【空蝉日記 短編】体温を覚えた心「大丈夫〜?涼也?重くない?」
「……大丈夫。」
空気が冷え込みだした街並み。雑踏を行く人々はみな、手を擦り合わせたり、マフラーに顔を埋めている。厚手のコートでは覆いきれない素肌を、容赦なく冬の風が吹き当たっていく。
よく似た色の紫髪、どこか浮世離れした繊細な顔立ち、並んで歩くその姿。誰がどう見ても血の繋がった家族だと分かるその二人は、しかし隣に立つ女性の若々しさゆえに親子というより年の離れた姉弟のようにも見える。
冬物の衣類を新調したかったり、年始に向けて買い揃えておかなければならない物もあった暮香は、息子の涼也を連れて冬の街へと繰り出していた。
一般的な思春期の男子高校生ならば、イルミネーションに彩られたイブの街に母親と二人で買い物などという、決して首を縦に振りたくないようなことでも、涼也は一言返事で『分かった』とだけ答える。
1629