居待月舞台裏奇譚 ●
奉一の得物は村田銃。
お父様から受け継いだ誇りで、お父様が彼を護った愛のしるしで、気高き又鬼の矜持そのもので、人生を共に過ごした魂の片割れで、数多の怪物を撃った戦友で、ゆえにこそ『武器』とか『仕事道具』なんて言葉で簡単に片付けていいものではなくて。ましてや、人殺しの兵器などではなくて。
「『ジャーム』はこちらで対応しましょうか」
UGNの偉い人が僕に言う。
ジャーム、『なんて言葉で簡単に片付けられている』けれど、それは人間で。
僕は悩んだ。
UGNに全て任せれば、奉一は人間を撃たずに済む。だけど第三者が関与すればするほど、僕らの血の秘密が露呈する危険性があり、第二第三の『清井奏事件』や『ゼミ事件』が発生しかねない。また、僕ら以外のオーヴァードが対応したことでプライドの高そうなヘッドノッカーが癇癪を起こして、無差別殺傷にやり口をシフトする危険性もある。奴の狙いは僕らなのだから、無関係な人間が危険な目に遭うのは嫌だった。
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