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PROGRESS「きみ」としあわせになるはなしシリーズ。ガトホワ/ガトノワ(納占)の進捗。(https://poipiku.com/2288998/11489105.html)の続き。記憶が戻るホワイト。 2264
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PROGRESS「きみ」としあわせになるはなしガトホワ/ガトノワ(納占)の進捗。(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24240779)の続き。 1385
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DONE毎日納占26日目。おしまい。約1ヶ月、お付き合いくださりありがとうございました!
ごはんを食べよう26(完)「いつか、荘園に行きませんか」
「……戻る、ということ?」
「いいえ」
ぴくり、と肩を震わせたイライに首を振る。
イライもイソップの意図しているところはわかっているのだろう。
それでも条件反射で震えてしまった、というところか。
イソップは手を伸ばしてイライの手を撫でた。
重ねたまま、静かに口を開く。
「僕たちがいなくなったあと、荘園に何があったのか、今では知る術はないでしょう。……それでも、僕らがあそこにいたことは真実です。だから、確かめにいきましょう」
「そして、お別れをしよう、と?」
「ええ」
イソップは頷いた。
「荘園にお別れを……僕たちが、ここで生きていくために」
重なった手が、今度はイライの手によって絡められる。しっかりと繋いだ手は温かかった。生きている。
687「……戻る、ということ?」
「いいえ」
ぴくり、と肩を震わせたイライに首を振る。
イライもイソップの意図しているところはわかっているのだろう。
それでも条件反射で震えてしまった、というところか。
イソップは手を伸ばしてイライの手を撫でた。
重ねたまま、静かに口を開く。
「僕たちがいなくなったあと、荘園に何があったのか、今では知る術はないでしょう。……それでも、僕らがあそこにいたことは真実です。だから、確かめにいきましょう」
「そして、お別れをしよう、と?」
「ええ」
イソップは頷いた。
「荘園にお別れを……僕たちが、ここで生きていくために」
重なった手が、今度はイライの手によって絡められる。しっかりと繋いだ手は温かかった。生きている。
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DONE毎日納占25日目。ご飯を食べる二人。ごはんを食べよう25二人、席に着いて手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
シチューのジャガイモは半分くらいが煮崩れ、とろけていた。見た目にこだわるなら別で茹でたものを入れるべきだったかもと思いつつ、イソップはジャガイモを口に含んだ。
ジャガイモがルーと混じり合って甘く感じる。
にんじんも、ベーコンも、玉ねぎも、それぞれがお互いを引き立てていて、噛み締めるほどに少ししょっぱい甘さが口中に広がった。
「このくらいとろとろのジャガイモ、好きだな」
焼いた食パンをさくりと齧り、シチューを飲んでイライはにっこりと笑う。
イソップへのフォローなのかと一瞬思ったが、その食べっぷりは本当に美味しく思っている人のそれだ。
イソップはほっとして、自分も食パンをちぎって食べた。
504「いただきます」
「いただきます」
シチューのジャガイモは半分くらいが煮崩れ、とろけていた。見た目にこだわるなら別で茹でたものを入れるべきだったかもと思いつつ、イソップはジャガイモを口に含んだ。
ジャガイモがルーと混じり合って甘く感じる。
にんじんも、ベーコンも、玉ねぎも、それぞれがお互いを引き立てていて、噛み締めるほどに少ししょっぱい甘さが口中に広がった。
「このくらいとろとろのジャガイモ、好きだな」
焼いた食パンをさくりと齧り、シチューを飲んでイライはにっこりと笑う。
イソップへのフォローなのかと一瞬思ったが、その食べっぷりは本当に美味しく思っている人のそれだ。
イソップはほっとして、自分も食パンをちぎって食べた。
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DONE毎日納占24日目。ご飯を食べるお話。クリームシチュー。ごはんを食べよう24気付けばタイマー式のガスは止まっていた。
顆粒状のシチュールーを溶かし、牛乳を加えて煮込む。
後ろを振り返ると、イライがいそいそとカトラリーを並べている。
煮込んでいる間に付け合わせのサラダを簡単に準備して、主食のバケット……は買い忘れたので食パンを焼いた。
荘園では食べたことのないクリームシチュー、食パンといった料理にもすっかり慣れた。
そのうちパンも焼いてみたいな、と思いつつ、イソップはクリームシチューの火を止めた。
「イライ、どのくらい食べますか?」
「おかわりしたいから、一杯目は七分目まで入れて欲しいな」
イライのリクエストに目を細めて頷く。
まだ泣いたあと特有の声をしているけれど、元気になったみたいだ。
464顆粒状のシチュールーを溶かし、牛乳を加えて煮込む。
後ろを振り返ると、イライがいそいそとカトラリーを並べている。
煮込んでいる間に付け合わせのサラダを簡単に準備して、主食のバケット……は買い忘れたので食パンを焼いた。
荘園では食べたことのないクリームシチュー、食パンといった料理にもすっかり慣れた。
そのうちパンも焼いてみたいな、と思いつつ、イソップはクリームシチューの火を止めた。
「イライ、どのくらい食べますか?」
「おかわりしたいから、一杯目は七分目まで入れて欲しいな」
イライのリクエストに目を細めて頷く。
まだ泣いたあと特有の声をしているけれど、元気になったみたいだ。
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PROGRESS「きみ」のことを考えるはなし(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24198339)の続き。夜会への潜入。ワルツを踊るガトホワ。服装のイメージは翻月です。 3270
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DONE納占が現代でご飯を食べる話。毎日更新23日目。プロポーズ。
ごはんを食べよう23イライがきゅ、とイソップの胸元を握る。
皺になったシャツが、イライの中の衝撃を表しているようだった。
「そう、ですから、泣かないでいいんです。僕はここにこられて、あなたといられて、本当に幸せになれたんですから」
「なにそれ……」
「それより、イライです。あなた、婚約者のことはいいんですか」
イライはイソップの言葉にぐっと唇を噛んだ。
未練があるのかと一瞬疑ってしまったが、イライはイソップがそれを口にする前に自分の口を開いた。
「彼女が、幸せになるのを視たんだ」
「……それは、天眼で?」
「うん。……荘園にいた頃、私以外の相手と結ばれる彼女を視て。……最初は悲しかったし、苦しかった。でも、彼女の立場上、最初から決まっていたことでもあった」
940皺になったシャツが、イライの中の衝撃を表しているようだった。
「そう、ですから、泣かないでいいんです。僕はここにこられて、あなたといられて、本当に幸せになれたんですから」
「なにそれ……」
「それより、イライです。あなた、婚約者のことはいいんですか」
イライはイソップの言葉にぐっと唇を噛んだ。
未練があるのかと一瞬疑ってしまったが、イライはイソップがそれを口にする前に自分の口を開いた。
「彼女が、幸せになるのを視たんだ」
「……それは、天眼で?」
「うん。……荘園にいた頃、私以外の相手と結ばれる彼女を視て。……最初は悲しかったし、苦しかった。でも、彼女の立場上、最初から決まっていたことでもあった」
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DONE毎日納占。ご飯を食べる二人の話。21日目。ごはんを食べよう21イライが話してくれたことはイソップには衝撃的だったが、納得もできた。
最後のゲームでイソップは確かに大怪我を負って、だからイソップは自分が死ぬと思っていたのだから。
「私がナイチンゲールに願った、から、君は、もう二度と願いを叶えられなくなって、生きていた国にも時代にも戻れなくなって……」
ごめんなさい、ごめんなさい……イライは何度も繰り返して謝った。
イソップがその背を撫でてやるとしゃくりあげる。イソップは目を伏せた。
そんなことを気にしていたのか、と思って、あやすように背を撫で、抱きしめる。身じろぎをする体が愛しいと思った。
(そんな風に、僕のことばかり考えて、自分が悪いと決めつけて、こんな風に泣いてしまう、かわいそうな人……)
567最後のゲームでイソップは確かに大怪我を負って、だからイソップは自分が死ぬと思っていたのだから。
「私がナイチンゲールに願った、から、君は、もう二度と願いを叶えられなくなって、生きていた国にも時代にも戻れなくなって……」
ごめんなさい、ごめんなさい……イライは何度も繰り返して謝った。
イソップがその背を撫でてやるとしゃくりあげる。イソップは目を伏せた。
そんなことを気にしていたのか、と思って、あやすように背を撫で、抱きしめる。身じろぎをする体が愛しいと思った。
(そんな風に、僕のことばかり考えて、自分が悪いと決めつけて、こんな風に泣いてしまう、かわいそうな人……)
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DONE毎日納占20日目。ご飯を食べる納占の話。シチュー。
ごはんを食べよう20にんじん、じゃがいもを一口大に切り、玉ねぎはくし形に切る。
オリーブオイルで玉ねぎを炒め、透明になったらじゃがいも、にんじん、厚く切ったベーコンを鍋に追加して炒める。
ある程度火が通ったら水を入れて、灰汁を取りながらコトコトと煮る。
いつもならなにくれと理由をつけて料理しているところを覗きにくるイライが、今日はソファに座ったまま動かない。
手を祈りの形に組んで、額をつけてじいっとしている。
鍋の火を弱めて蓋をする。
タイマーをかけてイライの元へ歩み寄る。その隣に座ると、触れた肩からイライの少し速い呼吸が伝わってきた。
イライは、あの荘園に帰りたいのかと思っていた。けれど、何か、そうではないと感じる自分もいた。勘のようなものだけれど、イライの執着はあの廃墟となったエウリュディケ荘園にはない気がした。
694オリーブオイルで玉ねぎを炒め、透明になったらじゃがいも、にんじん、厚く切ったベーコンを鍋に追加して炒める。
ある程度火が通ったら水を入れて、灰汁を取りながらコトコトと煮る。
いつもならなにくれと理由をつけて料理しているところを覗きにくるイライが、今日はソファに座ったまま動かない。
手を祈りの形に組んで、額をつけてじいっとしている。
鍋の火を弱めて蓋をする。
タイマーをかけてイライの元へ歩み寄る。その隣に座ると、触れた肩からイライの少し速い呼吸が伝わってきた。
イライは、あの荘園に帰りたいのかと思っていた。けれど、何か、そうではないと感じる自分もいた。勘のようなものだけれど、イライの執着はあの廃墟となったエウリュディケ荘園にはない気がした。
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DONE毎日納占19日目。ごはんを食べる二人。ちょっとシリアス。ごはんを食べよう19俯いたり、上を向いたりして「あー」とか「うー」とか繰り返して……そうして、ややあって、「それは、男に言う言葉じゃないなあ……」と困ったようにはにかんだ。
そういうところがかわいいのだ、と本人はきっと気づいていない。
静かな時間だった。
静かで、穏やかな、優しい時間だった。
「私、お茶を淹れてくるね」
「はい」
そう言って、イライが立ち上がる。
イライのお茶は美味しいから楽しみです。そう笑う。
『次は、……国の廃墟巡りのコーナーです。本日はかつてデロス男爵が所有していたとれるお屋敷の……』
ニュースに聞こえるデロスという名前に聞き覚えがあって、イソップは顔を上げた。それはかつてエウリュディケ荘園にいた記者、アリス・デロスと同じファミリーネームだったからだ。
902そういうところがかわいいのだ、と本人はきっと気づいていない。
静かな時間だった。
静かで、穏やかな、優しい時間だった。
「私、お茶を淹れてくるね」
「はい」
そう言って、イライが立ち上がる。
イライのお茶は美味しいから楽しみです。そう笑う。
『次は、……国の廃墟巡りのコーナーです。本日はかつてデロス男爵が所有していたとれるお屋敷の……』
ニュースに聞こえるデロスという名前に聞き覚えがあって、イソップは顔を上げた。それはかつてエウリュディケ荘園にいた記者、アリス・デロスと同じファミリーネームだったからだ。
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DONE毎日納占。18日目。ご飯を食べる納占。ごはんを食べよう18昼下がりのリビングで、テレビから流れるニュースの声が響く。
近所の動物園にカピバラの赤ちゃんが産まれた、とか、野球選手が活躍した、だとか、そういうニュースをぼんやり聞きながら、イソップとイライはソファでくつろいでいた。
今日は休日だから仕事はない。
毎日ゲームをしていたあの頃が嘘みたいで、本当にあの荘園は存在したのだろうか、なんてことを考えてしまう。
隣に座るイライの肩にフクロウはいない。あの荘園に置き去りにしてしまったのだろうか。
そんなことを思って、けれどいくじなしの自分はそれを確認できない。
イソップは、は、と息を吐いて、横目でイライを見つめた。
どれだけ見ていても飽きない。イライは表情が豊かな方ではない。あの荘園にいた頃などは、いつも口をへの字に曲げていたほどだ。それが心労ゆえのものだとここにきて改めて分かった。
536近所の動物園にカピバラの赤ちゃんが産まれた、とか、野球選手が活躍した、だとか、そういうニュースをぼんやり聞きながら、イソップとイライはソファでくつろいでいた。
今日は休日だから仕事はない。
毎日ゲームをしていたあの頃が嘘みたいで、本当にあの荘園は存在したのだろうか、なんてことを考えてしまう。
隣に座るイライの肩にフクロウはいない。あの荘園に置き去りにしてしまったのだろうか。
そんなことを思って、けれどいくじなしの自分はそれを確認できない。
イソップは、は、と息を吐いて、横目でイライを見つめた。
どれだけ見ていても飽きない。イライは表情が豊かな方ではない。あの荘園にいた頃などは、いつも口をへの字に曲げていたほどだ。それが心労ゆえのものだとここにきて改めて分かった。
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PROGRESS「きみ」としあわせになるはなし。の続き進捗。ガトノワ/ガトホワ/納占。
ガトホワ/ガトノワシリーズ進捗◆◆◆
思いがけないことに、その機会はすぐに訪れた。
ホワイトとの出会いから一週間。いつものように猫の餌を補充するためにカフェに行くと、まるで先回りをしていたように寛いでコーヒーを飲む霊犀調査員がいた。
「やあ、ガット。いい店だね」
「この一週間全く連絡がつかなかったのに、突然どういう風の吹き回しですか」
「ははっ。ちょっとどう答えたものか考えあぐねていたんだ」
「……僕が聞こうとしていることがわかった、と?」
「まあね」
霊犀はコーヒーをもう一口飲むと、ガットに向かいに座るように促した。
ガットが席に着くと、もう一杯のコーヒーが運ばれてくる。
「先に注文しておいたよ。オリジナルブレンドでよかったかな」
「……」
そこまで予測してここに来ていたのか。
1216思いがけないことに、その機会はすぐに訪れた。
ホワイトとの出会いから一週間。いつものように猫の餌を補充するためにカフェに行くと、まるで先回りをしていたように寛いでコーヒーを飲む霊犀調査員がいた。
「やあ、ガット。いい店だね」
「この一週間全く連絡がつかなかったのに、突然どういう風の吹き回しですか」
「ははっ。ちょっとどう答えたものか考えあぐねていたんだ」
「……僕が聞こうとしていることがわかった、と?」
「まあね」
霊犀はコーヒーをもう一口飲むと、ガットに向かいに座るように促した。
ガットが席に着くと、もう一杯のコーヒーが運ばれてくる。
「先に注文しておいたよ。オリジナルブレンドでよかったかな」
「……」
そこまで予測してここに来ていたのか。
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DONEまいにち納占17日目。ご飯を食べる納占。🔮の秘密。
ごはんを食べよう17愛し気に自分を見るイソップを見るたびに、イライはこれでよかったのかわからなくなる。
あの日、最後のゲームで二人揃ってハッチに落ちた時、ナイチンゲールからの提案を受け入れたイライは、荘園のあった時代から百年ほど先の日本という国で目覚めた。
すぐにイソップを探して、見つけて、あれほどほっとしたことはないだろうと思った。
バグ、というらしい。ゲームの終わりで「ほんとう」に命の灯火を消しかけたから、イソップと共にハッチに入れたのだと。
このままだとイソップが死んでしまう、だから蘇生のためにその身体も魂も全てを遠くへ飛ばしましょうと、そう言われたのだ。あなた方が共にいられる道はそれだけです、と。
ナイチンゲールが対価として求めていたのは天眼だった。その天眼を使った膨大なエネルギーで荘園のバグを修正したかったらしい。
744あの日、最後のゲームで二人揃ってハッチに落ちた時、ナイチンゲールからの提案を受け入れたイライは、荘園のあった時代から百年ほど先の日本という国で目覚めた。
すぐにイソップを探して、見つけて、あれほどほっとしたことはないだろうと思った。
バグ、というらしい。ゲームの終わりで「ほんとう」に命の灯火を消しかけたから、イソップと共にハッチに入れたのだと。
このままだとイソップが死んでしまう、だから蘇生のためにその身体も魂も全てを遠くへ飛ばしましょうと、そう言われたのだ。あなた方が共にいられる道はそれだけです、と。
ナイチンゲールが対価として求めていたのは天眼だった。その天眼を使った膨大なエネルギーで荘園のバグを修正したかったらしい。
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DONE毎日納占16日目。ご飯を食べる納占。ごはんを食べよう16「……」
少しの逡巡の後、口を開ける。
口の中にそうっと差し入れられたマグカップケーキの味なんてわからなかった。
「美味しい?」
「……はい」
それ以外になんと言えるだろう。
ずるい、と思った。イソップはイライが好きで好きでならないのに、イライの方はこんなふうにイソップを翻弄する。
イソップはくすくす笑うイライの手をフォークごと掴んだ。
「イソップくん? どうし、」
どうしたの、なんてその先を、イライが口にすることはなかった。
かたん、とフォークの落ちる音がする。
イソップが口付けたのはイライの右手の甲で、イライはそれに驚いていた。
「イライ」
じっと上目になって見つめると、イライは急に焦ったようにしどろもどろになった。
616少しの逡巡の後、口を開ける。
口の中にそうっと差し入れられたマグカップケーキの味なんてわからなかった。
「美味しい?」
「……はい」
それ以外になんと言えるだろう。
ずるい、と思った。イソップはイライが好きで好きでならないのに、イライの方はこんなふうにイソップを翻弄する。
イソップはくすくす笑うイライの手をフォークごと掴んだ。
「イソップくん? どうし、」
どうしたの、なんてその先を、イライが口にすることはなかった。
かたん、とフォークの落ちる音がする。
イソップが口付けたのはイライの右手の甲で、イライはそれに驚いていた。
「イライ」
じっと上目になって見つめると、イライは急に焦ったようにしどろもどろになった。
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DONEまいにち納占。ご飯を食べる納占その14。ごはんを食べよう14「用意してくれたんですね、ありがとう、イライ」
「へへ、だってイソップくんの作ってくれるマグカップケーキ、好きなんだもの」
楽しみで、つい。そうはにかむイライを眩しく感じる。
チン、と軽い音を立てた電子レンジの中から二つ目のマグカップを取り出してテーブルに着く。
マグカップのふちから二センチほど盛り上がった生地は湯気が立っていて、いかにも熱々だ。
「いただきます!」
「いただきます」
手を合わせて、二人でそう口にする。
食べ物や作ってくれる人への感謝を言葉にする、この風習にももう慣れた。
フォークで刺したケーキは少しもっちりとしていて、切り分けると気泡のたくさん入った断面が見える。
うまくできたようでほっとした。
492「へへ、だってイソップくんの作ってくれるマグカップケーキ、好きなんだもの」
楽しみで、つい。そうはにかむイライを眩しく感じる。
チン、と軽い音を立てた電子レンジの中から二つ目のマグカップを取り出してテーブルに着く。
マグカップのふちから二センチほど盛り上がった生地は湯気が立っていて、いかにも熱々だ。
「いただきます!」
「いただきます」
手を合わせて、二人でそう口にする。
食べ物や作ってくれる人への感謝を言葉にする、この風習にももう慣れた。
フォークで刺したケーキは少しもっちりとしていて、切り分けると気泡のたくさん入った断面が見える。
うまくできたようでほっとした。
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DONE毎日納占。ご飯を食べる納占13日目。ごはんを食べよう13 マグカップに卵を一つ、溶き入れる。
サラダ油と砂糖を混ぜて、最後にホットケーキミックスをよく混ぜる。
ホットケーキミックスはお菓子作りの細かいコツなんかを全て吹き飛ばしてくれる素晴らしい発明だ。
荘園で、趣味でお菓子を作っていた女性サバイバーなんかはこぞって欲しがるのではないだろうか。
ダイニングキッチンと続き間になったリビングのソファに座り、じっとこちらを見ているイライに「すぐできるよ」と言ってマグカップを電子レンジに入れる。膨らむまで二分。
あとは電子レンジに任せるだけだ。
我慢が出来なくなったのか、イライがキッチンまで寄ってくる。
「楽しみだなぁ」
電子レンジの中を見つめて、カップケーキが膨らんでいくのをイライと共に見る。
652サラダ油と砂糖を混ぜて、最後にホットケーキミックスをよく混ぜる。
ホットケーキミックスはお菓子作りの細かいコツなんかを全て吹き飛ばしてくれる素晴らしい発明だ。
荘園で、趣味でお菓子を作っていた女性サバイバーなんかはこぞって欲しがるのではないだろうか。
ダイニングキッチンと続き間になったリビングのソファに座り、じっとこちらを見ているイライに「すぐできるよ」と言ってマグカップを電子レンジに入れる。膨らむまで二分。
あとは電子レンジに任せるだけだ。
我慢が出来なくなったのか、イライがキッチンまで寄ってくる。
「楽しみだなぁ」
電子レンジの中を見つめて、カップケーキが膨らんでいくのをイライと共に見る。
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DONE毎日納占。ご飯を食べる納占12日目。ごはんを食べよう12 ぷつ、と小気味よく歯で噛み切れる海老は甘く、味わっているのにもう食べ終わってしまった。
「美味しかったね、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
イライもそうなのだろう。
美味しかったと笑うその目には満足げな色が宿っている。
「イライ、これからどうしますか?」
「どう?」
「何か、買いたいものとか。あれば付き合います」
「うーん……、食材はさっき買ったし……あ!ホットケーキミックスが余ってたよね」
「ええ、少しですが」
「マグカップで作るカップケーキ、あれが食べたいな。イソップくんが前に作ってくれた……」
イライが言っているのは、イソップが以前にインターネットで見つけたレシピで作ったカップケーキのことだろう。
638「美味しかったね、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
イライもそうなのだろう。
美味しかったと笑うその目には満足げな色が宿っている。
「イライ、これからどうしますか?」
「どう?」
「何か、買いたいものとか。あれば付き合います」
「うーん……、食材はさっき買ったし……あ!ホットケーキミックスが余ってたよね」
「ええ、少しですが」
「マグカップで作るカップケーキ、あれが食べたいな。イソップくんが前に作ってくれた……」
イライが言っているのは、イソップが以前にインターネットで見つけたレシピで作ったカップケーキのことだろう。
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PROGRESS(https://www.pixiv.net/novel/series/13087851)の続き。ガトノワとガトホワが幸せになるはなし。ガトとホワが出会う話。
ガトノワとガトホワが幸せになるはなし2 正午、食事を摂り終え、ホワイトは本棚の整理をしていた。
ひっきりなしに大小の依頼が来るので、書類整理はどれだけしても終わらない。
それでも、少しだけでも見やすくすればそれだけ効率が上がるので、ことオルフェウス探偵事務所では本棚の整理も重要な仕事だった。
他に、ホワイトは猫探しの依頼や失せもの探しの依頼を手伝うこともある。
ホワイトはなぜかこうしたことに対する勘が良く、逃げた猫や失くしものの在り処をぴたりと当ててしまうのだ。そういうわけで、ホワイトはこのオルフェウス探偵事務所で役割を得、のびのびと生活していた。
保護されたとき、ホワイトはひどく衰弱していたらしい。医者が言うには、なんらかの劇薬に近い薬を大量に投与された形跡がある、ということだ。
4085ひっきりなしに大小の依頼が来るので、書類整理はどれだけしても終わらない。
それでも、少しだけでも見やすくすればそれだけ効率が上がるので、ことオルフェウス探偵事務所では本棚の整理も重要な仕事だった。
他に、ホワイトは猫探しの依頼や失せもの探しの依頼を手伝うこともある。
ホワイトはなぜかこうしたことに対する勘が良く、逃げた猫や失くしものの在り処をぴたりと当ててしまうのだ。そういうわけで、ホワイトはこのオルフェウス探偵事務所で役割を得、のびのびと生活していた。
保護されたとき、ホワイトはひどく衰弱していたらしい。医者が言うには、なんらかの劇薬に近い薬を大量に投与された形跡がある、ということだ。
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DOODLE毎日納占11日目。ご飯を食べる話。ごはんを食べよう11 イソップの言葉に、イライが笑う。
「じゃあ、私のと交換しようよ。……ああでも、少し溶けちゃってるから……」
「交換しましょう」
食い気味に口にした言葉に、自分で驚く。
イライの方も、目をぱちぱちと瞬いている。
「イソップくん、変わったね」
「変わりましたか?」
「うん。イソップくん、人の手のついたもの苦手だと思ってた。忘れてたくらい、馴染んでたけど」
「それは……」
イソップは少し考えて言った。
「それはきっと、相手があなただから、だと思う」
「私?」
「はい」
イソップは頷いた。
箸で海老天をイライの鍋に移動させる。イライは少しのうどんと出汁を小鉢に入れて、その上に海老天を乗せてよこした。
箸の使い方にも、ずいぶん慣れた。それだけの時間、ここで過ごしている。
564「じゃあ、私のと交換しようよ。……ああでも、少し溶けちゃってるから……」
「交換しましょう」
食い気味に口にした言葉に、自分で驚く。
イライの方も、目をぱちぱちと瞬いている。
「イソップくん、変わったね」
「変わりましたか?」
「うん。イソップくん、人の手のついたもの苦手だと思ってた。忘れてたくらい、馴染んでたけど」
「それは……」
イソップは少し考えて言った。
「それはきっと、相手があなただから、だと思う」
「私?」
「はい」
イソップは頷いた。
箸で海老天をイライの鍋に移動させる。イライは少しのうどんと出汁を小鉢に入れて、その上に海老天を乗せてよこした。
箸の使い方にも、ずいぶん慣れた。それだけの時間、ここで過ごしている。
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DONE10日目。ご飯を食べる納占。うどん。ごはんを食べよう⑩「私、鍋焼きうどんにするよ」
「では僕は天ざるうどんで」
注文して少しすると注文したものがそれぞれ運ばれてくる。
イライの鍋焼きうどんには大きな海老天が二本も乗っており、これは天ぷらをわけないでよかったかもしれないな、なんて思う。
大事そうに天ぷらを横に避けてうどんを啜るイライを見ながら、自分もざるうどんをもむもむと咀嚼する。
啜るというのがどうにもうまく行かない。文化の違いだろうか。慣れなくて上手く啜れないのだ。その点、イライは柔軟なのか、すぐに順応した。今は蕎麦もラーメンもずるずる啜って食べている。
ざるうどんのつけ汁は少し甘口だった。
鰹出汁が良く効いており、醤油の塩気と相まって濃く、うどんとよく合う。
576「では僕は天ざるうどんで」
注文して少しすると注文したものがそれぞれ運ばれてくる。
イライの鍋焼きうどんには大きな海老天が二本も乗っており、これは天ぷらをわけないでよかったかもしれないな、なんて思う。
大事そうに天ぷらを横に避けてうどんを啜るイライを見ながら、自分もざるうどんをもむもむと咀嚼する。
啜るというのがどうにもうまく行かない。文化の違いだろうか。慣れなくて上手く啜れないのだ。その点、イライは柔軟なのか、すぐに順応した。今は蕎麦もラーメンもずるずる啜って食べている。
ざるうどんのつけ汁は少し甘口だった。
鰹出汁が良く効いており、醤油の塩気と相まって濃く、うどんとよく合う。
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DOODLE毎日納占9日目。ご飯を食べる納占。ごはんを食べよう⑨「うん」
手を繋いで歩く。こんな穏やかな日がいつまで続くのかわからない。
ある日突然荘園に戻されるかもしれない。
そうなったら、自分たちはどうなるのだろう。
また、命懸けのゲームができるだろうか。
ベーコンは家にあるから、じゃがいもやにんじん、玉ねぎなどの野菜を買う。
イソップとイライの住むマンションの近くにはそう大きくはないが商店街があり、その中にいくつか飲食店がある。
ふと香る出汁の香りに、イライが足を止めた。
「ここ、うどん屋さん、美味しいよね」
「入りますか?」
「いいの?」
「そろそろ昼食の時間ですから。どうせ昼は外で食べるつもりでした」
手で開けるタイプの、イソップ達には慣れたドアを開ける。ちりん、と軽いベルの音がして、腰の曲がった店員が「いらっしゃい、お好きな席にどうぞ」と笑いかけてくる。
569手を繋いで歩く。こんな穏やかな日がいつまで続くのかわからない。
ある日突然荘園に戻されるかもしれない。
そうなったら、自分たちはどうなるのだろう。
また、命懸けのゲームができるだろうか。
ベーコンは家にあるから、じゃがいもやにんじん、玉ねぎなどの野菜を買う。
イソップとイライの住むマンションの近くにはそう大きくはないが商店街があり、その中にいくつか飲食店がある。
ふと香る出汁の香りに、イライが足を止めた。
「ここ、うどん屋さん、美味しいよね」
「入りますか?」
「いいの?」
「そろそろ昼食の時間ですから。どうせ昼は外で食べるつもりでした」
手で開けるタイプの、イソップ達には慣れたドアを開ける。ちりん、と軽いベルの音がして、腰の曲がった店員が「いらっしゃい、お好きな席にどうぞ」と笑いかけてくる。
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DONEご飯を食べる納占。毎日更新8日目。ごはんを食べよう⑧ イソップは素直にそう答えた。
今まで──荘園に来るまで──イライに出会うまで、イソップは食事に関して何かを思うことはなかった。
食事は体を動かすために必要な作業で、面倒なことだったからだ。
それが、イライとこうして何かを食べるようになってから、特別なもののように思えるようにかった。
イソップはソフトクリームをスプーンで掬った。一口口に含むとすうっと溶けていく甘いミルクの味が舌に心地よい。
目の前には上機嫌にソフトクリームを舐めているイライがいて、ああ、いいなと思った。
「イライ」
「何、イソップくん」
「僕、あなたが好きです」
イソップの落とした爆弾に、イライは目を見張り、そうしておいてからゆっくりと瞬いた。
745今まで──荘園に来るまで──イライに出会うまで、イソップは食事に関して何かを思うことはなかった。
食事は体を動かすために必要な作業で、面倒なことだったからだ。
それが、イライとこうして何かを食べるようになってから、特別なもののように思えるようにかった。
イソップはソフトクリームをスプーンで掬った。一口口に含むとすうっと溶けていく甘いミルクの味が舌に心地よい。
目の前には上機嫌にソフトクリームを舐めているイライがいて、ああ、いいなと思った。
「イライ」
「何、イソップくん」
「僕、あなたが好きです」
イソップの落とした爆弾に、イライは目を見張り、そうしておいてからゆっくりと瞬いた。
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DONEご飯を食べる納占。毎日更新7日目。ソフトクリームの先を一口で食べるのは贅沢という話。
ごはんを食べよう⑦ イライはどこか遠くを見るような目をして、公園で行き交う人々を見やった。
「たしかに、ここは似ているものね」
頷くと、イライはイソップに視線をよこした。
細められた目は笑っているように見えた。
けれど、イソップにはイライが本当のところどう思っているのかはわからなかった。
どれだけイライが普通にしていても、イライをここに来させてしまったという気持ちがどうしても消えない。
だってここにきた時、イソップはイライと一緒にいられることを喜んだのだ。
他の何のしがらみもない、全く知らない国で、時代で、イライと生きられて嬉しいと、そう思ってしまったのだ。イライを婚約者から、願いから無理に引き離したのはイソップだ。
801「たしかに、ここは似ているものね」
頷くと、イライはイソップに視線をよこした。
細められた目は笑っているように見えた。
けれど、イソップにはイライが本当のところどう思っているのかはわからなかった。
どれだけイライが普通にしていても、イライをここに来させてしまったという気持ちがどうしても消えない。
だってここにきた時、イソップはイライと一緒にいられることを喜んだのだ。
他の何のしがらみもない、全く知らない国で、時代で、イライと生きられて嬉しいと、そう思ってしまったのだ。イライを婚約者から、願いから無理に引き離したのはイソップだ。
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DONEご飯を食べる納占。毎日納占6日目。ごはんを食べよう⑥ 目を覚ましたのは知らない場所だった。
見たこともない内装、用途すらわからない機械の数々。ハンター、芸者に顔立ちの似ている人々……。それなのに言語だけは難なく理解できる。
後にそれが病院の中だった、と知ったのだが、当時のイソップはあまりの衝撃にしばらく言葉を発せなかった。
傍にいてイソップが起きるまで見ていたらしいイライが「ここは安全だ」と言うまでイソップは混乱の中にいた。
イライ言わく、あの「レオの思い出」での最後の攻防後、二人揃ってハッチに落ちたイソップとイライはこの「日本」という国に飛ばされてきたらしい。
時代すら違う、と聞いた時には目を剥いた。
だというのに、この時代、この国には「なぜか」イソップとイライ二人の同居する家があり、イソップたちの戸籍すらあった。
543見たこともない内装、用途すらわからない機械の数々。ハンター、芸者に顔立ちの似ている人々……。それなのに言語だけは難なく理解できる。
後にそれが病院の中だった、と知ったのだが、当時のイソップはあまりの衝撃にしばらく言葉を発せなかった。
傍にいてイソップが起きるまで見ていたらしいイライが「ここは安全だ」と言うまでイソップは混乱の中にいた。
イライ言わく、あの「レオの思い出」での最後の攻防後、二人揃ってハッチに落ちたイソップとイライはこの「日本」という国に飛ばされてきたらしい。
時代すら違う、と聞いた時には目を剥いた。
だというのに、この時代、この国には「なぜか」イソップとイライ二人の同居する家があり、イソップたちの戸籍すらあった。
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DONEご飯を食べる納占の続き。過去の話。毎日納占5日目。ごはんを食べよう⑤「イライ……!」
逃げなければ。心音は近付いている。
自分たちを探しているのだろうか。
イソップはイライの手を引いて立ち上がった。
「イソップくん……?」
「こっちへ」
ここで隠密していてもすぐに見つかるだろう。
ならば少しでも可能性の高い生存方法を選ぶべきだ。
「イソップくん、私のことはいい、君だけでも……」
「黙って」
イソップはイライの治療を完了させて言った。
分かっている、暗号機の解読をしない以上、二人で出ることは不可能だ。少しでも生存の可能性を増やすなら、イライの言うとおり、イライを囮にして自分だけハッチで出るのが一番いい。
それをしないのは、昨日、イライに身を挺して庇われて、自分だけ逃がされたせいかもしれない。
1069逃げなければ。心音は近付いている。
自分たちを探しているのだろうか。
イソップはイライの手を引いて立ち上がった。
「イソップくん……?」
「こっちへ」
ここで隠密していてもすぐに見つかるだろう。
ならば少しでも可能性の高い生存方法を選ぶべきだ。
「イソップくん、私のことはいい、君だけでも……」
「黙って」
イソップはイライの治療を完了させて言った。
分かっている、暗号機の解読をしない以上、二人で出ることは不可能だ。少しでも生存の可能性を増やすなら、イライの言うとおり、イライを囮にして自分だけハッチで出るのが一番いい。
それをしないのは、昨日、イライに身を挺して庇われて、自分だけ逃がされたせいかもしれない。
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DONEご飯を食べる納占。その④。ふたりの過去。ご飯食べてない。ごはんを食べよう④ は、は、息を荒げて走るのは雪景色の中だ。
サバイバーはすでに二人脱落した。
残り暗号機は八割ほどのものが一台だが、二人とも傷付いていてハンターの特質も残っている状態では上がり切るかも怪しい。
三人目をロケットチェアに座らせて脱落させてから、残ったサバイバーであるイソップとイライが目視されなかったのは大きかった。
ともかく、一度立て直しを図らないとハッチ逃げもできない。
「見つけた、イライ」
「イソップ……くん」
ぜえぜえと肩で息をするイライは、小屋の陰に蹲っていた。夥しい血が彼の腹に穴に空いた傷から流れていて、イソップはグッと奥歯を噛んだ。
「治療をしましょう」
「大丈夫、だよ。この状況ならあと数分もすれば私は失血死する。だから、イソップくんだけでも逃げるんだ。ハッチは月の見えるゲート側にあった」
623サバイバーはすでに二人脱落した。
残り暗号機は八割ほどのものが一台だが、二人とも傷付いていてハンターの特質も残っている状態では上がり切るかも怪しい。
三人目をロケットチェアに座らせて脱落させてから、残ったサバイバーであるイソップとイライが目視されなかったのは大きかった。
ともかく、一度立て直しを図らないとハッチ逃げもできない。
「見つけた、イライ」
「イソップ……くん」
ぜえぜえと肩で息をするイライは、小屋の陰に蹲っていた。夥しい血が彼の腹に穴に空いた傷から流れていて、イソップはグッと奥歯を噛んだ。
「治療をしましょう」
「大丈夫、だよ。この状況ならあと数分もすれば私は失血死する。だから、イソップくんだけでも逃げるんだ。ハッチは月の見えるゲート側にあった」
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DONEご飯を食べる納占。その3。ここにきた経緯。ごはんを食べよう③「死んでも生き返る。生と死がぐちゃぐちゃの場所。迷う人が多い場所」
手を伸ばしてイライの頬をするりと撫ぜる。イライはゆっくりと瞬きをした。深い青い色の目に、今、未来を視る力は宿っていない。
彼をただの人間にしたのはイソップだった。
「あなたは?」
イソップの手がイライの首筋をなぞり、そのシャツを整えて引っ込む。
イライはぱちぱちと瞬きをした。
「あなたは、帰りたい?」
「……私は……」
イライはそう言って、困った顔でイソップを見た。それが答えだった。
ああ、帰りたいのかと思う。彼の婚約者を残した時代に、彼の婚約者のいる世界に、帰りたいのかと。
たとえ死と隣り合わせの世界でも、イライはそこに希望を見出していた。
1157手を伸ばしてイライの頬をするりと撫ぜる。イライはゆっくりと瞬きをした。深い青い色の目に、今、未来を視る力は宿っていない。
彼をただの人間にしたのはイソップだった。
「あなたは?」
イソップの手がイライの首筋をなぞり、そのシャツを整えて引っ込む。
イライはぱちぱちと瞬きをした。
「あなたは、帰りたい?」
「……私は……」
イライはそう言って、困った顔でイソップを見た。それが答えだった。
ああ、帰りたいのかと思う。彼の婚約者を残した時代に、彼の婚約者のいる世界に、帰りたいのかと。
たとえ死と隣り合わせの世界でも、イライはそこに希望を見出していた。
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DONEご飯を食べる納占。その2。全年齢。続きます。ごはんを食べよう② 揃った声が、まだひんやりとした春の空に吸い込まれていく。
すく、とナイフで切った目玉焼きは、よく焼いたからか少し黄身がふわふわしている。
塩を振って頬張ると、表面の白身がカリカリしていていい音がする。卵と、少し油の味。それに塩味が加わって美味しい。ちらと目の前のイライを見やると、イライはベーコンと卵を重ねて食べていた。
いいなそれ、僕もやろう。
今度の一口には塩を振るのはやめて、切ったベーコンと卵の黄身を重ねて食べた。
卵の甘さとベーコンの塩気が絶妙なバランスで、我ながらよくできたと思う。
「イライ、ついてる」
「え? どこ?」
「ここ」
ホットミルクが口の端に残って髭みたいになっているイライがかわいい。
734すく、とナイフで切った目玉焼きは、よく焼いたからか少し黄身がふわふわしている。
塩を振って頬張ると、表面の白身がカリカリしていていい音がする。卵と、少し油の味。それに塩味が加わって美味しい。ちらと目の前のイライを見やると、イライはベーコンと卵を重ねて食べていた。
いいなそれ、僕もやろう。
今度の一口には塩を振るのはやめて、切ったベーコンと卵の黄身を重ねて食べた。
卵の甘さとベーコンの塩気が絶妙なバランスで、我ながらよくできたと思う。
「イライ、ついてる」
「え? どこ?」
「ここ」
ホットミルクが口の端に残って髭みたいになっているイライがかわいい。
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DONEご飯を食べる納占①。全年齢。続きます。ごはんを食べよう① じぶじぶと音を立てて目玉焼きが焼けていく。
卵の焼ける匂い、油の香りが部屋に広がって、イソップはそこでぽん、と目玉焼きをひっくり返した。
イライの好みは固焼きの両面焼きだから、イソップもそれに合わせる。
二枚同時に焼いてしまった方が楽だからだ。
火が通り切った目玉焼きは、最後に少し火を強めて表面を揚げ焼きにする。白身がカリカリして美味しくなる。以前、イライにこれを出したら目を輝かせて喜んできたから、それから目玉焼きを作る時のイソップのルーティンになった。
「イソップくん。おはよう」
「おはよう、イライ」
眠たそうな目をこすりながら、榛色の髪を揺らしてイライが降りてきた。
ずいぶん寝汚い彼は、しかし朝ごはんの香りでスッキリ起きられるらしい。食い意地が張っているというか、なんというか……そういうところがかわいいのだけれど。
1000卵の焼ける匂い、油の香りが部屋に広がって、イソップはそこでぽん、と目玉焼きをひっくり返した。
イライの好みは固焼きの両面焼きだから、イソップもそれに合わせる。
二枚同時に焼いてしまった方が楽だからだ。
火が通り切った目玉焼きは、最後に少し火を強めて表面を揚げ焼きにする。白身がカリカリして美味しくなる。以前、イライにこれを出したら目を輝かせて喜んできたから、それから目玉焼きを作る時のイソップのルーティンになった。
「イソップくん。おはよう」
「おはよう、イライ」
眠たそうな目をこすりながら、榛色の髪を揺らしてイライが降りてきた。
ずいぶん寝汚い彼は、しかし朝ごはんの香りでスッキリ起きられるらしい。食い意地が張っているというか、なんというか……そういうところがかわいいのだけれど。
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PROGRESS12月に出す本の進捗。自分の命を軽く扱う観測者に怒る命の翻弄者のお話、の導入。R15くらい。
琴月が城から逃げ出して翻観になったという前提です。マシュマロとかスタンプいただけると作者のやる気が湧きます 1448
ruri_i5
DOODLE陰キャ組webオンリー「In Catch the Quartet」の展示物でした。現パロで傭と占が買い物に行くというのでついてきた探と納という、探傭・納占お買い物デート漫画です。
全然完成できず下書き状態です。約2年経った24年現在も下書き状態です。いつか完成させたい気持ち半分いつ進めるんだと思って再公開しました。全10Pになります。
まじで下書きですがOKな方はパスワード→yes 10
maroronias
DONEDistorted Utopia (1/2)納占
昨年8月に発行した、コスプレ×ドール コラボ写真集のWeb再録です。
当時、お手にとってくださった皆様、誠にありがとうございました! 21