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    ノック

    suno_kabeuchi

    TRAININGi7/SS100本ノック15本目
    モン天と天と夜中の雷雨
    射干玉に雷声、鬱然を薙げ 眠りの淵から強引に引き上げるような閃光が瞼の裏を走った直後、轟音が天の鼓膜を殴った。あまりの凄まじさに思わず天は瞼を押し上げる。寝起きがいい方だとは言えないが、そんな天をして無理やり呼び覚まさせる程の雷だった。
     ぼんやりする頭によぎったのはちいさないのちのことだった。こんな酷い雷雨で怯えたり怖がったりしていないだろうか。微睡みの湖からのそりのそりと遠ざかりながら辺りを見渡せば、不自然にカーテンの裾が捲れていることに気づく。目を凝らしてみれば、細い尻尾がぴょろりと覗いていた。わざわざ窓際に行ってまで外を眺めているということは、特に恐怖しているということはなさそうだ。
    「モン天、外を見ているの?」
     ベッドから降りてモン天の傍にしゃがみ込む。天の存在に気づいたモン天がこくりと頷く。大きな両の瞳が再び外を向いた。何かをするということもなく、ただじっと雷が避雷針に向かって殴りつけてくる様をじっと見つめている。空が割れる音がするや否や、稲玉が怒声を上げる。モン天を見る。いつもきらきらしている瞳は、雨と一瞬の雷を反射させてより燦爛とした色を帯びていた。
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    suno_kabeuchi

    TRAININGi7/100本ノック7本目
    天と姉鷺と花火
    短夜に花篝「天、今日はもう上がりでいいかしら?」
     ハンドルを回す姉鷺に「はい」と短く肯定を返す。自分のスケジュールなど一番この敏腕マネージャーが把握しているだろうにとは思ったが姉鷺のことだ、明日のスケジュールを鑑みて何か変更を調整しているのかもしれない。
     仕事モードのまま姉鷺に問えば、「仕事じゃないわ。ちょっと寄り道していいかって相談よ」と茶目っけ混じりに笑まれたのがわかった。ぱちくちと目を瞬き、天もまたつられたように笑う。
    「もちろんです。どこへでもお供しますよ」
    「そんなカッコいいこと言わないでちょうだい。惚れるわよ」
    「光栄です」
     いつかしたやり取りを思い出して二人してくすくす音を転がした。
     やがて車を走らせるほど暫し。どこかの駐車場に駐車して「ここから少し歩くわよ」と姉鷺に促され、開け放たれたスライドドアから外へ身を滑らせる。どこからともなく洒脱な破裂音が聞こえてきて天は車をロックしている姉鷺を見た。「あの、姉鷺さん」と驚いた調子を隠せない天に「わかっちゃったかしら。じゃあ答え合わせといきましょうか」と瀟酒にウインクすると道を先導した。人は殆ど来ないからマスクだけでいいと手渡されたそれを付けた。
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    suno_kabeuchi

    TRAININGi7/SS100本ノック6本目
    天とさくらんぼと朝食
    モーニング・ワンシーンに薫陶 真っ赤っかでまんまるで、とってもつやつやしていてまるで宝石のよう。きゅっと身が詰まっていることが素人目にもわかる程で、甘みをたっぷり溜め込んでいるそれを口にすればさぞ美味に違いない。
     さくらんぼを洗いながら天は知らず知らず生唾を飲み込む。食い意地が張っているようで少し恥ずかしくなってしまったが、茶々を入れてくる可能性が高い楽は洗面所にいる筈なのでよしとした。念のため覗き込んだリビングに人はいない。龍之介は昨晩が遅かったのと今日の仕事が午後からなのでまだ眠っているのだろう。今はまだ早朝と呼べる時間だ。天と楽はそれぞれ別所で仕事があるから起きている。ついでに今日は天が朝食当番である。
     流水を弾いて一層きらきらするさくらんぼに目を奪されそうになりながらそれぞれの小皿に取り分ける。お盆にそれを乗せてダイニングへと運ぶ。楽が敷いてくれていたランチョンマットに手際よく並べていく。わかめご飯に茄子と油揚げのお味噌汁、ヨーグルトにさくらんぼ。龍之介の分は同じように用意して冷蔵庫に仕舞い、冷蔵庫のメモボードにメッセージは添えた。起きたらきっと見てくれるだろうし、返信をボードに書き入れてくれるだろう。龍之介はそういう律儀な男だ。
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