Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    800

    甘味。/konpeito

    TRAINING800文字チャレンジ!俺の相棒が世界一かわいい/クロリン
    寝るまでは本日の法則
    ちょうどクラブハウス内にあるシャワールームで汗を流し終えたところだった。
    「クロウ! よかった、まだ帰っていなくて」
     ここまで走ってきた様子のリィンが息を切らせて駆け寄ってくる。クロウは濡れた髪を拭きながらリィンの息が整うのを待った。
    「どうした、そんな慌てて。なんか用でもあったか」
    「ミュゼ、から聞いて。クロウが、来てるって」
     リィンの言葉でようやく合点がいった。どうやら先ほどまで訓練に付き合っていた彼の生徒から連絡がいったのだろう。それにしても、常日頃から鍛錬を怠らない彼にしては珍しい姿だ。つい、しげしげと眺めてしまう。
    「ミュゼの遠距離狙撃訓練、スタークの射撃訓練、アッシュとクルトには実戦訓練。ユウナには接近戦と射撃を混ぜた実戦訓練。それからアルティナには現場の状況解析のアドバイス。おかしいな。いつからクロウはここの教官になったんだ」
     呼吸が落ち着いたらしいリィンの激しい詰問にへらりと笑った。
    「いやー、ねだられると断れなくてなあ。教え甲斐があってなかなか楽しかったぞ」
     リィンの生徒とは過去に幾度も共闘していたこともあり、かたや相棒の生徒、かたや教官の相棒としてそれなりに 828

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/いとしいとしい/リ失踪もの
    リィンにとって、幸せとは脆く儚いものだった。平穏とは、常に脅かされるものだった。
    「ごめん、クロウ……」
     昨夜、互いの熱を分け合ったクロウの頬を指の背で撫でた。深い眠りに誘う魔女の秘薬を飲ませた彼は、どんな夢を見ているのだろうか。
     気持ちよさそうに寝息を立てるその唇をなぞり、口付けた。一度では足りず、クロウの感触を刻むようにもう一度口付ける。
    「ごめん……」
     震える声で懺悔し、ふたりで競うように脱がし合い、ベッドの周りに散りばめた衣服を拾い上げて身なりを整える。シャワーは浴びなかった。まだ、クロウに触れられた感覚を流したくはない。薄い腹のなかに吐き出された彼の欲でさえ、このまま己の血肉になればいいと願った。
     そうしてリィンは軋む身体を引きずり、クロウの前から姿を消した。
     さよならは言えなかった。たとえ相手が寝ていたとしても、終わりの言葉は使えない。
     ――そろそろ付き合わないか、俺たち。
     馴染みのバーでいつものようにふたりで飲んでいたときだった。お互いいい歳なんだしと続けたクロウは、静かにロックグラスのなかの琥珀を眺めている。先月のことだ。嬉しかった。でも、それ以上に怖かっ 745

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ/ロマンティックが聴こえる
    リの心の声が聞こえるク/クロリン
    ――好きだ。
    「えっ」
     つよい声だった。頭をがつんと殴られたような衝撃に思わずそこをさする。目の前にいる相棒、リィンが心配なのか眉を下げてこちらを見上げていた。
     背後や周囲に人はいない。ここはリィンの部屋だ。
    「どうしたんだクロウ」
    「あー、いや。なんでもねえ」
     安心させるためにへらりと笑ってみせれば、今度は眉間にぐぐっと皺が寄った。
    ――心配だ。どうしたんだろう。言えないのかな。クロウ、クロウ、クロウ。
     また、頭のなかに声が響く。よくよく聞けばリィンの声だった。表情からそんなことを言いそうな顔はしているが、彼の口は一リジュも動いていない。
    「んー……」
     指で己の顎を撫で、今の状況を分析する。そのうえで、いくつか試してみることにした。
    「リィン、」
     わざと耳朶を舌で嬲り、情事を連想させるような甘い声で囁く。
    「ぅ、……あ……」
    ――び、びっくりした、びっくりした。クロウ、の声。夜の声。
     夜、というのはセックスを指すのだろうか。リィンらしい慎ましい表現に頬が緩んだ。耳への愛撫を続けながら彼の身体を弄っていく。
    ――キス、したい、のに。どうしよう、恥ずかしい。言えない。キス、 857

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロ+リン。旅立ちの日
    「リィンくん、本当に教官辞めちゃうの」
     もう何度目だろう。
     会う人会う人に同じ質問をされていたリィン・シュバルツァーは、ええそうなんですとこちらも同じ答えをトワに返した。三十三歳を迎えた今年、リィンはこのトールズ士官学院の教官を辞める。
     ひと通り、身の回り荷物を分別していく。捨てるもの。捨てないもの。捨てないもののなかから仲間に譲るもの、譲らないもの。譲らないもののなかから最後に、リィンが持っていくものを厳選した。
     持っていくものは、クロウから返してもらった五〇ミラ、家族の写真。それを何泊かの着替えとともに鞄に納める。仲間に譲り渡すものは全て、小包みに手紙を添えて送った。
     最後になる生徒たちの卒業式を終えて来期からの後任に引き継ぎを済ませたあと、リーヴス駅に向かう。行き先は決めていなかった。
    「おいおい、俺を置いていくつもりかよ」
    「クロウ……」
     駅構内に入るとすでに見知った顔がひとつあった。思わず他にも来ているのだろうかと探すが、あいにく俺ひとりだと笑われた。
    「さて、行きますか。死に場所探しの最期の旅へ」
    「ああ。そうだな」
     ふたり揃って列車に乗り込む。その後、ふたり 844

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    遊撃士となったアシュクル珍道中口噛み酒編
    村の神事に人手が足りず困っている。
     遊撃士として日々依頼をこなしているアッシュは、今回も街道沿いで目撃されたという魔獣討伐を終えて近郊の村を訪れていた。そんな、たまたま訪れたその村で行なわれるという神事で困っていると村長から聞いてしまった同行者は、持ち前の真面目さを発揮していた。
     聞かなければよかったと頭を抱えているアッシュの隣りで、クルトはことの重大さに気が付いていないのか普段と全く様子が変わらない。
    「確認ですが、この村では豊穣の祭りとして口噛み酒を奉納すると。そしてそれを作るのは未婚の処女に限る、そうですね」
    「どうも既婚者が奉納した年は成りが悪かったらしく、代々そういう決まりになっております」
     村長の言葉になるほどと頷くクルトが眉尻を下げた。
     聞いたからにはなんとかしてあげたいのだろう。アッシュ自身も困り事を見過ごせないたちではあるが、できることとできないことの分別くらいはついている。仕方がないので、キリのいいところで助け舟を出してやろうと壁から背中を浮かせたときだった。
    「はあ。自分とアッシュは確かに未婚です。しかし、男、なのですが」
    「大丈夫です。巫女装束を着て務め 819

    甘味。/konpeito

    TRAINING寝るまでは本日の法則で800文字
    誕生日の前日譚。クロリン、ク視点
    同居一年目は、釣り好きなリィンのために新作の釣り竿を。二年目にはクロウが彼の服をトータルコーディネートした。三年目にはふたりで温泉地巡りをして、四年目は、手作りの豪華な夕食をプレゼント。そして五年目の今年、いよいよリィンの誕生日が来週に迫っているにも関わらず、クロウはまだなにをプレゼントするか悩んでいた。
    「欲しい、もの?」
    「そうそ。そろそろ誕生日だろお前」
     トールズの同窓会から帰ってきたリィンに水を渡しながらさり気なく声をかけた。
     強かに酔ったリィンの記憶が怪しくなることを利用するのは多少気が引けたが、背に腹は変えられない。
    「クロウ」
     水の入ったコップを両手で包んだリィンがぼんやりこちらを見上げていた。呼ばれたと思い、彼に顔を寄せる。
    「ん? なんだ」
    「クロウ。クロウがほしい」
     ほしいってなんだ俺はものじゃねえと危うくつっこみそうになり、それを喉の奥に押し留めた。
    「いやな、誕生日プレゼントの話してんだよ」
    「分かってるぞ。だから、クロウが欲しいんだ」
    「分かってねえから。この酔っ払いめ」
     もう一度クロウが質問の趣旨を説明しても、きょとりと瞬いたリィンは同じことしか口 809

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    同居クロリン「誕生日」12本のバラの花言葉はわたしと付き合ってください
    「なあリィン、誕生日プレゼント欲しいもんあるか」
     行きたいところでもいいけど。あんまり軽い話し口にリィンは目を白黒させた。夕食の献立を聞いてきたのを、聞き間違えたのだろうか。
    「クロウ、その。もう一回言ってくれるか」
    「だから、誕生日プレゼント。なにがいい」
     聞き返したリィンの徒労も虚しく、クロウは先ほどと同じことを口にした。誕生日、なにがいい。それを理解するまでふたたび硬直してしまったリィンはジャムのたっぷり塗られたパンをクロウに口のなかへ放り込まれてようやく現実に帰ってきた。
     同居をはじめてはや五年目。
     最初は凝ったサプライズを仕掛けてきていたクロウが今年は直接聞いてきた。つまり、もう考えるのも面倒になってしまったのだろう。そのうち一緒に住むのも面倒になって、また旅に出てしまったら――。
    「リィン教官?」
     伺うような生徒の声で我に帰った。今は勤務中だ。胸のなかのわだかまりをどうにか抑えて授業に集中した。
     結局、誕生日当日までクロウの問いに答えは見つけられなかった。昨日も聞かれたリィンは、今年は何もいらないから。もう祝うような歳でもないし、ケーキもプレゼントはもう要らない 807

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ尋ね人は佳人を求める
    Ⅳノマ√後、クロリン。ク転生
    東方には、不思議な話が伝わっている。
     砂漠で迷うと火の化身、不知火が出るというものだ。不知火は白い毛に赤い目をしていて、迷い人を人里まで案内してくれる心根の優しいものなのだと言われていた。
     不知火にはかならずお供がそばに描かれている。猫のようであったり、鳥のようであったり、はたまた人のようでもあった。不知火はそれを生涯ただ唯一の相棒だと呼んでいた。その話をする不知火はアムリタの涙を流したという。



     ようやく辿り着いた家の扉をノックした。
    「どなたです……、か」
     恐る恐るひらいただろう扉の向こうから探し求めた愛しい人の顔が現れる。こちらを認識した瞬間、彼の瞳が揺れた。真っ赤な目から頬を伝い落ちる雫を指で拭う。あたたかい涙だった。
    「久しぶりだな。リィン」
    「ク、……ロウ」
     リィンは目の前に突然現れた俺の姿形を確かめるように頬を両手で包んでいる。しばらくそうしてからぎゅうぎゅう抱きついてきた。
    「いやあ、ここに辿り着くまで三回も生まれ変わったわ。まあでも、お前が変わらずお人好しで助かった。お前、伝承になってるぞ」
     案内された家のなかで当たり前のように紅茶を出されて曖昧に笑 823

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ!ちっちゃくなったリ
    Ⅳエンディング後/幼さに残る面影
    「おいおい、なんでリィンがちっこくなってるんだよ」
     黄昏を終え、女神の至宝から思いがけない追加ステージを与えられたクロウ・アームブラストは、同じベッドのうえでシャツに埋もれ丸くなっているかたまりに頭を痛めていた。あどけない寝顔を晒す彼は、昨日トールズ士官学院リーヴス第Ⅱ分校へ帰ったはずのリィン・シュバルツァーだった。
     そう、リィンとはリーヴスで別れたはずだった。クロウは一度死亡していた存在であるためいまだ不用意に出歩けず、ローゼリアとともに魔女の里と呼ばれるここ、エリンの里に身を寄せていた。
    「なんじゃ、うるさいのう。シュバルツァーなら昨夜遅くにエマから連絡があってな。妾が連れてきた」
     階下にいたはずの魔女の長、ローゼリアがいまだ寝ているリィンの頬をつつく。いつのまに入室したのだろう。考えるより先にむずかるリィンの姿に慌てて魔女の手を掴んだ。
    「へえ、なるほど。いや、なんで俺のベッドに入れんだよ」
    「泣きやんだからじゃが。しかし改めて見てもちんまくなったのう。妾より小さくなっておる」
     かっかっかっ、と笑う彼女には現状がそう逼迫したものに感じないらしい。緊張感のない様に肩の力が抜 803

    444yomotu

    TRAINING1日800文字のやつ。今日のが結構気に入ったのでテキストをアップするとどうなるかのテストと、マイタグのテストを兼ねて。
    ブ主だけどブラウンがいない。うちのピアスはおくちがわるい。
    上杉は目立つ。
     学校のあちこちに出没するが、彼がどこにいてもすぐ気が付けてしまうほどに。奴の言動の全てがやかましいとは、南条の言葉だ。

     今も廊下の向こう側から、でっひゃっひゃ! と馬鹿笑いが響いてくる。どうせあの角を曲がった先に奴がいるのだろう、と視線をやった。
    「まーた見てら」
     呆れきったマークの声が俺の背にぶつけられる。振り返り、何が、と吐き捨てる。
    「ほんとあいつのこと好きだよなー」
    「だから。別にそういうんじゃなくて。上杉がうるさいから」
    「キレんなよ」
     先ほどまで呆れきっていたマークの顔は、ニンマリと笑っていた。クソ、こいつ俺のことからかってやがる。
     不愉快さを隠さず、廊下に背を預けて腕を組み、じとりとマークを睨む。だが、彼は「おおこわ」なんて言いながらも肩を竦めるだけだ。効いちゃいない。
    「お前がしつこいからだろ」
    「オマエがブラウンに毎日毎日毎回毎っ回反応すっからだろー。飽きねえもんかね」
    「うるさい。あいつが目立つから」
    「でもよ、わざわざあいつの方見ることあるか?」
    「……」
     見ない理由もあるか? と返そうとし、いやいや、見ないのが普通だと言葉を飲み込む 1220

    甘味。/konpeito

    TRAINING今朝の800文字チャレンジ。佳人は尋ね人を待つ
    ノマ√リィンくんのその後のお話。モブ視点
    「本当なんです。本当に砂漠の真ん中にオアシスがあったんです」
     緑が青々と茂っていて、水も湧いていました。そう熱弁する少年を周囲は笑った。それもそのはず。ゼムリア大陸の東には、人を拒むような広大な砂漠地帯が広がっている。近年は砂漠の緑化に努めてきたお陰か侵食は進んでいないものの、それはごく一部の話だった。
     少年はそれきり口を閉ざした。
     いつしか幼少の時分にそんなこともあったなと妻子とともに暮らしながら不思議な思い出として振り返るようになった頃、少年だった男を訪ねてきた者がいた。
    「なあ。砂漠のど真ん中にあるオアシスを見たっつーのはあんたか」
     訪ねてきた男は血のような真っ赤な目をしていた。こちらの地方では珍しい銀髪なのできっと旅行者だろう。
    「ああ。そんな話もしたな。なんだ、ホラ吹き少年でも見に来たか」
     妻に少し出てくると声をかけ、人の目が気にならない宿酒場の裏手へ回った。旅行者もついてくる。
    「オアシスの話を詳しく聞きたい」
     彼の目は、今までこの話題を出したときに向けられたことがない色味をしている。砂漠で迷ってしまったあの日、助けてくれた人とよく似たそれに背中を押され、男はこ 747