sweetmilk家入から連絡を受け、駆けつける以外の選択肢を持つ人間は果たしてこの世に存在しうるだろうか。ひとり、ふたりくらいまではパッと名前が浮かび、自分はというと後輩であることと日々どこかしらに受ける怪我の治療を頼んでいる手前、彼女から呼び出しがかかればいくら仕事が早く終わろうとも、郊外にある呪術高専まで急ぎ戻らざるを得なかった。
「家入さん、お待たせしました」
扉を開けると、電話越しに「大至急」とつけてまで呼びつけてきた先輩は、それはもう大変お寛ぎのご様子。いつもの革張りの椅子にゆうるり腰かけ、コーヒー片手に七海の到着を待っていた。加えてぷかぷかと紫煙をくゆらせる彼女の膝上には、なにやらまあるい白黒の毛玉がころりと転がっている。くしゃくしゃと指先であやされるそれに目を凝らすと、それは白地に黒の斑点を毛皮を持つ猫であることがわかった。
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