飴玉 二人暮らしを初めて間もない時。最初に提案したのは太宰の方だった。
「これから悲しいことやつらいことがあったら、この飴玉を食べていいことにしよう」
甘いものは気分を落ち着かせるからね。そう云って玄関の靴箱の上に、籠を置いて飴玉を入れておいたのだ。
しかしなかなか減らないので、敦はあまり気にしなくなってきた。時々太宰の方が飴玉を食べたい言い訳として、「国木田君に怒られた」等と云って取っていくことがある程度だ。
ある日、敦は急遽一日だけ乱歩の付き添いで出張することになった。「今日は帰れません」と太宰に電話すると「気をつけて帰ってきてね~」と軽く返事された。
そして翌日の夜になって帰宅した敦は、籠の中の飴玉が明らかに減っているのに気づいた。最近は家を出る時にちらりと見るくらいだったが、昨日の朝はもう少し入っていたはずだ。
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