【ヴェラン】噂の悪魔 ヴェインが騎士団長執務室の前に行くと、ちょうど中から扉が開かれて、ひとりの団員が部屋を後にするところだった。
「うおっと、あぶねー。ゴメンな〜……って、大丈夫か?」
危うくぶつかるところだったので、身体を仰け反らせたが、団員はヴェインの声が聞こえていないようだった。
ふらつく足取りで、視線を彷徨わせながら去っていく。
「やられた……、……あく……がいる……」
「へ?」
「噂は……、本当だったんだ……」
まだ若い団員の小さな声がかろうじて耳に届いた。
(今、悪魔って言ったか? 悪魔? またなんかヤバイのがフェードラッヘに現れたのか?)
ヴェインの脳裏を掠めたのは、以前とある村にアンデッドが現れた出来事だ。それはかつての騎士団長、ジークフリートを陥れる罠だったけれど、報告に来た村人が今の団員のように怯えきっていた。
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