aoi__10_12
DONE #ritk版深夜の60分一発勝負演目:「諦め」+ 5h
🎈の告白を断る🌟と、諦めない🎈の話。
両片思いの🎈🌟です。
時間超過+長くてすみません…。
青春狂想曲 類に告白されたのは、雲ひとつ無く澄み渡った晴天の屋上で、いつものようにランチを食べたあとのことだった。
「司くんのことが好きなんだ。……その、そういう意味で。僕と恋人になってくれないかい」
頬を少し赤く染め、照れくさそうに言う類の表情は初めて見るものだった。
思わず口をついて出そうになった、オレも好きだ、という言葉をすんでのところで飲み込み、代わりに出した言葉は、
「……すまん。お前と恋人にはなれない」
類の告白を断る言葉だった。
***
それから一週間後の朝。
いつも通りの時間に登校したオレは、級友達と挨拶を交わしながら昇降口をくぐり、下駄箱を開いた。
すると、
ぼふん
と大きな音がし、けむりがもくもくと発生する。
7293「司くんのことが好きなんだ。……その、そういう意味で。僕と恋人になってくれないかい」
頬を少し赤く染め、照れくさそうに言う類の表情は初めて見るものだった。
思わず口をついて出そうになった、オレも好きだ、という言葉をすんでのところで飲み込み、代わりに出した言葉は、
「……すまん。お前と恋人にはなれない」
類の告白を断る言葉だった。
***
それから一週間後の朝。
いつも通りの時間に登校したオレは、級友達と挨拶を交わしながら昇降口をくぐり、下駄箱を開いた。
すると、
ぼふん
と大きな音がし、けむりがもくもくと発生する。
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DONE #ritk版深夜の60分一発勝負演目「未来」
・🎈(→→→)→←🌟
・うだうだもやもやしてる司くん。泣きます。泣かせました。
未来の在り方について。次の公演に向けて、足りないものを買いに行こうと類に提案され、片手に荷物、次の場所を決めようと外を歩いていた。
わあっと聞こえた歓声に目を向ける。
横にいた類も同じようで、同じ方向へ目を向けていた。
そこには、純白を身につけた男の人と女の人、そしてそれを祝うように周りの人が笑顔を向けている。
結婚式。
とても大切で、泣きたくなるほど幸せで、儚く、けれども記憶に一生残るであろう大切なイベントが綺麗な教会で行われていた。
「…きれいだな。」
綺麗だった。
とても。とても。それは言葉で表し切れない程。
空に舞う赤やピンクの花びら。
参加者たちの笑顔。
そして、嬉しさで涙を流す生涯を誓った人。
薬指に嵌められた、関係を表す指輪。
1746わあっと聞こえた歓声に目を向ける。
横にいた類も同じようで、同じ方向へ目を向けていた。
そこには、純白を身につけた男の人と女の人、そしてそれを祝うように周りの人が笑顔を向けている。
結婚式。
とても大切で、泣きたくなるほど幸せで、儚く、けれども記憶に一生残るであろう大切なイベントが綺麗な教会で行われていた。
「…きれいだな。」
綺麗だった。
とても。とても。それは言葉で表し切れない程。
空に舞う赤やピンクの花びら。
参加者たちの笑顔。
そして、嬉しさで涙を流す生涯を誓った人。
薬指に嵌められた、関係を表す指輪。
891
DOODLE #ritk版深夜の60分一発勝負🎈🌟演目『未来』
ときかけに影響された。
未来から来たオレの恋人彼は未来から来たのではないかと思う。
彼、というのは最近付き合った神代類のことである。身長180センチの、ミステリアスな雰囲気を醸し出す男。確かに普段でも変人と呼ばれる点はあるが、特に付き合ったあと。彼の言動に慣れてきたオレでも不可解なものがあるのだ。
例えば。通学路を歩いているとき。
「よかった……!間に合った、司くん…!」
学校から真逆の位置に家があるのに、類がひょっこりと現れたのだ。出会い頭にぎゅう、とハグをされる。朝早い時間だったので周りには誰もいなかった。
それをいいことに彼を抱きしめ返し、朝一番に取り込んだであろうシャツを嗅ぐ。柔軟剤の、花の匂いで頭がふんわりと満たされて、へへ、と気の抜けた笑いが口から漏れた。人の気も知らないでとまた強く抱きしめられて少し苦しい。暫く二人の時間を堪能して、学校に行こうかと手をつなぎ、歩いた目先に。
3273彼、というのは最近付き合った神代類のことである。身長180センチの、ミステリアスな雰囲気を醸し出す男。確かに普段でも変人と呼ばれる点はあるが、特に付き合ったあと。彼の言動に慣れてきたオレでも不可解なものがあるのだ。
例えば。通学路を歩いているとき。
「よかった……!間に合った、司くん…!」
学校から真逆の位置に家があるのに、類がひょっこりと現れたのだ。出会い頭にぎゅう、とハグをされる。朝早い時間だったので周りには誰もいなかった。
それをいいことに彼を抱きしめ返し、朝一番に取り込んだであろうシャツを嗅ぐ。柔軟剤の、花の匂いで頭がふんわりと満たされて、へへ、と気の抜けた笑いが口から漏れた。人の気も知らないでとまた強く抱きしめられて少し苦しい。暫く二人の時間を堪能して、学校に行こうかと手をつなぎ、歩いた目先に。
urahakase801
DONE #ritk版深夜の60分一発勝負 さんより演目:八分咲き
八分咲き『ゲームのパラメーターみたいに、自分の恋の進行度合いが一目で分かればいいのにね』
何気なく放ったであろう寧々の言葉が脳裏から離れない。
そう思う。
もしそうであったなら、伝えることが出来ないこの想いを胸の内に燻らせることもなかったのに。
◇◇◇
『類くん類くーん! セカイに桜が咲いてるよー!』
スマホが突然光ったかと思えば、ホログラム姿で現れたミクくんが楽しげにそう語った。
セカイ。桜。好奇心がくすぐられる言の葉の並びは、機械いじりに勤しんでいた僕の手を止めるには充分だった。
「おや。セカイには桜がないと言っていたけれど、見つかったのかい?」
『うん! 昨日までなかったはずだけど、さっき森の近くを散歩してたら発見したんだー! 春だから生えてきたのかな?』
18305何気なく放ったであろう寧々の言葉が脳裏から離れない。
そう思う。
もしそうであったなら、伝えることが出来ないこの想いを胸の内に燻らせることもなかったのに。
◇◇◇
『類くん類くーん! セカイに桜が咲いてるよー!』
スマホが突然光ったかと思えば、ホログラム姿で現れたミクくんが楽しげにそう語った。
セカイ。桜。好奇心がくすぐられる言の葉の並びは、機械いじりに勤しんでいた僕の手を止めるには充分だった。
「おや。セカイには桜がないと言っていたけれど、見つかったのかい?」
『うん! 昨日までなかったはずだけど、さっき森の近くを散歩してたら発見したんだー! 春だから生えてきたのかな?』
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:なにぃ!?、おとぎ話】(所要時間:約7h)
ギャグというか、ただただアホっぽい話。
どうしてこうなった。
⚠️注意
・メタい話?がちょいちょい混じります。
・書き手はアリスを読んだことがありません。
【ツカサ・イン・ワンツーランド】
目を覚ますと、そこは雪国──
ではなく。見も知らぬ外国の庭園のような場所だった。辺りにはうっすらとした霧がかかっているが、手入れされて整った植木や、綺麗に咲き誇った様々な色のバラが植わっているのが見える。しかし、周囲にそれ以上の情報は無い。ぼんやりとする頭を軽く左右に振ってもみるが、痛みなどがないのを確認出来ただけで状況に変化はなかった。
「なんだここは? オレは一体……?」
目を閉じて記憶を漁る。
……思い出せない。何をしていたのか。どこにいたのか。一人だったのか、誰かといたのかさえ、さっぱりだ。
唯一確かなのは、
(オレが『天馬司』だということだけだ)
7368目を覚ますと、そこは雪国──
ではなく。見も知らぬ外国の庭園のような場所だった。辺りにはうっすらとした霧がかかっているが、手入れされて整った植木や、綺麗に咲き誇った様々な色のバラが植わっているのが見える。しかし、周囲にそれ以上の情報は無い。ぼんやりとする頭を軽く左右に振ってもみるが、痛みなどがないのを確認出来ただけで状況に変化はなかった。
「なんだここは? オレは一体……?」
目を閉じて記憶を漁る。
……思い出せない。何をしていたのか。どこにいたのか。一人だったのか、誰かといたのかさえ、さっぱりだ。
唯一確かなのは、
(オレが『天馬司』だということだけだ)
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:もどかしい】(所要時間:3h)
めちゃくちゃ彰人が巻き込まれているため彰司っぽく見えますが、彰人にも司にもその気はありません。
類司です。類司です。
大事なことなのでもう一回言います、類司です。
【我慢の限界】
「……は? あんた、今なんて?」
飲みかけの缶コーヒーを握りしめた彰人は、ぎぎぃっ、と音でも出そうな動きで隣に座るオレを見る。
ここは中庭の隅にある木陰だ。比較的、生徒の目につかなさそうな場所を選んで呼び出したとはいえ、誰かに聞かれる可能性を考えると二回も言うのは気が進まなかった。……が、聞き取れなかったのでは仕方がない。オレは未開封の自分の紅茶のペットボトルを両手で握り、心持ち声量を落としてもう一度繰り返した。
「だから、あれこれ理由をつけて類を拘束するから、その類の前でオレを寝とって欲しいのだが」
「……どっからつっこんだらいいんだよ、これ」
深々とため息をついたかと思うと、空いている片手で頭を抱えた。流れる沈黙。類のようにメッシュの入った鮮やかなオレンジの髪が、そよ風にふわふわ揺られる様を眺めて沈黙を享受していると、頭を下げた体勢のまま彰人の目がこちらを見た。
3868「……は? あんた、今なんて?」
飲みかけの缶コーヒーを握りしめた彰人は、ぎぎぃっ、と音でも出そうな動きで隣に座るオレを見る。
ここは中庭の隅にある木陰だ。比較的、生徒の目につかなさそうな場所を選んで呼び出したとはいえ、誰かに聞かれる可能性を考えると二回も言うのは気が進まなかった。……が、聞き取れなかったのでは仕方がない。オレは未開封の自分の紅茶のペットボトルを両手で握り、心持ち声量を落としてもう一度繰り返した。
「だから、あれこれ理由をつけて類を拘束するから、その類の前でオレを寝とって欲しいのだが」
「……どっからつっこんだらいいんだよ、これ」
深々とため息をついたかと思うと、空いている片手で頭を抱えた。流れる沈黙。類のようにメッシュの入った鮮やかなオレンジの髪が、そよ風にふわふわ揺られる様を眺めて沈黙を享受していると、頭を下げた体勢のまま彰人の目がこちらを見た。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:山、正直】(所要時間:2h40m)
既に何度も致している2人、の前提。
山で正直になる話。
【自分に正直に】
「さあ司くん! もっと自分を解放するんだ!」
「だが類──」
身振り手振りも加えて熱弁をふるう神代類の熱量から逃れようとでもするかのように、相対する天馬司の視線がふらりと中をさまよう。常に自信にあふれ、真っ直ぐに相手を見る彼にしては至極珍しいことだったが、類はただじれったそうに眉間にシワを寄せて語気を強めた。
「何をためらっているんだい。さあ、自分の心に正直になってありのままの君を思いきり解き放ちたまえ!」
その言葉に、決意の瞳が類に焦点を定めた。次いで力強くうなずき、そして肺へ目一杯空気を送り込んで──叫ぶ!
「しょぉぉぉおおが、やきぃぃいいい!!」
──……やきぃぃぃ……やきぃぃぃ……──
1668「さあ司くん! もっと自分を解放するんだ!」
「だが類──」
身振り手振りも加えて熱弁をふるう神代類の熱量から逃れようとでもするかのように、相対する天馬司の視線がふらりと中をさまよう。常に自信にあふれ、真っ直ぐに相手を見る彼にしては至極珍しいことだったが、類はただじれったそうに眉間にシワを寄せて語気を強めた。
「何をためらっているんだい。さあ、自分の心に正直になってありのままの君を思いきり解き放ちたまえ!」
その言葉に、決意の瞳が類に焦点を定めた。次いで力強くうなずき、そして肺へ目一杯空気を送り込んで──叫ぶ!
「しょぉぉぉおおが、やきぃぃいいい!!」
──……やきぃぃぃ……やきぃぃぃ……──
マママ
DONEお題「埋もれる」+20m以下の特殊設定あるのでワンクッション。
☡年齢操作(🎈も🌟も仕事してます)
☡オメガバース「Ω×α」です
全5ページ よろしくお願いします!!
#ritk版深夜の60分一発勝負 5
Kakitu_prsk
DONE #ritk版深夜の60分一発勝負『別れ』『たいへんよくできました』
1h+見直し0.5h
怪物たちの目覚めの御話。
ジャバウォックは咆哮する「別れよう、類」
その言葉は予想以上にすんなりと口に出せた。
声は震えていない。”いつも通り”を完璧な仮面として被り、オレは滑らかな口で別れるべき理由を口にしていく。
「――わかったよ」
そうして、予想以上にすんなりとした返事でもって、恋人の類から同意をもらえたのだ。その時の類も”いつも通り”の顔であれば、オレは自分の選択が間違っていなかったことに内心安堵していた。
オレと類は二か月もの間、恋人関係にあった。
きっかけはオレからの告白であり、類が好きだと気づいてから一週間も練った言葉でもって、オレは類に愛を伝えたのだ。
「えっと……」
だが、オレが全ての愛を吐き出し、満足な心地で類を見た時――オレは過ちに気づいた。
4426その言葉は予想以上にすんなりと口に出せた。
声は震えていない。”いつも通り”を完璧な仮面として被り、オレは滑らかな口で別れるべき理由を口にしていく。
「――わかったよ」
そうして、予想以上にすんなりとした返事でもって、恋人の類から同意をもらえたのだ。その時の類も”いつも通り”の顔であれば、オレは自分の選択が間違っていなかったことに内心安堵していた。
オレと類は二か月もの間、恋人関係にあった。
きっかけはオレからの告白であり、類が好きだと気づいてから一週間も練った言葉でもって、オレは類に愛を伝えたのだ。
「えっと……」
だが、オレが全ての愛を吐き出し、満足な心地で類を見た時――オレは過ちに気づいた。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:挑戦、雪だるま】(所要時間:約6h)
今回も色々大遅刻で参加です。
まだお互いへの恋心を自覚出来てない2人の話。
お題にあまり添えてない気もする……。
【しんしん、降りつもる】
「はあ……やっと終わったな」
誰もいない学校の廊下に、疲れきった司くんの声が響く。
ベージュのコートに包まれた背中を丸め、げんなりした顔で手にした鞄を揺らしつつ歩く様は、さながら終電前のサラリーマンだ。いつもは冷気が入らないように前でふわりと結んでいる紺色のマフラーも、今はただ首に巻き付けられているだけで、長さのちぐはぐな両端が背中でぷらぷら揺れている。普段から身なりに気を付けている彼としては珍しい姿だった。
──これはよほど疲れているね。
僕は濃い紫のコートの前を手早く留めてから、自分の鞄を小脇に抱えた。彼のマフラーの両端を手繰り寄せ、普段目にしている通りの形を真似て首の後ろで軽く結んでみる。
3315「はあ……やっと終わったな」
誰もいない学校の廊下に、疲れきった司くんの声が響く。
ベージュのコートに包まれた背中を丸め、げんなりした顔で手にした鞄を揺らしつつ歩く様は、さながら終電前のサラリーマンだ。いつもは冷気が入らないように前でふわりと結んでいる紺色のマフラーも、今はただ首に巻き付けられているだけで、長さのちぐはぐな両端が背中でぷらぷら揺れている。普段から身なりに気を付けている彼としては珍しい姿だった。
──これはよほど疲れているね。
僕は濃い紫のコートの前を手早く留めてから、自分の鞄を小脇に抱えた。彼のマフラーの両端を手繰り寄せ、普段目にしている通りの形を真似て首の後ろで軽く結んでみる。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:アメトリン】(所要時間:6h)
大遅刻作品。お付き合い中な2人の、ある休日の出来事。
【何でもない日に】
神代類が、普段はほとんど寄りつかないそのきらびやかな店頭に足を向けたのは、たまたまだった。
人を待っていたのだ。正しくは、同行者が他店で精算を終えて戻ってくるのを待っていた。暖かなショッピングモールの中で人を待ちながら人間観察をすることに苦はなかったが、ほんの気まぐれが起きてぶらりと周囲の店先を見て回っていたにすぎない。それでも視線はあっという間に釘付けになった。
立ち止まってわずかに長身を曲げて覗き込んだのは、宝石店のガラスのショーケースだ。
それぞれの魅力を放つ宝石が収められたケースを眺めるのは、舞台を俯瞰で見るのにどこか似ている気がした。仕立てた舞台上に居並ぶ役者達。彼らがいかに輝けるか、観客がいかに物語の世界へ没入できるか。それらは全て演出家の腕にかかっている。
4024神代類が、普段はほとんど寄りつかないそのきらびやかな店頭に足を向けたのは、たまたまだった。
人を待っていたのだ。正しくは、同行者が他店で精算を終えて戻ってくるのを待っていた。暖かなショッピングモールの中で人を待ちながら人間観察をすることに苦はなかったが、ほんの気まぐれが起きてぶらりと周囲の店先を見て回っていたにすぎない。それでも視線はあっという間に釘付けになった。
立ち止まってわずかに長身を曲げて覗き込んだのは、宝石店のガラスのショーケースだ。
それぞれの魅力を放つ宝石が収められたケースを眺めるのは、舞台を俯瞰で見るのにどこか似ている気がした。仕立てた舞台上に居並ぶ役者達。彼らがいかに輝けるか、観客がいかに物語の世界へ没入できるか。それらは全て演出家の腕にかかっている。
rinrin0517_pa
DONE #ritk版深夜の60分一発勝負演目「絆創膏」
付き合ってる🎈と🌟
ご注意!
R-18ほどではありませんが…多少セクシャルな表現がありますので、ポイピクにて投稿します。
素敵なお題をありがとうございます。 4
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:独占欲】(所要時間:1時間30分)
お付き合い中&既に致したことがある、類司の話。
【毒占欲】
腕の中に収めた彼をしっかりと抱きしめ、昼の陽光をいっぱいに吸い込んだようなキラキラした髪にキスする。次はこめかみ。次は頬に。それから──。
次々と、あちらこちらへ唇を落としていく。すると、僕のカーディガンをゆるく掴んでくすぐったそうにもじもじしていた彼が、手のひらで胸をぽんぽんと軽く叩いてきた。
「お、おい類、いきなり何なんだ!」
「ん? ……キス以外の何に見えるんだい?」
「そそそ、そうではなくだな! ここは学校の屋上だぞっ。そういうことは──!」
「食後で、君も満腹だろう? 犬がじゃれついてるとでも思ってくれればいいよ。軽い運動さ」
いつもはキリッとつり上がっている眉がハの字を書く。同時に、訳がわからないと言わんばかりに首を大きく傾げられたが、ゆるいアーチを描いたその白い首筋にも場所をずらしながら二度三度と口付ける。
1039腕の中に収めた彼をしっかりと抱きしめ、昼の陽光をいっぱいに吸い込んだようなキラキラした髪にキスする。次はこめかみ。次は頬に。それから──。
次々と、あちらこちらへ唇を落としていく。すると、僕のカーディガンをゆるく掴んでくすぐったそうにもじもじしていた彼が、手のひらで胸をぽんぽんと軽く叩いてきた。
「お、おい類、いきなり何なんだ!」
「ん? ……キス以外の何に見えるんだい?」
「そそそ、そうではなくだな! ここは学校の屋上だぞっ。そういうことは──!」
「食後で、君も満腹だろう? 犬がじゃれついてるとでも思ってくれればいいよ。軽い運動さ」
いつもはキリッとつり上がっている眉がハの字を書く。同時に、訳がわからないと言わんばかりに首を大きく傾げられたが、ゆるいアーチを描いたその白い首筋にも場所をずらしながら二度三度と口付ける。
cherrys_bud
DONE初参加です。遅れてポチポチし始めたので一応60分以内のはず……ただお題には沿ってないかもしれない。お互いに「自分には相手しかいないけど、相手には自分以外にもいるかもしれない」と思ってる二人の追いかけっこ(ではない) 1655
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:怪盗】(所要時間:4h)
体調不良と夏の暑さは、書く速度を劇的に落とすという典型的な例。ワンライとは。
怪盗と怪盗のとある一夜、な話。類司です。
【RとTの一夜】
「ハーッハッハッハ! 貴様の宝を頂戴しに来たぞ!」
夜闇の中で静まり返る、広大な屋敷。その大広間に大音声が響く。
高らかに笑いを響かせたのは、マント付きの白のタキシードを着た少年だった。ただし少年自身があちこち手を入れた服である為、礼服というよりは童話の中の王か王子かといった出で立ちだ。自信に満ちあふれた飴色の双眸を輝かせる少年は、日だまりのような色の短い髪に白のシルクハットをかぶり、両腕を広げてシャンデリアのぶら下がる天井を大きく仰ぐ。その姿は大舞台でスポットライトを浴びるショースターさながらである。
一方、ホール中央の大階段からシトリンの双眸がそれを眺めていた。
2141「ハーッハッハッハ! 貴様の宝を頂戴しに来たぞ!」
夜闇の中で静まり返る、広大な屋敷。その大広間に大音声が響く。
高らかに笑いを響かせたのは、マント付きの白のタキシードを着た少年だった。ただし少年自身があちこち手を入れた服である為、礼服というよりは童話の中の王か王子かといった出で立ちだ。自信に満ちあふれた飴色の双眸を輝かせる少年は、日だまりのような色の短い髪に白のシルクハットをかぶり、両腕を広げてシャンデリアのぶら下がる天井を大きく仰ぐ。その姿は大舞台でスポットライトを浴びるショースターさながらである。
一方、ホール中央の大階段からシトリンの双眸がそれを眺めていた。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:かき氷】(所要時間:3h)
付き合ってない前提の類司。
タイトルが全く浮かんでこなくてビックリした。
【君、想フ】
「…………ここ、か?」
辿り着いた店の前で足を止めると、僕の隣で司くんが虚を突かれたような声を漏らした。確かに──学校帰りにちょっと行きたい所があるんだ、と──目的地の店名までは言わずに彼を誘ったけれど、そこまで驚かれるのは予想外だ。
僕達の前には一軒のカフェがあった。真新しい外装は茶と白を基調としていて決して派手ではなく、男性だけで入るのにも抵抗を覚えない雰囲気の店構えになっている。もちろん中に入ってもその雰囲気は変わることがなく、居心地の良い店として印象深い店なのだった。
僕は英字が踊る看板を指差して、彼を振り返った。
「前にショーの打ち合わせをした時に来たことがあるんだけど、覚えていないかい?」
2579「…………ここ、か?」
辿り着いた店の前で足を止めると、僕の隣で司くんが虚を突かれたような声を漏らした。確かに──学校帰りにちょっと行きたい所があるんだ、と──目的地の店名までは言わずに彼を誘ったけれど、そこまで驚かれるのは予想外だ。
僕達の前には一軒のカフェがあった。真新しい外装は茶と白を基調としていて決して派手ではなく、男性だけで入るのにも抵抗を覚えない雰囲気の店構えになっている。もちろん中に入ってもその雰囲気は変わることがなく、居心地の良い店として印象深い店なのだった。
僕は英字が踊る看板を指差して、彼を振り返った。
「前にショーの打ち合わせをした時に来たことがあるんだけど、覚えていないかい?」
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:タイムマシン】
(所要時間:1h40m)
今回も屋上にいる類くんから始まる、類司の話。
【タイムマシンはいらない】
──もし、タイムマシンで時を遡れるとしたら。
放課後の屋上で、凪ぐ風に紫の髪を優しく揺らされながら天を仰いだ。
今はまだ水色の濃いこの初夏の空も徐々に橙色へと移り変わっていくが、例えばこの空が水色に戻って、白んで、暗くなって……その過程を眺めることを考えると楽しくはあった。が、架空の物語の中での時間遡行を参照するとすればそういったものではないだろう。
寄り道も感傷的になる暇もない。目標の地点まで一足飛びだ。
では、
(そうまでして変えたい事があるかな……?)
僕は高校二年だ。人間の平均寿命を考えれば決して長いとは言えないが、とりあえずこの歳まで確かに生きてきた。その間に後悔が全くなかったわけじゃない。あの日、あの時に戻れたらと考えた事もある。
1754──もし、タイムマシンで時を遡れるとしたら。
放課後の屋上で、凪ぐ風に紫の髪を優しく揺らされながら天を仰いだ。
今はまだ水色の濃いこの初夏の空も徐々に橙色へと移り変わっていくが、例えばこの空が水色に戻って、白んで、暗くなって……その過程を眺めることを考えると楽しくはあった。が、架空の物語の中での時間遡行を参照するとすればそういったものではないだろう。
寄り道も感傷的になる暇もない。目標の地点まで一足飛びだ。
では、
(そうまでして変えたい事があるかな……?)
僕は高校二年だ。人間の平均寿命を考えれば決して長いとは言えないが、とりあえずこの歳まで確かに生きてきた。その間に後悔が全くなかったわけじゃない。あの日、あの時に戻れたらと考えた事もある。
hukurage41
DONE #ritk版深夜の60分一発勝負演目)七夕
※画像でもあげたのですが、なかなか見にくかったのでポイピクにも同時にあげます。
・遠距離恋愛ルツ
・息をするように年齢操作(20代半ば)
・かつて書いた七夕ポエムをリサイクルしようと始めたのに、書き終えたら案外違う話になった
星空を蹴っ飛ばせ「会いたいなぁ」
ポロリと口から転がり出てしまった。
声に出すと更に思いが募る。言わなきゃよかったけど、出てしまったものはしょうがない。
「会いたい、あいたい。ねえ、会いたいんだけど、司くん。」
類は子供っぽく駄々をこねた。
電子のカササギが僕らの声を届けてくれはするけれど、それだけでは物足りない。
会いたい。
あの鼈甲の目を見たい。目を見て会話をしたい。くるくる変わる表情を具に見ていたい。
絹のような髪に触れたい。滑らかな肌に触れたい。柔らかい二の腕とかを揉みしだきたい。
赤く色づく唇を味わいたい。その奥に蠢く艶かしい舌を味わいたい。粒の揃った白い歯の硬さを確かめたい。
匂いを嗅ぎたい。彼の甘く香ばしい匂い。お日様のような、というのは多分に彼から想像するイメージに引きずられている。チョコレートのように甘ったるいのともちょっと違う、類にだけわかる、と自負している司の匂い。その匂いを肺いっぱいに吸い込みたい。
2268ポロリと口から転がり出てしまった。
声に出すと更に思いが募る。言わなきゃよかったけど、出てしまったものはしょうがない。
「会いたい、あいたい。ねえ、会いたいんだけど、司くん。」
類は子供っぽく駄々をこねた。
電子のカササギが僕らの声を届けてくれはするけれど、それだけでは物足りない。
会いたい。
あの鼈甲の目を見たい。目を見て会話をしたい。くるくる変わる表情を具に見ていたい。
絹のような髪に触れたい。滑らかな肌に触れたい。柔らかい二の腕とかを揉みしだきたい。
赤く色づく唇を味わいたい。その奥に蠢く艶かしい舌を味わいたい。粒の揃った白い歯の硬さを確かめたい。
匂いを嗅ぎたい。彼の甘く香ばしい匂い。お日様のような、というのは多分に彼から想像するイメージに引きずられている。チョコレートのように甘ったるいのともちょっと違う、類にだけわかる、と自負している司の匂い。その匂いを肺いっぱいに吸い込みたい。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:ロマンス、ごっこ遊び】(所要時間:2h)
お題2つお借りしましたが、ロマンス要素がほぼ皆無な気がしないでもない。
【まだ知らない、その名前】
「はい、司くん。あーん♡」
「あ……あーん」
中庭での昼食。甘ったるい声で類が差し出してきたのは、ちくわの磯辺揚げだ。目の前にあるそれにかじりつけば青のりの良い香りがふわんと口内に広がり、咀嚼すればちくわの甘みがそれに続く。うまい。しかしその間も熱い視線を投げかけてくる類に、嚥下したオレは──ひどく今更な事を──問うた。
「類。なぜオレ達はこんな事をしているんだ?」
「おや、僕の旦那様は健忘症かい?」
「ちがうわっ! あとその旦那様はやめろ!」
「ダーリンの方がお好みかな」
「それもアウトだーーー!!」
拳を震わせてひとしきり叫ぶと、類はくつくつ肩を揺らした。
「フフ、冗談だよ。でもこれが一番手っ取り早く『恋人』をイメージできるだろう?」
1469「はい、司くん。あーん♡」
「あ……あーん」
中庭での昼食。甘ったるい声で類が差し出してきたのは、ちくわの磯辺揚げだ。目の前にあるそれにかじりつけば青のりの良い香りがふわんと口内に広がり、咀嚼すればちくわの甘みがそれに続く。うまい。しかしその間も熱い視線を投げかけてくる類に、嚥下したオレは──ひどく今更な事を──問うた。
「類。なぜオレ達はこんな事をしているんだ?」
「おや、僕の旦那様は健忘症かい?」
「ちがうわっ! あとその旦那様はやめろ!」
「ダーリンの方がお好みかな」
「それもアウトだーーー!!」
拳を震わせてひとしきり叫ぶと、類はくつくつ肩を揺らした。
「フフ、冗談だよ。でもこれが一番手っ取り早く『恋人』をイメージできるだろう?」
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負【お題:メンテナンス】(所要時間:1h20m)
メンテは大事だよ、という話。
【たまにはメンテナンスを】
「司くん……」
心配そうに眉尻を下げた類の両手で、ぎゅっと手を握られる。
放課後の屋上だ。類に呼び出されてここに来てからこちら、ずっと同じ問答と同じ会話を続けている。今日はフェニランでの練習も休みの日だから時間はあるが、いい加減にうんざりだった。
オレはややオーバーにため息をついて繰り返す。
「何度も言うが、本当に何もない」
「嘘だ。じゃあどうして、今日一日そんなに口数が少ないんだい?」
「いや普通に喋っていたが……」
自分の行動の記憶をざっと遡って思い出してみたものの、類に言われるほど黙っていたような覚えはない。友人に話しかけられた世間話にも応えたし、授業中、教師に当てられた問題にもそつなく答えた。廊下ですれ違った冬弥と彰人には、逆にオレの方から話しかけたりもした。──極めていつも通り、だったはずだ。
2371「司くん……」
心配そうに眉尻を下げた類の両手で、ぎゅっと手を握られる。
放課後の屋上だ。類に呼び出されてここに来てからこちら、ずっと同じ問答と同じ会話を続けている。今日はフェニランでの練習も休みの日だから時間はあるが、いい加減にうんざりだった。
オレはややオーバーにため息をついて繰り返す。
「何度も言うが、本当に何もない」
「嘘だ。じゃあどうして、今日一日そんなに口数が少ないんだい?」
「いや普通に喋っていたが……」
自分の行動の記憶をざっと遡って思い出してみたものの、類に言われるほど黙っていたような覚えはない。友人に話しかけられた世間話にも応えたし、授業中、教師に当てられた問題にもそつなく答えた。廊下ですれ違った冬弥と彰人には、逆にオレの方から話しかけたりもした。──極めていつも通り、だったはずだ。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負 (ワンライ)のお題『雨宿り』をお借りして書いたものです。
[所要時間:2h30m]
書きながら寝落ちしてたんで時間が正確じゃないですが、記憶を辿ったらこんな感じだったと思う……
【君との雨は】
昼過ぎからぽつぽつと降り始めていた雨は、授業が全て終わった頃には勢いを増し始めていた。その時点で大分と嫌な予感はしていたのだが、放課後、反省文を書き終えてようやく下校しようと下駄箱へたどり着いたオレが目にしたのは──予想通り、視界が白く煙るほどのひどいどしゃ降りとなった雨だった。
(今日は降らないと言っていたはずなんだが)
ため息をつきながらも靴を履き替える。
天候が不安定な梅雨の時期だ。天気予報ばかりを責めることはできないが、今日に限って折り畳み傘を入れ忘れてきた自分の迂闊さにはさすがに閉口する。フェニランでの練習が休みで急ぐ必要がなかったのは不幸中の幸いとはいえ、走って帰ればいいなんて考えられないレベルの豪雨。騒音にも近い雨音に気分は沈むばかりだった。
1933昼過ぎからぽつぽつと降り始めていた雨は、授業が全て終わった頃には勢いを増し始めていた。その時点で大分と嫌な予感はしていたのだが、放課後、反省文を書き終えてようやく下校しようと下駄箱へたどり着いたオレが目にしたのは──予想通り、視界が白く煙るほどのひどいどしゃ降りとなった雨だった。
(今日は降らないと言っていたはずなんだが)
ため息をつきながらも靴を履き替える。
天候が不安定な梅雨の時期だ。天気予報ばかりを責めることはできないが、今日に限って折り畳み傘を入れ忘れてきた自分の迂闊さにはさすがに閉口する。フェニランでの練習が休みで急ぐ必要がなかったのは不幸中の幸いとはいえ、走って帰ればいいなんて考えられないレベルの豪雨。騒音にも近い雨音に気分は沈むばかりだった。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負 (ワンライ)のお題『決心』をお借りして書いたものです。
[所要時間:2h]
内容よりもタイトルに一番悩んだ。
【欲と煩悩まみれの錬金術師】
ガムテープで閉じられた無地の段ボール箱。
練習着に着替えてワンダーステージに着くやいなや着ぐるみくん達から渡されたそれを、舞台上でバリバリと開封する。中身は今度のショーで使う衣装だ。次回はおとぎ話をモチーフにした内容なので着物が入っている。
……が。
中身を全部表に放り出して並べ終えたところで、僕はぎくりとした。頼んだ通りの数が入ってはいたのだが、鮮やかな色合いだったり、大きく花の模様が入っているような物ばかりだったのだ。
(……どう見ても女物しかないね)
僕や寧々、司くんは自力で衣装を用意することが多い。もちろん僕と寧々の分は瑞希に依頼して用意してもらった物で、司くんは自作だ。しかし、さすがの瑞希も着物に関しては──アレンジなら出来るんだけど──と消極的だった為に力は借りられず、司くんも不得手だというので珍しく全員分を発注したはずだったのだが、どうやら不慣れなせいで発注書の書き方を間違えてしまったらしい。着ぐるみくん達も、僕たちが度々自前で準備しているのを知っているから、男物がなくても不思議には思わなかったんだろう。
1990ガムテープで閉じられた無地の段ボール箱。
練習着に着替えてワンダーステージに着くやいなや着ぐるみくん達から渡されたそれを、舞台上でバリバリと開封する。中身は今度のショーで使う衣装だ。次回はおとぎ話をモチーフにした内容なので着物が入っている。
……が。
中身を全部表に放り出して並べ終えたところで、僕はぎくりとした。頼んだ通りの数が入ってはいたのだが、鮮やかな色合いだったり、大きく花の模様が入っているような物ばかりだったのだ。
(……どう見ても女物しかないね)
僕や寧々、司くんは自力で衣装を用意することが多い。もちろん僕と寧々の分は瑞希に依頼して用意してもらった物で、司くんは自作だ。しかし、さすがの瑞希も着物に関しては──アレンジなら出来るんだけど──と消極的だった為に力は借りられず、司くんも不得手だというので珍しく全員分を発注したはずだったのだが、どうやら不慣れなせいで発注書の書き方を間違えてしまったらしい。着ぐるみくん達も、僕たちが度々自前で準備しているのを知っているから、男物がなくても不思議には思わなかったんだろう。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負 (ワンライ)のお題『キスの日』をお借りして書いたものです。
[所要時間:4h]
最初はただキスしてるだけの話を書いてたが、お題からそれるのでは……?と思って、ネタ考え直して書き直したらこの時間だよ!
【恋人初心者】
「キスする場所ごとに意味が違うそうだよ」
「意味?」
類のソファに腰かけ、図書室から借りてきた戯曲集に目を通していたオレは、突然振られた話に咄嗟にそれだけを返して首をかしげた。さっきからずっと隣でスマホをいじっていた類は、やおらにっこりと笑ってこちらを見る。
「そう。手の甲だったり頬だったりで、その意味が変わるってことらしいね」
「まぁ確かに外国では頬に挨拶のキスをしたりするしな。で、なんでいきなりそんな話なんだ」
「今日がキスの日だってことで検索サイトのトップに特集の記事があったから、なんとなくね」
スマホを脇に置いたかと思うと、長い指がオレのあごをついとなぞる。
「司くんは全部知っているかい?」
2745「キスする場所ごとに意味が違うそうだよ」
「意味?」
類のソファに腰かけ、図書室から借りてきた戯曲集に目を通していたオレは、突然振られた話に咄嗟にそれだけを返して首をかしげた。さっきからずっと隣でスマホをいじっていた類は、やおらにっこりと笑ってこちらを見る。
「そう。手の甲だったり頬だったりで、その意味が変わるってことらしいね」
「まぁ確かに外国では頬に挨拶のキスをしたりするしな。で、なんでいきなりそんな話なんだ」
「今日がキスの日だってことで検索サイトのトップに特集の記事があったから、なんとなくね」
スマホを脇に置いたかと思うと、長い指がオレのあごをついとなぞる。
「司くんは全部知っているかい?」
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負 (ワンライ)のお題『お風呂』をお借りして書いたものです。
[所要時間:2h]
恋人前提の類司+天馬家のお風呂捏造。
天馬さんち、お風呂もおしゃれっぽそうだなって……。
【癒しのバスタイム】
「どうだ類、気持ちいいかっ?」
「……そうだね。広いし、悪くないよ」
大人がちょうど二人は入れそうなほどに広い、真っ白の浴槽。なみなみと入っていたお湯の中に力強く押し込まれた僕は、浴槽の外側から、縁に両手を添えてまぶしい笑顔を向けてくる腰タオル一枚の司くんに生返事を返した。
──なぜこんな状況になったのだろう──
もう何度も繰り返した自問をまた繰り返し、ちらと浴室の中を見回す。……一般の家庭よりも明らかに広々とした浴室内。白を基調としているが汚れは一切なく、壁は淡いライトブルーの小さなタイルやシーグラスで飾られていてデザイン性も高い。もし目隠しで連れて来られていたなら、おしゃれなホテルの浴室だと言われても気づかなかったかもしれない。
2353「どうだ類、気持ちいいかっ?」
「……そうだね。広いし、悪くないよ」
大人がちょうど二人は入れそうなほどに広い、真っ白の浴槽。なみなみと入っていたお湯の中に力強く押し込まれた僕は、浴槽の外側から、縁に両手を添えてまぶしい笑顔を向けてくる腰タオル一枚の司くんに生返事を返した。
──なぜこんな状況になったのだろう──
もう何度も繰り返した自問をまた繰り返し、ちらと浴室の中を見回す。……一般の家庭よりも明らかに広々とした浴室内。白を基調としているが汚れは一切なく、壁は淡いライトブルーの小さなタイルやシーグラスで飾られていてデザイン性も高い。もし目隠しで連れて来られていたなら、おしゃれなホテルの浴室だと言われても気づかなかったかもしれない。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負 (ワンライ)のお題『紙飛行機』をお借りして書いたものです。
[所要時間:2h]
まだ友人以上、恋人未満。
【Simple is best?】
眠そうに目を擦る者、あけっぴろげにあくびをする者、友達と楽しげに笑い合っている者……。朝の登校ピークを迎えた下駄箱は色んな生徒が多く行き交う。
そんないつも通りな光景の中。司は必死に寝癖を直した髪を、ことさら撫でつけながら自分の下駄箱に辿り着いていた。寝癖直しに奮闘したせいで普段より登校時間が遅くなってしまい、一時は遅刻すら覚悟したが、わずかな時間の余裕すら生んで到着出来たことに一人胸を撫で下ろす。
(予期せぬアクシデントすら、いとも容易く乗り越えてしまう……さすがオレ!)
上履きに履き替え、額に指先を当てて顔を斜め二十五度上に傾ける『靴をしまう時のカッコいいポーズ』を機嫌良く決めて歩き出そうとした。その時だった。
2173眠そうに目を擦る者、あけっぴろげにあくびをする者、友達と楽しげに笑い合っている者……。朝の登校ピークを迎えた下駄箱は色んな生徒が多く行き交う。
そんないつも通りな光景の中。司は必死に寝癖を直した髪を、ことさら撫でつけながら自分の下駄箱に辿り着いていた。寝癖直しに奮闘したせいで普段より登校時間が遅くなってしまい、一時は遅刻すら覚悟したが、わずかな時間の余裕すら生んで到着出来たことに一人胸を撫で下ろす。
(予期せぬアクシデントすら、いとも容易く乗り越えてしまう……さすがオレ!)
上履きに履き替え、額に指先を当てて顔を斜め二十五度上に傾ける『靴をしまう時のカッコいいポーズ』を機嫌良く決めて歩き出そうとした。その時だった。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負 (ワンライ)のお題『休日』をお借りして書いたものです。
[所要時間:2h]
恋人前提の類司。
【Lover's time】
久々にショーの練習のない、天下の休日。日曜日。
もっとも休日とはいえ、ワンダーステージという舞台でショーを行うオレ達には他にやることもある。ショーで使う小道具などの細かな物品の買い出しだ。ステージで使うものなのでフェニランに領収書付きで申請を出せば後から費用は返ってくるが、まずは自腹を切って自分達で買ってこなくてはならないし、そうしなくてはショーの準備も出来ない。
そこでオレと類は朝も早くから、多くの人が行き交うショッピングモールを縦断していた。途中、広場で行われていた休日限定の手品ショーを二人で楽しみつつ、センター街まで足を伸ばす。そして機械系のパーツを置いてあるという店から出た後、道の端に寄ったオレはビニール袋の取っ手を腕に通すと、ポケットから取り出した折り畳んだ紙片を開いた。書き込まれた文字を上から順番にみていく。
2118久々にショーの練習のない、天下の休日。日曜日。
もっとも休日とはいえ、ワンダーステージという舞台でショーを行うオレ達には他にやることもある。ショーで使う小道具などの細かな物品の買い出しだ。ステージで使うものなのでフェニランに領収書付きで申請を出せば後から費用は返ってくるが、まずは自腹を切って自分達で買ってこなくてはならないし、そうしなくてはショーの準備も出来ない。
そこでオレと類は朝も早くから、多くの人が行き交うショッピングモールを縦断していた。途中、広場で行われていた休日限定の手品ショーを二人で楽しみつつ、センター街まで足を伸ばす。そして機械系のパーツを置いてあるという店から出た後、道の端に寄ったオレはビニール袋の取っ手を腕に通すと、ポケットから取り出した折り畳んだ紙片を開いた。書き込まれた文字を上から順番にみていく。
水月 千尋
TRAINING #ritk版深夜の60分一発勝負 (ワンライ)のお題『嘘』をお借りして書いたものです。
[所要時間:2h+10m]
また屋上かよ!!!!
【嘘つきナイト】
基本的に僕が昼食を摂る場所は決まっていない。確率的に屋上や中庭が多いのは作業をしながらだったりするからで、昼食とその後のゴミを持ってうろうろするのが面倒な時は、教室で適当に胃に流し込んでしまうこともある。
そして、今日もそのパターンだ。
僕はタマゴサンドを手早く胃に納めて、作業道具や作りかけの小さめのロボットが入った黒いバッグを手に屋上へと急いだ。
通い慣れた階段をかけ上がって屋上のドアを開くと──頭上に広がっていたのは抜けるような青空だった。くわえて、熱くも冷たくもない風が心地よく吹き抜けていくそこはくつろぐのに絶好の場所だったのだろう。暖かな日差しをやわらかく跳ね返す見慣れた金の髪が、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。……司くんだ。
1473基本的に僕が昼食を摂る場所は決まっていない。確率的に屋上や中庭が多いのは作業をしながらだったりするからで、昼食とその後のゴミを持ってうろうろするのが面倒な時は、教室で適当に胃に流し込んでしまうこともある。
そして、今日もそのパターンだ。
僕はタマゴサンドを手早く胃に納めて、作業道具や作りかけの小さめのロボットが入った黒いバッグを手に屋上へと急いだ。
通い慣れた階段をかけ上がって屋上のドアを開くと──頭上に広がっていたのは抜けるような青空だった。くわえて、熱くも冷たくもない風が心地よく吹き抜けていくそこはくつろぐのに絶好の場所だったのだろう。暖かな日差しをやわらかく跳ね返す見慣れた金の髪が、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。……司くんだ。