部活を終え疲れ果てた身体で何よりも安全が約束された筈の自室の扉を開けた瞬間に香る、思考を乱す不快な甘い匂い。過去に一度しか嗅いだ事の無い匂いではあるが、その強烈な匂いは違えようも無い。
「はっ、二度と同じ過ちは犯さないとかなんとか言ってた癖に結局オネダリに来たのか?」
匂いの元のジャミルは大した面識も無い他寮の寮長部屋に不法侵入を果たしたくせに扉すぐ脇の冷えた石造りの床の上で蹲っていた。汚物に触れるように爪先で脇腹を小突いても小さく呻き声をあげるだけで荒い呼吸に丸めた背中を泳がせている。前回のように何の抑制もされていない状態よりは大分マシだが、到底日常生活が常と変わらずに送れる状態には見えない。今回もまた薬を飲むのが遅れたか、それとも効きが悪くなったか。どちらにせよ、レオナには迷惑以外のなにものでもない。
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