秘密のマドリガル 2 この道は右側から西日が差し込むから、まぶしいし、逆光だし、目が痛い。あそこの交差点で引っ掛かりませんようにと願ったら、バスはスムーズに左折した。ほっと息をついて、また、前方を盗み見る。
万南生でぎゅうぎゅう詰めのバスのいちばん後ろの左隅に、わたしは身を縮こまらせている。積載量オーバーとしか思えない空間の、ちょうど真ん中あたりに立っている、ウィル先輩。
(ああ、今日はラッキー……顔を拝める位置なんて)
先輩を待って、二、三本バスを見送るくらいは当たり前。そのたびに忘れ物をするふりをして、そのたびに先頭に並ぶから、わたしの定位置は大体ここ。あとからやってくるウィル先輩の位置によって、後頭部が見えたり、後ろ姿が見えたり、何も見えなかったり、運がよければ顔が見える。今日は優先席の前に立ってくれたおかげで、その表情から上半身までばっちりだ。ありがとう、優先席とかいう文化と、優先席に座りはしないウィル先輩の人間性。
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