ふたりしか勝たん向こうに見えた人影に紫鸞は唇を緩めた。ふたりいる、と気づいたときには欄干に手を掛けて彼らの観察を開始していた。眩い髪色は離れていてもすぐ分かる。一方で隣の黒い髪も被っている帽子のおかげで判別は簡単だ。
荀彧と郭嘉、彼らの名を口の中で密かに呟く。どちらも華がある。紫鸞は最初「華」という意味を理解し切れていなかったが共に過ごす内に段々と分かってきた。単なる見た目だけのことではない。所作や言葉遣いから伝わってくるそれを、最も簡単に、且つ的確に表現するとしたら華というひとことに辿り着くのだろう。
目のいい紫鸞には彼らの表情が読み取れた。互いに微笑んでいる。さすがに会話の内容までは分からないが回廊の途中で話しているのだから誰かに聞かれても困らない程度の雑談なのだろう。心なしか空気が柔らかい。どこかへ向かって歩いていたのにいつの間にか彼らの足は止まり、話に夢中になっているようだ。
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