楓可不『ベツバラ→ヨリミチ・マワリミチ』「はあ~美味しかった!」
「でしょ? 來人さんが教えてくれたんだけど、可不可もすきな味だと思ったんだ」
楓と來人はこっそり出かけてはラーメン屋を開拓しているらしい。ふたりで秘密を共有している様子に何も思わないわけではないが、気に入ったラーメン屋があるとこうして可不可を連れてきてくれるので、まあいいか、と自分に言い聞かせている。
「うん! 美味しかった……つい替え玉までしちゃったからお腹が苦しいくらいかも」
「あはは。じゃあ寮まで歩いて帰ろうか」
俺も結構食べたからなあ。その言葉通り楓は今日もよく食べていた。可不可がラーメン一人前に替え玉半玉を食べている隣で、楓は可不可と同じラーメンの大盛りに味玉をトッピングし、小ライス、そして迷いに迷って焼餃子を食べ、しっかり一玉替え玉をしていた。味玉も餃子も半分可不可に、と言ってくれたので、黄身がトロトロになった味玉はありがたくいただいたが、餃子は結局ひとつで限界だった。可不可よりかなり多い量を可不可より早く完食して、満足げな横顔を覗くと、弧を描いた唇が油のせいかいつもより艶やかに見えた。
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