「くそッ……なんでよりによって……!」
唸るように罵る慕情を、扶揺はちらりと見た。
慕情の周りに漂う空気は、殺気などというマイルドな言葉では物足りないほどだ。玄真航空の者なら半径百メートルには近づかないだろう。
「あの、機長、よかったら使ってください」
扶揺が差し出したタオルを慕情は唸りながら受け取った。
運が悪かったとしか言いようがない。
この空港は飛行機から空港の建物まで外を歩かねばならない。それなのに、操縦を終えた二人が降機した途端に、大粒の雨が猛烈な勢いで降り出したのだ。まさに突然のゲリラ攻撃に襲われたかのようだった。傘を出す間もなく駆けぬけた二人が建物に着いた時には、二人とも見事に全身ずぶ濡れになっていた。
2335