仔兎の話 ──弱者が救われるには、救われるだけの強さが要る。
かぐや姫であるならともかく、月からこぼれ落ちただけの兎では、何も──
生まれた時から、ぼくは無価値だった。捨て子で、力もなくて、何も出来なくて……唯一褒められたのは、この顔だけ。
だから、髪を伸ばして、しなを作って、女の子みたいに振舞った。そうすると、ぼくを必要としてお金を出す人がいるから。
そんな生活を続けていたある日、ぼくを買いたいと言った人がいた。その人は大金を積んでぼくを買い、ペットのように扱った。
その生活は、別に悪くなかったように思う。少なくとも食と住居は保証されていたし、気まぐれに暴力を振るわれることはあっても、殺されると思ったことはなかったから。
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