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DONE寂雷先生お誕生日おめでとうございます!TDD解散直後くらいのまだくっついてない左寂
いのちのぬくもり病院内の正月飾りが、片付けられていく。
その様子を見ながら寂雷は、年を越せなかった患者の顔を思い出した。さいごまでありがとう、と弱った声帯で絞り出された声を。
(始まりがあれば、終わりがある)
分かっていても、精神を消耗することはある。特に、こんなに寒い日は。
半分開いた廊下の窓を閉めようとした寂雷は、夜空を見てふと、手を伸ばした。
「雪……」
粉雪が一粒、その手のひらに落ちる。血の通わない皮膚と、どちらが冷たかっただろうか。
(ああ、いけない)
沈む思考を断ち切るように、窓をピシャリと閉める。風の音が遠くなり、寂雷は自分に近づいてくる足音に気がついた。知っている音だ。
「お、いた。探したぜ、センセー」
「……左馬刻くん」
863その様子を見ながら寂雷は、年を越せなかった患者の顔を思い出した。さいごまでありがとう、と弱った声帯で絞り出された声を。
(始まりがあれば、終わりがある)
分かっていても、精神を消耗することはある。特に、こんなに寒い日は。
半分開いた廊下の窓を閉めようとした寂雷は、夜空を見てふと、手を伸ばした。
「雪……」
粉雪が一粒、その手のひらに落ちる。血の通わない皮膚と、どちらが冷たかっただろうか。
(ああ、いけない)
沈む思考を断ち切るように、窓をピシャリと閉める。風の音が遠くなり、寂雷は自分に近づいてくる足音に気がついた。知っている音だ。
「お、いた。探したぜ、センセー」
「……左馬刻くん」
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DONEこんな感じの二人ください(https://odaibako.net/gacha/1536)さんのお題で書いた左寂伊弉冉一二三の朝は、案外早い。同居人と共に食べる朝食を用意し、草臥れたスーツを見送ってから洗濯を済ませる。軽い筋トレをこなした後携帯端末をチェックすると、贔屓客から届く沢山のメッセージの中に、行きつけにしている寿司屋の名前があった。手早く、しかし一人一人丁寧に返事をした後、寿司屋のメッセージを開く。
「おっ! これは先生も誘わないと!」
黄金の瞳が煌めき、爪先まで手入れされた指が端末の画面を何度かタップした。鳴ったコール音は三回、いつもより少し遅い。
「先生、おっはようございまーす! ちっと早すぎました?」
『おはよう、一二三くん。丁度いいモーニングコールだったよ』
「つーことは、今日休みっすよね! 昼ご飯決まってなければ、一緒にどうすか? いつもの寿司屋からいいノドグロが入ったって連絡がありまして!」
1037「おっ! これは先生も誘わないと!」
黄金の瞳が煌めき、爪先まで手入れされた指が端末の画面を何度かタップした。鳴ったコール音は三回、いつもより少し遅い。
「先生、おっはようございまーす! ちっと早すぎました?」
『おはよう、一二三くん。丁度いいモーニングコールだったよ』
「つーことは、今日休みっすよね! 昼ご飯決まってなければ、一緒にどうすか? いつもの寿司屋からいいノドグロが入ったって連絡がありまして!」
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DONETDD時代の左寂(1️⃣と🍬は買い出しとか行ってる)
『背の高い男性は頭を撫でれば落ちる!』
主(乱数)のいない派手な事務所でキッチンを借り、珈琲を淹れながら左馬刻は、ふと、昨日妹が読んでいた雑誌に踊るフレーズを思い出した。
くだらねーと思いつつその言葉を覚えていたのは、それを見た時、人生で初めて出会った自分より背の高い男の顔が浮かんだからだ。そして今、目の前にその男がいる。
ソファーで長い足を持て余すように組んで、何やら難しそうな本を読んでいるその男とは、神宮寺寂雷。ひとつ結びにされた菫色の髪の毛が、背もたれに垂れて僅かに揺れている。
別に『落とす』気は無いが、穏やかな物腰ながら常に隙のないこの人の頭を撫でてやればどんなリアクションをするのだろうかと、昨日感じた子供のような好奇心がむずむず疼く。本に集中している今がチャンスだと、左馬刻は慣れない忍び足で後ろから近寄った。一房だけ跳ねた髪を避け、その頭頂部に手を翳した、その時。
921主(乱数)のいない派手な事務所でキッチンを借り、珈琲を淹れながら左馬刻は、ふと、昨日妹が読んでいた雑誌に踊るフレーズを思い出した。
くだらねーと思いつつその言葉を覚えていたのは、それを見た時、人生で初めて出会った自分より背の高い男の顔が浮かんだからだ。そして今、目の前にその男がいる。
ソファーで長い足を持て余すように組んで、何やら難しそうな本を読んでいるその男とは、神宮寺寂雷。ひとつ結びにされた菫色の髪の毛が、背もたれに垂れて僅かに揺れている。
別に『落とす』気は無いが、穏やかな物腰ながら常に隙のないこの人の頭を撫でてやればどんなリアクションをするのだろうかと、昨日感じた子供のような好奇心がむずむず疼く。本に集中している今がチャンスだと、左馬刻は慣れない忍び足で後ろから近寄った。一房だけ跳ねた髪を避け、その頭頂部に手を翳した、その時。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です目覚めの一杯は、浅煎りの豆がいい。
拘りのコーヒーを揃いのマグカップに注ぎ、両手に携え寝室に入った左馬刻は、ベッドに腰掛け窓の方を見ている寂雷に、その片方を手渡した。
「ありがとう。……いい天気ですね」
「おー。どっか行くか? 釣りとか」
大きな窓の向こうには、雲一つない青空が広がっている。コーヒーを一口飲んだ寂雷は、既に高い位置まで昇っている太陽の光を遮るように、目の上に手を翳した。
「あまり晴れていると、釣りには向かないんだ。魚が仕掛けを見破ってしまうからね。……それに」
カップを持っていない寂雷の右手が、左馬刻の左手に重なる。寝起きの低い体温と、滑らかな陶磁器のような手触りが、無性に心地いい。
「こんな日に、のんびり家で過ごすのも、いいと思わないないかい?」
369拘りのコーヒーを揃いのマグカップに注ぎ、両手に携え寝室に入った左馬刻は、ベッドに腰掛け窓の方を見ている寂雷に、その片方を手渡した。
「ありがとう。……いい天気ですね」
「おー。どっか行くか? 釣りとか」
大きな窓の向こうには、雲一つない青空が広がっている。コーヒーを一口飲んだ寂雷は、既に高い位置まで昇っている太陽の光を遮るように、目の上に手を翳した。
「あまり晴れていると、釣りには向かないんだ。魚が仕掛けを見破ってしまうからね。……それに」
カップを持っていない寂雷の右手が、左馬刻の左手に重なる。寝起きの低い体温と、滑らかな陶磁器のような手触りが、無性に心地いい。
「こんな日に、のんびり家で過ごすのも、いいと思わないないかい?」
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です「お花見に行きたいなあ」
朝食を食べている最中、寂雷が唐突にそんな言葉を溢す。あまりに唐突だったので、左馬刻は眉間の皺を深くして、はあ?と返すしか出来なかった。
「今年はまだ行けてなくてね」
「いや、それ以前に、もうすぐ五月だぞ?もう花見は無理だろ」
葉桜だって遅いだろ、と左馬刻が突っ込めば、そうかな、と呟いた寂雷の視線がすうと流れる。天気予報を見るために点けていたテレビ画面には、『ホッカイドウの桜はもうすぐ満開!』とのテロップと共に、薄ピンクの花が一面に映っていた。つまりは。
「……旅行に行きたいなら、そう言えよ」
「だから言ってるだろう、お花見に行きたいと」
(こーいう所あるよな、センセーは)
それが嫌ではないのだから、全く感情というのは不思議なものだ。左馬刻は軽くため息をついて端末を手に取り、「次の休みは?」と聞いた。明後日から、と返した寂雷は、桜に負けない満面の笑みを浮かべている。
449朝食を食べている最中、寂雷が唐突にそんな言葉を溢す。あまりに唐突だったので、左馬刻は眉間の皺を深くして、はあ?と返すしか出来なかった。
「今年はまだ行けてなくてね」
「いや、それ以前に、もうすぐ五月だぞ?もう花見は無理だろ」
葉桜だって遅いだろ、と左馬刻が突っ込めば、そうかな、と呟いた寂雷の視線がすうと流れる。天気予報を見るために点けていたテレビ画面には、『ホッカイドウの桜はもうすぐ満開!』とのテロップと共に、薄ピンクの花が一面に映っていた。つまりは。
「……旅行に行きたいなら、そう言えよ」
「だから言ってるだろう、お花見に行きたいと」
(こーいう所あるよな、センセーは)
それが嫌ではないのだから、全く感情というのは不思議なものだ。左馬刻は軽くため息をついて端末を手に取り、「次の休みは?」と聞いた。明後日から、と返した寂雷は、桜に負けない満面の笑みを浮かべている。
KIZAKI
DONE左寂プチネップリ用ペーパー2023/3/19左寂プチオンリーイベントのネップリ用のペーパー再録しておきます
改めましてプチお疲れさまでした
ネップリだけですが参加できてよかったです
プチ主催様、印刷してくださった方、ありがとうございました! 2
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です風呂上がり。久しぶりにのんびりと呑みたくなって、親父から貰った年代物のウイスキーを棚から取り出した。グラスに注ぐとスモーキーな香りが漂い舌を乾かし、口に含めば強いアルコールが喉を焼く。古酒らしいまろやかでほろ苦い味わいに気分が浮ついてきたその時、机の上の携帯端末が小さく震え、画面がパッと明るくなる。
無視してやろうかとも思ったが、《カンノンザカ》の名前を見て端末を手に取った。チームシャッフル企画の時に連絡先を交換してから、この男からは時々連絡が来る。……もちろん、あの企画が終わった今、俺たちの共通点なんて、たった一つだ。
『先生がお酒を飲んでしまって…碧棺さんをお呼びです!来てもらえますか?』
そんなメッセージと一緒に送られてきたリンクで店の場所を確認し、すぐ行く、とだけ返す。飲んでいたウイスキーの他に目についた酒を適当に引っ掴みながら家を出て、若衆に電話をかけた。
1166無視してやろうかとも思ったが、《カンノンザカ》の名前を見て端末を手に取った。チームシャッフル企画の時に連絡先を交換してから、この男からは時々連絡が来る。……もちろん、あの企画が終わった今、俺たちの共通点なんて、たった一つだ。
『先生がお酒を飲んでしまって…碧棺さんをお呼びです!来てもらえますか?』
そんなメッセージと一緒に送られてきたリンクで店の場所を確認し、すぐ行く、とだけ返す。飲んでいたウイスキーの他に目についた酒を適当に引っ掴みながら家を出て、若衆に電話をかけた。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です「センセー、何してんだ?」
左馬刻の呼びかけに、寂雷が顔を上げる。テーブルの上には様々な模様の色紙が広がっていて、その横に置かれた本はどうやら、折り紙の折り方を解説するもののようだった。
「もうすぐひな祭りだろう?入院している子供たちと一緒にお雛様を作るのだけど…この折り方は、子供たちには難しいな」
寂雷の手元には、一枚の紙から作られたとは思えないほど立体的なお雛様。綺麗ではあるが、子供が作るには確かに手数が多そうだ。
「折り紙のお雛様なあ…こういうのはどうだ?」
少し乾燥している指先が赤い折り紙を一枚摘み、しゅっ、しゅっ、と軽い音を立てて形を変えていく。数回折ってペンで目と口を書き込むと、平べったく可愛らしい雛人形が出来上がった。
624左馬刻の呼びかけに、寂雷が顔を上げる。テーブルの上には様々な模様の色紙が広がっていて、その横に置かれた本はどうやら、折り紙の折り方を解説するもののようだった。
「もうすぐひな祭りだろう?入院している子供たちと一緒にお雛様を作るのだけど…この折り方は、子供たちには難しいな」
寂雷の手元には、一枚の紙から作られたとは思えないほど立体的なお雛様。綺麗ではあるが、子供が作るには確かに手数が多そうだ。
「折り紙のお雛様なあ…こういうのはどうだ?」
少し乾燥している指先が赤い折り紙を一枚摘み、しゅっ、しゅっ、と軽い音を立てて形を変えていく。数回折ってペンで目と口を書き込むと、平べったく可愛らしい雛人形が出来上がった。
saipoko2021
MOURNING陰間について調べてたときに『金剛』という役割を知って、ついうっかり左寂で妄想してしまいました😳従者というか世話役というか陰間の体を仕込むのもその役目なんです
以下、金剛について調べてたときに出てきた説明を左寂で妄想したものです💦
🔞というほどではないですが際どいことも書いていますので閲覧は自己判断でお願いいたします。 1209
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です『千年砂糖を手に入れたのだけど……』
「またかよ?!」
電話の向こうから聞こえてきた寂雷の台詞に、左馬刻は驚きの声を上げた。
千年砂糖とは、流通が少なく滅多に手に入らない希少な砂糖…のはずなのだが、何の巡り合わせか、寂雷の手元に来ることが多い。左馬刻がお裾分けを貰い、それを理鶯に渡したのはつい先月のことだ。
『どうも縁があるようだね。それで、病院の子供たちにお菓子でも作ろうか、と思ったのだけど、私はお菓子作りは慣れていなくて。良ければ手伝ってくれないかな』
「まあ、それくらいお安いご用だ。いつがいい?」
『十三日は午前中までだから、午後からどうだい? もちろん、そのまま泊まってくれて構わないよ』
「十三の午後な、りょーかい」
449「またかよ?!」
電話の向こうから聞こえてきた寂雷の台詞に、左馬刻は驚きの声を上げた。
千年砂糖とは、流通が少なく滅多に手に入らない希少な砂糖…のはずなのだが、何の巡り合わせか、寂雷の手元に来ることが多い。左馬刻がお裾分けを貰い、それを理鶯に渡したのはつい先月のことだ。
『どうも縁があるようだね。それで、病院の子供たちにお菓子でも作ろうか、と思ったのだけど、私はお菓子作りは慣れていなくて。良ければ手伝ってくれないかな』
「まあ、それくらいお安いご用だ。いつがいい?」
『十三日は午前中までだから、午後からどうだい? もちろん、そのまま泊まってくれて構わないよ』
「十三の午後な、りょーかい」
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です冬にしか味わえない贅沢というものがある。
掘り炬燵で足を伸ばし、もちもちのお餅に包まれたアイスを齧れば、優しい甘さが滑らかに溶けていく。ほう、と息を吐くと、芳しい香りを漂わせたマグカップが目の前に置かれた。
「こんな時間に珈琲かい?」
「まだ寝ないからいいだろ」
炬燵布団を捲って隣に座った左馬刻くんにもう一つ残ったアイスを容器ごと渡し、珈琲を一口啜る。円やかな苦味が、舌に残ったバニラの甘味と共に腹に落ちた。隣に体重を傾けると、ぐっと腰が引き寄せられ、左馬刻くんの体温を感じる。
(ああ、最高の贅沢だ)
暖かな冬の夜が、ゆっくり静かに更けていく。
280掘り炬燵で足を伸ばし、もちもちのお餅に包まれたアイスを齧れば、優しい甘さが滑らかに溶けていく。ほう、と息を吐くと、芳しい香りを漂わせたマグカップが目の前に置かれた。
「こんな時間に珈琲かい?」
「まだ寝ないからいいだろ」
炬燵布団を捲って隣に座った左馬刻くんにもう一つ残ったアイスを容器ごと渡し、珈琲を一口啜る。円やかな苦味が、舌に残ったバニラの甘味と共に腹に落ちた。隣に体重を傾けると、ぐっと腰が引き寄せられ、左馬刻くんの体温を感じる。
(ああ、最高の贅沢だ)
暖かな冬の夜が、ゆっくり静かに更けていく。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂ですふと、目が覚める。
眠りにつくまで隣にいた男の姿が見当たらず、体を起こして首をひねると、数センチだけ開けた窓の側で煙草を吸う左馬刻の姿を見つけた。ベッドから起きだし、その横に並ぶ。
「初雪だね」
「……寒かったか?」
窓を閉めようとした左馬刻に、大丈夫、と寂雷が首を振った。まだ宵闇に包まれているヨコハマの空には、ひらひらと粉雪が灰のように舞っている。
「桜に攫われる…なんて言い方があるけれど、君が攫われるとしたら、雪かな」
「はあ?……色だけだろ。それによお」
左馬刻が煙草を咥え、その先に点いた火がじり、と赤みを増す。吸い込まれた煙が、寂雷に向けてふう、と吐き出される。けほけほと軽く咳き込んだ寂雷は、紫煙の向こうでギラつく紅い眼光に射抜かれ、ぞくりと腰に震えが走った。
561眠りにつくまで隣にいた男の姿が見当たらず、体を起こして首をひねると、数センチだけ開けた窓の側で煙草を吸う左馬刻の姿を見つけた。ベッドから起きだし、その横に並ぶ。
「初雪だね」
「……寒かったか?」
窓を閉めようとした左馬刻に、大丈夫、と寂雷が首を振った。まだ宵闇に包まれているヨコハマの空には、ひらひらと粉雪が灰のように舞っている。
「桜に攫われる…なんて言い方があるけれど、君が攫われるとしたら、雪かな」
「はあ?……色だけだろ。それによお」
左馬刻が煙草を咥え、その先に点いた火がじり、と赤みを増す。吸い込まれた煙が、寂雷に向けてふう、と吐き出される。けほけほと軽く咳き込んだ寂雷は、紫煙の向こうでギラつく紅い眼光に射抜かれ、ぞくりと腰に震えが走った。
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1111マンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂ですHappy Birthday 2022寝るまでは二人でも、起きたら一人だった、というのは、そう珍しくもない。何しろ、共寝していたのは神宮寺寂雷。シンジュク代表麻天狼のリーダーであり、世界中の人を救いたいなどという大それた野望を抱えた天才医師だ。分刻みのスケジュールで動いている日もあるし、その優先順位は常に自分よりも他人が先だ。
それでも今日くらいは、なんて、らしくない考えが浮かび、左馬刻は「大切にされること」に慣れてしまった自分に呆れため息をついた。とりあえず顔でも洗うかと洗面所に向かい、そこの鏡で見た自らの姿に、何となく違和感を覚える。
(……こんなピアス、持ってたか?)
左馬刻の耳についているのは、小さな石が嵌まった見覚えの無いピアス。その透き通る蒼がちらりと光った瞬間、脳の回路がバチっと繋がり、言いようのない嬉しさが込み上げる。とんぼ返りで寝室に戻り電話をかけると、あの愛おしい声が響いた。
1092それでも今日くらいは、なんて、らしくない考えが浮かび、左馬刻は「大切にされること」に慣れてしまった自分に呆れため息をついた。とりあえず顔でも洗うかと洗面所に向かい、そこの鏡で見た自らの姿に、何となく違和感を覚える。
(……こんなピアス、持ってたか?)
左馬刻の耳についているのは、小さな石が嵌まった見覚えの無いピアス。その透き通る蒼がちらりと光った瞬間、脳の回路がバチっと繋がり、言いようのない嬉しさが込み上げる。とんぼ返りで寝室に戻り電話をかけると、あの愛おしい声が響いた。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です朝の料理当番は先に起きた方、というのが俺たちの暗黙のルール。というより、なんとなく、気づいたらそうなっていた、と言う方が正しいかもしれない。七割くらいは俺の方が早いが、今日は先生の方が早かったようで、リビングのドアを開けると焼き魚のいい匂いが鼻をくすぐった。
味噌汁、白米、納豆、卵焼きが並ぶ食卓につくと、タイミングよく鯖の塩焼きが目の前に置かれる。「いただきます」の声が揃い、味噌汁の碗を手に取り一口啜る。いつもよりまろやかな甘さが舌に広がり、味噌を変えたのか聞こうとしたら、少し緊張した面持ちでこちらを窺う先生と目が合った。
「今日はね、自分で作った味噌を使ってみたんだ。どう、かな?」
「すげー美味い。毎日飲みてえくらいだ」
698味噌汁、白米、納豆、卵焼きが並ぶ食卓につくと、タイミングよく鯖の塩焼きが目の前に置かれる。「いただきます」の声が揃い、味噌汁の碗を手に取り一口啜る。いつもよりまろやかな甘さが舌に広がり、味噌を変えたのか聞こうとしたら、少し緊張した面持ちでこちらを窺う先生と目が合った。
「今日はね、自分で作った味噌を使ってみたんだ。どう、かな?」
「すげー美味い。毎日飲みてえくらいだ」
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です左馬刻が寂雷の家を訪れる時、大抵は何処か有名な飲食店の紙袋をその手に携えている。気を使わなくともいい、と伝えても自分が食べたかったから、と言われるので、近頃は寂雷も素直に楽しみにしている。
今日の手土産は老舗和菓子店の月見団子で、夕食後、せっかくだからと縁側に持ち出し座布団を二つ並べた。見上げた夜空には星の光を潜ませるほど煌々と輝くまるい月が浮かび、庭先のススキが秋風に揺らされながら黒い影を伸ばしている。
「お酒が飲めれば、月見酒というのも風流だと思うのだけどね」
一緒に持ってきた急須で寂雷がお茶を淹れる横で、左馬刻が団子をパクリと口に入れた。何回か咀嚼し飲み込んだ後、湯呑みを手にする。
「団子には、酒よりこっちの方が合うだろ」
795今日の手土産は老舗和菓子店の月見団子で、夕食後、せっかくだからと縁側に持ち出し座布団を二つ並べた。見上げた夜空には星の光を潜ませるほど煌々と輝くまるい月が浮かび、庭先のススキが秋風に揺らされながら黒い影を伸ばしている。
「お酒が飲めれば、月見酒というのも風流だと思うのだけどね」
一緒に持ってきた急須で寂雷がお茶を淹れる横で、左馬刻が団子をパクリと口に入れた。何回か咀嚼し飲み込んだ後、湯呑みを手にする。
「団子には、酒よりこっちの方が合うだろ」
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です「今日は、長期入院の子どもたちのための縁日があってね…」
仕事終わりの寂雷を捕まえ、ヨコハマまで攫う車の中。いつもより機嫌よく奏でられるコントラバスを聞きながら、運転席の左馬刻がなるほどな、と相槌を打った。
「先生、かき氷食っただろ」
「確かに、材料が余ったので帰る前に頂きましたが…よく分かったね?」
車がゆっくりとスピードを落とし、赤信号の前でぴたりと止まる。不思議そうに首を傾けている寂雷の頭を掴んで引き寄せ、左馬刻が舌を絡めるキスをした。じゅる、と音を立てながら絡まりが解け、そのままぺろりと突き出した左馬刻の舌は、僅かに青く染まっている。
「これだけ青かったらな」
おや、と声を漏らし、寂雷が口に手を当てる。恥ずかしそうにしているその仕草にしとやかな色気を感じ、左馬刻がごくりと唾を飲み込んだ。
547仕事終わりの寂雷を捕まえ、ヨコハマまで攫う車の中。いつもより機嫌よく奏でられるコントラバスを聞きながら、運転席の左馬刻がなるほどな、と相槌を打った。
「先生、かき氷食っただろ」
「確かに、材料が余ったので帰る前に頂きましたが…よく分かったね?」
車がゆっくりとスピードを落とし、赤信号の前でぴたりと止まる。不思議そうに首を傾けている寂雷の頭を掴んで引き寄せ、左馬刻が舌を絡めるキスをした。じゅる、と音を立てながら絡まりが解け、そのままぺろりと突き出した左馬刻の舌は、僅かに青く染まっている。
「これだけ青かったらな」
おや、と声を漏らし、寂雷が口に手を当てる。恥ずかしそうにしているその仕草にしとやかな色気を感じ、左馬刻がごくりと唾を飲み込んだ。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂ですしゅるるる……と軽い音を立て、細い釣り糸が広い海に向かってぐんぐん伸びる。寂雷は狙ったポイントに仕掛けが着水したのを確認し、糸の弛みを巻き取ってから竿立てに竿を置いた。
夕陽を反射しオレンジ色に染まる海面にポツンと浮かぶ蛍光グリーンのウキを眺めながら、すっかり軽くなってしまった水筒の、最後の一口を飲み干す。喉を通った麦茶のぬるさにじとりと背中の汗ばみを感じたところに、向きの変わった潮風が嗅ぎ慣れた煙草の臭いを運んできた。
「よお、センセー」
隣に用意していたもう一つの折りたたみ椅子に、左馬刻がどかりと腰を下ろす。これで良かったか、と差し出されたのは、びっしりと水滴の浮いた青いラベルのペットボトル。ありがとう、とお礼を言いキャップを開けて口をつければ、冷たいスポーツドリンクが体に染み渡る。
954夕陽を反射しオレンジ色に染まる海面にポツンと浮かぶ蛍光グリーンのウキを眺めながら、すっかり軽くなってしまった水筒の、最後の一口を飲み干す。喉を通った麦茶のぬるさにじとりと背中の汗ばみを感じたところに、向きの変わった潮風が嗅ぎ慣れた煙草の臭いを運んできた。
「よお、センセー」
隣に用意していたもう一つの折りたたみ椅子に、左馬刻がどかりと腰を下ろす。これで良かったか、と差し出されたのは、びっしりと水滴の浮いた青いラベルのペットボトル。ありがとう、とお礼を言いキャップを開けて口をつければ、冷たいスポーツドリンクが体に染み渡る。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です細く開けた窓の横で煙草をふかしていた左馬刻の頬を、湿度を纏った柔らかい風がふわりと撫でた。空を見上げると、夕陽を隠していた灰色の雲がどんどん分厚くなり、その光を殆ど遮ってしまう。ポツポツと落ちてきた小さな水滴はみるみるうちにその数を増やし、あっという間に水のカーテンを張った。外の喧騒が、雨の音にかき消されていく。
「もう、梅雨だね」
湯呑みを二つ持った寂雷が、片方を左馬刻に差し出した。左馬刻は自分のために用意された灰皿に煙草を押し付け湯呑みを受け取る。一口啜ると、ぬるめのお湯に引き出された茶葉の甘さがまろやかに舌の上に広がった。コーヒー派の左馬刻だが、寂雷の淹れる緑茶は、好物だ。
寂雷は湯呑みをテーブルに置き、細く開いていた窓をぴったりと閉め切った。ざあざあと勢いを強めていく雨の音すら遠くなり、急に部屋の広さを感じてしまう。二人ぼっちで世間から切り取られたかのような空間の中、いつもは気にしていないことがふと気になり、机の向こうで椅子に腰掛けた寂雷に一つ問いを投げた。
905「もう、梅雨だね」
湯呑みを二つ持った寂雷が、片方を左馬刻に差し出した。左馬刻は自分のために用意された灰皿に煙草を押し付け湯呑みを受け取る。一口啜ると、ぬるめのお湯に引き出された茶葉の甘さがまろやかに舌の上に広がった。コーヒー派の左馬刻だが、寂雷の淹れる緑茶は、好物だ。
寂雷は湯呑みをテーブルに置き、細く開いていた窓をぴったりと閉め切った。ざあざあと勢いを強めていく雨の音すら遠くなり、急に部屋の広さを感じてしまう。二人ぼっちで世間から切り取られたかのような空間の中、いつもは気にしていないことがふと気になり、机の向こうで椅子に腰掛けた寂雷に一つ問いを投げた。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂ですおやすみなさい、いい夢を「左馬刻くんは、髪を伸ばしたりしないのかい」
白銀の髪に、寂雷の長い指がするりと滑る。
「もう少し伸ばして、後ろで結ぶのも似合いそうだけど」
数日ぶりに枕を並べた夜。眠りにつく前に声を聞きたいためだけの、たわいもない会話。その擽ったさに、左馬刻が軽く返す。
「先生が結んでくれんなら、それもいいな」
寂雷は目尻の皺を深め、襟足のあたりを触っていた手を左馬刻の後頭部に回した。硬めの髪を軽く掴み、そのまま、胸元に引き寄せる。
「うん、任せて」
左馬刻も寂雷の背に腕を回し、柔らかく抱きしめた。子供をあやすように、とん、とん、と広い背中を叩いていると、左馬刻の髪を撫でていた手の力が抜けていき、そっとシーツに転がった。
「おやすみ、せんせ」
377白銀の髪に、寂雷の長い指がするりと滑る。
「もう少し伸ばして、後ろで結ぶのも似合いそうだけど」
数日ぶりに枕を並べた夜。眠りにつく前に声を聞きたいためだけの、たわいもない会話。その擽ったさに、左馬刻が軽く返す。
「先生が結んでくれんなら、それもいいな」
寂雷は目尻の皺を深め、襟足のあたりを触っていた手を左馬刻の後頭部に回した。硬めの髪を軽く掴み、そのまま、胸元に引き寄せる。
「うん、任せて」
左馬刻も寂雷の背に腕を回し、柔らかく抱きしめた。子供をあやすように、とん、とん、と広い背中を叩いていると、左馬刻の髪を撫でていた手の力が抜けていき、そっとシーツに転がった。
「おやすみ、せんせ」
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DONEWEBオンリーイベント「41_750km」様の企画で書いた左寂です#せんせいとおれさま十歳年下の恋人が出来てから、寂雷の日常には少しだけ、変化が訪れた。
窓の近くに、灰皿を置くようになった。洗面台の歯ブラシが、一本増えた。無意識に、白や青の雑貨を選んでしまう。
……ここまでは、こそばゆさを感じつつも、楽しく感じる変化なのだが。
(舌が、肥えてしまったな)
自分で淹れたインスタントコーヒーをひと口啜り、寂雷はため息をついた。少し前まで、コーヒーにそこまで拘りは無かったのだが、どうにも物足りなさを感じてしまう。仕方がないので端末のメッセージアプリを開き、短い文章を送った。
『左馬刻くんのコーヒーが飲みたいな』
数分も経たずに既読が付き、ポン、と軽い音と共に返信が来る。
『すぐ行く』
端末を置いた寂雷は満足気に微笑み、嬉しそうに呟いた。
381窓の近くに、灰皿を置くようになった。洗面台の歯ブラシが、一本増えた。無意識に、白や青の雑貨を選んでしまう。
……ここまでは、こそばゆさを感じつつも、楽しく感じる変化なのだが。
(舌が、肥えてしまったな)
自分で淹れたインスタントコーヒーをひと口啜り、寂雷はため息をついた。少し前まで、コーヒーにそこまで拘りは無かったのだが、どうにも物足りなさを感じてしまう。仕方がないので端末のメッセージアプリを開き、短い文章を送った。
『左馬刻くんのコーヒーが飲みたいな』
数分も経たずに既読が付き、ポン、と軽い音と共に返信が来る。
『すぐ行く』
端末を置いた寂雷は満足気に微笑み、嬉しそうに呟いた。
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DONE献身的な攻めのガチャ(https://odaibako.net/gacha/2729)さんのお題で書いた左寂「…随分惚れ込まれてんだな」
皮肉気に唇の端を歪めた銃兎が鎖骨の辺りを軽く叩く。昨夜つけられた赤い痕が見えたらしい。
…ま、わざとだが。
「俺様が惚れてんだよ」
先生以外に、こんな印(もん)付けられるのを許す俺様じゃねえ。
さらにげんなりとした顔の銃兎に持っていた煙草の箱を取られたが、機嫌がいいので許してやった。
158皮肉気に唇の端を歪めた銃兎が鎖骨の辺りを軽く叩く。昨夜つけられた赤い痕が見えたらしい。
…ま、わざとだが。
「俺様が惚れてんだよ」
先生以外に、こんな印(もん)付けられるのを許す俺様じゃねえ。
さらにげんなりとした顔の銃兎に持っていた煙草の箱を取られたが、機嫌がいいので許してやった。
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DONE【左寂】先生受2の企画 #先生と夏休み 参加作品
一つ前のとうっっっすら繋がってます
#先生と夏休み扇風機の風が風鈴を揺らし、チリンと乾いた音が響いた。先日中華街で購入したそれは和風のこの部屋では少し浮いているが、寂雷は気に入っているらしい。
「処暑も過ぎたのに、暑いね」
そう言いながら寂雷が長い髪を一つに纏める。その項は日焼けを知らない白さで、左馬刻が小さく唾を飲み込んだ。
「そうだ、左馬刻くんの好きなアイス、買ってあるよ」
並んで座っていたソファから寂雷が立ち上がり冷蔵庫に向かう。左馬刻は伸ばそうとした手をそっと下ろした。
「そういえば、線香花火があるんだ。後でやらないかい」
「線香花火か…いかにも夏、だな」
手渡された白い棒アイスを齧る。ソファに座り直して同じようにアイスを食べている寂雷を見て、左馬刻はさっき疼いた腹よりも、もっと深い心の奥底が満たされていくのを感じた。
363「処暑も過ぎたのに、暑いね」
そう言いながら寂雷が長い髪を一つに纏める。その項は日焼けを知らない白さで、左馬刻が小さく唾を飲み込んだ。
「そうだ、左馬刻くんの好きなアイス、買ってあるよ」
並んで座っていたソファから寂雷が立ち上がり冷蔵庫に向かう。左馬刻は伸ばそうとした手をそっと下ろした。
「そういえば、線香花火があるんだ。後でやらないかい」
「線香花火か…いかにも夏、だな」
手渡された白い棒アイスを齧る。ソファに座り直して同じようにアイスを食べている寂雷を見て、左馬刻はさっき疼いた腹よりも、もっと深い心の奥底が満たされていくのを感じた。
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DONE【左寂】先生受2の企画 #先生と夏休み 参加作品
#先生と夏休み来月分の勤務表を見ながら、端末の共有スケジュールを開いた。既に書き込まれている左馬刻くんの予定は×がいくつか。○や△を書き込んでいくうちに、一箇所だけ○が続いて×が無い日程を見つけた。もしかしたら連休を一緒に過ごせるかもしれないな、と思ったところで、端末の画面が着信表示に変わる。耳に当てると機嫌の良さそうな声が響いた。
『よお先生、スケジュール見たぜ。
連休、どっか行きたいとこあるか?』
「そうだね…ヨコハマを、ゆっくり回りたいな。案内してくれるかい?」
そう言うと電話の向こうが少し静かになり、ふっと笑ったような気配がした。
『当然だろ。楽しみにしとけよ』
それから二言三言交わして電話を終え、勤務表をしまうついでに手帳を取り出しカレンダーに印を付けた。
393『よお先生、スケジュール見たぜ。
連休、どっか行きたいとこあるか?』
「そうだね…ヨコハマを、ゆっくり回りたいな。案内してくれるかい?」
そう言うと電話の向こうが少し静かになり、ふっと笑ったような気配がした。
『当然だろ。楽しみにしとけよ』
それから二言三言交わして電話を終え、勤務表をしまうついでに手帳を取り出しカレンダーに印を付けた。
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DONEDX歳下攻めっていいなガチャ(https://odaibako.net/gacha/5396)さんのお題で書いた左寂持たされている合鍵でふらりと家に上がり込んだ左馬刻は、ノートパソコンを抱えた寂雷に出迎えられた。これからリモートで講演会に出るんだ、と眉を下げた寂雷に待ってる、と返すと、公開だから隣の部屋に居てくれるのは問題ないよ、とリビングに通される。セッティングを少し手伝い打ち合わせが始まったところでリビングに引っ込み、自分用の灰皿を出してきて煙草に火をつけた頃には「神宮寺寂雷です」と穏やかな声が響いた。
少し大きめの身振り手振りを交えて聞き取りやすい声で話しながら、真剣な表情で画面と向き合う姿はいかにも仕事の出来る男の佇まいで、思わず見惚れてしまう。その横顔を観察しながら煙草を吸いこみ、鼻に抜ける焦げた香りに、ふと、左馬刻の視線がパソコンの方へずれる。
657少し大きめの身振り手振りを交えて聞き取りやすい声で話しながら、真剣な表情で画面と向き合う姿はいかにも仕事の出来る男の佇まいで、思わず見惚れてしまう。その横顔を観察しながら煙草を吸いこみ、鼻に抜ける焦げた香りに、ふと、左馬刻の視線がパソコンの方へずれる。
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DONE推しCPでみたいシチュ(https://odaibako.net/gacha/5356)さんのお題で書いた左寂※仲良しハマジュク
夜勤明け、この時間の空も随分明るくなってきたな、と寂雷は薄い雲越しの太陽を見上げながら一つ深呼吸をした。今日は車を置いてきているので、人通りのまばらなシンジュクの街を自分の足で歩き出す。
(そういえば、神社の桜が咲き始めたと一二三くんが言っていたな)
季節の移ろいには敏感なチームメイトの言葉をふと思い出し、シンジュクの人間なら一度は訪れたことのある神社に足を向けた。
寂雷を出迎えた桜は三分咲きで、花曇りの空の下、淡いピンク色をじわじわと枝に広げようとしている。その美しさに思わず写真を撮り、メッセージアプリを開いた。なんとなく彼の声が聞きたくなり、電話のマークをタップしようとして、時間表示に目が止まる。流石に起きていないかもしれない、と写真だけを送ったらすぐに既読がつき、端末が震え出した。
740(そういえば、神社の桜が咲き始めたと一二三くんが言っていたな)
季節の移ろいには敏感なチームメイトの言葉をふと思い出し、シンジュクの人間なら一度は訪れたことのある神社に足を向けた。
寂雷を出迎えた桜は三分咲きで、花曇りの空の下、淡いピンク色をじわじわと枝に広げようとしている。その美しさに思わず写真を撮り、メッセージアプリを開いた。なんとなく彼の声が聞きたくなり、電話のマークをタップしようとして、時間表示に目が止まる。流石に起きていないかもしれない、と写真だけを送ったらすぐに既読がつき、端末が震え出した。
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DONEDX歳下攻めっていいなガチャ(https://odaibako.net/gacha/5396)さんのお題で書いた左寂捕まえたのは、どっち?無理矢理に作り出した小さな用事で寂雷の家を訪れた左馬刻は、通されたリビングのテーブルに置かれていた物にふと目を止めた。
上品な生成り色をした、正方形の写真台紙。二つ折りのそれを開かなくとも、中身が分かった。
(……見合い、写真)
心の中で呟くと、自分でも驚くほどに胸の奥がすうと冷えていく。掴んですらないものを失う恐怖に、体が動かなくなる。
「左馬刻くん、コーヒーでいいかい…おや、片付けていなかったね」
左馬刻の視線を辿った寂雷はひょいと写真台紙を手に取った。普段と変わらない落ち着いた態度に苛立ちすら覚え、不機嫌に声が低くなる。
「先生、見合いすんのか」
「お世話になっている人からの紹介だからね。会うだけは会ってみようと思っていたけれど」
500上品な生成り色をした、正方形の写真台紙。二つ折りのそれを開かなくとも、中身が分かった。
(……見合い、写真)
心の中で呟くと、自分でも驚くほどに胸の奥がすうと冷えていく。掴んですらないものを失う恐怖に、体が動かなくなる。
「左馬刻くん、コーヒーでいいかい…おや、片付けていなかったね」
左馬刻の視線を辿った寂雷はひょいと写真台紙を手に取った。普段と変わらない落ち着いた態度に苛立ちすら覚え、不機嫌に声が低くなる。
「先生、見合いすんのか」
「お世話になっている人からの紹介だからね。会うだけは会ってみようと思っていたけれど」
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DONEホワイトデーの左寂バレンタイン(https://poipiku.com/2547572/6199476.html)の続きです
とびきりのあいをおくるホワイトデーのお返しは倍返し、と言うが、あの日貰った幸福の返礼はどんな物でも足りる気がしない。その上物欲も薄く大抵の物は自分で手に入れることが出来る人への贈り物に頭を悩ませていた左馬刻は、ふと、あまり使っていない筆立てに見覚えのない万年筆が紛れ込んでいることに気がついた。
(こんなの、持ってたか?)
そっと引き抜くとバランスの取れた重さが自然と手に馴染み、海を思わせる藍色の軸はよく手入れされ艶やかに輝いていた。そしてキャップには〝J.J〟のイニシャル。先月の真似をされたことに気づき、少々気恥ずかしさを覚えながら写真を撮りメッセージアプリを開いた。
『忘れ物なんて、珍しいな。一四日、空いてるか?』
『空いているよ。こちらに来てくれるなら、コーヒーでも淹れよう。君には負けるけどね』
495(こんなの、持ってたか?)
そっと引き抜くとバランスの取れた重さが自然と手に馴染み、海を思わせる藍色の軸はよく手入れされ艶やかに輝いていた。そしてキャップには〝J.J〟のイニシャル。先月の真似をされたことに気づき、少々気恥ずかしさを覚えながら写真を撮りメッセージアプリを開いた。
『忘れ物なんて、珍しいな。一四日、空いてるか?』
『空いているよ。こちらに来てくれるなら、コーヒーでも淹れよう。君には負けるけどね』
トゥン
DOODLE体温が高い🐴 x 体温低い💉※日本語版なんですが翻訳機を使っているのでぎこちない部分があるかもしれません。 ご注意ください※
~暖かい🐴くんの胸に抱かれて眠ってしまう💉先生~ を描くのが目標でした...だが失敗しました。
ただ、エロな先生を描いた漫画になってしまいました... 4
トゥン
DOODLE左寂 사마쟈쿠 삼쟠캐붕주의^-^;;;
기본적으로 체온이 높은 삼군 x 체온이 낮은 편인 센세
의 조합으로 포카포카두근두근 느낌의 귀여운 만화를 그리려 했습니다...
근데 그냥 센세에게 최음제 먹인 듯한 쿠소에로망가 연출이 돼버려서... 돌이킬 수가 없네요......... 그래서 그냥 올림 4
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Valentineバレンタインの左寂バレンタインポストに頂いたチョコをネタにさせていただきました
天秤を傾けたのは、小さなライター寂雷がそれに気づいたのは、自分では使わない灰皿を片付けてしまおうとした時だった。
古くも質の良いジッポライターが、柔らかな銀色の光を湛え、陶器の灰皿の横で静かにその存在を主張している。
(今度は、ライターか)
左馬刻は寂雷の家に来ると、何か一つ忘れ物をしていく。その度寂雷が「忘れ物だよ」と連絡を入れ次に会う日を決める。――お互いに、何も気付かないふりをして。
ちょっとした好奇心で寂雷がライターを手に取ると案外重みがあり、手に吸い付くように馴染んだ。よく手入れされた愛用品だということは一目瞭然で、普通なら忘れるようなものではない。
(彼も、そろそろ痺れを切らしてしまったのかもしれないな)
一つ息を吐いた寂雷は携帯端末を手に取り、メッセージを送った。
709古くも質の良いジッポライターが、柔らかな銀色の光を湛え、陶器の灰皿の横で静かにその存在を主張している。
(今度は、ライターか)
左馬刻は寂雷の家に来ると、何か一つ忘れ物をしていく。その度寂雷が「忘れ物だよ」と連絡を入れ次に会う日を決める。――お互いに、何も気付かないふりをして。
ちょっとした好奇心で寂雷がライターを手に取ると案外重みがあり、手に吸い付くように馴染んだ。よく手入れされた愛用品だということは一目瞭然で、普通なら忘れるようなものではない。
(彼も、そろそろ痺れを切らしてしまったのかもしれないな)
一つ息を吐いた寂雷は携帯端末を手に取り、メッセージを送った。
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DONE世界は愛で溢れてる(https://odaibako.net/gacha/1045)さんのお題で書いた左寂左馬刻の家には、とても大きい窓がある。中途半端な時間に起きてしまった時は、カーテンを少し開け、ベッドの縁に腰掛けぼんやりとヨコハマの夜景を眺めるのがいつの間にか寂雷の習慣になっていた。
「寒くねぇの」
「おや、起こしたかい」
左馬刻が寂雷の肩にシャツをかけ、そのまま隣に座り細い腰に手を回す。煌々と輝く満月の下、ふと、寂雷が掠れた声で呟いた。
「月が、綺麗ですね」
左馬刻の視線が上を向く。口元がふっと緩み、「そーだな」と静かに返した。言葉の意味が伝わらず曖昧に微笑んだ寂雷の唇に、かさついた唇が重なった。
「……アンタがいるから、なおさらな」
分かっていないかと思えば、本質を捉えた言葉に意表をつかれ思わずクスクスと笑い出した寂雷に、左馬刻が眉を顰める。宥めるようにキスを返すと紅い瞳がギラリと光り、菫色の髪がシーツに広がった。
432「寒くねぇの」
「おや、起こしたかい」
左馬刻が寂雷の肩にシャツをかけ、そのまま隣に座り細い腰に手を回す。煌々と輝く満月の下、ふと、寂雷が掠れた声で呟いた。
「月が、綺麗ですね」
左馬刻の視線が上を向く。口元がふっと緩み、「そーだな」と静かに返した。言葉の意味が伝わらず曖昧に微笑んだ寂雷の唇に、かさついた唇が重なった。
「……アンタがいるから、なおさらな」
分かっていないかと思えば、本質を捉えた言葉に意表をつかれ思わずクスクスと笑い出した寂雷に、左馬刻が眉を顰める。宥めるようにキスを返すと紅い瞳がギラリと光り、菫色の髪がシーツに広がった。
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DONE推しカプ、イチャイチャしろ(https://odaibako.net/gacha/3737)さんのお題で書いた左寂ピピッ、と乾いた電子音が鳴る。私の手の中の小さな機械を覗きこんで、左馬刻くんがはあ、とため息をついた。
「やっぱりな」
「私としては、いつもより調子が良いと思っていたのだけど」
顔を合わせた途端、「まだ測ってないだろ」と左馬刻くんが差し出してきた体温計の窓には、『37.8℃』と無機質な表示が浮かんでいた。
「よく分かったね左馬刻くん、医者顔負けだ」
そう言うと、左馬刻くんはまた大きくため息を吐いた。
「……先生の事だからな」
それより朝メシ作るから待ってろ、とキッチンに向かった背中を見送り、急に熱っぽさを自覚する。
(…今日は、ゆっくり休もう)
ーーこの熱は、暫く冷めそうにないから。
296「やっぱりな」
「私としては、いつもより調子が良いと思っていたのだけど」
顔を合わせた途端、「まだ測ってないだろ」と左馬刻くんが差し出してきた体温計の窓には、『37.8℃』と無機質な表示が浮かんでいた。
「よく分かったね左馬刻くん、医者顔負けだ」
そう言うと、左馬刻くんはまた大きくため息を吐いた。
「……先生の事だからな」
それより朝メシ作るから待ってろ、とキッチンに向かった背中を見送り、急に熱っぽさを自覚する。
(…今日は、ゆっくり休もう)
ーーこの熱は、暫く冷めそうにないから。
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DONE推しカプ、イチャイチャしろ(https://odaibako.net/gacha/3737)さんのお題で書いた左寂赦しの微笑み寒い日は、どうにも夢見が悪い。
夢の中で走馬灯のように思い出したくもない記憶を巡って、最後にたどり着くのはいつもあの日の妹の後ろ姿だ。
「……合歓……っ!」
自分の声で目が覚め、バクバクと動く心臓を鎮めようと長く息を吐いた。自分の家ではないのに、すっかり見慣れてしまった大きいベッドから起き上がると、扉越しに声が聞こえてきた。
「起きたかい、左馬刻くん。朝ごはん出来てるよ」
その声色の穏やかさに、痛いほど脈打っていた鼓動がゆっくりと落ち着いてくる。適当な服を着て向かったリビングのテーブルには既に味噌汁、焼き魚、白米、納豆が並んでいて、椅子に座ると緑茶が目の前に置かれた。
「左馬刻くんが私より遅いなんて珍しいね」
559夢の中で走馬灯のように思い出したくもない記憶を巡って、最後にたどり着くのはいつもあの日の妹の後ろ姿だ。
「……合歓……っ!」
自分の声で目が覚め、バクバクと動く心臓を鎮めようと長く息を吐いた。自分の家ではないのに、すっかり見慣れてしまった大きいベッドから起き上がると、扉越しに声が聞こえてきた。
「起きたかい、左馬刻くん。朝ごはん出来てるよ」
その声色の穏やかさに、痛いほど脈打っていた鼓動がゆっくりと落ち着いてくる。適当な服を着て向かったリビングのテーブルには既に味噌汁、焼き魚、白米、納豆が並んでいて、椅子に座ると緑茶が目の前に置かれた。
「左馬刻くんが私より遅いなんて珍しいね」
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DONECP場面設定ガチャ(https://odaibako.net/gacha/609)さんのお題で書いた左寂ベランダに出ると、冷え切った空気に耳を擽られた。ヨコハマの夜景を見下ろし、一つ息を吐く。寒さで白く濁ったそれが消えていくのをぼおっと眺めていると、背後の窓がガラリと音を立て、両手に湯気のたつマグカップを持った先生が片方をこちらに差し出してきた。
「眠れない夜には、コーヒーより、これかなと思ってね」
受け取った中身は、真っ白なホットミルク。
(昔俺も、合歓に作ったな…)
つい最近のような、大分昔のような記憶を辿りながら一口啜る。昔妹と飲んだ蜂蜜たっぷりのものとは違い、僅かに生姜の味がする。
「……美味い」
「それは良かった」
同じ様にマグカップに口を付けた先生を横目で眺める。身体がほかほかと暖まってきて、飲み終わる頃には眠気が来そうだと思いながら、二口目を啜った。
335「眠れない夜には、コーヒーより、これかなと思ってね」
受け取った中身は、真っ白なホットミルク。
(昔俺も、合歓に作ったな…)
つい最近のような、大分昔のような記憶を辿りながら一口啜る。昔妹と飲んだ蜂蜜たっぷりのものとは違い、僅かに生姜の味がする。
「……美味い」
「それは良かった」
同じ様にマグカップに口を付けた先生を横目で眺める。身体がほかほかと暖まってきて、飲み終わる頃には眠気が来そうだと思いながら、二口目を啜った。
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DONE年下さんと年上さん(https://odaibako.net/gacha/3668)のお題で書いた左寂一仕事を終え、キンと冷えた夜の空気の中、左馬刻は寒さを誤魔化すようにいつもの煙草に火をつけた。目の前に広がる黒々とした海に向かって煙を吐きだす。理由もなくその白いもやを追って目線を上げると、満天の、とは言い難くとも、美しく輝く星々が視界に入ってきて、無意識に端末に手を伸ばした。電話をかけようとして、寝ているかもしれない、と指が止まったところで画面が光り着信を告げる。
「良かった、起きていましたか」
「よお、先生」
「今、空は見えるかい。…今日は星が綺麗だなと思ったら、何となく、君の声が聞きたくなってね」
「…俺も今、かけようかと思ってた」
一瞬の沈黙の後、「なあ」「ところで」と声が重なる。同じことを考えているようだと確信して、左馬刻が口を開いた。
483「良かった、起きていましたか」
「よお、先生」
「今、空は見えるかい。…今日は星が綺麗だなと思ったら、何となく、君の声が聞きたくなってね」
「…俺も今、かけようかと思ってた」
一瞬の沈黙の後、「なあ」「ところで」と声が重なる。同じことを考えているようだと確信して、左馬刻が口を開いた。
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DONE男ふたりの色んなシーン(https://odaibako.net/gacha/1739)さんのお題で書いた左寂エレベーターを降りると、夜明けのひんやりとした空気が体を包んだ。一つ身震いをして家の扉を開けると、玄関には大きな靴が一揃い。寝室のドアをそっと開くと、ベッドの上で先生がすうすうと寝息を立てていた。
鍵を渡してから、先生は時々、寝るためだけにこの家に来ることがある。起こさないよう静かに扉を閉めようとしたら、どこからかピリリリリ、と電子音が鳴り出した。布団がもそもそと動き、白い手が枕元の端末を掴む。電子音が止まり、ゆっくり起き出した先生がこちらを向いた。
「おはよう、左馬刻くん」
「俺はこれから寝るとこだけどな…よく寝れたかよ」
「おかげさまで」
身支度を始めた先生と入れ替わりでベッドに向かう。とはいえまだ先生がいるのに寝るのもな、と、そこに腰掛けるだけにして、着替えている先生になんとはなしに話しかけた。
713鍵を渡してから、先生は時々、寝るためだけにこの家に来ることがある。起こさないよう静かに扉を閉めようとしたら、どこからかピリリリリ、と電子音が鳴り出した。布団がもそもそと動き、白い手が枕元の端末を掴む。電子音が止まり、ゆっくり起き出した先生がこちらを向いた。
「おはよう、左馬刻くん」
「俺はこれから寝るとこだけどな…よく寝れたかよ」
「おかげさまで」
身支度を始めた先生と入れ替わりでベッドに向かう。とはいえまだ先生がいるのに寝るのもな、と、そこに腰掛けるだけにして、着替えている先生になんとはなしに話しかけた。
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DONE言えない攻めガチャ(https://odaibako.net/gacha/3291)さんのお題で書いた左寂しゅる、しゅる、と静かな音を立てながら、柘植の櫛が寂雷の髪を滑る。ほつれの無い菫色を無言で梳き続けている左馬刻はどうやら虫の居所が悪いようだが、それをぶつけないよう少し距離を保とうとしている不器用な優しさに、寂雷は思わず笑みをこぼした。
「…んだよ」
拗ねたような声に振り返ると、憮然とした表情とは裏腹に、目の前の獲物に今にも飛びかかりそうなほどギラついた紅い瞳と目が合って、寂雷はへの字の唇に軽くキスをした。
「キス、したいのかと思ったけど、違ったかな?」
悪戯っぽく笑いながら尋ねた寂雷の顎を掴み、左馬刻が唇を押し付け舌を絡める。暫しの間、水音だけが部屋に響いた。
「合ってっけど、足りねぇ」
息継ぎの合間に、低い声が落ちる。再びぶつかるように食らいついてきた唇を受け止め、寂雷はそっと目を閉じた。
351「…んだよ」
拗ねたような声に振り返ると、憮然とした表情とは裏腹に、目の前の獲物に今にも飛びかかりそうなほどギラついた紅い瞳と目が合って、寂雷はへの字の唇に軽くキスをした。
「キス、したいのかと思ったけど、違ったかな?」
悪戯っぽく笑いながら尋ねた寂雷の顎を掴み、左馬刻が唇を押し付け舌を絡める。暫しの間、水音だけが部屋に響いた。
「合ってっけど、足りねぇ」
息継ぎの合間に、低い声が落ちる。再びぶつかるように食らいついてきた唇を受け止め、寂雷はそっと目を閉じた。
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DONE左馬刻様お誕生日おめでとうございます🎉 な左寂Happy Birthday 11/11ふと、意識が浮上し、隣に気をつけながら体を起こした。サイドチェストに置かれた電子時計は日付も表示するタイプで、一が四つ並んだ画面を見てそういえば、と他人事のように思い出した。
(誕生日、か)
自分の誕生日なんて、特別な日でもなんでもない。あえて言うなら、明日をもしれない命がまだここにあると少し実感する日、その程度だ。
それでも、静かに寝ている恋人の指通りのいい長い髪に触れた時なんかは、生きていてよかったと思うこともある。
「んん……」
「…わりぃ、起こしたか」
寝ぼけ眼のまま半身を起こしゆったり首を振った先生が、時計に目を向け、こちらを振り向いた。
「誕生日おめでとう、左馬刻くん」
マイクを通し回復を受けた時のように、低く穏やかな優しい響きが耳から脳、そして全身に伝う。しかしバトルの時とは違い、その声が少し掠れて甘さをはらんでいる事に密やかな満足を覚える。
477(誕生日、か)
自分の誕生日なんて、特別な日でもなんでもない。あえて言うなら、明日をもしれない命がまだここにあると少し実感する日、その程度だ。
それでも、静かに寝ている恋人の指通りのいい長い髪に触れた時なんかは、生きていてよかったと思うこともある。
「んん……」
「…わりぃ、起こしたか」
寝ぼけ眼のまま半身を起こしゆったり首を振った先生が、時計に目を向け、こちらを振り向いた。
「誕生日おめでとう、左馬刻くん」
マイクを通し回復を受けた時のように、低く穏やかな優しい響きが耳から脳、そして全身に伝う。しかしバトルの時とは違い、その声が少し掠れて甘さをはらんでいる事に密やかな満足を覚える。