潮騒と草 ●
「そこに居るんだろう、出ておいで」
ひなびた港町の、閑散とした昼下がりの漁港。防波堤に腰掛けて、潮風の中で煙草を吹かしていた男が、振り返らずに言う。
「……なんで分かる?」
小さな空き地の茂みから『立ち上がった』のは、自我持つ緑。いつもそうだ、こうして植物となっていても、この男は見つけ出してくる。空に目があるかのように。
「なんでだろうねぇ、不思議だねぇ」
横顔だけで振り返る七幸が、自分の隣をぽんぽんと叩く。ワルナスはちょっぴり警戒しつつ――なんとなく、この男は、おっかない、絶対に敵対してはいけない気がするし、敵対しても勝てない気がするから――少し離れた位置に腰を下ろした。見下ろせばすぐそこに深い青の海がある。防波堤の海に面した壁面には、フジツボやらなんやらがたくさんこびりついているのが見えた。
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