うさぎと例え話 何度目かの成功した晩酌の誘い。ほんの少し顔を赤くしたファウストは、目の前の男をじっと見つめる。
「知っているか? 賢者の世界では、厄災にうさぎが住んでいるらしい」
「そうなの?」
「例え話だと聞いた」
賢者、異世界からの来訪者。この世界とは環境が全く違う場所から来た彼の話は、不思議で、興味をそそるものが多い。
手首をほんの少しひねれば、赤ワインがゆらりと波打つ。そんな手慣れた動作を見ながら、二人はいつの間にか外を見ていた。
月は、暗い夜に光を灯す。明るい部屋では、随分と存在感は薄れるものの、それでも窓を覆う青白にはいつだって気が向くものだ。
月は、魔法使いの命を奪い、世界を混沌に陥れた。そのくせ、今ものうのうと大きな空で輝いている。
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