時緒🍴自家通販実施中
TRAINING時間がない中で愛し合おうとする狡噛さんの話。800文字チャレンジ100日目。
お付き合いありがとうございました!
タイムリミット(あなたを愛する時間) 時間がない。だからといって手抜きはしたくない。たっぷりいつものように時間がかけられないとはいえ、彼を愛するのに手を抜きたくはない。そんなことを思いながら俺はギノに口付けを落とす。キスだけで終わっておく? あとは夜にとっておく? それとも短い時間を共にしてから出勤する? 俺は悩みながら、静かに身を寄せるギノを抱きしめた。彼は俺にされるがままにされている。少しくらい出勤が遅れてもかまわないとでも思っているのだろうか? 俺はそんなことを思って、そんなことあるはずがないとも思った。彼は仕事に関してはストイックで真面目だ。こんなことが許されるはずがない。以前だってこんな時に始めようとしたら、左で殴られたことがあった。彼は少し性欲が淡白で、キスだけで満足できるところがあるのだ。ただ触れられたらそれでいい、そう考えるところが。だからこうやってキスをしているのも、大した意味はないんだろう。セックスに繋げようなんて、そんなこと絶対に考えていない。セックスなんて夜にする深い営みくらいにしか思っていない。俺はそれを悔しく思う。急げば出勤までに間に合うのに、彼はそれをしてくれないと。
991時緒🍴自家通販実施中
TRAININGお墓参りをする宜野座さんのお話。何かが変わってゆく様子。800文字チャレンジ99日目。
ただ、君を待つ(二度と離さない) 狡噛がいなくなって数年が経った。だというのに俺はまだ彼を待っていて、自分から別れを告げたくせにまだ待っていて、海外に派遣されることはないかとか、共同捜査にあたることはないかとか、そんなことばかりを考えていた。そんな俺を常守は見ていられないようだった。考えてみれば、彼女が別れの時間を俺に渡したのだから、そう思うのも仕方がないのかもしれない。彼女は俺が撃てないことを、狡噛を殺せないことを知っていた。そしてその代わりに別れを告げることも。だから俺は彼女についてゆこうと決めたのだが、それでも彼女にはひどい役目を課していると思う。俺が知らない何かを知っている彼女は、今日だって局長室に呼ばれて行った。何かが動いているのは分かっていた。先日は外務省から花城フレデリカがやって来たし、口の堅い須郷を口説き音して聞けば、外務省に新しい部署を作るにあたって求められた、とのことだった。何かが動き出していた。俺が何も知らない何かが。俺が何も知らないのは、いつだって同じことだった。いつだって俺はただ転がる球で、跳ねては物事の本質を知る人々に笑われていた。出世が見込めるときはそれでも満足していたが、それがなくなった今ではどうしていいのか分からない。執行官が下手に動けば上司である監視官が処罰される。だから俺は、ゴム毬のように、ずっと跳ねているしかないのだろう。
966時緒🍴自家通販実施中
TRAINING仕事でミスをした狡噛さんと怒る宜野座さんのお話。800文字チャレンジ98日目。
ミステイク(ヒューマンエラー) ギノの機嫌が悪いのは、俺が仕事でミスをしたからだ。それもどうとでもなる、小学生でも見つけられるミスをしたからだ。彼は仕事には厳しい男で、そういうのを嫌う人間だったから、俺は絶賛無視をされている。どちらが子供っぽいかは分からないが、彼の腹の虫が治まるまでは、俺は一言も口をきけないだろう。けれど波は俺になびいてきている。花城はさっきからいらいらしているし(仕事中に喧嘩をするなと言いたいんだろう)、須郷も気遣わしげだ(彼は誰かが喧嘩をしていると収めようとするところがあった)。だからここでギノが俺を許してくれれば全ては丸く収まるのだが、まだそれはうまく行きそうになかった。それくらい、彼は強情だったのだ。笑ってしまうくらいに。
897時緒🍴自家通販実施中
TRAINING寝ずの番をする二人の話。800文字チャレンジ97日目。
このまま夜明けまで(あなたと二人なら) 犯人と見られる人間がバーチャルの売春宿に入って数時間が過ぎた。俺とギノはパトカーをホロで隠してそれを伺っている。裏には二係がいる。今回は大規模な捜査で、失敗するわけにはいかなかった。だというのに、俺はギノとともに夜を過ごしていることを喜んでいた。彼が潜在犯とともに過ごすことを喜ぶかどうかは分からない。ただ恋人だった期間が長かった分、甘い雰囲気は流れた。また一緒にいたい。許されるなら一緒にいたい。でもその選択肢を捨てたのは俺だった。ギノは情が篤い男だから、潜在犯になっただけで俺を捨てはしない。彼が俺と距離をとっているのは、俺が佐々山を殺した犯人に、いもしない犯人に夢中になっているからだった。それに色相だってそんなに悪くはないんだ。もし矯正施設でプログラムを受ければ一般人に戻れるかもしれないくらいに。けれどそれを勧めるギノを拒否して、俺は彼とともに働いている。
984時緒🍴自家通販実施中
TRAININGうとうとする狡噛さんのお話。800文字チャレンジ96日目。
not awaken(ねんねこねんねこ) 狡噛が寝入っている時の顔を見るのが好きだ。密集して生えたまつ毛が影を作って、それは少し歳を重ねて痩せた頬に影を作る。形のいい鼻筋には癖っ毛がかかり、薄く開いた唇は小さく開閉している。狡噛はあまり眠りが深くないから、こういうのを見せることは少ない。長い間一緒に寝ているけれど、これで二度目くらいだ。だから俺は深く観察する。美しく滑らかな頬、かさついてもなだらかに膨らむ唇、そしてゆっくりと開いてゆく青い瞳。俺は青い瞳が一番好きだ。そこに自分が映るのが一番好きだ。かすれた声でギノ、と呼ばれるのが一番好きだ。彼がそばにいればなんだっていいんだけれど、彼が俺を確認するさまが好きなのだった。
「……何時間寝てた?」
944「……何時間寝てた?」
時緒🍴自家通販実施中
TRAINING狡噛さんの癖について。800文字チャレンジ95日目。
癖(あなたの好きなところ) 狡噛は唇をいじる癖がある。考え事をする時それは頻繁になって、それはよくある癖なのに、俺はそれが気になってたまらなくなる。唇。言葉を発するところ、唇同士を重ね合わせて愛情を伝えるところ、苦しそうに、気持ちよさそうに声を出すところ。俺はそんなことを想像してしまって、彼がブリーフィングルームで新しい事件のファイルを見ているのに目をやれなかった。ただ唇をいじっているだけなのに、花城だって、須郷だって同じ仕草をすることがあるのに、狡噛のそれは俺に取って毒で、甘くて、ほとんど致死量なのだ。認めたくはないことだけれど。狡噛はそれを知っているのだろうか? 心臓の動きが活発になって、体温が上がる。狡噛と視線が合う。彼はゆっくりと舌で持って唇を舐める。セックスをしている時みたいにゆっくりと、俺の唇を舐める時みたいにゆっくりと。
920時緒🍴自家通販実施中
TRAININGベッドの上での2人。800文字チャレンジ94日目。
気まぐれな熱情(どっちも同じ) かさついた指があごをくすぐる。手のひらが喉仏をさすって、それはだんだんと胸元に下がってゆく。俺はもうほとんど服を着ていなくて、彼は直接俺の肌に触っている。セックスは嫌いじゃない。肌と肌を合わせるのは嫌いじゃない。けれど彼の気まぐれなそれには驚いてしまう。こうやって気まぐれに彼が俺を抱く時、彼は何かを抱えている。俺に言えない何か、機密として秘することを強いられている何かを彼は持っているのだ。だから彼は俺に触る。そうしたら楽になるような気がして。そうしたら秘密を持つ苦しみから逃れられるような気がして。そんなの幻なのに、彼は俺を使って楽になろうとする。俺はそれを拒まない。彼が楽になるのなら、楽になった気分になるのならそれでいい。だって俺も同じようなことをするから。楽になろうとして彼に抱かれることがままあるから。
939時緒🍴自家通販実施中
TRAINING狡噛さんの教室で宿題をする2人のお話。800文字チャレンジ93日目。
ホームワークが終わらない(誰もいない教室) 狡噛の宿題が終わらないことは、本当に滅多にないことだった。いつもはホームルーム中にさっさと終わらせてしまうのに、今日は何故かそれをしなかったらしい。クラスの役員か何かを引き受けさせられたのだろうか? 俺はそんなことを聞いていないから想像なんだけれど、何かあるような気がした。だから俺は狡噛のクラスで一緒に居残りをして、同じように違う宿題をした。するとどうしてかクラスメイトになった気分になって、他に誰もいない、もう皆帰ってしまった教室でタブレットを操作した。
「すまないな、忘れる前にやっときたくってさ。ギノは遊んでくれてていいんだぜ」
狡噛はそう言った。でもそう言われて遊ぶほど俺は怠惰じゃない。友人が勉強しているんなら俺も勉強するさ。
811「すまないな、忘れる前にやっときたくってさ。ギノは遊んでくれてていいんだぜ」
狡噛はそう言った。でもそう言われて遊ぶほど俺は怠惰じゃない。友人が勉強しているんなら俺も勉強するさ。
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TRAINING結婚式の警護をする行動課の話。800文字チャレンジ92日目。
ジューンブライド(指輪の交換) 梅雨の季節になると、ぱらぱらと雨が降る中結婚式を挙げるカップルが増える。それはジューンブライドの弊害だが、雨に降られる彼らはどこか誇らしげで、今回そんな結婚式の警護に当たることになった俺は、昔した約束を思い出していた。まぁ、くだらない約束だ。結婚式は何月がいい? 俺は六月がいい。雨の中でもきっとギノは綺麗だから。狡噛はそんなふうに言って、その約束はまだ果たされないのだが、まぁ、子どもの頃の約束とはそういうものなんだろう。もしかしたら彼も忘れているかもしれない。結婚式についてなんて、ありきたりな熱っぽい時期の約束だから。
「雨が降り始めました。滑らないよう気をつけてください」
俺は新婦たちにそう言いながら彼女を庇う。彼女は海外調整局のお偉方の娘で、その伝手で俺たちが警護にあたることになっていた。念のためだが恨みを買っている可能性もある。俺たちを手駒にして動かすことをなんとも思わない人間の娘なのだからそれも仕方がないのだろう。
968「雨が降り始めました。滑らないよう気をつけてください」
俺は新婦たちにそう言いながら彼女を庇う。彼女は海外調整局のお偉方の娘で、その伝手で俺たちが警護にあたることになっていた。念のためだが恨みを買っている可能性もある。俺たちを手駒にして動かすことをなんとも思わない人間の娘なのだからそれも仕方がないのだろう。
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TRAINING海外で過去の約束を思う狡噛さんのお話。800文字チャレンジ91日目。
壊れた約束(あなたのために) ずっと一緒にいるから、そんな約束をしたのは、俺たちがまだ日東学院にいた頃だった。その言葉は存外にするりと出てきた。俺はギノを喜ばせたくて、彼の家庭環境を知ってそう言った。ずっと一緒にいるから、一人にはしないから、だから俺の手を取ってくれないか。そんなふうに、映画みたいな台詞を使った。今ではバカだったと思うがあの時は本気だったし、恋愛における約束というものは大体そんなものなのだろう。
俺がその約束を破ったのは、きっと執行官堕ちをしてからだ。もしあのまま、平穏なまま時が過ぎ去っても、一生執行官として生きるしか術がなかった俺と、公安から厚生省に上がる約束があったギノじゃあ上手くはいかなかっただろう。青柳とその恋人がそうだったように、俺もあんなふうに終わっていたかもしれない。俺の場合は槙島がそうさせたが、また違った事件で独断専行をして、彼から離れたかもしれない。そして今は海外を放浪している。これじゃあ一緒にいるどころか、他の国に渡航してしまって同じ言葉も喋れない。
942俺がその約束を破ったのは、きっと執行官堕ちをしてからだ。もしあのまま、平穏なまま時が過ぎ去っても、一生執行官として生きるしか術がなかった俺と、公安から厚生省に上がる約束があったギノじゃあ上手くはいかなかっただろう。青柳とその恋人がそうだったように、俺もあんなふうに終わっていたかもしれない。俺の場合は槙島がそうさせたが、また違った事件で独断専行をして、彼から離れたかもしれない。そして今は海外を放浪している。これじゃあ一緒にいるどころか、他の国に渡航してしまって同じ言葉も喋れない。
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TRAINING廃棄区画での話。どこで寝ても同じ話。800文字チャレンジ90日目。
目を閉じておいでよ(全て同じ) 何にも知らない恋人に、何もかもを教えた気がする。手の繋ぎ方、口付けの仕方、抱擁の方法、それからどうやってセックスをするのか。なのに想いを伝える方法は教えなかったのだから屈折している。俺は彼が俺以外では失敗すればいいと思っていて、わざと恋人の作り方を教えなかった。俺以外では失敗するように、そんなふうに何もかもを教えた。彼がそれを知っていたかどうかは分からない。純粋な性格だし、案外気づいていないかもしれない。でも気づいていたら、俺はどう思われていただろう。独占欲の強い恋人だろうか。別にそれでもいいが、嫌われたくはない。
「痴情のもつれの上での殺人ねぇ……」
縢が珍しそうにぼろぼろになった男の残骸を見つめた。監視官であるギノは、色相悪化を避けるためパトカーで待機している。俺たち猟犬が推理をし、それを献上するのがいつものパターンだった。
877「痴情のもつれの上での殺人ねぇ……」
縢が珍しそうにぼろぼろになった男の残骸を見つめた。監視官であるギノは、色相悪化を避けるためパトカーで待機している。俺たち猟犬が推理をし、それを献上するのがいつものパターンだった。
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TRAINING職場でのイチャイチャ。800文字チャレンジ89日目。
触れた指先(それはあなた) ギノの身体はどこもかしこも美しい。頭のてっぺんからつま先まで、どこまでも美しい。それは誰もが知るところだろうが、それに触れられるのは俺だけだということは、この強い独占欲を満足させた。彼のうなじ、唇、人が望むところ全てに俺は触れることが出来る。ギノは俺の欲望を満たしてくれる。決して拒否なんてしない。俺はそれに満足していて、そしてこれからもそうであってくれと願っている。
「狡噛、その……」
コーヒーを片手にサーバー近くでのんびりしていると、ギノが言いづらそうに俺に切り出した。一体何なんだろう。俺は何かしでかしたか? そんなことを思いながら自分の手を見ると、彼の髪をくすぐっていることに気づく。もしかしてこれだろうか? いつもの癖でやってしまったが、さすがに職場ではまずかっただろうか。
883「狡噛、その……」
コーヒーを片手にサーバー近くでのんびりしていると、ギノが言いづらそうに俺に切り出した。一体何なんだろう。俺は何かしでかしたか? そんなことを思いながら自分の手を見ると、彼の髪をくすぐっていることに気づく。もしかしてこれだろうか? いつもの癖でやってしまったが、さすがに職場ではまずかっただろうか。
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TRAININGくだらない喧嘩をしちゃった二人の仲直りのお話です。800文字チャレンジ88日目。
他愛のない喧嘩(仲直りの方法) 別に大した理由があったわけじゃない。そんな大した理由があっての喧嘩じゃない。かといって、他愛のない喧嘩と言われればそうじゃない。それなりに真剣に喧嘩をしたと思う。狡噛は哲学書を引用して俺を責め、俺は過去の彼の不出来を持ち出して責めた。どちらも本気の喧嘩だった。喧嘩の原因はそうだ、多分食事後の皿をそのままにしていた狡噛を俺が注意したのが始まりだったのだけれども。あぁ、これじゃあ他愛のない喧嘩か。
「あなたたち、喧嘩をするのはいいけど、オフィスにまで持ち込まないでよね」
喧嘩の当日、花城はそう言った。そんなに剣呑さが顔に出ていただろうかと思うが、ここで素直に謝るのも少し違う気がして黙っていると、「そういうのをやめなさいって言ってるのよ」とたたみかけられた。狡噛はこうなるのが分かっていたのか煙草休憩で、さっきからずっと姿が見えない。すると花城は言った。「追いかけて謝りなさいよ」でも、皿を出しっぱなしにしたのは狡噛が悪いんじゃないか? そう言いかけると、「先に謝るとこれから立場が上になるわよ」との花城の提案が追いかけてくる。それならいい。上の立場に立てるなら、謝ってやってもいい。でも、どうやって謝る。すまなかったって、どんなふうに?
984「あなたたち、喧嘩をするのはいいけど、オフィスにまで持ち込まないでよね」
喧嘩の当日、花城はそう言った。そんなに剣呑さが顔に出ていただろうかと思うが、ここで素直に謝るのも少し違う気がして黙っていると、「そういうのをやめなさいって言ってるのよ」とたたみかけられた。狡噛はこうなるのが分かっていたのか煙草休憩で、さっきからずっと姿が見えない。すると花城は言った。「追いかけて謝りなさいよ」でも、皿を出しっぱなしにしたのは狡噛が悪いんじゃないか? そう言いかけると、「先に謝るとこれから立場が上になるわよ」との花城の提案が追いかけてくる。それならいい。上の立場に立てるなら、謝ってやってもいい。でも、どうやって謝る。すまなかったって、どんなふうに?
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TRAINING狡噛さんを慰める宜野座さんのお話。800文字チャレンジ87日目。
儚い季節(それはあなた) 狡噛はある種の事件が終わると、センチメンタルになることがある。そう、少女が絡んだ事件だ。ハッピーエンドに終われば彼はご機嫌で俺に酒を奢り、そうでなければ俺が彼を抱きしめ慰める。狡噛は優しい男だった。きっと紛争地でも多くの少女を看取ったのだろう。今回の事件は後味の良くない、少女たちが搾取され死ぬ物語だった。彼が耐えられるかどうかは分からないが、なるべく側にいようと俺は思う。
「狡噛、水は?」
彼は首を振る。
「栄養バーでも食べたらどうだ?」
やはり彼は首を振る。俺は見ていられなくて、狡噛が寝転ぶソファに座って、癖のある髪を撫でてやった。嫌だとは言われなかった。彼は彼で弱っているのかもしれない。
「お前は嫌がるかもしれないけど、最後に優しくしてもらって女の子たちは喜んでいると思う」
868「狡噛、水は?」
彼は首を振る。
「栄養バーでも食べたらどうだ?」
やはり彼は首を振る。俺は見ていられなくて、狡噛が寝転ぶソファに座って、癖のある髪を撫でてやった。嫌だとは言われなかった。彼は彼で弱っているのかもしれない。
「お前は嫌がるかもしれないけど、最後に優しくしてもらって女の子たちは喜んでいると思う」
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TRAINING結婚式に着ていく服を見繕ってもらってそれからのお話。800文字チャレンジ86日目。
ドレスアップ(キス) 海外調整局で繋がりがある職員が結婚した。ので、俺たち行動課はまとめて呼ばれることになったのだが、残念ながら、俺たちは祝祭の日に着る服を持っていなかった。以前はスーツで通していたが、それも格闘が増えてからは安っぽいものに変わったし、それではあまりにも二人に義理立てできない。というわけで我らが課長に見繕ってもらったのだが、それはそれはゴージャスなもので、ただ一度きりの結婚式のためにはもったいないほどだった。そう、例えば記念日にはこれを着て、それなりのレストランで祝うくらいしなくてはもったいないほどに。それくらい、ゴージャスな彼に俺はやられていた。
「忘れていたけど、お前ってなかなか見栄えがするんだな」
924「忘れていたけど、お前ってなかなか見栄えがするんだな」
時緒🍴自家通販実施中
TRAINING狡噛さんからもし手紙が来ていたら、の話。800文字チャレンジ85日目。
The day after(ラブレター) 狡噛がいなくなってから世界は色を失って、彼に再び会ってから色をとりもどした。彼が海外ででも生きていることに俺は安心して、どうにかこうにかやっていけた。狡噛は便りをよこさなかった。一通も。頭の回る彼のことなのに、俺に合図を送らなかった。俺はそれに安堵したような、悲しかったような、不思議な感覚を覚えたのを思い出す。一人でも生きていけるから便りはいらない。一人でも生きていくために便りが欲しい。そんな時に見つけたのが、彼が公安局を出奔する前に俺に置いて行った手紙だった。
それは非公式には存在しないことになっている。というのも、俺が報告しなかったからだ。狡噛の手紙を見つけたのは彼とよく遊んだ廃棄区画のガレージだった。仕事のついでにどうなっているか見に行った時、そこに一通の、埃をかぶった手紙が置かれていた。内容は次のようなものだ。これから仕事を一つ片付けなきゃならない、すまない、愛している、あの時からずっと。
889それは非公式には存在しないことになっている。というのも、俺が報告しなかったからだ。狡噛の手紙を見つけたのは彼とよく遊んだ廃棄区画のガレージだった。仕事のついでにどうなっているか見に行った時、そこに一通の、埃をかぶった手紙が置かれていた。内容は次のようなものだ。これから仕事を一つ片付けなきゃならない、すまない、愛している、あの時からずっと。
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TRAINING傷跡についての夜の話。800文字チャレンジ84日目。
傷跡(痛み) 狡噛には傷跡がたくさんある。執行官となってからそれは目に見えてのことだったが、ナノマシンで傷が完治する日本とは違い、海外を放浪していた彼はいびつな傷跡がたくさんあった。銃撃戦でやられた足、肉をえぐったナイフ、それは彼の身体を確かめる度に見付かって、俺はなんとも言えない気分になった。狡噛は強い男だ。彼が傷跡を残しているのには理由はない。ただ、身体を重ねている時、いっそこれらを消してくれたらいいのにと思うことがある。俺の知らない恋人を知るようで怖いのだ。俺の知らない恋人を知るようで悔しいのだ。流石に、顔の近く、こめかみにある傷跡は花城が消させたようだけれど。そんなんでは海外調整局のメンバーが気にすると言って。仕事にも差し障りが出ると言って。彼女は狡噛の傷をどこまで知っているのだろう。俺しか知らない傷はあるのだろうか? それは独占欲を満たすようで満たさない。海外について語らないから、俺は彼の秘密を知れない。
824時緒🍴自家通販実施中
TRAINING青っぽい学生時代狡宜。800文字チャレンジ83日目。
鼓動が限界(ある夏の日に) 初めてギノと口づけをした時、心臓が痛すぎて病気になったと思った。不恰好にも手の汗がびしょびしょだったし、それで嫌われやしないかまた心臓の鼓動が早くなった。何回も歯磨きした、歯磨きしすぎて血が出るくらい歯磨きした。ガムも噛んだしミント味のラムネも食べた。そうして俺はやっとギノと先送りにしていたキスをして、恥ずかしそうに笑う彼にもう一度キスがしたくなった。でももう鼓動が限界だ! これ以上キスしたら死んでしまうかもしれない。死因、キスをしたこと、愛する人とキスをしたこと、少しロマンチックだけれど、もっとしたいことがたくさんある。海に行きたい、山に行きたい、俺が好きなところ全てにギノを連れて行きたい。廃棄区画にある古本屋とか、やっぱり廃棄区画にあるジャンキーなハンバーガーショップとか、そんなところにギノを連れて行きたい。ギノは嫌がるだろうな。でも俺を知って欲しいんだ。俺はまだ童貞でデートの仕方も知らなくて、だから自分の好きなものを教えるくらいしか思いつかない。でもそれだって充分だろう? 俺の好きなものは、俺を構成するものなんだから。それを差し出すってことは、俺を差し出すってことなんだから。
910時緒🍴自家通販実施中
TRAINING宿の窓から見る月とそれに当てられてしまった2人の話。800文字チャレンジ82日目。
月明かり(夜と朝) 空に明かりはひとつしかない。そう、月の明かりだ。地には多くの明かりがある。そう、出島のネオンだ。俺たちはそんな中で小さな木賃宿にいた。娼婦が客を取るのよりも、もっと昔ながらの場所。大昔から日本人がやっている場所。俺たちはそこで情報屋からデータを受け取って、そのまま官舎に直帰する予定だった。しかし珍しくギノが言ったのだった、ここで朝まで過ごさないかって。見れば、彼が覗く窓には美しく丸い月があった。官舎では見られないほど大きな月だった。
「これは見事だな。データに……いや風流じゃないな。記憶に留めておくだけにするよ」
俺がそう言うと、ギノは笑って窓に寄りかかった。磨りガラスは星の形が散りばめられていて、とても古いもののように思えた。この宿は、いつからこの出島で時を過ごしているのだろう。
853「これは見事だな。データに……いや風流じゃないな。記憶に留めておくだけにするよ」
俺がそう言うと、ギノは笑って窓に寄りかかった。磨りガラスは星の形が散りばめられていて、とても古いもののように思えた。この宿は、いつからこの出島で時を過ごしているのだろう。
時緒🍴自家通販実施中
TRAINING宜野座さんの髪の毛について。800文字チャレンジ81日目。
ほどけた髪(そのうなじに) ギノの乱れた髪を撫でるのが好きだ。激しくセックスをして絡まった髪を解いてやって、それに口付けるのが好きだ。もちろん彼は嫌がって、自分の手櫛で直そうとする。まぁ、それを見るのも好きなのだけれど。ギノがなぜ髪を伸ばしたのかは知らない。俺の記憶の中の彼はずっと髪を短くしていて、だからSEAUnで再会した時は驚いたものだ。彼の知らないことなど、絶対にないと勝手に思っていたから。でもそんな彼の変化にももう慣れてしまって、歩くときにひょこひょこと揺れる様とか、セックスの度に解く様とか、好きな様子も増えた。多分、俺は彼ならば何でもいいんだろう。でも、俺の変化を彼はどう思っているのだろう。俺が佐々山を真似て煙草を始めた時も、酒を嗜むようになった時も、ギノは何も言わなかった。ただ顔をしかめて、俺を見るだけだった。それが答えなんだろうか? 何も言わないでいる、それが彼の答えなんだろうか?
880時緒🍴自家通販実施中
TRAININGごろごろする二人。なんでもない時間。800文字チャレンジ80日目。
クラシック(悩みとコーヒー) 狡噛の部屋に行くと、音楽が流れていた。それもクラシック、詳しくは知らないから分からないが、ざっくりというと管弦楽で、いかにも彼が好きそうなものだった。本を読む彼にこれは? と言う顔をすると、出島のマーケットで捨てられそうになったのを買い取ったのだという。馴染みの店主だから安くしてもらったよ、とは彼の弁だ。俺は売りつけられたのではないかと疑ったが、それにしては音の状態は良く美しい調べだった。
「コーヒーは?」
狡噛が言う。俺は砂糖を二つ、と甘い注文をして、くるくると回るレコードを見つめた。狡噛の部屋には本だけではなくレコードも多かった。俺はどちらにも興味はなかったから知らないが、これも彼を構成するものの一つなのだろう。
830「コーヒーは?」
狡噛が言う。俺は砂糖を二つ、と甘い注文をして、くるくると回るレコードを見つめた。狡噛の部屋には本だけではなくレコードも多かった。俺はどちらにも興味はなかったから知らないが、これも彼を構成するものの一つなのだろう。
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TRAINING学校終わりに秘密の場所に行く二人。800文字チャレンジ79日目。
それじゃバイバイ(二人だけのさよなら) 学校でさようならをするのが好きだった。その瞬間のために学校に行っているような気すらしていた。その瞬間が来てやっと、俺は自由になったから。子どもたち、同級生たちは帰りにどこで遊んで行くか笑いながら思案しているが、俺は秘密の道をどうやって帰るか、珍しくホロじゃない植物が生えている道をみんなにバレずにどうやって訪ねるか、家に帰ってダイムとどうやって遊ぶか、そんなことばかり考えていた。俺は潜在犯の息子で、何かあったらいじめられていたけれど、楽しい放課後にかまって来る奴なんていなかった。それくらいその時間はみんなにとって大切だったんだろう。俺にだって大切だったさ、授業の復習をしたら、ようやく一人の時間が出来るから。
985時緒🍴自家通販実施中
TRAINING二人きりに通じる言葉。800文字チャレンジ78日目。
サイン(二人きりの言葉) 二人きりのサインがある。二人きりしか分からないサインがある。俺たちはそれを使ってやりとりをする。暗号のようなものだ。といっても、その内容は簡単なもので、今日の夜は外で食べようとか、今日部屋を訪ねていいかとか、そんな他愛のないものだった。でも俺はそのやりとりが好きだった。狡噛と俺だけに分かる言葉のようで、二人だけの言語のようで。今日もサインをもらって俺の部屋に狡噛が訪ねてくることになっていた。とびっきりの酒を持って、そのあとは俺の部屋に泊まることに。けれど、それに少し陰りが入ったのは、仕事を終えそうになった夕方のころのことだった。
「ねぇ、狡噛。仕事が終わりそうで悪いんだけどちょっと一緒に来てくれないかしら。この状況を説明するのにはやっぱり海外を放浪してたあなたがいる方が相手方を説得しやすいと思うのよ」
1121「ねぇ、狡噛。仕事が終わりそうで悪いんだけどちょっと一緒に来てくれないかしら。この状況を説明するのにはやっぱり海外を放浪してたあなたがいる方が相手方を説得しやすいと思うのよ」
時緒🍴自家通販実施中
TRAINING愛しているとどうやって言ったらいいんだろうというお話。800文字チャレンジ77日目。
ひゃくまんつぶの涙(愛している) 誰かを愛して泣くことがあるなんて知らなかった。それも自分の前から去られるのじゃなく、愛していると言われて泣いてしまうなんて。
狡噛はよく俺のことを愛していると言う。朝起きてキスをした時、出勤前、休憩中、仕事が終わって官舎に戻ってから。俺はその度に泣きそうになって、自分の気持ちを引き締める。この男は自分を一度捨てたやつだって思い出せって、そんなことを繰り返しながら。
「ギノ、愛してる」
セックスの最中も、彼はよく愛をささやく。俺はその度に泣きそうになる。身体をつなげているだけで幸せなのに、愛を伝えてもらえるなんてと泣きそうになる。言葉は嘘が多い。それでも狡噛の言葉は本当だ。重なった手のひらや、繋げた身体や、重なった唇が俺にそれが真実だと伝える。でも、俺は愛していると言えない。自信がなくて、彼を愛しているのに言葉に出来ない。だからただ泣く。愛していると、俺も愛していると、それを伝えたくて彼にしがみついて泣く。すると狡噛は分かったと背中を撫でてくれて、俺は彼にとびきり愛されるのだ。
900狡噛はよく俺のことを愛していると言う。朝起きてキスをした時、出勤前、休憩中、仕事が終わって官舎に戻ってから。俺はその度に泣きそうになって、自分の気持ちを引き締める。この男は自分を一度捨てたやつだって思い出せって、そんなことを繰り返しながら。
「ギノ、愛してる」
セックスの最中も、彼はよく愛をささやく。俺はその度に泣きそうになる。身体をつなげているだけで幸せなのに、愛を伝えてもらえるなんてと泣きそうになる。言葉は嘘が多い。それでも狡噛の言葉は本当だ。重なった手のひらや、繋げた身体や、重なった唇が俺にそれが真実だと伝える。でも、俺は愛していると言えない。自信がなくて、彼を愛しているのに言葉に出来ない。だからただ泣く。愛していると、俺も愛していると、それを伝えたくて彼にしがみついて泣く。すると狡噛は分かったと背中を撫でてくれて、俺は彼にとびきり愛されるのだ。
時緒🍴自家通販実施中
TRAINING探し物をする狡噛さんのお話。800文字チャレンジ76日目。
探しもの(ラブレター) 狡噛の様子が昨日からおかしい。おかしいと一言で言ってしまうのが難しいくらいおかしい。そわそわして落ち着かず、俺を見る目もどこかいびつだ。けれど彼は秘密を作るのが上手かったから、俺が尋ねたところで教えてもらえるはずもなかった。と言うわけで、俺は彼と距離をとっていつものように暮らしているのだが、存外に早くその秘密を知ることになる。
朝出勤すると、狡噛は自分のデスクを漁っていた。一体何を探しているのかと俺は彼に隠れ、様子を伺った。探すものなんて俺たちにあっただろうか? それとも、俺に隠れて探したいものなのだろうか? 例えば浮気の証拠だとか? そこまで考えて俺は頭を振り、馬鹿らしいと切り捨てた。狡噛は浮気をするような男じゃない。でも、だとしたら何を探しているのだろう。
974朝出勤すると、狡噛は自分のデスクを漁っていた。一体何を探しているのかと俺は彼に隠れ、様子を伺った。探すものなんて俺たちにあっただろうか? それとも、俺に隠れて探したいものなのだろうか? 例えば浮気の証拠だとか? そこまで考えて俺は頭を振り、馬鹿らしいと切り捨てた。狡噛は浮気をするような男じゃない。でも、だとしたら何を探しているのだろう。
時緒🍴自家通販実施中
TRAINING結婚式に出会う狡宜。800文字チャレンジ75日目。
Marry me 出島を歩いていると、時折様々な地方の結婚式に出会うことがある。オーソドックスな白のドレスや、刺繍が細かく施された民族衣装など、少女が憧れるドレスに、こんなにも種類があるのだと思わされるのだ。
今日見たのは山岳地方に住むヨーロッパの移民のドレスで、それは花々の刺繍があちこちに施され、彼女の周りの子供たちは花びらを巻いていた。俺はそれを踏みそうになって、あわてて狭い通りの端に寄る。しかし狡噛は邪魔した詫びにとあめ玉をやっていて、そうやって子どもを手なずけるのかと、俺はどこかで感心していた。
「おめでとう」
「おめでとう」
「幸せにね」
「幸せになれよ」
そんな言葉があふれる通りで花嫁と花婿が通り過ぎるのを俺たちは見て、日本に来て幸せになった人々がいることに、俺は単純に嬉しくなった。俺が担当するのは基本的に血生臭い事件だ。誰が誰を殺したとか、移民たちが不幸になる事件ばかりだ。それが今日は違った。人が幸せになる瞬間を見ることができた。花嫁の微笑み、花婿の緊張した表情。それは普段は滅多に見られない。
898今日見たのは山岳地方に住むヨーロッパの移民のドレスで、それは花々の刺繍があちこちに施され、彼女の周りの子供たちは花びらを巻いていた。俺はそれを踏みそうになって、あわてて狭い通りの端に寄る。しかし狡噛は邪魔した詫びにとあめ玉をやっていて、そうやって子どもを手なずけるのかと、俺はどこかで感心していた。
「おめでとう」
「おめでとう」
「幸せにね」
「幸せになれよ」
そんな言葉があふれる通りで花嫁と花婿が通り過ぎるのを俺たちは見て、日本に来て幸せになった人々がいることに、俺は単純に嬉しくなった。俺が担当するのは基本的に血生臭い事件だ。誰が誰を殺したとか、移民たちが不幸になる事件ばかりだ。それが今日は違った。人が幸せになる瞬間を見ることができた。花嫁の微笑み、花婿の緊張した表情。それは普段は滅多に見られない。
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TRAININGcase3あたりの話。800文字チャレンジ74日目。
迷い込んだ風(あなたのこと) 風が吹いていた。ここ高山地方では、珍しくもない風が。七色の旗がはためくごつごつとした道を歩いていると、外で編み物をしていた老婆が、「あれは、仏様の生まれ変わりの合図だよ」と言った。いつか旅立って行った家族がそろそろ帰ると、風を吹かせていることで合図をしているらしい。頭の中の槙島が言う。僕はまだ生まれ変わりたくないな、君の頭の中で遊んでいたいよ。馬鹿、出てくるな。死人はじっとしていろ。灰になって帰ってくるな。「誰が帰ってくるかは分かるのか?」俺はまだ編み物を続ける老婆に尋ねる。すると、皺の寄った顔でくしゃりと笑った老婆は、「今回はうちのじゃないね、あんたのだよ」と言った。誰だろう。俺が失った人々。とっぁんに、縢に、槙島。狡噛慎也、それは間違ってるよ、僕はまだここにいるじゃないか。それから、ギノ。もう会えないのなら、死んだのと同じだ。「あんたと縁の深い人が帰ってくると出てる。それに会いたい人にももうすぐ会えるよ。ほら、拝んで行きな」老婆はそう言うと小さな手持ちのマニ車を取り出して、しゃんしゃん、と鳴らした。俺はどう反応していいか分からず、ただ感謝の意を示すために、ここいらで流通する銅貨を何枚か彼女の前に置いた。ここに来て、しばらく経ってのことだった。
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TRAININGちょっとした秘密のお話。800文字チャレンジ73日目。
君には秘密(秘密なんて) お互いに持つ秘密を知った時、初めて好きという感情を知れた気がした。とはいえ秘密と言っても簡単なもので、本当はコーヒーに砂糖を二杯入れていることとか、そんなくらいだ。狡噛の方は少しだけ不穏で、減らしたと言っていた煙草が全然減らせてなかったことだった。どうして嘘をついたんだ、秘密を作ったんだって二人で笑って、馬鹿らしいなと抱き合った。どうしてだろう? 全部知ったつもりになっていたのに、そうじゃなかっなんて、少しプライドが傷つくな。それは彼も同じかも知れないけれど。
「ギノが甘党だったとはな。ブラック飲んでるようにしか見えなかったよ」
「いいだろう別に。それよりお前は煙草を減らす努力をしろ」
散々笑い合って、セックスをして、着替えながらぶつくさ言う。何もかもが日常になって、やっぱり秘密なんて全くないような気がした。俺の秘密なんて砂糖の数だけだった。狡噛も同じくらいだ。でも、お互い口にしないでも、任務に関して、放浪中の出来事に関して、永遠にしゃべらないことがあると思ってはいた。二人とも。
858「ギノが甘党だったとはな。ブラック飲んでるようにしか見えなかったよ」
「いいだろう別に。それよりお前は煙草を減らす努力をしろ」
散々笑い合って、セックスをして、着替えながらぶつくさ言う。何もかもが日常になって、やっぱり秘密なんて全くないような気がした。俺の秘密なんて砂糖の数だけだった。狡噛も同じくらいだ。でも、お互い口にしないでも、任務に関して、放浪中の出来事に関して、永遠にしゃべらないことがあると思ってはいた。二人とも。
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TRAINING父親の命日にナーバスになる宜野座さん。800文字チャレンジ72日目。
翳りゆく部屋(思い出すのはあなた) 日の光をカーテンで閉め切って、ベッドに寝転ぶ。今日は休日だったから、迷惑をかける人もいない。捜査に使用するデータも渡してあるし、悩むことはなかった。だが、こんなにも何もする気がおきないのは、少し異常だった。いつもなら仕事をせずともスパーリングくらいするのに、起きて朝食を取るのに、それすらする気にならないのだ。でも本当は分かっている、父の命日が近づいてきて、狡噛が俺を捨てた日が近づいてきて、だから俺は憂鬱なのだと。
父の人生を思い返すと、奪われてばかりのものだった。仕事を奪われ、妻を奪われ、子も奪われた。執行官になったのは意地だろう。刑事としての意地。何もかも奪われてもなお真実を突き止めようとした意地。
926父の人生を思い返すと、奪われてばかりのものだった。仕事を奪われ、妻を奪われ、子も奪われた。執行官になったのは意地だろう。刑事としての意地。何もかも奪われてもなお真実を突き止めようとした意地。
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TRAINING1期後の狡宜。ずっと狡噛さんのことを思っている宜野座さん。800文字チャレンジ71日目。
報われない努力(あなたという人) 狡噛を忘れられたらと思ったことは数え切れない。彼を愛さなかったら、きっと俺はもう少し上手くやれたんじゃないだろうか? 上司からもたらされる見合いの写真を断ることもなく、執行官たちの立場を思って腹芸をすることもなく、狡噛が少しでも自由に動けるよう青柳に彼を託すこともなかった。でも、彼は俺の手を離れて、遠い所へ行ってしまった。行方は知れない。シビュラの範疇外ということくらいしか俺には分からず、俺の上司となった常森が知るのもそれくらいだった。監視官の強力な権限があってもそれなのだから、きっと今頃は自由に野良犬として生きているのだろう。
狡噛を忘れられたら、そう思って学生時代から撮り溜めていた写真のメモリーを消そうとしたことは数知れない。けれど俺はみっともなくそれに縋ってしまい、記憶の中で薄れつつある彼の声や、肌や、熱を思い出そうと努力するのだった。でも駄目だ、それも最近は駄目になってきてしまった。彼はどんな声だった? 俺を抱いた日の肌はどんなふうだった? あの瞬間に感じた熱はどんなものだった? 思い出そうとしても、それはいつも中途半端で終わる。まるで、彼がもうこの世には存在しないかのように。
945狡噛を忘れられたら、そう思って学生時代から撮り溜めていた写真のメモリーを消そうとしたことは数知れない。けれど俺はみっともなくそれに縋ってしまい、記憶の中で薄れつつある彼の声や、肌や、熱を思い出そうと努力するのだった。でも駄目だ、それも最近は駄目になってきてしまった。彼はどんな声だった? 俺を抱いた日の肌はどんなふうだった? あの瞬間に感じた熱はどんなものだった? 思い出そうとしても、それはいつも中途半端で終わる。まるで、彼がもうこの世には存在しないかのように。
elle_niya
DONEしまった‼︎ 前までの進捗、ギノさんの手袋を右につけてしまった‼︎
左が生腕になってしまった‼︎
…というわけで直しました…が。
Twitterに間違ったまま載せてしまった…
ちーん。 2
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TRAINING昔のキスを思い出す宜野座さん。800文字チャレンジ70日目。
ふいうち(星空) 狡噛はハプニングを好むところのある男だった。たとえばレンタカーが動かなくなった時、レンタルしたAIにバグを発見した時なんかにそれは発揮される。それから彼はサバイバル技術にも長けた男で、学生時代には全時代的なキャンプもした。火を起こすところからは流石に始めなかったが、それに近いことはした。杭を打ったり、湖の水を汲んだり。それでも一番俺が予見できなかったのは彼が密かに持ち込んだ酒で酔っ払ってしたキスだった。あれは俺にとって初めてのキスで、彼はそうじゃないかもしれないが俺にとっては衝撃的なことで、へらへらと笑うでもなく、真剣な表情で、今まで親友だった男が恋人に変わる瞬間を見てしまって、俺は混乱したのだった。ふいうちのキス。あれから俺たちの全てが始まったのだ。
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TRAINING指輪をつけるかつけないかの話。ちょっとしたお遊び。
800文字チャレンジ69日目。
プラチナリング(いつもとは違うキス) 左腕を失ってから、指輪をつけようと思うことはなくなった。狡噛は密かに準備をしていたらしい。だがそれはともに監視官時代だった頃の話で、彼も変わったし、俺も変わってしまった。今さら指輪ひとつでどうにかなる関係じゃないのも分かっている。けれどとある潜入捜査で、証券会社勤めのカップルを演じるときに、ホロでともに指輪をつけた時はくすぐったかった。仕事が終わってホロを消しても、狡噛の左手には、薬指にはまだプラチナリングがあって、それは俺が彼を独り占めしているようで気分が良かった。狡噛に支給されたプラチナリングは明日には返却しなくてはならないから、それまでのものなのだけれども。
「なぁ、ホロがあるとグラスの持つのは不自由か?」
865「なぁ、ホロがあるとグラスの持つのは不自由か?」