「……貴方の髪は柔らかいな」
揺れる束ねた髪の先。
大きな手で毛先を緩やかに弄びながら、ムルソーが不意にそんなことを言った。
胡坐の上に俺を乗せて腹に腕を回し、流れるように座椅子役をして暫く。彼の部屋でスマートフォンをいじっていたら頭の上からそっと囁きが落ちて来た。
今日は気まぐれに前へ垂らしていた髪を片手でもさもさ揉み込んだり、指を絡めて遊んでいる。
「そーか?」
「ああ。柔らかくて、手触りが良い」
色も香りも甘くて好みだ。
後頭部に彼の吐息を感じつつ、不意打ちの好意にうっかり赤らみかける頬を咄嗟に叱咤した。些細なことでいちいち照れるちょろい女だと思われるのも癪なのだ。
「ふ、ふーん? そりゃ、お前に比べたらそうかもしれないけど……」
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