心許りの疵ばかり(雷コウ) 昼すぎより雷、土砂降りの雨となるでしょう。
流れる朝のニュースに目の前で明太子を頬張る男が窓の外の快晴を見上げながら訝し気に眉を寄せた。秋の空は変わりやすい。
この男と出会ってから十年ほど、この男を抱くようになってから五年とちょっと、それからこうやって自宅に泊めて一緒に朝ご飯を食べるような仲になってから三年ほど。
過去の自分がこの光景を見れば驚くのだろうが、今の自分だっていまだにこの光景を見慣れず新鮮に驚いてばかりだ。パンとコーヒーで食事を済ませそうな風貌のこの男が好む朝食は白米と明太子。この男がうちに泊まる日には必ず冷蔵庫に明太子を入れている。この男の為に買い置いているなどとは思われたくは無いからこの男が来る前日の夜には必ず封を開けて一つ食べる。明太子を食べれば翌日はこの男に会えるのだ、と訳の分からないことを思うようになってしまったことなど誰にも知られたくはない。
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