サイケデリック ●
今日も空を見ている。飽きずに空を見ている。
目が見えるようになって、空を見慣れたら、「空が綺麗」だなんてはしゃがなくなると思っていた。大体の人間が、大人になればいちいち空なんて見上げなくなるなるように。しかし相変わらず、侠太郎は今日も空を見ている――「遠くで雨の音がするから、虹が見れるかもしれん」なんて言って。
「伊緒兵衛」
ノックの直後にドアが開く。ノックの概念を何度説明したことか。分かっている上で「なんで待たなアカンねん」と、彼の故郷の言語で言う『イラチ』な性分がそれを無視する。
「はい?」
執務机から顔を上げた。室内には入って来ず、ドア枠にもたれている侠太郎がいる。
「虹出とる」
「そうですか」
1894