海の幸 燃える炭火がちりちりと頬の水分を奪う。普段自宅であたっているエアコンの乾ききった温風とは性質が全く違っていた。皮膚を貫通した遠赤外線が骨まで到達して、体の奥底からじりじりと温度が上がっていくような感覚だった。
炭火を前に何をしているのかと問われれば、ただ暖をとっているわけではない。牡蠣を焼いている真っ最中だった。机上に置かれたかごに山のように盛られた牡蠣以外にも、海老に蛸、帆立に鮑、蟹の爪などが海の幸の見本市の如く、網の上で無駄な隙間なく、テトリスのように並んでいる。
焼き上がるのを待っていた。遠赤外線だけで満足している僕よりも直接に、炭火にあたる魚介類たちはもれなく全て、そこに置かれてしまえば行き着く先は誰かの腹の中になる。例えば僕とか狂児とか。
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