komaki_etc 波箱https://wavebox.me/wave/at23fs1i3k1q0dfa/北村Pの漣タケ狂い ☆quiet follow Yell with Emoji POIPOI 224
komaki_etcDOODLE悪阻(男性のまま) 2641 komaki_etcDOODLE鋭百ロマンチック 誰にも言えやしない、こんな醜い気持ちなんて。 涼しさの塊みたいな電車の中で、僕は端の席に座っていた。端を好むのは日本人特有らしい、海外ではどっかりと真ん中に座ることが多い……何かの番組でそんな内容のものを見たことがある。別に、窓の外なら向かい側に見える。わざわざ真ん中に座る理由はなかった。 目の前に、しゃんと背筋を伸ばした女性が立っていた。椅子の横にある壁に背をつけて、進行方向とは反対側を向いて。山吹色のワンピースが鮮やかで、凛とした表情によく似合っていると思った。 いけない、あまりじろじろ見ては失礼だ。ドアの上の表示を見たかっただけなんです、行き先を確認したかったんです、と求められてもいないのに理由をつけて、ボクはその人から視線を逸らした。 1837 komaki_etcDOODLE吐いてる漣 2864 komaki_etcDOODLEれおたい リクエストレタスチャーハン オイスターソースなんて、以前は名前すら知らなかったのに。 キッチンに備え付けられている棚には、いつのまにか調味料がびっしり揃えられている。中華スープの素、鶏がら、ブラックペッパー。冷蔵庫にも、白出汁、コチュジャン。全てをきちんと使いこなせているわけではないけれど、それでも以前よりはレシピを忠実に再現できるようになった。 「何チャーハン?」 「レタスチャーハン」 作るものだって簡単なものばかりだ。それでも先輩は喜んでくれている。誰かを喜ばせるためにする料理というものは、何たる幸福だろうか。気合だって入るというものだ。 先輩の家で料理をするようになったのは、「泊めてくれたお礼」がしたい、と考えた末のことだった。大学に入ってから一人暮らしをはじめた先輩はだいたい総菜を食べていて、たまにSNSで見つけたすぐに作れるおかずを作って、そんな生活をしていた。俺は使った食器を洗うくらいしかはじめはしていなかったのだけれど、先輩と二人で飯を食うなら、どうせなら美味しい物を食べたいと思ったのがきっかけだ。 2073 komaki_etcDOODLE舞握アスファルト まだ七月も上旬なのに、どうしてこうも暑いんだ。近頃の地球はおかしい。グラスにかいた汗の量、室内のききすぎた冷房、全て億劫になるくらいの日差し。 「ねえ、グッドアイデアなんだけどさ」 「嫌な予感がするな」 「これから、ホテル行かない?」 言うと思ったよ。自然と溜息が出る。コイツも日差しにやられたのか、呆れながら俺はグラスを手に取り熱を逃がす。 「こんな真昼間から何言ってんだ」 「ヒショしよう。避暑」 今こうして喫茶店に来ているだろ。平日の昼間なんだから九十分制でもないし、長居してもいいはずだ。俺はストローでハニーオレをかき混ぜながら、二回目の溜息を吐く。 「……汗かきたくない」 「バスも付いてるじゃない」 「そういう問題じゃない」 1002 komaki_etcDOODLE春隼愛してるゲーム 今日はハヤトの奢りだ。本人はすごく不服そうだ。 いつも行くドーナツ屋の店内は賑わっており、席も最後の一つだった。隣の席のおじさんはパソコンに向かってかなり険しい顔をしていて、かわいらしい店内には似つかわしくなかった。 「あーあ、なんで……」 赤面したハヤトはうつぶせになる。その光景があまりに愉快で、オレは大声で笑いだしたくなるのを必死に堪えていた。 「負けたハヤトが悪いんだろー」 「だって、あんなのズルいよ……」 なんてことない、きっかけは昨日の部室でのことだった。シキが突然、「愛してるゲーム」をやろうと言い出したのだ。真顔で「愛してる」と伝えられるか、照れたら負け、という簡単なルールで、負けたら奢りなと言ったのはオレだ。 1423 komaki_etcDOODLE舞田 S.E.M飲み勇者の証 ミスターやましたの家で夕飯の支度を手伝っていたら、手の甲に油が飛んだ。熱すぎて「熱いって痛覚の反応なんだな」と感じるほどに痛かった。 冷やしな、と慌てるミスターやましたに従って、流水に手を浸す。今度は冷たくて痛い。だけど水から手を離すと、やっぱり火傷した部分が痛い。 「あとになっちゃうかもねえ」 「やだなあ」 アイドルにしては呑気な会話をしながら、野菜の揚げびたしを食べる。こんなに目立つところに跡ができてしまうのは結構ショックだけれど、やっちゃったものは仕方ない。軟膏を塗って、痛くなったら流水に浸すことしか出来ない。 「ゲームのブレイブになった気分」 「勇者? どうして?」 「激しいアドベンチャーの証。勇敢なバトルを物語ってるケガ」 1837 komaki_etcDOODLE鋭百乾杯 ぱき、と音がした。指先、腰、首。集中してたから、大きく伸びをすると、身体中が忘れていた呼吸を再開させる。 「百々人」 「なあに」 「関節を鳴らすんじゃない」 実は負荷がかかっているから、とかなんとか、ああ鬱陶しい。真っ白なキャンバスにぶちまけた黄色が目にうるさい。 その唇を塞いでしまえ、と彼に近付いたところで目が覚めた。 「……なんだ、夢か」 絵が描けない夢をよく見る。大抵、真っ白なキャンバスに、何色かを無理やり乗せているのだけど、それは意味をなしていない。びっしょりとかいた汗が気持ち悪くて、ベッドから起き上がる。 頭痛が酷い。薬、あったっけ。コップに水を注ぎながら、マユミくんのことを考えていた。規則正しい彼は、きっと今頃熟睡しているはずだ。 1669 komaki_etcDOODLE雨想レモン 八百屋なんてめったに寄らない。スーパーですべて事足りてしまうから。 でもその日はとても暑くて、目の前に陽炎が現れて、つい目を逸らしてしまったのだ。道の左側にある、昔ながらの八百屋。店先にその日の目玉商品と、季節の果物が並んでいる。そうか、もうスイカの季節か。丸のままと半分に切ってあるのと、それらはつやつやと涼やかで、ふと目が惹かれてしまったその先。 レモンが、無造作に籠の中に並べられていた。 はじめてのキスの味なんて、もう覚えていない。何度も塗り重ねるうち、彼の味はすっかり僕に馴染んでいった。自分の唇をなぞる。鮮やかなあの果物の、酸味がなんだか恋しくなった。 レモンをひとつだけ買うなんて、珍妙な客だと思われただろう。梶井基次郎しかやらないんじゃないか。それならばこのまま丸善に寄って、本棚に寄らないと。「檸檬」を思い出しながら、指は勝手にスマホを操作する。彼は四コールで電話に出た。 1298 komaki_etcDOODLEれおたい やってるだけ 1740 komaki_etcDOODLE漣タケ10年後ドライブ 街中で、自転車に二人乗りする高校生を見かけた。 交通ルール違反だとか、危ないとか、それらを思う前に、眩しいと感じた。 自分達にも、あんな時代があった。自転車なんて乗らなかったけど。 夜道を歩きながら、気配を消すのにも慣れたものだ。デビューして十年も経てば、人は成長する。変装用のマスクと帽子は肌身離さないし、面倒な週刊誌の盗撮の気配を察することも出来るようになった。じめじめと暑い夜風の中で、俺のことを気にする人なんていないだろうけど。みんな、日々を生きるのに一生懸命すぎて、周りなんて見ていないから。 たまに、全てを置き去りにして走り抜けたい、と思うことがある。朝のロードワークとは違う、本当に、ただがむしゃらに走り抜けていきたい欲望。通り過ぎていく夜景を見るのが好きだ、電車でも、タクシーでも。人々の営みが垣間見れて、だけどひとりぼっちの感覚がする。助けを求めたくなるようなさみしさと、放っておいてほしい焦燥感。これだけは、いくつになっても変わらない。 1768 komaki_etcDOODLE雨想逢瀬の時間 もうこんな時間なのか、とスマホから顔をあげれば、まだ空は夜の準備をはじめていない淡い色で。夕方とも呼べない色なのに、時刻は夜をさしていた。 夏は時計を外す様にしている。日焼け跡が怖いからだ。長袖を着ている時は付ける時もあるけれど、時計と肌の間にかいた汗は気持ちが悪い。だから、時刻を確認するのが遅くなった。十八時にしては外が明るすぎる。夏至を過ぎてからというもの、めっきり日が伸びた。 「もしもしー、雨彦さん?」 手の中にスマホがあったから。理由はそれだけに過ぎない。慣れた手つきですいすいと指を滑らせ、四回コール音を聞けば、聞きたかった声の主の笑いが耳元に零れてきた。 「大方、時計を見るついでだろう?」 1606 komaki_etcDOODLE鋭百当たり前の国 ごくたまに、当たり前のことがとても怖くなる。どくどくと流れる心臓の音や、眠れば明日が来るということ、人々がそれが当然だという顔をして生きていること。 「マユミくん……おーい」 「……ああ、すまない」 意識を目の前の百々人に戻し、何事もなかったかのように微笑んだ。手元のコーヒーはすっかりぬるくなり、苦みが増していく。 「ね、ボクといる時、何考えてるの」 「何って……お前のことだ」 「うそつき。マユミくん、嘘つくとき、眉がぴくってなるんだよ」 知ってた? と笑いながら自身の眉を押さえる百々人は、俺のことなんかお見通しなのだろう。百々人の頼んだパフェに乗っている白桃がつやつやと光って、百々人の指先がいっそうやわらかに見えた。 1747 komaki_etcDOODLE天使の漣天使 平日の十四時のカフェなんて、人気のないものだ。タケルとの待ち合わせまで、時間つぶしに入っただけの漣にとって、それは都合のいいことだった。どこかの日陰でやり過ごすには暑すぎる日だった。 心地いい雑音と、ゆったり氷の融けていくアイスティー。机の上に溜まっていく水滴を尻目に、背中の違和感が増す。漣は何度も姿勢を変えながら、じんわりと広がる痛みに眉根を顰めた。普段ならしまっているはずの羽が、窮屈そうに頭を出す。 自身が天使であることは、タケルには隠していなかった。満月の夜にしか姿は変わらないし、日常生活に支障はない。ただ、こうして時々、背中が痛むのだ。早く人間の殻から解放されたいというように。 人間でありつづけることを選んだのは漣自身だった。天使の母親と人間の父親の間に生まれ、父と共に暮らすことになったその時に、その運命は決められた。強い存在であることを望まれながら、人知の及ばない力が身体を襲う時、自分の存在意義がわからなくなる。漣にとって、満月とは煩わしいものだった。一種の呪いに、血を恨む。顔も知らない母親は、どうして父となど交わったのだろう。堕天する気もなかったくせに。 1437 komaki_etcDOODLEヤッてる漣タケ 1413 komaki_etcDOODLE雨の日の漣タケドラマチック 六月は身体が重い。全身を湿気が包み込み、マスクの中が息苦しい。酸素が雨粒に溶け出してるんじゃないかと錯覚するほど雨粒は大きく、靴が弾ききれずに濡れていく。 駅のホームが、景色を反射するほど濡れていた。屋根のあるところに避難している人々はみんな気怠そうで、この梅雨の空気にやられているのだろうと推察する。肩を丸めて手の中の小さな四角の中を覗いていて、今生きているこの場所をないがしろにして、ネットの中を泳いでいるあの人たちも、みんな電車が来たら吸い込まれていく。電車は無機質に俺たちを運ぶ。雨でレールが濡れていてもお構いなしだ。俺たちは気持ち悪くなったぐしょぐしょの靴じゃ歩幅も変わるのに。 電車にわざわざ乗ってるのは、アイツに会いに行くためだった。久しぶりに外で飯でも食おうというあいまいな約束をしたまま、アイツは仕事に向かってしまった。俺は仕方なく傘を二本持って電車に乗る。どうせコンビニで買ったりしていない。俺が持っていかないと、雨なんか屁でもないと言わんばかりにこの空の下を走らせることになる。 1295 komaki_etcDOODLEモブと援交してた春名が別れを切り出すネバーランド「もしもし、オッサン? 仕事だった? だよな、お疲れ様。オレも今バイト終わったとこ。はは、流石に疲れてるだろ。そうじゃなくて。飯? 飯は正直行きたいけど……いや、違う。ちゃんと言いたいことあるんだ。このまま電話してていい? サンキュ。 あのさ。……もう、こういうの、やめにしないか、って。……こういうの。……そう。会って、セックスして、金もらって。オッサンだってそんな高級とりじゃないだろ? はは、ごめんごめん。いや、今までたくさん助けてもらってたよ、そりゃ。だけどオレ、あの金つかってねーんだ。そ。母ちゃんに渡してたんだけどさ。1円も使われてなかった。封筒が引き出しの中に詰まってたの、見ちゃったんだよな。マジで手つけてねえの。それ見てオレ、なんか泣きそうになっちゃってさ。 2119 komaki_etcDOODLEファンクロ/漣タケサクラ「見てくれ、ファング、アーモンドの花だ!」 こんなにたくさん、と木の下でくるくる回ると、ファングが溜息がちに肩を落とす。 「サクラだ。ちょっと違う」 「ふうん、違うんだ?」 ほんのり薄ピンク色の、優し気な花びらが舞う。おいしそうな匂いがする。花びらはきっと食べられないけれど。 「オレだって詳しいわけじゃねーよ」 「まあ、そりゃそうだよね」 ファングが花に詳しいだなんて、そんなハズがない。仕事で庭園に寄ったって、見向きもしないんだから。セブンだって笑うはずだ。 「……あ」 「どうしたの?」 「バラ科だな、アーモンドもサクラ」 「へえ」 胸の紋章が躍る。僕らは薔薇に囲まれて生きている。血を吸って真っ赤な、絢爛な花。 835 komaki_etcDOODLE漣タケ 月から新しい身体がくるから殺してくれと言う漣殺してくれ 彼が言うには、明日、月から新しい「彼」が来るらしい。 ワンルームの小さなアパート。小さな冷蔵庫と机、水色のカーテンのほか、目立つものはない。規則正しい四角の中で生きている俺に、突拍子もないことを言ってのけるアイツは、腹が減ったから飯を寄越せと言ったかのような、当たり前の顔をしてそこに立っていた。 「え……?」 「だから、それまでに死ななきゃなんねえ」 死ぬ、という言葉は、音に出してしまえばなんて軽い響きなのだろう。ずしりと心臓が重くなり、首の後ろがひんやりとする。鉛を飲み込むような喉の気持ち悪さにも、アイツは微動だにしなかった。 「死ぬ、って」 「だから、身体の交代なんだよ。魂は同じだから気にすんな」 1710 komaki_etcDOODLE鋭百シーツ ベッドのシーツに足を絡ませる。すべすべしてて気持ちよい。布団ってすごいな。どこで潜っても、平等に受け入れてくれるんだから。 「平気か」 「うん」 マユミくんは水の入ったペットボトルの蓋をわざわざ開けて渡してくれた。そういうところだよ、って言っても、伝わらないんだろうなあ。ペットボトルに口を付けて、数度のどを鳴らした。疲れた身体に染み渡る。 僕たちは運動をしたあと、しばらくシャワーを浴びない。そのままの体温でいる方が安心するということを、マユミくんは知っているからだ。終わった途端すぐさまシャワーを浴びるのって、なんだか「なかったこと」にしたいみたいだよね、と以前零したせい。そういった些細なことを、マユミくんは酷く気にかけてくれる。 1001 komaki_etcDOODLE漣タケ水流 アイツが合い鍵というものを使いこなせるようになって数週間、ドアをガンガン叩くことはなくなった。勝手に来て、勝手に帰る。つかずはなれずの距離がちょうどいい。家の中でも言い争いは絶えないけれど、諫める人がいないから、穏やかに終息するようになったのは成長だと思う。 今日も勝手に来た音がする。ガチャ、バタン、という乱暴な音。いつもはそのまま部屋の中に入ってくるのに、洗面所から水を流す音がする。めずらしい、普段は手なんか洗わないのに。俺から注意してやっと、しぶしぶ、といった様子が通常だ。気に入らない汚れでもあったんだろうか。何にせよ、洗ってくれるのはありがたい。そのまま身体を触られる時も気になってしまうからだ。 1275 komaki_etcDOODLEキバダンガーベラ 人類にあまねく降りかかる、幸運も不幸も。 「この花は知ってるぜ。ガーベラ」 「正解」 一本だけラッピングしてもらうのは、花束を作るよりもなんだか気恥ずかしかった。 「キミは花言葉なんて気にするタチだったか?」 「あんまり。でもピッタリだ」 ダンデが花言葉を知ってるのも意外だったが、まあ花束くらいいくつも貰ってるんだろうと察した。コイツを慕っている奴が、わざわざ花言葉とセットでプレゼントしたこともあるだろう。 「神秘・崇高美」 「似合ってる」 「……あんまり、嬉しくない」 「言うと思った」 ははは、と軽快に笑ったつもりだったが、思ったより声は乾いていた。 「本心?」 「本心」 まあ、ひまわりのほうが似合うんだろうけど、花屋に並ぶにはまだ早かった。ダンデの横から手を伸ばし、ラッピングのリボンを解く。 1190 komaki_etcDOODLEキバダンレモンティー 久しぶりにレモンティーを淹れた。 普段はストレート。寝る前ならミルク。一人ならコーヒー。朝飯にジュースを飲むのも好きだ。 「どうして、急に?」 「なんとなく? スッキリしたくて」 ほのかにすっぱくて、喉の奥に爽やかな刺激が通る。鼻に抜ける香りは華やかだ。カップをくるくるとまわし、琥珀色の液体を遊ぶ。 「なにか悩み事か」 「……オマエのことって言ったら?」 ん、とダンデは軽く咳き込んだ。思ってもみなかったオレさまの言葉は、流し込むには大きすぎたようだ。 「……オレはまたキミに何か迷惑をかけたのか」 「いいや、そうでなく」 カップを置いて、ゆっくり脚を組みなおす。特注のソファはしっとりと身体を包み込んで気持ちいい。 1253 komaki_etcDOODLE梅雨の漣タケ永遠 低気圧が都心を覆う。紫陽花すらどこか憂鬱そうだ。 家の中から、窓の奥の曇天を見上げる。分厚そうで重苦しい。カーテンを開けても閉めても部屋の暗さは変わらない。仕方なく電気を付けるけれど、煌々とした人工的な明かりは、余計気分を落ち込ませた。息がしづらい季節だ。 アイツも大人しい。散歩も、外で昼寝も出来ないから、鬱々としているのだろう。雨宿りと言わんばかりに俺の部屋に来たはいいものの、ずっと窓の外を見るばかりで、会話もなかった。雨粒はガラス窓を伝い、氷砂糖のようなすじを残していく。そこだけ視界が歪んで、外の明かりがぼやけて広がっている。内側からそれをなぞっても何も変わらないのに、辿らずにはいられない。傘を内側から覗いている時も似たような感覚になる。ビニール越しの雨粒は、指で叩くと落ちていくから。 1188 komaki_etcDOODLEれおたい komaki_etcDOODLEご都合オメガバ 1727 komaki_etcDOODLEファンクロシャワー 土砂降りが、浴室から聞こえてくる。 ファングは、僕を抱いた後、僕が寝てからシャワーを浴びる。気を遣ってるのか、一人になりたいのか、ナニカを洗い流したいのかは分からない。聞く気もない。僕は、寝たふりをしてそれを待つ。 「起きてたのか」 「んーん。寝てたよ」 「嘘つけ」 彼には何でもお見通し。それでも僕は嘘をつく。枕の下に忍び込ませていたチョコレートを食べながら、ファングに腕を伸ばした。 「一人で寂しかった」 「嘘つけ」 ビターなキスをひとつ。せっかく綺麗になったファングの唇をぺろりと舐めて汚す。 「ファングは? 寂しくなかった?」 「バカ言え、たかがシャワーくらいで」 「だって、シャワーの音って、なんだか物悲しいじゃない」 899 komaki_etcDOODLE漣タケ風味六月「もう今年も半分過ぎたんですね」 「早いッスねえ」 うららかな晴れの日、プロデューサーと円城寺さんが、緑茶を啜りながら窓の外を見上げた。緑茶はいつのまにか温かいものから冷たいものに変わっている。暑かったり寒かったりと忙しい気温の日々だが、着実に時間は前に進んでいるようだ。 「店のカレンダー、捲らないとな」 円城寺さんが思い出したように呟き、俺はその言葉にはっと気づく。貰い物の卓上カレンダーを捲らないと。俺の家だけ季節が止まったままになってしまう気がして、帰ったら一番にやろうと思った。たかだか紙一枚なのに。普段は見もしていないのに。 「師匠、日数が少ない月、どうやって覚えてました?」 「えー、西向く士、かなあ」 1838 komaki_etcDOODLE漣タケ komaki_etcDOODLEキスの日漣タケキスの日 手を繋ぐのすら、いっぱいいっぱいなのに。 目の前の相手は真剣だ。 俺はこれ以上後ずされないと観念し、壁に体重を預けながら、おそるおそる顔を上げる。 顔を真っ赤にしたアイツは、俺の頬に手を添えると、ゆっくりと顔を近付けてきた。 「キスの日?」 「ああ。キスシーンのある映画を日本で最初に上映した日らしい」 円城寺さんは、ぜったい面白がっている。 俺と、俺の隣に座るアイツがわたわたするのをカウンター越しに見るのが、近頃のこの人の趣味なのだ。 「なっ、……そーかよ」 わかりやすく動揺するアイツの横で、俺はなんとか態度に出さないよう、ラーメンを啜る。 キスなんて。 手を繋ぐのすら、いっぱいいっぱいなのに。 「オイ。……腕、当たってる」 1588 komaki_etcDOODLE漣タケ暗証番号「オマエ、スマホ鳴ってるぞ」 控室で汗を拭いながら、机の振動がどこから来るものかあたりを見回した。答えはアイツの鏡台の前。 「プロデューサーから仕事の話かもしれないだろ。きちんと確認しとけ」 「るせーな。オレ様はねみーんだよ」 椅子を三つ繋げて寝転がるアイツは、こちらを一瞥もせずに机の上を指差した。俺の椅子も取られたままだ。 「チビが返信しとけ」 「な……」 いくらなんでも怠惰すぎるだろう。しかし、俺や円城寺さんのLINKに「ついで」で自分の要件を書くこともままあるコイツにとって、自分のスマホというものはやはり煩わしいものなのかもしれない。 「……触るからな」 「いいっつってんだろ」 急ぎの連絡なら早くコイツに知らせないといけない。俺は仕方なくコイツのスマホを手に取った。 767 komaki_etcDOODLE漣タケ 眼鏡眼鏡 変装用の眼鏡も、きちんとしたものを使いなさい。顔の一部になるのだから。 現場の大先輩にそう言われては、三百円ショップで購入したフレームも恥ずかしくなるというものだ。安くてもいいから眼鏡屋で買え、ダミーレンズもあるから、と教えてもらい、仕事前に足を運ぶ。最近のダミーレンズは最初からUVカットが付いている。 眼鏡屋は、当たり前だが眼鏡がたくさん置かれている。これが全て顔のパーツなのか、と思うと、どこか不思議な気分になる。俺はどんな顔のパーツを買おうか。予算内のフレームをとりあえず手にとってみた。 「ウェリントンだとかっこいい印象に、ボストンだとやわらかい印象になりますよ」 今どきの丸眼鏡をかけた店員が鏡を運びながら言った。かけ比べてみても正直違いはわからないが、どうせならかっこいい方を選ぼうか。 1194 komaki_etcDOODLE漣タケ。カーセックスフェラごっくん。 1709 komaki_etcDOODLEハマルくんとモブ彼氏ハマルくんとモブ彼氏 大きな音を浴び続けること――それは洗脳と同じ。 知っている、そんなこと。知っているけどやめられないから、こうして椅子に座ってるんじゃないか。こうして台に向かってるんじゃないか。こうしてハンドルに手を添えてるんじゃないか。 今日、何杯目のカフェインかもわからない。後ろを通り過ぎる店員が早番のオバサンから夜番のオバサンへと変わった。俺はどうして、ただただ降り注ぐ銀の玉を見続けてるんだろう。眩暈がしてきた。そっと目頭を摘むけれど、目を閉じるわけにはいかなかった。 こんなところに一日中いるべきじゃない、というのも、充分わかりきっている。不健康でしかない、目も耳もとっくに疲労が溜まっていて、身体中バキバキで、ろくに食べてもいないから気持ち悪い。それでもこうして何とか喰らい付いてるのには、理由があった。 1490 komaki_etcDOODLE漣タケ、デレ期のタケル。二人とも成人してお酒飲んでます晩酌 酒が飲めるようになったからと言って、家で大量に飲むということはお互いしなかった。 それでもやはり、晩酌というものは、とっておきのひとときという心地がして楽しく酔えた。事務所の誰かが出演しているバラエティーを流し見しながら、更けていく夜に身を委ねる。 ソファにどっかりと座ってハイボールを煽っていると、チビが梅酒の缶をそっと机に置く音がした。いつもソファの下に小さく座るチビは熱心にテレビを見ていることが多いので、時たま足で蹴ってやると迷惑そうにそれを振り払うので愉快だ。しかし今夜は、テレビに自分達が映っている。振る舞いには自信しかないが、どのように編集されているかは見ておきたい。オレ様の出番だけ著しくカットしているようなことがあれば、下僕に文句を垂れなければならない。 1095 komaki_etcDOODLE雨想ブラックホール 僕が思う「僕」ってなんだろう、と、たまにゾッとすることがある。 今生きている「今」というこの瞬間も、次の瞬間には消えて無くなっている。 僕という存在を存在たらしめるものは、記憶しかない、それは過去でしかない。 「雨彦さんって、宇宙とか深海とか、怖いって思うー?」 彼がソファの下に座っていて、僕がソファに座っている時だけ、彼のつむじをみることができる。僕の視線に気づいたように頭を手で覆いながら、雨彦さんは振り返った。 「北村は怖いかい?」 「うーん……クリスさんの話に出てくる海は、全く怖くないけどー」 「はは、俺もだ」 僕の手を取り、戯れに爪の形をなぞり出す。綺麗に整えている方だと思うのだけれど、しげしげと見られるのはなんだかこそばゆい。 997 komaki_etcDOODLE漣タケ 事後楽園 背中を見つめてると、置いていかれるような気がする。 ふと目が覚めて、ああ今自分は寝ていたのだと自覚するまでの数秒間、夢の余韻が過ぎ去っていく。温もりに満ちた夢だった気がする。なぜそんな夢を見たのか、理由はわかっていた。寝るまでの間、包まれていたからだ。 事を終えて、後始末をしているうちに眠ってしまったらしい。シャワーは朝起きたらでいいだろう。隣に枕を並べる彼の、剥き出しのままの背中を見ていた。俺もコイツも、全裸のままだった。 いつか、俺を置いて行ってしまうのではないか。抱きしめられた時の、繋がっている時の体温があたたかければあたたかいほど、夜中の寂しさは倍増する。かつて、ここは楽園だったはずだ。世界に二人っきり。愛している、この言葉だけが俺たちを繋いでいる。 1442 komaki_etcDOODLEらいありキス屋上で溢れる 二人きりになれる時間というものは、ほぼ無いに等しい。 けれど、雷斗が一人でいる時間というのはめずらしくない。要は、そこを狙っていけばいいのだ。 雷斗は特別扱いされている。一人でいたい時は一人でいさせてやろう、という優しさをかけてもらっている。もっとも、それは授業中だからお目付け役の二人も側にいられない、とか、そういう理由だからだけど。 俺は授業を抜け出して、屋上に行く。こんなに天気がいいんだから、彼はきっとそこにいる。確信めいたものがあり、果たして彼はそこにいた。そよそよと風にあたりながら瞳を閉じている。これは彼にとっての呼吸だ。日々、放課後から調査ははじまる。彼に課せられている荷は重い。こんな瞬間でしか、肩の力が抜けないのだろう。 1082 komaki_etcDOODLE写真でお題 漣タケ捻挫の帰り 気付かないふりをするのも限界かもしれない。 やってしまったかな、と嫌な予感に冷や汗をかく。右足がじんじんと熱を持つ。びっこを引くまではいかないけれど、でも、体重をかけるのは怖い。 ダンス稽古の際、どうしてもターンに失敗してしまう個所があり、残って個人練習をしていたら、大きく転んでしまった。アイドルを始めたての頃を思い出し、あの頃もこんなことがあったな、俺もまだまだだなと苦笑し立ち上がろうとしたその時、右足に痛みが走る。この程度大丈夫だろうと思ったけれど、無理をして悪化させるのはよくないと判断できたのも、いろんな経験を積んできたからだろう。治せるものはすぐ治すに限る。少し前の俺だったら、がむしゃらに自分を痛めつけていたはずだ。でも今は、俺を応援してくれる人のために自分を大切にしようと考えることができる。成長した、と思う。それこそダンスはまだまだだけど。 1239 komaki_etcDOODLE「メスイキした後の数時間後に甘イキが止まらなくなる」という情報を得ての漣タケ 1604 komaki_etcDOODLE漣タケキス 頬の熱が伝わってきそうだ。 はじめの一回は、いつも緊張する。そろそろと顔を近付けていって、そのまま一瞬、時が止まって。このまま唇を重ねて本当にいいのだろうか、という動揺とか、これから触れ合う個所のあたたかさが予想出来て鼓動で耳が爆発しそうになったりとか、息の湿り気にぴくりと反応してしまう自分の表情を念入りに観察されているんじゃないかという羞恥心とか、そういった葛藤がぐわっと押し寄せて。でも、そんなことでこの衝動を止められるわけがなくて。 意を決して目を瞑って、僅かに身体を傾ける。ほんの少し、唇が触れる。その瞬間全身が粟立ち、硬直する。もう、何度もやっているのに。無意識に呼吸を止めていたことに気付き、アイツに気付かれないように細く息を吐いた。何となく、呼吸を聞かれるのが恥ずかしかった。そんなことはお構いなしで、アイツは俺の後頭部に手を回す。 1291 komaki_etcDOODLE雷斗と作真拳「……もうオレに興味なんかないだろ」 かつて、目の色を変えてオレに勝負を挑んできたアイツがそこにいる。振り返らなくてもわかる。 授業をやってる真っ最中の屋上は、誰もいなくて快適だ。当たり前だ、授業中なんだから。みんな教室にいる。雲の流れが速い。 「……勝負しねーぞ。もうする理由がねえ」 寝転がったまま、背後の影に言う。今更オレに構う理由がわからない。速汰にでも何か言われたか。 「……俺は。強いヤツと戦いたい」 「だから」 「オマエは何かと理由をつけて、戦ってくれなかった。ずっと」 「テメーなんかに力を使うのが勿体なかっただけだ」 同情ならまっぴらごめんだ。能力が無くなったからといって、オレがオレであることに変わりはない。 1621 komaki_etcDOODLE漣タケで目を開けたままキス目を開けたままキス 二人きり、の時にしか、見せない表情がある。 頬が赤らんで、睨むように視線を交わして。 部屋には二人分の呼吸音だけが響いて。 ゆっくり、ゆっくり近づいて。肩に手を置き、後頭部に手を支え。溶けてしまうほど見つめ合い、そのまま顔を傾けて、ゆっくり、ゆっくり近づいて。 息と息が交ざる。呼吸が一つになる。湿った唇は思っていたよりも柔らかく、そこから身体が繋がっていく感覚。情熱に浮かされている時の強引なキスもあるけれど、こんな風に大切に、宝物をおそるおそる扱うかのような静かな夜だってある。 頬に触れ、指先でなぞると、低い声が漏れる。ああ、今どんな顔をしてキスに及んでいるのか。ちらりと覗いてみると――彼は、目を大きく開き貫くような視線で俺を見ていた。 752 komaki_etcDOODLE鍋の具材を喧嘩する漣タケお鍋 今夜は鍋にするから買い出しに付き合え、と無理やりコイツを連れてきたのが間違いだった。 鮭が安かったから、石狩鍋にするのもいいな、と思ってカゴに入れようとした。味噌仕立ての、タンパク質たっぷりの鍋だ。ボクサー時代に先輩から教えてもらった。ここのところ、鍋と言えば水炊きかキムチばかりだったから、趣向を変えるのもいいと思った。のに。 「オイ! 何サカナなんか買おうとしてんだ! 肉買え肉!」 それを目ざとく見つけたアイツが耳元で吠える。タイムセールの時間を避けてきたから人は多くないけれど、それでもスーパーで大きな声を出して注目を浴びるのは勘弁だ。アイドルが鮮魚コーナーで喧嘩、だなんて見出しで週刊誌に載りたくない。 882 komaki_etcDOODLEリクエスト 酒を飲んだフリをしたれおたい酒のせい B級映画はアクションに限る。退屈さがいくばくか紛れるからだ。 スタッフロールの細々した文字の並びに、大きく伸びをした。休日前夜はこうして映画を見るのがオレと虎斗の習慣になっていた。部屋を暗くして、酒とツマミを広げて、二人で一つの毛布をかぶって。オレの部屋のソファベッドは寄り添うのにちょうどいい。 「眠いか?」 「いえ」 オレが大きなあくびをしている間に、虎斗も小さなあくびを噛み殺しているのが見えた。隠さなくてもいいのに、何を遠慮してるんだか。 「先輩は」 「いーや別に。でももう寝るか」 「え、あ」 「疲れたろ」 オレにもたれかかる体温が随分とあたたかいように感じた。やっぱり眠いんじゃないのか。テレビを消して、机の上を簡単に片づける。 1036 komaki_etcDOODLEリクエストでいただいた、夕日に染まる海辺で「優しくしないでくれ」と言う漣タケ夕日 船はどうして海に浮かんでいるのか、と父親に問う歌があった。父親の回答はなんだったか。歌の細部まで思い出せない。 広大な海の前ではどんな悩み事も消えてしまうかと思って、わざわざやってきてみたはいいものの。家族連れとカップルと学生の集団、それぞれが小さな円をつくって点々と存在しているその様子に、所詮は日常の延長だな、と思ってしまった。 「海にでも行って来たらどうだ」 と提案してくれたのは、円城寺さんだ。仕事の時は隣で力強く、昼飯時にはカウンター越しに朗らかに笑ってくれる。 「……まだ泳げないだろ」 「泳がなくても、海には行っていいんだぞ」 そんなに顔に出てただろうか。ラーメンを啜った後の頬をさする。いつもと変わらない感触だが、きっと疲労の蓄積が現れている。 3892 komaki_etcDOODLE漣タケうららか 街はすっかり春を気取りだし、独特の匂いを帯びている。桜もまだ咲いていないのに、桜色と表現したくなるような匂い。 「あったかいな」 誰に聞かせるでもなく独り言ちた。否、隣にいる男にわざと聞かせるくらいの音量は出した。夜は冷えるからと着てきたジャンパーがやっぱり暑くて、街中で脱ぐのになんだか言い訳をしたかったのだ。 「そりゃサンガツだから、春なんだろ」 こちらを見ずにアイツが返す。月日の概念があることを意外に思ったが、まあ夏は暑がり冬は寒がっているのだからそのくらい当然か、と納得する。 うららか、と言えばいいのだろうか。耳元をくすぐる風がやわらかい。手元に畳まれたコートが恨めし気に重さを増すが、そんなことは気にならないくらい、陽気な気候だった。小さな女の子が走りながら、後ろを追う母親に手を振っている。はやく、おいてっちゃうよ。そういえば昨日はひな祭りだった。施設にいた頃は女の子たちみんなを祝う日だった。妹も例にもれず、その日はどこかずっと嬉しそうにしていたっけ。あの女の子も、昨日はきっと家族で祝ったのだろう。ひな人形とか、久しく見ていない。 1068 komaki_etcDOODLE魔法学校パロのタケル魔法学校パロ 羊皮紙三枚分のレポートを何とか書き終えて、大きく背中を伸ばす。ほのかに香るインクの匂いは、自分の手元以外からも漂ってきているのだろう。談話室はいつもより人が多く、あくびの音も大げさなほど聞こえてくる。この時期は仕方ない。レポートにテストに、毎日やることはみっちり詰まっているのだ。 「オイチビ! 何でこんなとこにいやがる!」 「今日はレポートやるって言ってただろ……」 談話室全体がピリつくのが分かる。羽ペンを片付けながら見上げると、箒を掲げながら仁王立ちするアイツがいた。 「勝負するっつったろ」 「言ってないし、そんな暇ない」 オマエだってレポートまだだろ、ただでさえやるのが遅いんだから何とかしろ……そう言ったところで、コイツがやらないのは目に見えている。 871 12345