シリィ3話02(……あれ? 笛の音?)
軽やかで素朴で、けれど清らかに空に吹き抜ける笛の音に、レクトは足を止めた。蔦の這う塀の向こうから、音楽が聞こえてくる。
荘厳な静寂を求めるのではなく、いっしょに体を揺すり手拍子を誘うような旋律だった。音が弾んで、梢を飛び回る小鳥のように耳のそばを横切っていく。
「だんしんぐ!」
隣りにいたランが、くるりと回った。衣装が袖のない真っ白なワンピースのドレスに変わり、若草色の髪が花を芽吹かせ芳香を散らす。
芸事に疎いレクトでも見惚れそうな情景だったが、注目する人はいなかった。カイいわくランが心理迷彩の術を使っているのだということだが、よくわからない。くるくる回り跳ねるランに釣れられて、塀の敷地内に足を踏み入れる。
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