楓可不『短夜の真ん中で』 じっとりとまとわりつくような熱気で目が覚めた。目が覚めた、と言うよりも深い眠りのベールを剥がされてうっすらと意識が浮上するような感覚。寝る前に少し温度を下げた冷房はいつの間にか止まっていたようだ。枕元に置いてあるはずのリモコンを取ろうと手を伸ばした楓の胸元で何かがもぞりと動いた。
「んぅ……暑い…………」
「可不可? 起きちゃった?」
「ん……」
身体が汗ばんでいた理由はエアコンが止まっていたからだけではなかった。楓の腕に頭を預け、背中に手を回していた可不可も楓と同じようにじっとりと汗をかいていた。探り当てたリモコンのボタンを押せば、ピッと音を立ててエアコンが動き出す。
「エアコン、止まっちゃってたみたい」
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