春の日のこと、あかくろ 就職して数年経った頃に赤司が都内に買ったマンションは、拍子抜けするほど普通の家だった。
彼のことだから、エントランスからして豪華な、港区あたりのコンシェルジュ付きタワーマンション最上階でも選ぶとばかり思っていた。とはいえ赤司が実際購入したマンションも、都心までのアクセスが良く彼の勤める会社まで地下鉄一本で行けるし、地域的にも騒がしくなく、静かで落ち着いた街だった。マンションの住人も穏やかな人が多くて、すれ違いざまに黒子が挨拶をしたら、影の薄さに驚きつつも皆んなにこやかに返してくれる。
一人暮らしにしては間取りが広いとは思うものの、想像よりもずっと庶民的であたたかい家を、黒子も密かに気に入っていた。例えばの話、彼と一緒に住むことがあったら、こんな家だったら素敵だろうなと思えるくらいには。
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