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    なかりせ

    DONE一人一人称、K富の人間が書きましたが恋愛描写なし、診療所メンツとほのぼのが主です。
    ちょっと怪談チックなお話が書きたくてタグをお借りします。季節外れですが夏のお話です。恐怖・暴力描写はありません。
    一人先生は幽霊や魂をどのように切り分けて接することができるのだろう……。引っ張られそうになった時に踏みとどまれるのは、帰る場所・呼ぶ人がいるからってことが書きたかった。
    炎と息吹―200X年 8月XX日 
    とても暑い日だった。オレはたまたま行きあった患者を治療し、病院から帰るところだった。

    ***

    「では、また後日伺いますので」

    一人は一礼して病室を出る。踏みしめるリノリウムの床はひんやりとした空気を抱えており、外のじりじりとした熱射もここまでは届かない。夏の長い日がようやく傾きだし、まだ暑さが残っているだろうビル街を歩くと思うと憂鬱であったが、目の前で倒れた急病人を助けられたことで一人の心は風が通り抜けるようにすっきりとしていた。

    N県からふたつほど県境を越えたところにあるこの都市に来たのは、以前手当をした患者の経過を見るためであった。その用事を終えたときはまだ昼前であったが、帰路に着こうと大通りに出たところで急病人に行きあったのだった。
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    キツキトウ

    DONE2024/1/12
    「朝に炊き立てのご飯を食べる」

     布団に潜り、考えていたら何時の間にか眠りについていた。今が何時かも知らないままぼぅとしていたら、身体の底から生きる音が聞こえてきて。
     だから久しぶりにご飯を炊いてみた。そしておかずには昆布の佃煮と卵を選んだ。……明日は塩鮭を焼いてみようかな?

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    小説SS。
    「朝に炊き立てのご飯を食べる」.
    .
     こつん――、こつん――、こつん。

     背後から、小さく乾いた音がする。
     ハッとして振り向くと、月だけが照らす暗い空から何かが落ちてくる。それはきらきらと光る何かで――。
     辺りが暗いのに、それがきらりと光るから。だからそれを見つける事が出来た。

     身を屈め、真黒な地面に点々と転がる粒を一つ摘まんでみた。それに温度はなく、けれど白く淡く光る粒は月の光にも等しく思えた。鉱物のように煌めき続けている。

    「……ああ、月から落ちてきているんだ。月が涙を流してる」

     自嘲で駆けていく息が白い。月の舟の下で、また一粒音がした。

     前に向きなおりそして俯く。濡れた瞳に溜まった粒がまた一つ落下してはさよならをしていく。
     足元の水面から離れると、雲間を照らした粒を握ってそっと橋から離れた。
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