自分はだいぶ疲れているのだろうか。
オフィスの部屋に入ったところで、風信の脚が止まった。気配に気づいたかのように、視線の先に立っている背中が振り返る。
「あ、やっぱり、風信機長。足音が聞こえた気がしたんです」
風信は眉を寄せた。
「南風、いったい何をふざけてる」
嬉しそうな南風の顔が、風信の厳しい表情を見て曇る。
「えっ……と、フライト用のデータを待っているんですけど」
風信は南風の頭、厳密に言えばその頭の上を凝視していた。
いつもの南風の黒髪は、少しばかり跳ねていて、そしてその上に──
立派なウサギの耳がついていた。
仮装用か何かだろうか。だが、パイロットの制服に身を包み、このオフィスに入ったら、ふざけた真似は許されない。
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