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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福で、単品でも読めます。仕事人間の隠し刀を心配したサトウが、権蔵も交えて競馬を観に行くお話です。馬は良い……諭吉は最後に出てきます。

    >前作:『君は可愛い』
    https://poipiku.com/271957/10561821.html
    >まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    有意義な休日 あらゆる時間には意味がある。目的があればそれに向かって寸暇を惜しんで努力しなければならないし、生活するためには衣食住を事足りなさせなければならない。他に大切なものができれば、そちらにあらゆるものを惜しみなく注ぐだろう。やるか、やらないかという選択肢はなく、ただやることだけが永遠に続いてゆく。公私の境目などあったものではない。全てが公であり私だった。道具として育てられてきた隠し刀にとって、この『生き方』はごく当たり前のものだが、どうやら世間では少しばかり勝手が違うらしい。
     じりり、じりり、と両腕に力をこめながら薬研を均等に動かす。前へ、後ろへ。無心にこなせる作業なので、慎重を要するとはいえ思考を他に使える点で好ましい。じー、じっ、ざりりという音が長屋に充満するのも時間を刻むようで耳心地が良い。一個できた分を油紙に包んで軽く捻る。材料を補充し、薬研に手をかけたところで道具よりも先にしゃがれ声が割入った。縁側で猫と遊んでいる権蔵だろう。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福で、単品でも読めます。お互いがお互いを可愛いと思う二人の話。時系列の都合で初冬で申し訳ない……!『可愛い』は宇宙のように意味が広い。敢えて使ってなかった分だけ詰め込みました。可愛いよ!

    >前作:『痕』
    https://poipiku.com/271957/10530624.html
    >まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    君は可愛い 箸が転んでも面白いという年齢があるらしい。確かに若い子女が揃いも揃って他愛もないことに喜び、泣くほどに笑っている風が折々に見受けられる。些細な感情の起伏が激しく、ちょっとしたことでも熱狂してしまうのだろう。故に、微細な世の変化にも敏感で、物の善し悪しが過剰に受け止められるのかもしれなかった。例えば、このようなやり取りはいつどこでも発生しているだろう。
    「可愛い!」
    「あ、本当だ可愛い!ねね、今度りっちゃんとまた来ようよ。きっとこの文箱、好きだと思うんだ」
    「あの子、毬の絵が描いてあるとなんでも好きだよね」
    「そうかも?ふふ、これって西洋の毬かなあ」
    「どうだろう?でも、可愛いから何でもいいかな」
    きゃらきゃらという陽気な笑い声と他愛もない会話を耳の端で捕らえ、隠し刀は会話の中心に目を向けた。どうやら小間物屋が新作の文箱を仕入れたらしい。長屋からも近いのでちょくちょく品揃えを覗くのだが、他の店とは異なり西洋風の柄を取り入れており、野心的で大胆な店だ。横浜でもちょっとした名店となりつつある。
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    zeppei27

    DONE完全単品・読切の主福で、隠し刀の恋愛相談を受けるうちに恋に落ちる諭吉の話です。ワンドロに参加できないから……いつもの二人は時系列が合わなくて……ここにしか打ち上げられないものを書いてみました。ミイラ取りがミイラになる話が好きです。
    雨天決行 ああ、それは恋という奴だ。人のありように一過言ある、悪く言えば斜に構えた福沢諭吉は、流暢に語る男の横顔を呆然と眺めた。勝海舟の屋敷に我が物顔で上がり込み、職務に励む自分を堂々と邪魔する彼こそは、隠し刀。名無しの権兵衛にして風来坊、得体のしれない人でなしである。余りにも傍若無人が堂に入っているため、家主含めて誰も咎めることもない。人の姿をした野良猫のような存在とも言える。
     その猫は長らく悩んでいることがあるらしい。竹で割ったように人と人の情という面倒な綾を断ち切る彼にしては珍しく、さっさと終わらしにしないでダマになるままで今日もうだうだ意味のないことを垂れ流している。
    「その人を見るたびに胸が苦しくなって、話しにくくなるんだよ。本当はたくさん話しかけたいんだ。なのに、どうしてなんだろうね?喋ってもうまい話もできなくて……まあ、諭吉も知っている通り、俺はつまらない男だから、大した話は元々できないんだけれどな」
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福で、単品でも読めます。隠し刀の歯を検診する諭吉のお話。ひょっとすると私の性癖とやらは歯なのでは……?何か別の扉を開きかけたので閉じました。
    >前作:『地獄極楽、紙一重』https://poipiku.com/271957/10506541.html
    >まとめ:https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
     歯は面白い。歯は生まれついてのものだけれども、小さいながらに人それぞれの人生を背負ってきている。例えば歯並びが悪く、まるでぼろぼろの塀のような歯は、当人も親も面倒を見る習慣がなかったことを示唆するだろう。貧しさ、衛生観念、無関心、長じても周囲が指摘しなかったか、あるいは永劫頓着しない性格か。多少の懸念が抱かれる。すり減り具合は癖を見抜く術であるし、本数の多い少ないは歴戦の証だ。清国では年齢を歯数とも呼ぶのももっともだろう。
     さて医学を学んだ立場から、多少歯についても心得がある福沢諭吉にとって、情人である隠し刀の歯はなかなかの上物に思われた。栄養状態がやや危惧されるものの、血で繋がれてきたらしい大きめの歯は揃っているし、右奥がややすり減り気味である点は然程心配するものではない。虫歯はなく、欠けもない。良い状態だ。そして何より気に入っているのは――
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    koyakoya_yy

    MAIKING真武の同人誌のサンプルになります。後日通販を行いますので、その際はX(Twitter)及びPixivにて告知いたします。
    子どもの真一郎君の下に武道君がタイムリープしてくる話。ハピエンです。
    【真武】ヒーロー、君を守るよ【サンプル】ヒーロー、君を守るよ


    履きなれた運動靴で地面を蹴る度、背中のランドセルがカタコトと音を立てる。中に放り込んだ筆箱の中身が暴れているようだったが、真一郎は耳に届く音を気にしてはいなかった。
    はっはっ、と息を切らせて神社までの小道を走る。頭上から照り付ける日差しは九月に入って穏やかなものに変わってきていて、背中をぐっしょりと汗で濡らすようなことはなかった。それでも小学校から立ち止まることなく走り続ければ疲れは出てくる。真一郎はようやく神社の前までたどり着いたところで深呼吸した。荒くなっていた息を整え、ふぅぅっと大きく息を吐く。
    住宅街の中にある神社は他の場所を知らない真一郎にはよくわからなかったが、大きい部類に入るらしい。真一郎の背の何倍もある鳥居がずんっと入り口に立っていて、そこから奥へと続く石畳の参道も幅が広い。数人なら並んで歩けそうな程だったが、平日の昼過ぎである今の時間に神社の中を歩いている人影はなかった。
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    zeppei27

    DONE企画4本目、加糖さんよりご指名頂いた黒田で、『分け合いっこ』です。豪快さと可愛さの合わせ技、黒田君はいろんなものを何の気なしに分け合ってくれるような気がします。多分他意はないんだ……あるって言って!
     リクエストありがとうございました!
    太陽の共食い 薩摩藩上屋敷は夏真っ盛りだった。縁側をみっしりと埋め、前庭に敷いた筵一面に広がる夏の成果に、黒田清隆は目を疑った。江戸に来てから久しいが、このような異様な光景に出くわすのは初めてである。
    「西瓜……だと?」
    「その通りだ、黒田」
    朋輩たちがわらわらと興味本位で群がる様に呆然としていると、のっそりと大きな影がさした。いついかなる時も沈着冷静な人は誰であろう、大久保利通である。流石に彼ならば事情を知っているに違いない。こちらの困惑を見て取ったのだろう、利通は淡々と続けた。
    「篤姫様が、暑気払いにと御下賜されたのだ。京の都から取り寄せたらしい。……一人一つだ!欲張るでないぞ!」
    「承知しもした!」
    すかさずちょろまかそうとした輩がいたのだろう、利通の一喝ですぐさま場の空気が引き締まる。確かに、薩摩の暑さに比べれば江戸の夏など可愛らしいものだが、暑いには変わりない。西瓜のみずみずしい甘さは極上に感じられるだろう。篤姫も小粋な計らいをしてくれたものだ。
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    zeppei27

    DONE企画3本目、りひとさんからいただいたご指名の諭吉で、『バウムクーヘンエンド』です。完全に独立した単品だよ!史実で妻帯者だから、ばっちりですね!特に贈る側が気づかないのが好きなので……業が深い仕上がりになりました。
     リクエストありがとうございました!
    輪違 めでたい話である。人と人が縁付き、新しい家門を形成し、将来の繁栄を子子孫孫まで伝えようとする。家族ができる、人生を共に歩む相手ができる、それだけでも十分喜ばしい。
     そんなものは、畢竟自分には縁遠いものであったのだと隠し刀は痛感していた。家を持たず、自由に生き、己なりに人と人との縁を理解し不器用に繋いできたつもりであるが、所詮は枠外の存在である。
    「おめでとう」
    覚悟を決めるために口中で台詞を反芻しながら、長屋で一人、祝儀の品を作る。人生で初めて作るものが、一番の友人のためとは幸運だろう。自分がまた一つ、人らしくなった証だ——この胸をじくじくと痛ませるくだらない想いも含めて。
     何もかも気づくのが遅く、全て手遅れだった。誰も悪くはない、強いていうならば己の不始末と言える。鮮やかな楓が染め抜かれた風呂敷の中に、秘蔵の葉巻をたっぷり詰め込み、仕入れたばかりのウヰスキーボンボンなる菓子を添えたところで、隠し刀は深々とため息をついた。どれほど作業が進もうとも、頭の中は遅々として回らない。数日前に勝海舟邸を訪れた時から、自分の時間は止まったままだった。
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