【サンプル】ハネムーンを君と異人町のはずれ、あまり治安の良くないエリアにある中華料理店「佑天飯店」。
およそ店の入り口とは思えない無愛想な扉の奥には暗く狭い階段が地下に続いており、そのどん詰まりにある扉を開けてやっと店にたどり着く。
昼時を過ぎた店内に客の姿はほとんどない。
店のオーナーであり、料理人でもある趙天佑は、最後の客を送り出して「ありがとね」と声を掛けた。
そして、扉に『準備中』の札を掛けると店内へと視線を向ける。
視線の先で黙々と料理を口に運んでいるのは、界隈では「ハマの英雄」としてすっかり有名になり、この街の顔にもなった春日一番だ。
客は春日の他に誰もおらず、従業員も帰っていた。
趙は視線を向けたまま、春日の座るテーブル席ではなく、カウンター席に腰を下ろして食事をする春日を眺めていた。
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