚が腹部から全身に走る。反射的に庇うように動かそうとした腕は、不思議と力が入らない。
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