圭藤あ、咲いてる。
なんて今さら意識したのは、通学の電車の中だった。
流れる景色がやけに白いのは、線路沿いに植えられた桜の花びらが満開になっているから。
こんなタイミングで気がついたのは、春休み中で制服姿のやつがほとんど乗っていないからだ。野球部の朝練に向かう時間では、サラリーマンたちと押しくらまんじゅうするにはまだ早い。
たしか、我が市営団地の周りでも花を咲かせていたはずだ。入学や進級のタイミングで、姉や妹と写真を撮った記憶はある。
毎年、なんなら今朝だって横を通り過ぎて来たはずなのに、こんなにも視界に入らないものだとは。朝は練習のことで頭いっぱいで、夜は夕ごはんの段取りを組み立てるのに夢中になっているからかもしれない。
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