江澄くんは税関の検査台からスーツケースを下ろすと、到着ロビーへと向かいました。人の声がざわざわと聞こえてきます。四ヶ月ぶりの帰国です。
出国したのは二月、まだダウンコートが必要な寒さでした。今はもう梅雨です。
江澄くんはスマホを片手で操作して、メッセージアプリを呼び出しました。
——お姉ちゃんがかぜ引いちゃったって! 阿凌のめんどう見に行くから、家にはいません。
——阿澄、帰国する日にごめんなさい。
空の上で受信した二通は母親と姉からでした。阿凌というのは姉の息子です。今は一歳半くらいだったはずです。
ちなみに父親は出張中です。息子の帰国には興味がないようです。
つまり、今日は家に誰もいないというわけです。
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