newredwine
MAIKING魏無羨の記憶が退行する話。(忘羨・曦澄前提)魏無羨の記憶が退行する話。魏無羨がおかしくなった。江澄のもとにそんな一報が入ったのは、一週間近く掛かりきりだった領内の揉め事を収め、残務処理を終えたばかりの夜のことだった。
火急の件以外は取り次ぐなと命じた筈の家人が慌てふためいて寝入り端の江澄の私室を叩いたので、まさか金凌に何かあったのかと顔色を変えたところへ聞かされたその言葉に、江澄は無言で紫電を構えた。
「火急の件以外は取り次ぐなと言っただろうが貴様は馬鹿か!」
「しかし宗主、大師兄が」
「あいつがおかしいのは今に始まった事ではないだろう!」
「宗主!」
「あれはもう雲夢の人間では無い!」
怒鳴り声に首を竦めて平伏する家人に紫電をしならせたまま奥歯をぎりぎりと言わせていると、不意に戸外から声が掛かった。
4901火急の件以外は取り次ぐなと命じた筈の家人が慌てふためいて寝入り端の江澄の私室を叩いたので、まさか金凌に何かあったのかと顔色を変えたところへ聞かされたその言葉に、江澄は無言で紫電を構えた。
「火急の件以外は取り次ぐなと言っただろうが貴様は馬鹿か!」
「しかし宗主、大師兄が」
「あいつがおかしいのは今に始まった事ではないだろう!」
「宗主!」
「あれはもう雲夢の人間では無い!」
怒鳴り声に首を竦めて平伏する家人に紫電をしならせたまま奥歯をぎりぎりと言わせていると、不意に戸外から声が掛かった。
mahoy_asa
PROGRESS16年かけてくっつく曦澄2話ここまでで過去編終わり。素直になれない江澄とすれ違い😊
曦澄② ぽっかり空いた心の隙間を、藍曦臣が埋めていくのに時間はかからなかった。
二、三日に一度、藍曦臣は夜になるたびに江晩吟の部屋に訪ねてくるようになった。二人で温かい茶を一杯飲む間だけ他愛もない話をして、静心音を聴かせてもらう。藍曦臣が来てくれた日は、嫌な夢を見なくなった。
「昨日の稽古、あなたは少々手を抜いた気がする」
「江宗主相手にそんなことしません」
昨日の稽古、初めて江晩吟が二勝したのだ。怪我も完全に癒え、衰えていた体力もすっかり回復したらしい。藍曦臣に勝てて嬉しいはずが、素直に喜べなかったのは目の前の男がちっとも悔しそうでないからだろう。
「なら今度は、あなたは朔月と裂氷を両方使ってくれ。俺も紫電と三毒を使う」
7239二、三日に一度、藍曦臣は夜になるたびに江晩吟の部屋に訪ねてくるようになった。二人で温かい茶を一杯飲む間だけ他愛もない話をして、静心音を聴かせてもらう。藍曦臣が来てくれた日は、嫌な夢を見なくなった。
「昨日の稽古、あなたは少々手を抜いた気がする」
「江宗主相手にそんなことしません」
昨日の稽古、初めて江晩吟が二勝したのだ。怪我も完全に癒え、衰えていた体力もすっかり回復したらしい。藍曦臣に勝てて嬉しいはずが、素直に喜べなかったのは目の前の男がちっとも悔しそうでないからだろう。
「なら今度は、あなたは朔月と裂氷を両方使ってくれ。俺も紫電と三毒を使う」
mahoy_asa
PROGRESS16年かけてくっつく曦澄。アニメベースで江澄が金丹を取り戻した後、傷が癒えるまで曦臣に匿われていた設定です。
ここまでだと幸せじゃないので、16年後も書いて支部に載せたい。
曦澄① 雲夢江氏が温氏に襲われて、町中に江晩吟の手配書が配られていた時、手負の江晩吟を匿ってくれたのは藍曦臣だった。温氏討伐を願う手負いの者たちを集め、山奥の隠れ家に匿う彼もまた雲深不知処を襲撃されたときに負った傷を癒している最中だった。
江晩吟は金丹を取り戻した直後で、温氏を全て滅ぼすことに心血を注いでいた。どう復讐をすればよいか、そのために自分がすべきことを考えて、鍛錬をしながら過ごす。復讐という目標が江晩吟の生きる意味となっていた。
それでいて夜になると、全てを失ったあの晩が夢になって蘇り、眠れなくなった。母や父の遺体が無碍に扱われる所を見ながら、何もできなかった。師弟たちが家畜以下の扱いを受け、山のように積み重ねられていた。助けることも、弔うこともできず、金丹を奪われて腑抜けになった。自分の無力さを知り、誰かのせいにしなければ立っていられなかった。同じように苦しんでいるはずの魏無羨に怒りを向け、心のない言葉で責め立てた。魏無羨が言い返してこないことに余計腹が立って、言うつもりのなかったことまで上げ連ね、その結果彼もいなくなった。
6551江晩吟は金丹を取り戻した直後で、温氏を全て滅ぼすことに心血を注いでいた。どう復讐をすればよいか、そのために自分がすべきことを考えて、鍛錬をしながら過ごす。復讐という目標が江晩吟の生きる意味となっていた。
それでいて夜になると、全てを失ったあの晩が夢になって蘇り、眠れなくなった。母や父の遺体が無碍に扱われる所を見ながら、何もできなかった。師弟たちが家畜以下の扱いを受け、山のように積み重ねられていた。助けることも、弔うこともできず、金丹を奪われて腑抜けになった。自分の無力さを知り、誰かのせいにしなければ立っていられなかった。同じように苦しんでいるはずの魏無羨に怒りを向け、心のない言葉で責め立てた。魏無羨が言い返してこないことに余計腹が立って、言うつもりのなかったことまで上げ連ね、その結果彼もいなくなった。
amaneazumaa
PROGRESS少年双傑話の続き。この話は夢と希望とねつ造に次ぐねつ造で出来ています。
ともしびを手に 3「長沢からの手紙だ」
手紙を取り上げた江楓眠は、それを魏無羨へと差し出した。思いも掛けぬ江楓眠の言葉に、魏無羨は瞳を丸くすると身体の動きを止める。
「……えぇ、と」
口も固まってしまい、常は過分に回る少年とは思えない、歯切れの悪い言葉しか出てこなかった。
長沢。魏長沢。知っている。
父の名前だ。
江家の家僕であり、江楓眠とは親しい間柄であったということは聞かされている。だから手紙の一つや二つ、残っていても何らおかしくは無いのだ。
しかし魏無羨は今まで父の残したものを、己という存在以外に知らなかった。それが江家に迎え入れられて数年経った今になって急に現れたものだがら、本来であれば喜ぶべき筈なのに酷く戸惑った。
「読んで……良いの?」
3151手紙を取り上げた江楓眠は、それを魏無羨へと差し出した。思いも掛けぬ江楓眠の言葉に、魏無羨は瞳を丸くすると身体の動きを止める。
「……えぇ、と」
口も固まってしまい、常は過分に回る少年とは思えない、歯切れの悪い言葉しか出てこなかった。
長沢。魏長沢。知っている。
父の名前だ。
江家の家僕であり、江楓眠とは親しい間柄であったということは聞かされている。だから手紙の一つや二つ、残っていても何らおかしくは無いのだ。
しかし魏無羨は今まで父の残したものを、己という存在以外に知らなかった。それが江家に迎え入れられて数年経った今になって急に現れたものだがら、本来であれば喜ぶべき筈なのに酷く戸惑った。
「読んで……良いの?」
takami180
PROGRESS恋綴3-15曦澄してます。
夕食後、江澄は客坊に留め置かれた。
藍曦臣がわざわざ足を運んでくれるという。
今までであれば寒室に招かれたはずだ。
江澄は己の腕をさすった。
机上に置かれた茶をすする。
寒々しく思うのは気のせいか。落ち着かない。
「お待たせして申し訳ない」
もう亥の刻になろうかという頃になって、ようやく藍曦臣は顔を見せた。
江澄は腕を組み、むっつりと黙り込む。
これは遠ざけられようとしているのか。
「ご用をおうかがいしましょう」
いつか聞いた言葉だ。
江澄はこめかみのあたりを殴られたような気分だった。
藍曦臣は穏やかな笑顔を顔面に張り付けて、あのときは感じられた切迫感もない。
たとえ自分が悪かったのだとしても、こんなふうに、他人のように、扱われるいわれはない。
2163藍曦臣がわざわざ足を運んでくれるという。
今までであれば寒室に招かれたはずだ。
江澄は己の腕をさすった。
机上に置かれた茶をすする。
寒々しく思うのは気のせいか。落ち着かない。
「お待たせして申し訳ない」
もう亥の刻になろうかという頃になって、ようやく藍曦臣は顔を見せた。
江澄は腕を組み、むっつりと黙り込む。
これは遠ざけられようとしているのか。
「ご用をおうかがいしましょう」
いつか聞いた言葉だ。
江澄はこめかみのあたりを殴られたような気分だった。
藍曦臣は穏やかな笑顔を顔面に張り付けて、あのときは感じられた切迫感もない。
たとえ自分が悪かったのだとしても、こんなふうに、他人のように、扱われるいわれはない。
takami180
PROGRESS恋綴3-14ともがら。
(支部に上げる前にたぶん書き直す)
その夜、江澄は白梅の隣の客坊を用意してもらい、そこに泊まった。
牀榻に寝転がり、天蓋を見上げたまま、江澄は一向に訪れない眠気にため息をついた。
昨晩は一睡もしていないというのに、高揚感が勝って、体が眠ろうとしてくれない。
夕方に目を覚ました白梅は己の胸に深々と刻まれた呪痕を見下ろし、しばらくは呆然としていた。
江澄は己の胸に手を当てた。この傷でさえ、見せたくないと思う人がいる。
まして女の体である。白梅の受けた衝撃を思うといたたまれない。
だが、それも長くは続かなかった。
彼女は笑ってみせたのだ。
「すっきりしたよ。御宗主、ありがとうございました」
「力になり切れず、すまん」
「そんなことはありません。ばちが当たったにしては、これだけで済んだのが不思議なくらい」
2397牀榻に寝転がり、天蓋を見上げたまま、江澄は一向に訪れない眠気にため息をついた。
昨晩は一睡もしていないというのに、高揚感が勝って、体が眠ろうとしてくれない。
夕方に目を覚ました白梅は己の胸に深々と刻まれた呪痕を見下ろし、しばらくは呆然としていた。
江澄は己の胸に手を当てた。この傷でさえ、見せたくないと思う人がいる。
まして女の体である。白梅の受けた衝撃を思うといたたまれない。
だが、それも長くは続かなかった。
彼女は笑ってみせたのだ。
「すっきりしたよ。御宗主、ありがとうございました」
「力になり切れず、すまん」
「そんなことはありません。ばちが当たったにしては、これだけで済んだのが不思議なくらい」
saraco_elanor
DONE宗主の婚活 二十五24の続きで、おさまらない曦臣の手伝いをしつつちょっといじめちゃう晚吟。
(曦臣が喘いでます。ちょい言葉責め気味)
*このシリースはコメディです。二人は真面目な婚活友達のはずですが、かなり怪しいです。 5
0Raya0
DONEMDZSオンライン交流会4、曦澄プチオンリーのペーパーラリー参加小説です。テーマ:『婚姻の儀』
江澄の後悔に寄り添う兄上。
星は瞬く「あなたから日付を指定してのお誘いとは珍しい」
「……言うな」
夜の帳が下りた頃合、蓮花塢の四阿にて姑蘇藍氏の宗主と雲夢江氏の宗主が各々茶杯と酒杯を手にして向かい合っていた。
「嬉しいという話だよ」
茶杯を掲げた藍㬢臣が微笑みながら、そう言った。少し顔を逸らしながらも江澄も酒杯を掲げ、一息に煽る。
「いいお茶だ」
「口にあったならよかった。雲夢の高山で今年採れたばかりのものだ。気に入ったのなら帰りに包もう」
「それは嬉しい。ありがたくいただこうかな」
四阿は湖から吹く風がよく通り、些か残る雲夢の暑さを涼やかに和らげてくれている。空には星も少しづつ煌めき出してきていた。
「――何故今日だったのか、理由を聞いても?」
1288「……言うな」
夜の帳が下りた頃合、蓮花塢の四阿にて姑蘇藍氏の宗主と雲夢江氏の宗主が各々茶杯と酒杯を手にして向かい合っていた。
「嬉しいという話だよ」
茶杯を掲げた藍㬢臣が微笑みながら、そう言った。少し顔を逸らしながらも江澄も酒杯を掲げ、一息に煽る。
「いいお茶だ」
「口にあったならよかった。雲夢の高山で今年採れたばかりのものだ。気に入ったのなら帰りに包もう」
「それは嬉しい。ありがたくいただこうかな」
四阿は湖から吹く風がよく通り、些か残る雲夢の暑さを涼やかに和らげてくれている。空には星も少しづつ煌めき出してきていた。
「――何故今日だったのか、理由を聞いても?」
takami180
PROGRESS恋綴3-13まったく曦澄してません。
雲深不知処の山門には藍家の師弟が二人立っていた。
江澄が白梅を連れていくと、その二人は慌てふためきつつも、家規に順じて藍家宗主を呼びに行き、客坊へと通してくれた。
その頃になると白梅は体に力が入らなくなっており、しかたなく江澄は彼女を臥床に寝かせた。
すぐに藍曦臣と藍忘機、魏無羨までもがそろってやってきた。
「雲深不知処をお騒がせして申し訳ない」
「江宗主、お気になさらないでください」
藍曦臣は首を振りつつも、しょうとうに視線を移す。
「ところで、そちらの女人は」
「雲夢の民だ。魏無羨、力を貸してくれ」
江澄はあらましだけを語った。
白梅が妹を亡くしたこと。妹の報復を行おうと呪術に手を出したこと。彼女の命がかかっていること。
2815江澄が白梅を連れていくと、その二人は慌てふためきつつも、家規に順じて藍家宗主を呼びに行き、客坊へと通してくれた。
その頃になると白梅は体に力が入らなくなっており、しかたなく江澄は彼女を臥床に寝かせた。
すぐに藍曦臣と藍忘機、魏無羨までもがそろってやってきた。
「雲深不知処をお騒がせして申し訳ない」
「江宗主、お気になさらないでください」
藍曦臣は首を振りつつも、しょうとうに視線を移す。
「ところで、そちらの女人は」
「雲夢の民だ。魏無羨、力を貸してくれ」
江澄はあらましだけを語った。
白梅が妹を亡くしたこと。妹の報復を行おうと呪術に手を出したこと。彼女の命がかかっていること。
鶏斉根
DONEこれが曦澄に対する個人的最適解。Q.E.D.
紅灯籠回廊に紅く艶やかに、灯籠が灯る。俗世から離れ、厳格と静謐を旨とする雲深き仙府も、今日ばかりは喜色を隠さない。
とうに主役は退座したが、なお宴席は続き、上座では蘭陵の宗主が号泣している。それを慰めようとする共に長じた姑蘇藍氏の棟梁へ「うるさい!だからお前ら藍氏は嫌いだ!」と拳を叩きつけた。
相変わらず仲睦まじい烏鷺も、いつの間にか消えている。複雑な意味合いで花嫁の伯父にあたる彼の黒衣は、この華燭の典のため遊歴から戻ってきた。主役を差し置く勢いで呑んで、どこぞで介抱されているのだろう。
一向に人が散る気配のない部屋を見渡して、藍曦臣の眼は来賓の挨拶を受けている目当ての姿を得た。
「江宗主」
酒注を手に藍曦臣が近寄ると、巫山のあたりを所轄する中堅の仙門の宗主がひとつ頭を下げてから、これは敵わないとばかりにそそくさと立ち去る。見知った顔を認めて、江晩吟の表情が緩んだ。
790とうに主役は退座したが、なお宴席は続き、上座では蘭陵の宗主が号泣している。それを慰めようとする共に長じた姑蘇藍氏の棟梁へ「うるさい!だからお前ら藍氏は嫌いだ!」と拳を叩きつけた。
相変わらず仲睦まじい烏鷺も、いつの間にか消えている。複雑な意味合いで花嫁の伯父にあたる彼の黒衣は、この華燭の典のため遊歴から戻ってきた。主役を差し置く勢いで呑んで、どこぞで介抱されているのだろう。
一向に人が散る気配のない部屋を見渡して、藍曦臣の眼は来賓の挨拶を受けている目当ての姿を得た。
「江宗主」
酒注を手に藍曦臣が近寄ると、巫山のあたりを所轄する中堅の仙門の宗主がひとつ頭を下げてから、これは敵わないとばかりにそそくさと立ち去る。見知った顔を認めて、江晩吟の表情が緩んだ。
tarutotatan082
MAIKINGDomsub曦澄こんなのしらないあんあん江澄が書きたかったのに全然そこまで行かない
DomSub
「こちらへおいで。”[[rb:お座り > Kneel]]”はできるね?」
問い掛けの体はしているが、藍渙の眦はきつく江澄に逆らうことを赦さない。普段通りの優しい笑みですら底知れず恐ろしいものに感じて江澄は身を震わせた。恐怖と悦びが渦巻く体を未だ動かせずにいる。
焦れた藍曦臣が薄紅色の唇を微かに動かした。
「もう一度言ったほうがいいの?君はいい子だから従えると思っていたのだけど」
────あぁ、もはや屈してしまいたい。
江澄はこらえ切れぬ欲求に自分の身体の手綱を握れなくなった。辛うじて閉じている口腔は唾液で満たされているし、美しい藤色の瞳は支配者を前にどろりと溶けた。未知の感覚を恐れる心は逃亡を望んでいるのに、支配を望む本能が曦臣の前に下肢を投げさせた。
4377「こちらへおいで。”[[rb:お座り > Kneel]]”はできるね?」
問い掛けの体はしているが、藍渙の眦はきつく江澄に逆らうことを赦さない。普段通りの優しい笑みですら底知れず恐ろしいものに感じて江澄は身を震わせた。恐怖と悦びが渦巻く体を未だ動かせずにいる。
焦れた藍曦臣が薄紅色の唇を微かに動かした。
「もう一度言ったほうがいいの?君はいい子だから従えると思っていたのだけど」
────あぁ、もはや屈してしまいたい。
江澄はこらえ切れぬ欲求に自分の身体の手綱を握れなくなった。辛うじて閉じている口腔は唾液で満たされているし、美しい藤色の瞳は支配者を前にどろりと溶けた。未知の感覚を恐れる心は逃亡を望んでいるのに、支配を望む本能が曦臣の前に下肢を投げさせた。
7razu_c
DONE【長編の曦澄漫画つづき】二章:恋とはどんなものかしら?:前編(33P/全33P)
後編に続きます。
※曦澄だけならこの二章から読んでもだいたいわかると思います。ちょっとだけ曦澄かもしれない。 34
takami180
DONE曦澄ワンドロワンライ第八回お題「笑顔」
本編終了後、付き合ってない曦澄。
青白い顔であった。
くもり空が続く日の野草のようにしおれた青さである。
その上に、まるで紙に描いたかのような微笑の面を貼り付けて、沢蕪君は拱手した。
「ようこそおいでくださいました、江宗主」
江澄は拱手を返しながら、眉根を寄せた。
藍家宗主が閉関を解いたと聞いてあいさつに来たものの、いったいこれはどういうことか。回復した様子がないばかりか、明らかに無理を押して表に出ている。
彼が閉関した期間は二年余り、周囲からの圧力に耐えられず姿を現したか。もしくは含光君への負担を慮って、無理を押したか。
「その、沢蕪君」
「なんでしょうか」
机を挟んで向かい合い、一口茶をいただいたところで江澄は耐え切れなくなった。
2511くもり空が続く日の野草のようにしおれた青さである。
その上に、まるで紙に描いたかのような微笑の面を貼り付けて、沢蕪君は拱手した。
「ようこそおいでくださいました、江宗主」
江澄は拱手を返しながら、眉根を寄せた。
藍家宗主が閉関を解いたと聞いてあいさつに来たものの、いったいこれはどういうことか。回復した様子がないばかりか、明らかに無理を押して表に出ている。
彼が閉関した期間は二年余り、周囲からの圧力に耐えられず姿を現したか。もしくは含光君への負担を慮って、無理を押したか。
「その、沢蕪君」
「なんでしょうか」
机を挟んで向かい合い、一口茶をいただいたところで江澄は耐え切れなくなった。
narehate42
DONEワンライ/笑顔ほんとのさよならはもういってしまったんだ。ほんとのさよならは悲しくて、さびしくて、切実なひびきを持っているはずだからね。
(レイモンドチャンドラー・清水俊二訳『長いお別れ』p535) 8
takami180
PROGRESS恋綴3-12二人は友です。
なお、少々下品な表現があります。
広間に一歩踏み入った瞬間、江澄は顔をしかめた。よくないにおいがする。
妓楼での邪祟騒ぎが一段落して五日、江家に妓楼と町の顔役から招待があった。妓楼の遊妓らが宴を催すという。
江澄は初め断るつもりだった。礼は十分に受け取っている。ところが、師弟たちにぜひ参加してくれと懇願された。それはもう詰め寄る勢いだった。結局、江澄は師弟たちに報いるつもりで招待を受け、再び白梅と相対することになったのだが。
江澄は案内してきた男を振り切り、奥で待つ白梅の元まで大股で歩み寄った。
「御宗主、どうかしたか」
やはり、においの元は彼女であった。
江澄は見上げる白梅の胸元に手を伸ばし、がばりとその袷を開いた。
白い肌にくっきりと呪紋が描かれている。
2293妓楼での邪祟騒ぎが一段落して五日、江家に妓楼と町の顔役から招待があった。妓楼の遊妓らが宴を催すという。
江澄は初め断るつもりだった。礼は十分に受け取っている。ところが、師弟たちにぜひ参加してくれと懇願された。それはもう詰め寄る勢いだった。結局、江澄は師弟たちに報いるつもりで招待を受け、再び白梅と相対することになったのだが。
江澄は案内してきた男を振り切り、奥で待つ白梅の元まで大股で歩み寄った。
「御宗主、どうかしたか」
やはり、においの元は彼女であった。
江澄は見上げる白梅の胸元に手を伸ばし、がばりとその袷を開いた。
白い肌にくっきりと呪紋が描かれている。
7razu_c
DONE【長編の曦澄漫画です】一章:暗路に蜜石(全60P)
※重大なネタバレ(原作4巻の内容)を含みます。曦澄だけなら二章から読んでもだいたいわかると思いますので、ネタバレを回避したい方はこちらは読まずにおいてください。ぜんぜん曦澄していません。 60
saraco_elanor
DONE宗主の婚活 二十四このシリーズはコメディです。
二人は真面目な婚活友達のはずですが、努力の方向性がズレてきてます。
寝相の悪い晚吟に悩まされる曦臣からの、朝の修練。(朝勃ち、兜合わせ、どちらの喘ぎもあり) 9
takami180
PROGRESS恋綴3-11事件の終わり(兄上は出ません)
窓の外には下弦の月。
風に乗って広がる琴の音。
江澄は手元の盃を揺らした。
「出てこないな」
ビィン、と弦がはじかれる。
琴を弾くのは白梅という遊妓である。妓楼で三本の指に入るこの遊妓は、その名の通り真白い顔を江澄に向けた。盛り上げた髪を飾る豪奢な金と玉が、明かりを受けてきらきらと輝く。
「一晩ではいけないのかもしれませんね」
「面倒だな」
江澄はこの前に別の遊妓と時間を過ごした。それから、白梅の房室に入ったのだが、どうやらこれでは浮気者の判定にはならないらしい。
邪祟をおびき出すのに他の客は全員帰した。どうにか一晩で片付けようとした結果の策だったが、すでに一時以上何もなく過ごせている。
「御宗主は、何故あの子を抱かれなかったのですか」
2294風に乗って広がる琴の音。
江澄は手元の盃を揺らした。
「出てこないな」
ビィン、と弦がはじかれる。
琴を弾くのは白梅という遊妓である。妓楼で三本の指に入るこの遊妓は、その名の通り真白い顔を江澄に向けた。盛り上げた髪を飾る豪奢な金と玉が、明かりを受けてきらきらと輝く。
「一晩ではいけないのかもしれませんね」
「面倒だな」
江澄はこの前に別の遊妓と時間を過ごした。それから、白梅の房室に入ったのだが、どうやらこれでは浮気者の判定にはならないらしい。
邪祟をおびき出すのに他の客は全員帰した。どうにか一晩で片付けようとした結果の策だったが、すでに一時以上何もなく過ごせている。
「御宗主は、何故あの子を抱かれなかったのですか」
saraco_elanor
DONE宗主の婚活二十三ぐだくだ迷走しつつもご飯食べて真面目に仕事の話をしちゃう二人。
*このシリースはコメディです。
二人は真面目な婚活友達ですが、童貞こじらせ過ぎて煮詰まってきてます。 8
takami180
PROGRESS恋綴3-10兄上、事件です(兄上は出てきませんが……)
江澄は蓮花塢に戻るなり、ぽいぽいと衣を脱ぎ捨て、蓮花湖に入った。
「宗主⁉︎」
驚く師弟たちには、「雲深不知処で肩が凝った」と言えば何故だか納得してもらえた。
秋の深まりつつある蓮花湖の水はそれなりに冷たい。
江澄はあてもなく湖中を泳ぐ。蓮花塢に着くまで、ずっと体の奥が熱かった。自分が信じられないが、藍曦臣に触れられた熱が溜まったまま逃げていかないのだ。
江澄は湖面に浮いて、空を見上げた。
涼しい風の通る、薄青の澄んだ空だ。
白雲が薄く、たなびいている。
「はあ」
安堵のため息がこぼれた。なんとか体は冷えてくれたが、胸中のうっとおしさはそのままだ。
視線を落とせば袷の合間に傷痕が見える。指先でなぞればでこぼことおもしろくない感触がある。
2347「宗主⁉︎」
驚く師弟たちには、「雲深不知処で肩が凝った」と言えば何故だか納得してもらえた。
秋の深まりつつある蓮花湖の水はそれなりに冷たい。
江澄はあてもなく湖中を泳ぐ。蓮花塢に着くまで、ずっと体の奥が熱かった。自分が信じられないが、藍曦臣に触れられた熱が溜まったまま逃げていかないのだ。
江澄は湖面に浮いて、空を見上げた。
涼しい風の通る、薄青の澄んだ空だ。
白雲が薄く、たなびいている。
「はあ」
安堵のため息がこぼれた。なんとか体は冷えてくれたが、胸中のうっとおしさはそのままだ。
視線を落とせば袷の合間に傷痕が見える。指先でなぞればでこぼことおもしろくない感触がある。
takami180
DONE曦澄ワンドロワンライ第七回お題「雨」
体だけの関係の曦澄、雨の朝のこと。
これから修羅場です。
(名前だけ阿瑶が出てきます。ご注意ください)
蓮花湖の水面に波紋が広がる。
小さな波紋が三つ四つと重なって、次第に波紋の隙間がなくなり、ただ細かく湖面が波打ちだす。
蓮の葉にも、花弁にも、しずくが落ちて丸まって転がる。
蓮花塢の蒸し暑い夏の朝である。
藍曦臣はぼんやりと明けゆく空の下、欄干に手をついて、その様子をながめていた。中衣に深衣を羽織っただけの格好で、雲深不知処であれば絶対にこのような姿をさらしはしないが、ここに禁じる規律はない。
振り返れば紗の帳子に閉ざされた牀榻がある。
その内には先ほどまで腕に抱いていた人が眠っている。
再び湖に視線を戻した藍曦臣の口からは、重たいため息が落ちた。
閉関中に関係を持ち、その後宗主として再び世に戻っても、彼との交わりを解くことはできなかった。すでに一年以上をこうしてすごしている。
2117小さな波紋が三つ四つと重なって、次第に波紋の隙間がなくなり、ただ細かく湖面が波打ちだす。
蓮の葉にも、花弁にも、しずくが落ちて丸まって転がる。
蓮花塢の蒸し暑い夏の朝である。
藍曦臣はぼんやりと明けゆく空の下、欄干に手をついて、その様子をながめていた。中衣に深衣を羽織っただけの格好で、雲深不知処であれば絶対にこのような姿をさらしはしないが、ここに禁じる規律はない。
振り返れば紗の帳子に閉ざされた牀榻がある。
その内には先ほどまで腕に抱いていた人が眠っている。
再び湖に視線を戻した藍曦臣の口からは、重たいため息が落ちた。
閉関中に関係を持ち、その後宗主として再び世に戻っても、彼との交わりを解くことはできなかった。すでに一年以上をこうしてすごしている。
takami180
PROGRESS恋綴3-8(旧続々長編曦澄)兄上おあずけ
寒室からはまだ明かりが漏れていた。
江澄は少しだけ上がった息を整えて、開いたままの門扉をくぐった。
就寝前の時間に訪ねる非常識は、たぶん許してもらえる。
「藍渙」と戸口から声をかけると、がたんと派手な音がした。常ならば、藍氏の常識で考えればありえない音である。
「江澄?」
手燭を掲げて、藍曦臣が姿を現した。
その顔は驚きに満ち、嫌厭の色はない。江澄は胸をなでおろした。
「遅くにすまない」
「いえ、それはいいのですが、なぜ、こちらに」
「……あなたが、言ったのだろう。その、夜に来いと」
自分でも苦しい言い訳だと分かっていたが、それ以外に言いようがなかった。半ばは八つ当たりでもある。
藍曦臣をうかがい見ると、彼ははっきりと喜色を示した。
2288江澄は少しだけ上がった息を整えて、開いたままの門扉をくぐった。
就寝前の時間に訪ねる非常識は、たぶん許してもらえる。
「藍渙」と戸口から声をかけると、がたんと派手な音がした。常ならば、藍氏の常識で考えればありえない音である。
「江澄?」
手燭を掲げて、藍曦臣が姿を現した。
その顔は驚きに満ち、嫌厭の色はない。江澄は胸をなでおろした。
「遅くにすまない」
「いえ、それはいいのですが、なぜ、こちらに」
「……あなたが、言ったのだろう。その、夜に来いと」
自分でも苦しい言い訳だと分かっていたが、それ以外に言いようがなかった。半ばは八つ当たりでもある。
藍曦臣をうかがい見ると、彼ははっきりと喜色を示した。