机を挟んで「……と、こうなる訳だが……理解できたか?」
しまった、つい見惚れてしまっていた。
授業中に黒板へチョークを打ち付ける指先も、ノートを差す指先も眩く映るから。
「……すみません、もう一回」
「全く……もう呆けるなよ」
片手に持つ化学の教科書に向ける艶やかな眼差しが思い起こされ、放課後の教室で溜息を吐きながらも柔らかな眼差しに射抜かれてしまう。
「……先生が、悪い」
「何……?」
小さな呟きは聞こえること無く、再びノートを見つめ返す。
実を言うと幼い頃から姉代わりだった朱和の勧めで、嫌々入学した高校だった。勉強は苦手だ、体を動かすより儘なら無い。大道芸でもして、気ままに暮らしたい。姉に世話になっている以上、一応行くだけ行く場所だろうと思っていたのに。
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