【ヴェラン】「濡れた瞳のワケ」 ランちゃんが泣いている。
黒竜騎士団の宿舎の奥。使わなくなった武器や掃除用具の置かれた部屋で。
ひっそりと柱の陰に佇んで。
たったひとり、碧い瞳を濡らしていた。
ランちゃんに憧れている人は多かった。当然、俺もその一人。俺にとってランちゃんは、子供の頃からヒーローだ。
だって、ランちゃんは、村の子供たちの中でいちばん強くて、賢くて、それからすごく綺麗で――誰より俺に優しかった。
ランちゃんとの思い出のひとつ。
風が強かった日のこと。
「よし! みんなついて来てるか?」
黒髪を風に遊ばせて振り返ったランちゃんは、水色の凧を両手でしっかり掴み、人数が揃っているかを視線で素早く確認した。
村の外れにある小高い丘は、よくみんなで遊んでいた場所だ。その日も六人ほどが集まって、各々凧を手にしていた。
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