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    フカフカ

    うさぎの絵と、たまに文章を書くフカフカ

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    DONEグラⅡ/幼いころの双子皇帝/朝、カラカラが起きて廊下に出ると、廊下の真ん中に妙な布包みが落ちていた。中には傷だらけのゲタがくるまっていた/父から折檻を受けるゲタと、そんなゲタを簒奪者だと感じるカラカラの話/名前表記をカラカラとゲタで固定にしてしまいました/大人から子供への暴力行為について言及があるので注意してください
    のうのうと眠っていればいい それが一体何であるのか、カラカラはよくよく理解したというわけではなかったが、なにとなく、自分と全く無関係にも思われず、思いついて手のひらで触れて、揺すってみた。
     床に蟠った、布の塊のようなもの。
     カラカラの寝所の前を通る、長い回廊の中央にそれはあった。部屋から出たら、もうそこにあった。カラカラの腕では抱えるのに苦労しそうな大きさの、布の包みに見えた。 
     白い布の塊だった。布は上等な作りで、見覚えすらあった。カラカラは皇帝の息子であるから、そういうものを見慣れている。カラカラの目に親しみのないものは全て、取るに足らない、値打ちの低いものと決まっていた。
     カラカラは近づき、腰を屈めてそれに触れてみた。なんだかほのかに温かく、布の重なりの奥に、ぐんにゃりした手応えがある。犬か何かでも入っているような触り心地だが、塊はゆすられてワンと鳴くわけでもない。
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    DONEK(作品名)/ 夜更けにネギを買いに行ったきり戻ってこない草薙さんを探しに行く尊さん / 4年くらい前に書いた
    ネギ どうも、友人が遥かかなたまで出かけてしまったようなので、迎えに行かなくてはいけなくなりました。
     周防はへべれけ一歩手前の仲間内と、素面なのにへべれけにうまく交じっている十束と、その隣でピンク色のソーダを飲んでいるアンナへ、一言だけ言いおいて、夜更けの街へするりと溶け込んでいきました。
     ネギです。ネギを買いに行ったはずの草薙を探します。辺りには夜のしめっぽいにおいと、熱された油のかおりが漂っていました。周防はすん、と鼻を鳴らし、空と地面の境を探るように目を凝らして、歩き始めます。自分の背中にまだ、快い人々の明るい声が貼りついている気がします。
     もう数時間も前から、仲間たちがそろって飲めや歌えやをやりおおせようと、いつものおなじみのバーに犇めいていました。これの理由または動機付けについて、周防は無知ではありませんでしたが、だからと言って訳知り顔でいるわけにもいかないので、とにかく好き勝手にさせました。素晴らしい食事、素晴らしい酒類、飲料、すこしの甘い食べ物、語らい、光、耳に優しいものがそろっていました。そこで草薙がふと、周防の隣から立ち上がって「ネギ」と言い出しました。「みんなしめに汁物、欲しいもんな」と言って、ポケットに、本当にネギのためだけの金銭をざらりと流し込んで出かけていきました。常ならぬ迂闊さも宴の余韻かと放っておいたら、これです。
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    DONEK2 / T先生と和久井君が待ち合わせしておしゃべりして解散するだけのシリーズの前日譚みたいなやつ / CP要素ない / 3月のいのちのけ~ふで出す予定の再録本の中身から7割抜粋 / しょうもない用事で空港に行ったらかつての養い子に遭遇してワァ~!となったT先生が日を改めて和久井君と茶をしばいている話です / たぶんこのシリーズの和久井君はマジ医者で大人
    白い石で出来ている 和久井譲介は真田との約束通り本当に、 午前十一時に、ホテルのティールームにいた。真田はそれをホテル入り口から目で認めて、すこしばかり愉快になった。
     いくらか古めかしく豪奢なティールームは内装にふんだんに臙脂と金の色彩を散りばめていて、慣れない人間をおのずとはじき出すような印象がある。その中に、白いシャツをぴったり着こんだ年若い人間がいて、居心地悪そうな様を隠しもせず、ひとり用ソファに身を預けている。正面のローテーブル上に白いコーヒーカップが鎮座しているが、足音を抑えつつ近づいて覗くに、カップの中身は大して減っていないようだった。
    「よお」
     背後から声をかける。和久井はゆっくりと真田を振り返り、立ち上がった。何を言うわけでもなく真田の姿をじろじろ眺め、「ああ、なるほど」と言った。それから席を離れて通路側に出て、つい先ほどまで己が座っていたソファを手で指して、真田に「どうぞ」と譲った。
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    DONEK2/ドクターTETSUと和久井くんの話/ちょこちょこ一人前和久井くんと会っておしゃべりしてるらしいT先生/高層ビルの展望室は景色がいいね/養い子の望みがなんなのか分かんないなと思っている闇医者がいる
    ヴェイパーウェイヴ  エレベーターの小部屋はすばやく天上を目指す。扉を閉じ切り、和久井をひっそりと世界すべてから隠し、隔てて、ごうごうと音を立てて階を上がっていく。室内に和久井の他に人はなく、ひとつ階をすぎるごとに、階数表示ボタンが橙に光る。壁にもたれて、ガラス張りの窓から外を眺めやる。真珠色の空、雲の八重垣、塵屑の如くに他愛なく小さな街並み、人々、ほんの数センチばかりをのろのろと這う自動車の群れ、それぞれがずんずんと和久井から離れていく。すべてが和久井から剥がれていく。
     地上四十階を過ぎてはもはや、何も見えない。過去に暮らした塔のような住まいよりもずっと高いところへ来た。
     急な高所への移動のせいで一時的な聴力の鈍麻を覚える。ふ、と目の前が翳る。次いであえかなベル音が響いて、扉が左右に裂けた。和久井は壁から背を浮かせ、意識して幾度か唾を飲みながら小部屋を後にする。踏み出した右足がやけに柔らかな絨毯に沈む。エレベーターホールはどこか無機質な匂いに包まれている。背後で、和久井を吐き出したばかりの小部屋がしるしると地上目指して降りていく気配がある。
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    フカフカ

    DONEK2/T先生と和久井くん(たぶん大人)の話/車の中で世間話をしたり、こいつっていつからこんな「医者の覚悟完了」だったんだろうな〜と思ったり、高潔さと狡猾さの話をする/前に書いた「ザクロの飴」と「まったく傷ひとつない」と同じ世界の話だと思います/当シリーズはカップリング要素なしです(いつもない)
    グラッパ 雨は幾千の針となって地上を縫い付けにくる。銀色の空から、銀色の雨が降っている。
     真田は湿った地下駐車場を足早に渡った。
     濡れたコンクリートに砂がざらつき、足音が滲む。
     どことない焦りに任せて握る杖は冷たく、一向に真田の体温を吸わず、手になじまず、ただ真田に使われるがまま固く地面を打つ。普段よりも耐衝撃の具合が悪いように思った。杖から伝わる硬質な手応えのせいで手のひらが、腕が痺れる。 
     冬で、雨で、冷えた病人の持ち物だからか、と苛立ちが遠くから打ち寄せて真田の心を浸した。己の道具が己の思うままの仕事をしないのは裏切りめいて不快だった。自分の肉体ですらそうなのだから、杖ともなれば余計だった。
     足を止めると、ざん、と雨音が耳に触れた。はるか前方の坂の上に口を開け、地上の景色を平行四辺形に切り取った駐車場出口から、外の光と音とが流れ込んでいる。
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