恋夏の煩い 燦々と照りつける太陽の日差しを浴びながら一本の大樹の木陰の下に逃げ込んで、目先に広がる陽炎を眺めた。すると光の強さに慣れず霞む視界と同様に、背中に聳えるそれもどうやら熱中症を患っているようで、熱された空気は木陰の下でも変わらず肌を焼いた。
「……」
熱風が吹き抜けると、ため息を溢すように木々が鳴く。見上げた枝葉の隙間からは、薄い雲が青空を覆っているのが見えた。
少し手を伸ばせば、その奥の鮮やかな青色に手が届きそうなのに、不思議とそんな気にもなれない。だから、らしくもない薄着の裾を引っ張った。
「これでは、暑いのか寒いのか。……一体、どちらなんでしょうね」
肌を隠すように裾を伸ばすと、漣がどこからか聞こえてくる。意識を向ければ、風は多くの人々の笑い声も届けてくれていた。
1445