鳶と鳳凰 大東亜戦争終戦からはや十三年。戦後の復興は凄まじく、平和国憲法が制定され、商工業の発展も目覚ましい。そのせいだろうか、夏が年々暑くなっているように感じるのは、我が国がまさに活気づかんとしているからかもしれない。それでも東京よりはこの里の方がいくらか涼しい。制服の下で背筋を伝う汗もさほど煩わしくはない。夏の制服に身を包んだ細身の青年は、こめかみに流れる汗と共に口元についた赤を右手で拭った。日陰の校舎裏に蝉の声をのせた黒南風が吹き抜けていった。青年は目を瞑って両手を広げ、大きく深呼吸して言った。
「いい風だ。蝉の声も心地良い。」
その時、青年の足元で小さく呻き声が聞こえた。青年は視線だけをそちらに向けて言った。
7498