そのこ
vẽ nguệch ngoạc星辰剣はビクトールにはお節介だといいと思うんですよね。人間に甘い上位存在好き。星辰剣とフリックも仲がいいといいです。2025-07-15
ベッドがごつごつと鳴る音で目が覚めた。カーテンの隙間から差し込む月の光は明るくて、ものの少ない部屋の中が良く見える。柄頭に派手な装飾のついた剣が枕元にぷかぷかと浮き上がるその情景は、事情を知らぬものならば夢かと思っても仕方がない。
超常の者にとっては鍵などどうという事もないのだろう。本来ならば隣の部屋にあるはずの星辰剣を、横になったまま眺めるフリックにしびれを切らしたのか、剣はやかましく響いた。
「起きよ、と言っているのだ」
「……何時だと思ってるんだよ」
「まだ日が変わったぐらいだ。夜はまだ長かろうて」
夜の静けさを司っているくせにそれを破る剣を見上げて、フリックは内心ため息をついた。この数日、ビクトールがよく眠れていないのは知っている。定例会で見かけた時も大あくびをしてシュウに睨まれていたし、幾度か共にした食事の最中も何度も眠たげに目をこすっていた。
1816ベッドがごつごつと鳴る音で目が覚めた。カーテンの隙間から差し込む月の光は明るくて、ものの少ない部屋の中が良く見える。柄頭に派手な装飾のついた剣が枕元にぷかぷかと浮き上がるその情景は、事情を知らぬものならば夢かと思っても仕方がない。
超常の者にとっては鍵などどうという事もないのだろう。本来ならば隣の部屋にあるはずの星辰剣を、横になったまま眺めるフリックにしびれを切らしたのか、剣はやかましく響いた。
「起きよ、と言っているのだ」
「……何時だと思ってるんだよ」
「まだ日が変わったぐらいだ。夜はまだ長かろうて」
夜の静けさを司っているくせにそれを破る剣を見上げて、フリックは内心ため息をついた。この数日、ビクトールがよく眠れていないのは知っている。定例会で見かけた時も大あくびをしてシュウに睨まれていたし、幾度か共にした食事の最中も何度も眠たげに目をこすっていた。
kuro0610oekaki
vẽ nguệch ngoạc腐れ縁を懲りずにまた描いた私をお許しください💦⚡️くそっ、中途半端な状態で連れてこられたからこっちは熱くて苦しいんだ。早くしろ、バカ熊。
🐻ああ、悪かったよ。今から存分に楽しもうな、お姫様?
そのこ
vẽ nguệch ngoạcティント後。ビクトールさん。ゲームだとむちゃくちゃあっさり終わって驚いちゃった。2025-07-14
仇を討った時は随分と冷静だった。終わったのだと理解したし、今ビクトールが軍のために、ひいてはタイラギの為に何をすべきかも分かっていた。
辛いことももう終わり。あとは好きなように生きていくだけだ。戦争が終わったら旅に出ても良いし、ここにとどまってもいい。枷はもう何もない。
そんなの夢物語だ。
勢いよく目を開け、枕元に立てかけてあった剣を鷲掴みにした。乱暴な所作だったにも関わらず、しゃべる剣は何も言わない。呼吸音だけが部屋に満ちる。窓からは月の光が差し込み、部屋を明るく照らしていた。
まだ真夜中だ。しんと静かで、波の音さえも聞こえない。見回りの時間からもずれているのか、本当に何の音もしなかった。
1503仇を討った時は随分と冷静だった。終わったのだと理解したし、今ビクトールが軍のために、ひいてはタイラギの為に何をすべきかも分かっていた。
辛いことももう終わり。あとは好きなように生きていくだけだ。戦争が終わったら旅に出ても良いし、ここにとどまってもいい。枷はもう何もない。
そんなの夢物語だ。
勢いよく目を開け、枕元に立てかけてあった剣を鷲掴みにした。乱暴な所作だったにも関わらず、しゃべる剣は何も言わない。呼吸音だけが部屋に満ちる。窓からは月の光が差し込み、部屋を明るく照らしていた。
まだ真夜中だ。しんと静かで、波の音さえも聞こえない。見回りの時間からもずれているのか、本当に何の音もしなかった。
sakura_453vf
vẽ nguệch ngoạcティントに⚡を連れて行きたくなかった🐻が、無事帰って来て⚡に迎えられる話。うっすらビクフリ。
帰る場所 ティントへ行くのは最小限の人数でいい。それは戦況を見ても正しい判断だったと思うが、連れて行くメンバーからさりげなくフリックを除外させたのは完全に私情だった。
今の同盟軍には、自分たちがほぼ全てを担わなければならなかった最初期の頃とは比べものにならないほど人材が揃っているから、二人揃って抜けたところで穴を埋める者には困らないだろう。ビクトールとしてもフリックがいれば心強いに決まっている。それでもそんなことをしたのは、あの男が明確に自分の弱点になってしまったからだ。
あの卑劣な吸血鬼は、一度は自分に負けたという事実が許せないらしく、大切だった彼女の亡骸を目の前で弄んで見せた。本物だったのかは分からないが、尊厳を踏みにじられたことに変わりはなく、思い出せば怒りで手が震えそうになる。
1571今の同盟軍には、自分たちがほぼ全てを担わなければならなかった最初期の頃とは比べものにならないほど人材が揃っているから、二人揃って抜けたところで穴を埋める者には困らないだろう。ビクトールとしてもフリックがいれば心強いに決まっている。それでもそんなことをしたのは、あの男が明確に自分の弱点になってしまったからだ。
あの卑劣な吸血鬼は、一度は自分に負けたという事実が許せないらしく、大切だった彼女の亡骸を目の前で弄んで見せた。本物だったのかは分からないが、尊厳を踏みにじられたことに変わりはなく、思い出せば怒りで手が震えそうになる。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc坊ちゃんとフリック。坊→→フリの傾向があります。ビ、ビクフリが大前提だよ。そう言う事もあります。2025-07-13
タイラギが騎馬隊の執務室のドアをノックする。しばしののちに返事があって、従卒が中から出てきた。軍主と見慣れぬ少年、ビクトールの姿を目にして随分と驚いたようだった。わざわざは足を運ばない面子だ。
「フリックさんはいる?」
「いらっしゃいますけど……」
なんの躊躇いもなく入室しようとするタイラギを、従卒は押しとどめた。いくら軍主の連れとはいえ、正体も知れない人間を機密の詰まった部屋に入れるわけには行かない。規律正しいその様子に、セキアは気分を害した様子もない。ただ穏やかな、人好きのする笑みを浮かべているだけだ。先ほどまでビクトールに向けていた激情のあとなど、目元にかすかに残るだけだ。
1914タイラギが騎馬隊の執務室のドアをノックする。しばしののちに返事があって、従卒が中から出てきた。軍主と見慣れぬ少年、ビクトールの姿を目にして随分と驚いたようだった。わざわざは足を運ばない面子だ。
「フリックさんはいる?」
「いらっしゃいますけど……」
なんの躊躇いもなく入室しようとするタイラギを、従卒は押しとどめた。いくら軍主の連れとはいえ、正体も知れない人間を機密の詰まった部屋に入れるわけには行かない。規律正しいその様子に、セキアは気分を害した様子もない。ただ穏やかな、人好きのする笑みを浮かべているだけだ。先ほどまでビクトールに向けていた激情のあとなど、目元にかすかに残るだけだ。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc坊ちゃんとビクトール。(くっついてるかはともかく)ビクフリが前提の若干坊→→フリ気味です。そう言う事もある。2025-07-11
穏やかな昼下がり、商店街をぶらぶらと昼食を求めて歩いていたビクトールはタイラギの声に振り返った。
「ほら、ビクトールさんですよ」
誰かに軽く紹介している言葉だ。またたきの手鏡をトランから貸与されて以降、戦況が落ち着くと軍主は時に共も連れずにふいにどこかへ行ってしまう。シュウに毎回小言を言われているはずだが、強く出きれないのはシュウの少年に対する罪悪感が故だろう。子供らしいことを奪っている以上、少年の欲求は出来る限りかなえたい、と軍師はいつか言っていた。
人ごみのむこうで、タイラギが振り返ったビクトールに手を振っている。その隣には同じような背格好の少年がいた。ビクトールを見て、目を細めて唇の端を上げたがその目は一つも笑ってはいない。
1704穏やかな昼下がり、商店街をぶらぶらと昼食を求めて歩いていたビクトールはタイラギの声に振り返った。
「ほら、ビクトールさんですよ」
誰かに軽く紹介している言葉だ。またたきの手鏡をトランから貸与されて以降、戦況が落ち着くと軍主は時に共も連れずにふいにどこかへ行ってしまう。シュウに毎回小言を言われているはずだが、強く出きれないのはシュウの少年に対する罪悪感が故だろう。子供らしいことを奪っている以上、少年の欲求は出来る限りかなえたい、と軍師はいつか言っていた。
人ごみのむこうで、タイラギが振り返ったビクトールに手を振っている。その隣には同じような背格好の少年がいた。ビクトールを見て、目を細めて唇の端を上げたがその目は一つも笑ってはいない。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcビクフリ。ビク→フリ的な。傭兵隊を作るより前。2025-07-10
帰ったのはもうずいぶんと遅くなってからだ。
酒場のドアをくぐったとたん、わっと喧騒が耳をうつ。大小さまざまな傭兵たちがそう広くもない酒場にたむろしている。常連たちは慣れたもので、いかつい傭兵のことなどお構いなしに騒いでいるから、いつもの通りに大賑わいだ。
一応の旅の目的地であったミューズに居ついてひと月足らず。これからの話をする間もなく日銭を稼ぐ毎日だ。ミューズは隣国のハイランドと長く緊張状態で、稼げる仕事はいくらでもある。俺ともう一人ぐらいを食わせていくなんて簡単だ。だというのに本人はこの状態がどうやら我慢ならないらしく、ホウアン先生の所で何やら書類仕事なんて始めているようだった。
2135帰ったのはもうずいぶんと遅くなってからだ。
酒場のドアをくぐったとたん、わっと喧騒が耳をうつ。大小さまざまな傭兵たちがそう広くもない酒場にたむろしている。常連たちは慣れたもので、いかつい傭兵のことなどお構いなしに騒いでいるから、いつもの通りに大賑わいだ。
一応の旅の目的地であったミューズに居ついてひと月足らず。これからの話をする間もなく日銭を稼ぐ毎日だ。ミューズは隣国のハイランドと長く緊張状態で、稼げる仕事はいくらでもある。俺ともう一人ぐらいを食わせていくなんて簡単だ。だというのに本人はこの状態がどうやら我慢ならないらしく、ホウアン先生の所で何やら書類仕事なんて始めているようだった。
そのこ
QUÁ KHỨビクフリ。ビク→フリ気味です。お前そんなのばっかり書いてんな。2019年のやつ。6年前!?!風呂場だ。湯気がたっぷりと立つ、寒い夜。人の輪郭も定かではなくなる中でも、隣にいる奴ぐらいは分かる。
遠くから湖の波の音がして、近くでは暖かい湯が揺れる音がする。視界は霞む。輪郭が揺らぐ。
「だいぶ治ってきた」
うっかり閉じていた目を開けた。隣で、フリックの奴が軽く腕をあげた不自然な体勢をしている。二の腕の真ん中辺りに白く、治りかけた傷痕があった。この間の小競り合いでやらかしたものだ。魔法でふさいだ傷口はもうすっかり綺麗で、このまま跡も残さずに消えるのだろう。
なんとなく眺めまわして、首をかしげる。
「お前、あんまり傷痕ないよな」
腕を下ろしたフリックが、バカにしたように唇を引き上げた。
「お前みたいに突っ込めばいいと思ってないからな」
792遠くから湖の波の音がして、近くでは暖かい湯が揺れる音がする。視界は霞む。輪郭が揺らぐ。
「だいぶ治ってきた」
うっかり閉じていた目を開けた。隣で、フリックの奴が軽く腕をあげた不自然な体勢をしている。二の腕の真ん中辺りに白く、治りかけた傷痕があった。この間の小競り合いでやらかしたものだ。魔法でふさいだ傷口はもうすっかり綺麗で、このまま跡も残さずに消えるのだろう。
なんとなく眺めまわして、首をかしげる。
「お前、あんまり傷痕ないよな」
腕を下ろしたフリックが、バカにしたように唇を引き上げた。
「お前みたいに突っ込めばいいと思ってないからな」
そのこ
vẽ nguệch ngoạcビクトールさんがフリックを復讐に巻き込みたくないと思っている、は幻覚強めだと思うんですよね。2025-07-08
夜だというのにかがり火で明るい。歩哨の姿も数多く、いかにも臨戦態勢だ。明日にはティントを奪い返す為に出陣するからそこに加わる連中はもう休んでいた。俺もそろそろ横にならねばならない、というのにかがり火の下でぼんやりしているのは待ち人がいるからだ。
別に大した約束をしているわけでもないが、多分来てくれるだろう。家の中の方が安全だけれど、話す内容次第じゃ余人に聞かせられないから外のほうが理にかなう。
庭にある長椅子の端に座って行儀悪く足を投げ出した。村長にもらった蒸留酒をグラスに注いでちびちびと舐めていると、歩哨が声を上げたのが聞こえた。
視線をやれば、まだ年若い歩哨とフリックがなにか話しているところだった。夜で、しかも遠目だと言うのに歩哨が興奮しているのがよくわかる。知らない人間に勝手に理想を抱かれるとはどういう気分なのだろう。
1903夜だというのにかがり火で明るい。歩哨の姿も数多く、いかにも臨戦態勢だ。明日にはティントを奪い返す為に出陣するからそこに加わる連中はもう休んでいた。俺もそろそろ横にならねばならない、というのにかがり火の下でぼんやりしているのは待ち人がいるからだ。
別に大した約束をしているわけでもないが、多分来てくれるだろう。家の中の方が安全だけれど、話す内容次第じゃ余人に聞かせられないから外のほうが理にかなう。
庭にある長椅子の端に座って行儀悪く足を投げ出した。村長にもらった蒸留酒をグラスに注いでちびちびと舐めていると、歩哨が声を上げたのが聞こえた。
視線をやれば、まだ年若い歩哨とフリックがなにか話しているところだった。夜で、しかも遠目だと言うのに歩哨が興奮しているのがよくわかる。知らない人間に勝手に理想を抱かれるとはどういう気分なのだろう。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcティントに行く前、ビクフリ? ビクフリかこれ。仲良し腐れ縁。ビクトールさんが意外と元気でカラッとしててなんか良かったねって。2025-07-06
ティントにゾンビが出た。灯竜山の山賊がもたらした情報は、やにわに城内をざわつかせた。これまで一向に反応を見せなかったティントへ直接交渉の場をもつ切っ掛けになろうという判断と山賊の塞を襲ったのがゾンビだとすると王国軍とはおそらく直接関係がないだろう判断。
ティントとはいつかは話し合いの場を持たねばならない。同時に、王国軍とは別勢力ならば二両面作戦を強いられることになりはすまいか。それは避けるべきだが、避けた結果助けを求めてきた山賊の、ひいては世論の信用を失ってはつまらない。
山賊は助ける。ティントもこちらに引き入れる。だが、ハイランドへの警戒を怠ることは出来ない。
好都合だった。そう思う自分に、ビクトールは少しばかり驚いている。
1650ティントにゾンビが出た。灯竜山の山賊がもたらした情報は、やにわに城内をざわつかせた。これまで一向に反応を見せなかったティントへ直接交渉の場をもつ切っ掛けになろうという判断と山賊の塞を襲ったのがゾンビだとすると王国軍とはおそらく直接関係がないだろう判断。
ティントとはいつかは話し合いの場を持たねばならない。同時に、王国軍とは別勢力ならば二両面作戦を強いられることになりはすまいか。それは避けるべきだが、避けた結果助けを求めてきた山賊の、ひいては世論の信用を失ってはつまらない。
山賊は助ける。ティントもこちらに引き入れる。だが、ハイランドへの警戒を怠ることは出来ない。
好都合だった。そう思う自分に、ビクトールは少しばかり驚いている。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcくっつきたがるビクフリ。2025-07-05
シュウのところには猫がいる。大概来客相手に窓辺で目を細めているか、シュウの机の一角に丸まっている。シュウが書き物をやめたタイミングで待ってましたと起き上がり、空いた手に頬を擦りつける姿を時々見ることが出来る。
そう言うときの細めた目に満足げな喉を慣らす音、立ったしっぽが彼? 彼女の上機嫌を伝えてくる。シュウも猫に向ける視線はいつも穏やかで、猫が心労も多いこいつの助けになっているんなら何か言える奴がいるものか。
「じゃあ、手筈通りに進める」
「まかせた」
出入りする回数が多い自分達に対して、今更猫もシュウも遠慮がない。書類をもって退出するまで、シュウは猫をなでたまま、猫はシュウに頭を擦りつけるまま、俺のほうを一顧だにもしないのだ。
1909シュウのところには猫がいる。大概来客相手に窓辺で目を細めているか、シュウの机の一角に丸まっている。シュウが書き物をやめたタイミングで待ってましたと起き上がり、空いた手に頬を擦りつける姿を時々見ることが出来る。
そう言うときの細めた目に満足げな喉を慣らす音、立ったしっぽが彼? 彼女の上機嫌を伝えてくる。シュウも猫に向ける視線はいつも穏やかで、猫が心労も多いこいつの助けになっているんなら何か言える奴がいるものか。
「じゃあ、手筈通りに進める」
「まかせた」
出入りする回数が多い自分達に対して、今更猫もシュウも遠慮がない。書類をもって退出するまで、シュウは猫をなでたまま、猫はシュウに頭を擦りつけるまま、俺のほうを一顧だにもしないのだ。
sakura_453vf
vẽ nguệch ngoạc1ED後(前の話の⚡視点)🐻に介抱されながら考えること。 お前を見ていると腹が立った。
腕力に物を言わせた、我流で粗削りな太刀筋。何でも笑って誤魔化す、大雑把でいい加減な態度。信用に値しない。彼女を護るため、俺はこんな奴を簡単に信じるわけにはいかない。だから腹が立つんだと、そう思っていた。
けれどあの日、あの吸血鬼に相対した時。仇を前にしたお前の怒りや悲しみを目の当たりにした。
あんなに感情的になるお前を初めて見た。お前はいつも、切迫した状況下で俺よりずっと器用に立ち回って見せるのに。悩みや迷いを笑い飛ばして、一番危険な場所へ飛び出して行くのに。本当はずっとこんなものを独りで抱えていたのかと、愕然とした。
それで分かった。俺が腹を立てていたのはお前にではなく、お前に敵わない自分に、だった。本当は俺はずっと、お前を信じたかったんだ。だから崩れ行く城の中で背を預け合って戦うことになって、腹に矢が刺さってるってのに、俺は楽しくて仕方なかった。おかげでこのザマだが。
743腕力に物を言わせた、我流で粗削りな太刀筋。何でも笑って誤魔化す、大雑把でいい加減な態度。信用に値しない。彼女を護るため、俺はこんな奴を簡単に信じるわけにはいかない。だから腹が立つんだと、そう思っていた。
けれどあの日、あの吸血鬼に相対した時。仇を前にしたお前の怒りや悲しみを目の当たりにした。
あんなに感情的になるお前を初めて見た。お前はいつも、切迫した状況下で俺よりずっと器用に立ち回って見せるのに。悩みや迷いを笑い飛ばして、一番危険な場所へ飛び出して行くのに。本当はずっとこんなものを独りで抱えていたのかと、愕然とした。
それで分かった。俺が腹を立てていたのはお前にではなく、お前に敵わない自分に、だった。本当は俺はずっと、お前を信じたかったんだ。だから崩れ行く城の中で背を預け合って戦うことになって、腹に矢が刺さってるってのに、俺は楽しくて仕方なかった。おかげでこのザマだが。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcやっぱり告白シーンはいるのでは?と思ったので書いたビクフリ。2025-07-02
なんだろな、油断していたのかもしれない。
グリンヒルから連れてきたのはテレーズ市長だけじゃなかった。ニューリーフの制服に身を包んだ、金色の髪の子供。テレーズとも知り合いで、彼女のグリンヒル潜伏を助ける役回りだったらしい。
だから着いてきたっておかしくない。おかしかないが、ニナの目的はほぼ全てフリックだ言って良いはずだ。城に居ついてからこっち、毎日毎日飽きもせず時には小脇に弁当など抱えてフリックを追いかけ回している。フリックのほうも邪険にすることは出来ず、時折相手をしているらしい。弁当を一緒に食うとか、時々伝令程度の仕事を頼むとか。
騎馬隊の執務室から、俺と同部屋の中まで、強面の傭兵たちの中にあってもまったくおじけづくことのない度胸は感嘆に値するとは思うが、その情熱はなんとなく心をざわめかせる。
1659なんだろな、油断していたのかもしれない。
グリンヒルから連れてきたのはテレーズ市長だけじゃなかった。ニューリーフの制服に身を包んだ、金色の髪の子供。テレーズとも知り合いで、彼女のグリンヒル潜伏を助ける役回りだったらしい。
だから着いてきたっておかしくない。おかしかないが、ニナの目的はほぼ全てフリックだ言って良いはずだ。城に居ついてからこっち、毎日毎日飽きもせず時には小脇に弁当など抱えてフリックを追いかけ回している。フリックのほうも邪険にすることは出来ず、時折相手をしているらしい。弁当を一緒に食うとか、時々伝令程度の仕事を頼むとか。
騎馬隊の執務室から、俺と同部屋の中まで、強面の傭兵たちの中にあってもまったくおじけづくことのない度胸は感嘆に値するとは思うが、その情熱はなんとなく心をざわめかせる。
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vẽ nguệch ngoạc1ED後、⚡の矢傷を介抱している🐻の独白。気持ちビクフリ その透き通る青が好きだった。
人の気持ちを見通そうとして目をじっと見ちまうのは俺の悪い癖だが、そうすると後ろ暗いことがある奴は目を逸らすし、そうでない奴でも大抵は困った顔をしたり、失礼だって憤慨したりするもんだ。だがあいつは、ただ真っ直ぐに見返してきた。何も隠すことなどないとでも言うかのように。
静かな湖面を思わせるその瞳は澄んでいて、素直に羨ましいと思った。他人に踏み込ませず有耶無耶にすることばかり上手くなる俺には、怒りや悲しみをそのままに表現する青臭さが眩しかった。こいつの存在はきっと、人を信じようとするあの女にとっても救いになるだろうと思った。
だから守りたかった。解放運動なんて危険な戦いに身を投じながら瞳が曇らないお前たちに、あんな思いだけはさせたくない、などと。仇を探すために一時身を寄せるだけのつもりが、いつの間にかそんなことを思うようになっていた。
686人の気持ちを見通そうとして目をじっと見ちまうのは俺の悪い癖だが、そうすると後ろ暗いことがある奴は目を逸らすし、そうでない奴でも大抵は困った顔をしたり、失礼だって憤慨したりするもんだ。だがあいつは、ただ真っ直ぐに見返してきた。何も隠すことなどないとでも言うかのように。
静かな湖面を思わせるその瞳は澄んでいて、素直に羨ましいと思った。他人に踏み込ませず有耶無耶にすることばかり上手くなる俺には、怒りや悲しみをそのままに表現する青臭さが眩しかった。こいつの存在はきっと、人を信じようとするあの女にとっても救いになるだろうと思った。
だから守りたかった。解放運動なんて危険な戦いに身を投じながら瞳が曇らないお前たちに、あんな思いだけはさせたくない、などと。仇を探すために一時身を寄せるだけのつもりが、いつの間にかそんなことを思うようになっていた。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcキスをするビクフリ続き。どこかで時系列順に纏めますね。自分でもよく分かんなくなってきた。2025-06-29
兵舎の外に椅子と小さなテーブルを持ち出してはさみと櫛と霧吹きを並べれば、にわか床屋の開店準備は終わりだ。木陰を吹き抜ける風はいつも通り強いけれど、夏に向かう空気を吹き飛ばして結構気持ちがいい。良い季節だ。
ルカが死んだ。俺たちだけの力じゃなくて、ありゃあ嵌められたんだと思う。ハイランドでもあいつの狂気を受け止めきれなくなったのだ。だから必ずあちらからのリアクションがあるはずだ。講和かそれともまだやりあうのか。決めるのはジョウイなんだろうな。
すくなくとも、うちの軍師様は終わると思っちゃいない。タイラギにもナナミにも申し訳のねえ事だけどさ。
ただハイランド軍が引いていったのはたしかだから、俺たちにも暇ができる。警戒を怠ることはしないとしても、前線に付きっ切りでいないといけないだとか、処理すべき仕事が山積みで崩した端から積まれていくなんて事はないわけだ。
1929兵舎の外に椅子と小さなテーブルを持ち出してはさみと櫛と霧吹きを並べれば、にわか床屋の開店準備は終わりだ。木陰を吹き抜ける風はいつも通り強いけれど、夏に向かう空気を吹き飛ばして結構気持ちがいい。良い季節だ。
ルカが死んだ。俺たちだけの力じゃなくて、ありゃあ嵌められたんだと思う。ハイランドでもあいつの狂気を受け止めきれなくなったのだ。だから必ずあちらからのリアクションがあるはずだ。講和かそれともまだやりあうのか。決めるのはジョウイなんだろうな。
すくなくとも、うちの軍師様は終わると思っちゃいない。タイラギにもナナミにも申し訳のねえ事だけどさ。
ただハイランド軍が引いていったのはたしかだから、俺たちにも暇ができる。警戒を怠ることはしないとしても、前線に付きっ切りでいないといけないだとか、処理すべき仕事が山積みで崩した端から積まれていくなんて事はないわけだ。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc6/26のビクトールさん側。ビクトールさんはフリックに甘えられるのをなんか平然と受け入れてたらいいとかそういう。2025-06-27
砂漠の入口になっている街のそこそこ良い宿の一室にしばらく滞在する事にしていた。そこの店主と知り合いで、いくつか仕事をこなしてくれれば宿代は格安で良いという。部屋は確かにそんなに広くないけど、俺は帰って寝るだけだし、フリックのほうもカギのかかる部屋で清潔なベッドでねれりゃ百点だと言っていた。風呂もあるし、飯もうまい。仕事は店主が所属している商人ギルドが抱えている案件で、ちょっと時間も手間もかかりそうだった。
離れたところでサウスウィンドウが戦争なんかしてるからな、この辺の治安維持まで手が回んねえんだろうな。まあ俺としちゃあ、食い扶持に困らなくて助かるってもんだけど。
心配事と言えば、体が全然まともじゃなかったフリックの体調だ。砂漠を渡り切る間は、隊商の馬車に乗っていたとはいえちゃんと活動していたというのに、渡り切った途端にまた寝付いてしまった。
1973砂漠の入口になっている街のそこそこ良い宿の一室にしばらく滞在する事にしていた。そこの店主と知り合いで、いくつか仕事をこなしてくれれば宿代は格安で良いという。部屋は確かにそんなに広くないけど、俺は帰って寝るだけだし、フリックのほうもカギのかかる部屋で清潔なベッドでねれりゃ百点だと言っていた。風呂もあるし、飯もうまい。仕事は店主が所属している商人ギルドが抱えている案件で、ちょっと時間も手間もかかりそうだった。
離れたところでサウスウィンドウが戦争なんかしてるからな、この辺の治安維持まで手が回んねえんだろうな。まあ俺としちゃあ、食い扶持に困らなくて助かるってもんだけど。
心配事と言えば、体が全然まともじゃなかったフリックの体調だ。砂漠を渡り切る間は、隊商の馬車に乗っていたとはいえちゃんと活動していたというのに、渡り切った途端にまた寝付いてしまった。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc砂漠越えた後。フリックがビクトールさんに甘えてるからビクフリですよ。多分。ビクトールさんが一日いなくて、ちょっと寂しい。2025-06-26
砂漠を渡って玄関口にあたる町は人が多くて騒がしい。トランとサウスウィンドウがやりあっている場所から少し離れているから、戦火を避けて人が流入しているんだ。宿をとるのだって大変だったはずなのに、ビクトールはいつの間にやらちょっといい宿を見つけてみせるんだから大したものだと思う。
正直、本当にありがたかった。あいつ、大したことがないとか言いやがって。こっちは一冬寝付いたばかりだって分かってたんだろうか。砂漠というか、礫砂漠というか、荒れ地というか。水が少なくて、全部茶色で、空ばかりが真っ青な世界。日がある間は遮るものなんて何もない本当に熱いところで、そのくせ日が落ちれば一転して凍えるほどの寒さになる。あれもトランだってんだからな。世界は広いな。
2255砂漠を渡って玄関口にあたる町は人が多くて騒がしい。トランとサウスウィンドウがやりあっている場所から少し離れているから、戦火を避けて人が流入しているんだ。宿をとるのだって大変だったはずなのに、ビクトールはいつの間にやらちょっといい宿を見つけてみせるんだから大したものだと思う。
正直、本当にありがたかった。あいつ、大したことがないとか言いやがって。こっちは一冬寝付いたばかりだって分かってたんだろうか。砂漠というか、礫砂漠というか、荒れ地というか。水が少なくて、全部茶色で、空ばかりが真っ青な世界。日がある間は遮るものなんて何もない本当に熱いところで、そのくせ日が落ちれば一転して凍えるほどの寒さになる。あれもトランだってんだからな。世界は広いな。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc解放戦争後、一緒に行く腐れ縁。ビクトールさんから誘ったとは思うんですよね。多分ね。2025-06-25
グレッグミンスターにほど近い小さな街の小さな宿屋。店主とは解放軍とは無関係に顔見知りで、それなりに貸しもある。だから季節が一つめぐるぐらいなら長滞在を許されたし、特に事情も聞かれない。国の形が変わったと解放軍の奴らが喧伝に来たときに、少しだけ聞きたげな仕草を見せたが、俺が一つ首を振ればそれでおしまい。
ジョウストンからの人間と渡りをつけるような店主だ。人それぞれに事情があるなんて知り尽くしている。もしここがなければ、俺だってさっさとあのけが人を解放軍に返していただろう。自分が戻る事はなかったとしても、だ。
流石に季節が一つ巡れば、床を上げることは出来る。解放軍がどうなったかも、他の滞在者から聞いているに違いない。じゃあその次は、と言うわけだ。春が来る。俺もそろそろどうするか決めないとな。
2229グレッグミンスターにほど近い小さな街の小さな宿屋。店主とは解放軍とは無関係に顔見知りで、それなりに貸しもある。だから季節が一つめぐるぐらいなら長滞在を許されたし、特に事情も聞かれない。国の形が変わったと解放軍の奴らが喧伝に来たときに、少しだけ聞きたげな仕草を見せたが、俺が一つ首を振ればそれでおしまい。
ジョウストンからの人間と渡りをつけるような店主だ。人それぞれに事情があるなんて知り尽くしている。もしここがなければ、俺だってさっさとあのけが人を解放軍に返していただろう。自分が戻る事はなかったとしても、だ。
流石に季節が一つ巡れば、床を上げることは出来る。解放軍がどうなったかも、他の滞在者から聞いているに違いない。じゃあその次は、と言うわけだ。春が来る。俺もそろそろどうするか決めないとな。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcキスするビクフリ続き。オデッサ抜きでフリックを語ることはできないんで、フリックの事が好きだよってんならオデッサごとになるのは道理なんですけど、それは微妙に嫌だねえとビクトールさんは思っている。2025-06-24
レナンカンプのアジトだ。オデッサのほかにも数人いるが、名前はちょっと思い出せない。あの時に死んだのかもしれない。なんだか妙に動きづらいから、これは夢だと気づいた。長い髪を揺らして、オデッサがこちらを見る。
なんだか妙に不機嫌そうにその柔らかな唇を尖らせて、こちらに向かってくる。化粧気のない、それでも華やかな容貌が下からずいとのぞき込んでくる。
「言ったわよね、ビクトール」
皆に対する、優しくて柔らかくて力強いそれではなくて、年相応の娘の声だ。好きなものがあって、それを独り占めしたいと願う子供の声。
「あの子は私のものなの。ずっと、ずっとそうなの」
そんなこと、生前のオデッサに言われたことはない。
1748レナンカンプのアジトだ。オデッサのほかにも数人いるが、名前はちょっと思い出せない。あの時に死んだのかもしれない。なんだか妙に動きづらいから、これは夢だと気づいた。長い髪を揺らして、オデッサがこちらを見る。
なんだか妙に不機嫌そうにその柔らかな唇を尖らせて、こちらに向かってくる。化粧気のない、それでも華やかな容貌が下からずいとのぞき込んでくる。
「言ったわよね、ビクトール」
皆に対する、優しくて柔らかくて力強いそれではなくて、年相応の娘の声だ。好きなものがあって、それを独り占めしたいと願う子供の声。
「あの子は私のものなの。ずっと、ずっとそうなの」
そんなこと、生前のオデッサに言われたことはない。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc1のちょっと前、二人で飲むフリックとビクトール。フリックはビクトールの飲み方に文句があるんだけど、オデッサも似たような飲み方するから似たような対応をとっちゃうとかそういう。2025-06-22
根城にしている宿に併設された酒場のドアを開けた。店主も慣れたもので、特に確認もされずに奥まったいつもの席に案内された。夜も遅いから、誰もいないんじゃないかと思ったが一人だけが座っている。
よそで食おうかな、と踵を返しかけ、あからさまな拒絶をするのも良くはないな、と逡巡したのがまずかった。顔を上げたビクトールが、酔いもない目で俺を見てへらりと笑った。
「俺が出迎えで悪いな」
「……そんなこと言ってない」
「顔に書いてある。まあ、たまには良いだろ」
オデッサは何もなければ早くに寝てしまうし、ハンフリーは明日早くて、サンチェスは纏めたい書類があるらしい。他の数人も、さっきまで待っていてくれたそうだが、日付が変わるような時間だ。寝床へ帰っていてくれて逆にありがたいまであった。
1788根城にしている宿に併設された酒場のドアを開けた。店主も慣れたもので、特に確認もされずに奥まったいつもの席に案内された。夜も遅いから、誰もいないんじゃないかと思ったが一人だけが座っている。
よそで食おうかな、と踵を返しかけ、あからさまな拒絶をするのも良くはないな、と逡巡したのがまずかった。顔を上げたビクトールが、酔いもない目で俺を見てへらりと笑った。
「俺が出迎えで悪いな」
「……そんなこと言ってない」
「顔に書いてある。まあ、たまには良いだろ」
オデッサは何もなければ早くに寝てしまうし、ハンフリーは明日早くて、サンチェスは纏めたい書類があるらしい。他の数人も、さっきまで待っていてくれたそうだが、日付が変わるような時間だ。寝床へ帰っていてくれて逆にありがたいまであった。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc薄荷ちゃん(@hakkabox)がSP準拠で腕相撲ネタ書いてたので、同じネタ使っていいか聞いたらいいよって言ってくれた産物です。ありがて。僕はフリックに勝たせたいタイプ。2025-06-21
誰かの腕が倒されるたびに、大きな歓声が上がる。難しいことなど何にもない。みんなやっぱり楽しいことが好きで、勝負事が大好きだ。それはこの限界寸前の帝国でも同じこと。
レナンカンプの繁華街、旅人も地元の連中も混ざってごっちゃになった酒場だ。酒場の真ん中に卓を置き、むさくるしい男が二人、腕をつかんで肘をつけ、顔を赤くしてお互いの手を卓に倒そうといきんでいる。相手の手は分厚く、そこから伸びる腕は良く鍛えられて太い。だが踏んでいる場数が違うのだ。俺は分からない程度に弱めていた力を少しずつ籠め、ギリギリと押し込んでいく。熱い勝負は次の掛け金をさらに積ませるだろう。お遊びとはいえ、負けるのもしゃくだし得られる金を逃す手はない。
3378誰かの腕が倒されるたびに、大きな歓声が上がる。難しいことなど何にもない。みんなやっぱり楽しいことが好きで、勝負事が大好きだ。それはこの限界寸前の帝国でも同じこと。
レナンカンプの繁華街、旅人も地元の連中も混ざってごっちゃになった酒場だ。酒場の真ん中に卓を置き、むさくるしい男が二人、腕をつかんで肘をつけ、顔を赤くしてお互いの手を卓に倒そうといきんでいる。相手の手は分厚く、そこから伸びる腕は良く鍛えられて太い。だが踏んでいる場数が違うのだ。俺は分からない程度に弱めていた力を少しずつ籠め、ギリギリと押し込んでいく。熱い勝負は次の掛け金をさらに積ませるだろう。お遊びとはいえ、負けるのもしゃくだし得られる金を逃す手はない。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc短い。そういうときもある。フリックさん、自分より体格のいい人間とは無意識に距離をとるけど、ビクトールさんにはしないよっていう話がしたかったんですよ。2025-06-20
時々、皆と話すフリックを外から眺める事がある。傭兵連中なんて大概がやくざで、自分の腕一本で食ってるような奴らばっかりだから、外見はやたらと柄が悪いしでけえ奴らもいっぱいいる。
フリックだって当然鍛えちゃいるけど、傭兵たちの中にまぎれたら何かの間違いみたいに見える。文官が仕事で付き合ってるのかな、とか戦わないんだろ、とかもうさんざん言われているのを見てきた。
傭兵隊を作った時、元から知り合いだった連中はともかく、そとから応募してきたやつらなんて、端からフリックの事を舐め腐っていたのが今はいっそ懐かしい。フリックのそばで、仲良さそうに談笑しているあいつも、注いだ酒を差し出しているあいつも、かつてはそんな舐めた口を聞いていたはずだ。
753時々、皆と話すフリックを外から眺める事がある。傭兵連中なんて大概がやくざで、自分の腕一本で食ってるような奴らばっかりだから、外見はやたらと柄が悪いしでけえ奴らもいっぱいいる。
フリックだって当然鍛えちゃいるけど、傭兵たちの中にまぎれたら何かの間違いみたいに見える。文官が仕事で付き合ってるのかな、とか戦わないんだろ、とかもうさんざん言われているのを見てきた。
傭兵隊を作った時、元から知り合いだった連中はともかく、そとから応募してきたやつらなんて、端からフリックの事を舐め腐っていたのが今はいっそ懐かしい。フリックのそばで、仲良さそうに談笑しているあいつも、注いだ酒を差し出しているあいつも、かつてはそんな舐めた口を聞いていたはずだ。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc6/17のふんわり続き。深いキスをするビクフリ。年齢制限は不要な程度ではあると思うんですけど、どうなんでしょうね。2025-06-19
タイラギも交えた突然の会議は案外長引いて、部屋まで帰りつけたのはもう日付も変わろうかという頃だ。せっかく買ったダンプリングを一緒に食うのだけは出来たけど、あとは全部お流れ。
まあ、仕事だしな。静かな兵舎の狭い私室に二人で戻って、今日はもう寝るだけだ。シュウから押し付けられた書類をとりあえず机に置いた。
「すまないな」
背後から言われて振り返った。そう言ったフリックはと言えば、来ていた外着をさっさと脱ぎ捨てるところだった。なんとなく気まずく、そっと目を逸らす。
「何が」
「お前と夕飯食べようって言ったのに」
軽く笑って肩をすくめる。夕食を一緒にたべよう、なんて子供みたいな約束だ。交わしたものは言葉にすればそれだけで、叶っていないというわけでもない。浮かれた俺が買ったダンプリングは二人分には流石に多く、4人で食べて少し物足りないぐらいだった。
2361タイラギも交えた突然の会議は案外長引いて、部屋まで帰りつけたのはもう日付も変わろうかという頃だ。せっかく買ったダンプリングを一緒に食うのだけは出来たけど、あとは全部お流れ。
まあ、仕事だしな。静かな兵舎の狭い私室に二人で戻って、今日はもう寝るだけだ。シュウから押し付けられた書類をとりあえず机に置いた。
「すまないな」
背後から言われて振り返った。そう言ったフリックはと言えば、来ていた外着をさっさと脱ぎ捨てるところだった。なんとなく気まずく、そっと目を逸らす。
「何が」
「お前と夕飯食べようって言ったのに」
軽く笑って肩をすくめる。夕食を一緒にたべよう、なんて子供みたいな約束だ。交わしたものは言葉にすればそれだけで、叶っていないというわけでもない。浮かれた俺が買ったダンプリングは二人分には流石に多く、4人で食べて少し物足りないぐらいだった。
kurosujun100313
vẽ nguệch ngoạc(過去絵追加しました)全部雨のせい
エアスケブ、梅雨のビクフリということで何がいいか考えてまして(素敵なお題ありがとうございます!)
これは以前ビクフリリバイバルの時に描いた、やらかしたビクフリ(2枚目)という絵の続き、というか…2回目、のやらかしたビクフリ…
雨だし濡れたしもう外でれないし、ね?
もう言い逃れできない2回目に戸惑ってほしい 2
そのこ
vẽ nguệch ngoạc6/14の続き。ビクフリ。キスができると思ってたんですけどダメだったよの話。ダメなんだ。2025-06-17
カミューと別れたビクトールはレオナの酒場で今日の酒を調達するために人通りの多い大通りをぶらぶらと歩いていた。夕食時と帰宅時間が重なる今の時間は、黄昏時の暗さとランプの明かりの下で人々がそれぞれ目的をもって行きかっている。一度は死んだ街にこれだけの人がいるのが今でもなんとなく不思議だ。居心地が悪いと思わないのは、帰る場所があるからだろう。なんと、今日は夕食を一緒に食べる約束をきちんと取り付けている。何がなくても、フリックと食卓を囲むのは嬉しいし、ご飯を食べている姿をみるとまず第一に安心できる。
足取り軽く石畳を歩くビクトールは、自分の名を呼ぶ聞きなれた声に立ち止まった。
ダンプリングの入った紙袋を落とさないように振り返ったのと、タイラギが駆けてくるのが殆ど同時だ。
1756カミューと別れたビクトールはレオナの酒場で今日の酒を調達するために人通りの多い大通りをぶらぶらと歩いていた。夕食時と帰宅時間が重なる今の時間は、黄昏時の暗さとランプの明かりの下で人々がそれぞれ目的をもって行きかっている。一度は死んだ街にこれだけの人がいるのが今でもなんとなく不思議だ。居心地が悪いと思わないのは、帰る場所があるからだろう。なんと、今日は夕食を一緒に食べる約束をきちんと取り付けている。何がなくても、フリックと食卓を囲むのは嬉しいし、ご飯を食べている姿をみるとまず第一に安心できる。
足取り軽く石畳を歩くビクトールは、自分の名を呼ぶ聞きなれた声に立ち止まった。
ダンプリングの入った紙袋を落とさないように振り返ったのと、タイラギが駆けてくるのが殆ど同時だ。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc傭兵隊結成前。酔っ払いフリックとそこそこ素面のビクトールさん。ビクフリ未満。ビクトールさんが赤月に来たのは別に理由はなかった、はずなんですよ。SPでなんか言われない限りは。2025-06-16
一階にあるレオナの酒場の喧騒が、うすぼんやりと聞こえる。ベッドと小さな卓だけが詰め込まれた宿の部屋には俺と、頭を卓の上に預けたまま半分ぐらいは寝ているフリックだけがいる。ベッドに寝かしてやらねえとなあとは思うのに、思うだけで俺はちっとも動かない。
根本的に体力が戻っていなくて、今日は傭兵連中と何やら騒いでいたから疲れきっていて、おまけに奴らに飲まされたのは俺だってちょっと飲むのをためらうような強い酒だ。飲まなかったからって侮るような奴らばかりではないだろうが、あんまり柄がよくなかったのかもしれねえな。
部屋まで自力で戻っただけで万々歳だ。明日は二日酔いでえらいめにあうんだろうな。ちょっと可哀そうだな。
1828一階にあるレオナの酒場の喧騒が、うすぼんやりと聞こえる。ベッドと小さな卓だけが詰め込まれた宿の部屋には俺と、頭を卓の上に預けたまま半分ぐらいは寝ているフリックだけがいる。ベッドに寝かしてやらねえとなあとは思うのに、思うだけで俺はちっとも動かない。
根本的に体力が戻っていなくて、今日は傭兵連中と何やら騒いでいたから疲れきっていて、おまけに奴らに飲まされたのは俺だってちょっと飲むのをためらうような強い酒だ。飲まなかったからって侮るような奴らばかりではないだろうが、あんまり柄がよくなかったのかもしれねえな。
部屋まで自力で戻っただけで万々歳だ。明日は二日酔いでえらいめにあうんだろうな。ちょっと可哀そうだな。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc関係を進めるビクフリ。子供みたいなキスの次。2025-06-12
軍議が終わって、皆が三々五々に散っていく。俺も立ち上がった所でビクトールに呼びかけられた。二人で完結するような小さい確認事項をいくつか問いかけられ、少し考えて返事をする。
一つはもしかしたらシュウの判断を仰いだほうがいいかも知れない。メモとペンを取り出した所で、カミューが戸口から言った。
「フリック、先に行っていますよ」
「すぐ行く」
騎馬隊は結局自分を中心に組織されてしまったが、マチルダ騎士が加入して随分と楽になった。片付けねばならない仕事の山の量が分散されただけでありがたい。
カミューとマイクロトフが会議室から去れば、残ったのは俺とビクトールだけになる。カミューの背を見送ったらしいビクトールは、俺に視線を戻して首を傾げてみせた。
1772軍議が終わって、皆が三々五々に散っていく。俺も立ち上がった所でビクトールに呼びかけられた。二人で完結するような小さい確認事項をいくつか問いかけられ、少し考えて返事をする。
一つはもしかしたらシュウの判断を仰いだほうがいいかも知れない。メモとペンを取り出した所で、カミューが戸口から言った。
「フリック、先に行っていますよ」
「すぐ行く」
騎馬隊は結局自分を中心に組織されてしまったが、マチルダ騎士が加入して随分と楽になった。片付けねばならない仕事の山の量が分散されただけでありがたい。
カミューとマイクロトフが会議室から去れば、残ったのは俺とビクトールだけになる。カミューの背を見送ったらしいビクトールは、俺に視線を戻して首を傾げてみせた。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc関係を先に進めるビクフリ。2025-06-10
少々帰るのが遅くなった。大した仕事ではないと思っていたのが思ったより長引いたのだ。月はもうとっくに沈んで、歩哨の足音が時折兵舎の中を響き渡るだけの深夜。ビクトールは私室のドアを開けた。
音を立てないように静かに荷物をおろし、なかから装備一式を取り出して椅子の背にひっかける。手入れは明日にしよう。起こしてしまっては申し訳ない。
気を使ったというのに、ちらりとベッドのほうを見ればフリックは眠そうに目を開けていた。寝ころんだままなのは入ってきたのがビクトールだと最初から認識しているからだ。
「寝てていいぞ」
出来るだけ小さく言った声は夜の中に溶けるばかり。フリックは聞いているのかいないのか、リアクションもせずに布団をかぶりなおして目を閉じた。細く開いたカーテンから差し込む月明かりだけがうすぼんやりとその様を照らしている。
1801少々帰るのが遅くなった。大した仕事ではないと思っていたのが思ったより長引いたのだ。月はもうとっくに沈んで、歩哨の足音が時折兵舎の中を響き渡るだけの深夜。ビクトールは私室のドアを開けた。
音を立てないように静かに荷物をおろし、なかから装備一式を取り出して椅子の背にひっかける。手入れは明日にしよう。起こしてしまっては申し訳ない。
気を使ったというのに、ちらりとベッドのほうを見ればフリックは眠そうに目を開けていた。寝ころんだままなのは入ってきたのがビクトールだと最初から認識しているからだ。
「寝てていいぞ」
出来るだけ小さく言った声は夜の中に溶けるばかり。フリックは聞いているのかいないのか、リアクションもせずに布団をかぶりなおして目を閉じた。細く開いたカーテンから差し込む月明かりだけがうすぼんやりとその様を照らしている。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcキスをねだるビクフリ。フリックさんはビクトールさんの事がなんだかんだと好きなので、ねだられれば際限はないです。2025-06-09
今日はなんだか暇な日で、早々に風呂に入って夕飯も食べて部屋でぼんやりと本をめくっていた。興味を惹かれて借りてきた兵法書だが、同じ個所を何度も読んでいる事に気づいて、自嘲気味に閉じる事にした。つい先日まで異様に忙しかったから、いまいち余暇の過ごし方と言うのが思い出せない。そもそもそんなに得意ではなかったというのもあるけれど。
行儀悪く、本の隅をはじくようにめくっていく。もう寝てしまおうか、それともそろそろ返ってくるだろうビクトールのやつを待っていてやろうか。
そんなことを思っている時点で、決まっているようなものだ。本を卓の上に置いて、グラスと酒を取り出すために立ち上がった。
自分の酒とグラス、少しだけ考えてビクトールのボトルはやめておく事にした。ビクトールの同室のここには、当然奴の私物もぽつぽつと存在している。お互いにそこまで荷物を持たないが、しばらく滞在していればそれだけ自然と増えるものもあるのだ。
1731今日はなんだか暇な日で、早々に風呂に入って夕飯も食べて部屋でぼんやりと本をめくっていた。興味を惹かれて借りてきた兵法書だが、同じ個所を何度も読んでいる事に気づいて、自嘲気味に閉じる事にした。つい先日まで異様に忙しかったから、いまいち余暇の過ごし方と言うのが思い出せない。そもそもそんなに得意ではなかったというのもあるけれど。
行儀悪く、本の隅をはじくようにめくっていく。もう寝てしまおうか、それともそろそろ返ってくるだろうビクトールのやつを待っていてやろうか。
そんなことを思っている時点で、決まっているようなものだ。本を卓の上に置いて、グラスと酒を取り出すために立ち上がった。
自分の酒とグラス、少しだけ考えてビクトールのボトルはやめておく事にした。ビクトールの同室のここには、当然奴の私物もぽつぽつと存在している。お互いにそこまで荷物を持たないが、しばらく滞在していればそれだけ自然と増えるものもあるのだ。
そのこ
QUÁ KHỨ昔書いたやつです。何だったか。フリックをかっこよく書こうと思って書いたやつ。2025-06-08
月が明るい。ほうほうと梟の声が聞こえる。奇襲に備え、陣内は引き締まった空気に満ちている。
幕舎、地図に見入っていたフリックに来客の声がかかる。軍師からの使者かと問えば、聞きなれた声の応えがあった。しばらくぶりに見たような気がする、数年来の友人の姿だった。男は勝手に机の傍にあった丸椅子に陣取り、感情の読めぬ目でフリックを見つめた。
「どうだ」
「その聞き方はないな」
にべもなく返し、フリックはまた地図を見た。圧倒的に不利な自軍を、いかに戦術的勝利に導くか。いまだ実戦指揮官の少ない新同盟軍にとって、青年の知識はある意味玉よりも貴重だった。時折、盤上の駒を動かしながら考え込む青年の顔を、ビクトールはじっと見ている。
3783月が明るい。ほうほうと梟の声が聞こえる。奇襲に備え、陣内は引き締まった空気に満ちている。
幕舎、地図に見入っていたフリックに来客の声がかかる。軍師からの使者かと問えば、聞きなれた声の応えがあった。しばらくぶりに見たような気がする、数年来の友人の姿だった。男は勝手に机の傍にあった丸椅子に陣取り、感情の読めぬ目でフリックを見つめた。
「どうだ」
「その聞き方はないな」
にべもなく返し、フリックはまた地図を見た。圧倒的に不利な自軍を、いかに戦術的勝利に導くか。いまだ実戦指揮官の少ない新同盟軍にとって、青年の知識はある意味玉よりも貴重だった。時折、盤上の駒を動かしながら考え込む青年の顔を、ビクトールはじっと見ている。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcキスをねだるビクフリ。2025-06-06
城は今だの手狭で、いまだに狭い部屋に二人で押し込められている。まあやることいったら夜に寝るのと、寝る前に寝酒をあおるぐらい。それだけだとしても、余人の入ってこない空間という奴はありがたい。大部屋でこんな会話なんて出来るはずもないからだ。
「キスしていい?」
距離は詰めない。今まで通り、卓の向こう側からお前の酒を寄越せと同じ温度でいう事にしている。フリックは毎回、思いもかけない事を望まれた、と言わんばかりに目を見開き、そらして、困ったように首をかしげる。考えこむように唇に指をあてることもある。
今日は頭をかいた。風呂に入って後は寝るだけだから、固い髪が素直に額に落ちていく。
「なんで聞くかな」
1597城は今だの手狭で、いまだに狭い部屋に二人で押し込められている。まあやることいったら夜に寝るのと、寝る前に寝酒をあおるぐらい。それだけだとしても、余人の入ってこない空間という奴はありがたい。大部屋でこんな会話なんて出来るはずもないからだ。
「キスしていい?」
距離は詰めない。今まで通り、卓の向こう側からお前の酒を寄越せと同じ温度でいう事にしている。フリックは毎回、思いもかけない事を望まれた、と言わんばかりに目を見開き、そらして、困ったように首をかしげる。考えこむように唇に指をあてることもある。
今日は頭をかいた。風呂に入って後は寝るだけだから、固い髪が素直に額に落ちていく。
「なんで聞くかな」
そのこ
vẽ nguệch ngoạc半分は真面目な話をしながらいちゃいちゃするビクフリ。2025-06-05
俺のほうが朝っぱらから用事があるということがなければ、大概フリックのほうが早くに起きている。まあ起きていると言っても目を開けて体を起こしていると言うだけでその動きは日中に比べて緩慢だ。
伸びをして目をこすって、あくびを噛み殺しながら布団から抜け出たフリックの後を追うように体を起こせば、夜のまんまの卓の上からグラスを持ち上げた格好で振り返った。
「おはよう」
「おはよ」
呑気に朝の挨拶をすると、おれももそもそとベッドから降りた。木の板に薄い敷物を敷いただけの床は布団で暖まった足には随分と冷たい。卓の上のグラスを片づけて、眠たげに前髪をかきあげたフリックに近づき、わずかに身をかがめて顔を近づける。
1225俺のほうが朝っぱらから用事があるということがなければ、大概フリックのほうが早くに起きている。まあ起きていると言っても目を開けて体を起こしていると言うだけでその動きは日中に比べて緩慢だ。
伸びをして目をこすって、あくびを噛み殺しながら布団から抜け出たフリックの後を追うように体を起こせば、夜のまんまの卓の上からグラスを持ち上げた格好で振り返った。
「おはよう」
「おはよ」
呑気に朝の挨拶をすると、おれももそもそとベッドから降りた。木の板に薄い敷物を敷いただけの床は布団で暖まった足には随分と冷たい。卓の上のグラスを片づけて、眠たげに前髪をかきあげたフリックに近づき、わずかに身をかがめて顔を近づける。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc告白した後初めてキスなどするビクフリ。2025-06-04
グラスも干したし明日も早い。向かいのビクトールのグラスはまだ半分ぐらい満たされているが、飲み干すのを待つのも面倒だ。先に寝ようかなと思ったその時だ。何かしら考え込んでいたビクトールが、意を決したように言った。
「キスしていいか」
「は?」
広くもない部屋に相応しい小さな椅子の粗末な背もたれに背中を預けるようにそっくり返った状態から勢いよく座りなおしたビクトールは、ゆっくりと頬杖をつく。
距離を詰めるでもないその仕草に、聞き間違えか何かだと思い込もうとして失敗する。ビクトールが同じ言葉を繰り返したからだ。
「だから、キスしていいかって」
思わず寄った眉間のしわを指先で伸ばす。
「なんで」
1996グラスも干したし明日も早い。向かいのビクトールのグラスはまだ半分ぐらい満たされているが、飲み干すのを待つのも面倒だ。先に寝ようかなと思ったその時だ。何かしら考え込んでいたビクトールが、意を決したように言った。
「キスしていいか」
「は?」
広くもない部屋に相応しい小さな椅子の粗末な背もたれに背中を預けるようにそっくり返った状態から勢いよく座りなおしたビクトールは、ゆっくりと頬杖をつく。
距離を詰めるでもないその仕草に、聞き間違えか何かだと思い込もうとして失敗する。ビクトールが同じ言葉を繰り返したからだ。
「だから、キスしていいかって」
思わず寄った眉間のしわを指先で伸ばす。
「なんで」
そのこ
vẽ nguệch ngoạc昨日(6/1)の続き。寝ちゃったフリックが夕方に起きた。心意気だけがビクフリです。でもこの二人多分付き合ってないと思うんですよね。2025-06-02
何の夢も見なかった。ただ意識が途絶えて、覚醒した。目の前には何にもない原っぱが広がり、空は真っ赤に染まっている。毛布が体にかけられていたから冷えてこそいないが、頬を撫でる風は昼間よりもだいぶん冷たい。
目を開けてこそいるが、その実何にも理解していない。自分がどこにいるんだったか。どうしてこんなところにいるんだったか。大きな木がざわざわと鳴った。太い幹にもたれかかってそれを聞いていれば、なんとなく不安になってくる。
そばには中身が乱雑に詰め込まれたバスケットが置いてある。ハイ・ヨーのレストランでテイクアウトを頼むと貸してもらえる奴だ。今日の朝、自分とビクトールの昼ご飯を合わせてこれに詰めた。
2395何の夢も見なかった。ただ意識が途絶えて、覚醒した。目の前には何にもない原っぱが広がり、空は真っ赤に染まっている。毛布が体にかけられていたから冷えてこそいないが、頬を撫でる風は昼間よりもだいぶん冷たい。
目を開けてこそいるが、その実何にも理解していない。自分がどこにいるんだったか。どうしてこんなところにいるんだったか。大きな木がざわざわと鳴った。太い幹にもたれかかってそれを聞いていれば、なんとなく不安になってくる。
そばには中身が乱雑に詰め込まれたバスケットが置いてある。ハイ・ヨーのレストランでテイクアウトを頼むと貸してもらえる奴だ。今日の朝、自分とビクトールの昼ご飯を合わせてこれに詰めた。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc唐突に暇な日に二人で出かけるビクフリ(未満) 03.27に書いたのの続きのイメージ。2025-06-01
明日は暇な日だ、とフリックがぽつりと言った。何度かスケジュールを確認し、軍師にお伺いまで立てて、確定した事実。
このノースウィンドウで兵をあげてからこっち、やれ訓練だ、やれ部隊の編成だ、やれ護衛だ偵察だ暗殺だ、と忙殺されていたのだが、やっと人手が増えて引継ぎまできちんと終わった結果というわけだ。
「暇な日」
「午前中にちょっと確認事項があって、昼前にはまるっと一日空く」
適当に見繕ってきた肴とそれぞれが好きな酒を間に置いた二人きりの部屋。最初からそう飲むつもりもなかったらしいフリックは、寝酒代わりの強い酒をグラスの底に滑らせる。
二杯目を注ごうとしていたビクトールは、すこし悩んでその手を止めた。
2171明日は暇な日だ、とフリックがぽつりと言った。何度かスケジュールを確認し、軍師にお伺いまで立てて、確定した事実。
このノースウィンドウで兵をあげてからこっち、やれ訓練だ、やれ部隊の編成だ、やれ護衛だ偵察だ暗殺だ、と忙殺されていたのだが、やっと人手が増えて引継ぎまできちんと終わった結果というわけだ。
「暇な日」
「午前中にちょっと確認事項があって、昼前にはまるっと一日空く」
適当に見繕ってきた肴とそれぞれが好きな酒を間に置いた二人きりの部屋。最初からそう飲むつもりもなかったらしいフリックは、寝酒代わりの強い酒をグラスの底に滑らせる。
二杯目を注ごうとしていたビクトールは、すこし悩んでその手を止めた。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc最近いっしょに酒が飲めないビクフリ? ビクフリ未満の不満の話。一緒に飲みたいなあと思っているのはお互いさま、的な。2025-05-30
軍を立ち上げてから組み上げてきたシステムがうまく回り始めたのと、マチルダが加わったことで単純な人手が増えたこと。その二つを大きな要因として、俺たちの殺人的な仕事量はなんとか手に負えるぐらいになっていた。飯はちゃんとそれっぽい時間に大概食えるし、風呂も冷める前にゆっくりとは入れる日がたまにある。
だが不満がなくなったわけではない。
たとえば、しばらくフリックと二人で酒を飲んでいないとか。
歩兵部隊の訓練を終え、飯と風呂の前に自室まで戻ろうと兵舎に足を踏み入れたところでマチルダのトップ二人と立ち話をするフリックを見かけた。二日程前から部屋に戻ってこなかったから、どうせマチルダとの本格的な合同訓練にでも出ているんだろう、と踏んでいたが、それはまさしくその通りだったようだ。
1720軍を立ち上げてから組み上げてきたシステムがうまく回り始めたのと、マチルダが加わったことで単純な人手が増えたこと。その二つを大きな要因として、俺たちの殺人的な仕事量はなんとか手に負えるぐらいになっていた。飯はちゃんとそれっぽい時間に大概食えるし、風呂も冷める前にゆっくりとは入れる日がたまにある。
だが不満がなくなったわけではない。
たとえば、しばらくフリックと二人で酒を飲んでいないとか。
歩兵部隊の訓練を終え、飯と風呂の前に自室まで戻ろうと兵舎に足を踏み入れたところでマチルダのトップ二人と立ち話をするフリックを見かけた。二日程前から部屋に戻ってこなかったから、どうせマチルダとの本格的な合同訓練にでも出ているんだろう、と踏んでいたが、それはまさしくその通りだったようだ。
そのこ
vẽ nguệch ngoạc昨日のの若干続き。ビクフリ。導入シーン。なんか、もう少し色っぽくできたな。精進します。2025-05-27
城の外に設置された兵舎で部下と話していると、ふいに皆がざわめいた。何人かが軽く手を上げ、おかえりなさいと口にする。振り返れば、一週間程いなかったフリックが兵舎に入ってくるところだった。夕日が後ろから照らして表情こそよく見えないが、旅塵にまみれていても怪我なんかはしていないようだ。
「おう、お帰り」
「ただいま」
なんの衒いもなく言って、返されれば少し面映ゆくさえ思う。
交わした言葉はそれだけで、副官連中がいなかったにどうしてもたまる仕事を抱えてやいのやいの言い始めるから一歩身を引くことにする。まだ仕事が残っているのはこっちも同じだ。
とはいえそこまで戦況が切迫していない状態ならば夕飯は普通に取れるし、風呂も冷めない内に入ることが出来るのはありがたい話だ。夕涼みをするにはちょうどいい気温で、部屋にそのまま帰るのは少し惜しい気分だ。
2857城の外に設置された兵舎で部下と話していると、ふいに皆がざわめいた。何人かが軽く手を上げ、おかえりなさいと口にする。振り返れば、一週間程いなかったフリックが兵舎に入ってくるところだった。夕日が後ろから照らして表情こそよく見えないが、旅塵にまみれていても怪我なんかはしていないようだ。
「おう、お帰り」
「ただいま」
なんの衒いもなく言って、返されれば少し面映ゆくさえ思う。
交わした言葉はそれだけで、副官連中がいなかったにどうしてもたまる仕事を抱えてやいのやいの言い始めるから一歩身を引くことにする。まだ仕事が残っているのはこっちも同じだ。
とはいえそこまで戦況が切迫していない状態ならば夕飯は普通に取れるし、風呂も冷めない内に入ることが出来るのはありがたい話だ。夕涼みをするにはちょうどいい気温で、部屋にそのまま帰るのは少し惜しい気分だ。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcビクフリ。ちょっかいかけるビクトールさんとからかわれるフリックのやつ。2025-05-26
「いつ帰ってくるんだ?」
自分はまだベッドに転がったまま、身支度をするフリックに聞いた。そこここに薄い傷跡が残る肌が、洗いざらしの服に隠されていく。何にも残ってねえなあ。ベッドを共にしたのはもう何週間も前の話で、それに普段から不満を抱えているというわけでもないのだが。
「一週間ぐらいかかるから……」
日付を聞いて、なんだか本当に、心の底から困ってしまった。
行先も教えてくれない軍師の任務だ。どうせ厄介ごとなんだろう。人が動き出すような時間にしれっといなくなって、さくっと帰ってくる。まったく良いように使ってくれるもんだ。
手際よく荷物をまとめ、昨日書いたらしき引継ぎの書類の確認をする。シャツから伸びる細い首筋とか、適当にまくった袖から見える腕とかそういうの。
1683「いつ帰ってくるんだ?」
自分はまだベッドに転がったまま、身支度をするフリックに聞いた。そこここに薄い傷跡が残る肌が、洗いざらしの服に隠されていく。何にも残ってねえなあ。ベッドを共にしたのはもう何週間も前の話で、それに普段から不満を抱えているというわけでもないのだが。
「一週間ぐらいかかるから……」
日付を聞いて、なんだか本当に、心の底から困ってしまった。
行先も教えてくれない軍師の任務だ。どうせ厄介ごとなんだろう。人が動き出すような時間にしれっといなくなって、さくっと帰ってくる。まったく良いように使ってくれるもんだ。
手際よく荷物をまとめ、昨日書いたらしき引継ぎの書類の確認をする。シャツから伸びる細い首筋とか、適当にまくった袖から見える腕とかそういうの。
そのこ
vẽ nguệch ngoạcちょっと酔ったフリックとビクトール。ビクフリというか、片思いというか。2025-05-25
疲れているからここまでにしとこう。そう言うのを見誤る時がある。良い時か、悪い時かはそれぞれだが、今日は機嫌よく飲んでて、部屋に帰りがたくて見誤ったパターンだ。
すぎたな、と思うのは見慣れた俺ぐらいで、他の奴らにしてみたらそんなに変わらなく見えていただろう。それでも、皆に向ける視線とか、そういうのがいつもよりも柔らかくてよく笑う。楽しそうだから、それは別に良いんだけども。
まだ飲むのだ、という部隊の連中を残して二人で帰路についた。常夜灯がいつもは通らない道を照らしている。まだ整わない石畳の上を、フリックと二人じゃりじゃり言わせながら歩くのはなんだか久しぶりだった。
歩く姿を後ろから眺めながらついていく。上機嫌なのは後ろ姿からでも見て取れた。あっちへ一歩踏み出し、向こうへ進み、時折立ち止まって俺が追いつくのを待っている。追いついた俺に、笑いかける顔は緩んでただ柔らかくて、いやまったくの上機嫌。あんまりふりまかねえほうが良いと思うがね、こういう顔はよ。
1768疲れているからここまでにしとこう。そう言うのを見誤る時がある。良い時か、悪い時かはそれぞれだが、今日は機嫌よく飲んでて、部屋に帰りがたくて見誤ったパターンだ。
すぎたな、と思うのは見慣れた俺ぐらいで、他の奴らにしてみたらそんなに変わらなく見えていただろう。それでも、皆に向ける視線とか、そういうのがいつもよりも柔らかくてよく笑う。楽しそうだから、それは別に良いんだけども。
まだ飲むのだ、という部隊の連中を残して二人で帰路についた。常夜灯がいつもは通らない道を照らしている。まだ整わない石畳の上を、フリックと二人じゃりじゃり言わせながら歩くのはなんだか久しぶりだった。
歩く姿を後ろから眺めながらついていく。上機嫌なのは後ろ姿からでも見て取れた。あっちへ一歩踏み出し、向こうへ進み、時折立ち止まって俺が追いつくのを待っている。追いついた俺に、笑いかける顔は緩んでただ柔らかくて、いやまったくの上機嫌。あんまりふりまかねえほうが良いと思うがね、こういう顔はよ。