時緒🍴自家通販実施中 短い話を放り込んでおくところ。SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。無断転載禁止。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 192
ALL 狡宜版深夜の創作60分勝負 文体の舵をとれ ワードパレット 夏五版ワンライ 800文字チャレンジ 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題⑥老女現在時制と過去時制、一人称と三人称。母なる国のひまわり① 好きでもない編み物をするようになったのは、ねじ曲がった指の訓練をするためだった。医者がそう勧めたのだ。手術をどれだけしても、これ以上良くはならないからと。 私は少女の頃この日本にやって来た。紛争地である母国を離れて、父母と幸せに暮らすために。日本での暮らしはサイコパスに気を付ければ天国だった。だが目を閉じた私がまぶたの裏に浮かべるのは、幼い自分が一面のひまわり畑で走り回っている姿だった。夏の匂い、母の作ってくれたレモネードの味、父が建てたサンルームでの読書。私は時折それを思い出し、この清潔な日本での暮らしを与えてくれた父と母の元に逝くことを望んだ。私はそれほどにも長く、幸せにここ出島で生きてしまったから。 647 時緒🍴自家通販実施中TRAINING異国の軍隊に雇われた狡噛がマラリアにかかって宜野座の夢を見たり、襲撃されて怪我をしたりするお話です。やし酒と煙草を一本 ここでは、国家のために戦い傷を負い、入院した兵士は王から煙草を一箱下賜される。 それは傭兵の俺も例外ではなかったらしく、野戦病院で目が覚めると、枕元には太陽のマークが刻まれた赤い煙草が置かれていた。皆はそれをありがたがって万歳、万歳と蚊帳の中、汚れた額にこすり付けていた。俺はそこまでこの国の王に忠誠心がなかったから病室で吸っても良かったのだが、夜刺されてもまずいと思いやめた。だから俺は皆がそうするように■■■王万歳と言い、王室のマークを額にこすり付け、胸ポケットに入れた。 俺がこの野戦病院に入ることとなったのは、怪我が理由ではなく(勿論怪我はしていたが)マラリアが理由だった。最初のうちは気づかなかった。長い雨期が続き、鬱々としていた時に軽く発熱し、頭痛や悪寒に襲われ、嘔吐した時に従軍医師にマラリアと診断された。そこからは地獄だった。黒水熱を併発した俺は助かる見込みのない患者の部屋に隔離され、一週間と数日苦しんだ。死亡率は三十%というんだから、助かったのは奇跡だと言われた。流石に俺もこの時は神に感謝した。けれどまぁ、助かった俺はまた明日から軍という死地に戻る。生きてゆくために。 2711 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題⑤簡潔性形容詞も副詞も使わずに描写すること。彼の汗を拭う 狡噛の額から汗が垂れる。それはベッドサイドのライトに光り、俺の目をくらませる。俺はそれが悔しくて彼の腹筋に触る。彼はやめろといったふうに俺の手を振り払う。俺はそれに抵抗し、彼の筋肉を触る。肩や背中、腰、太もも、それから惚れている顔のラインなどを。狡噛はそれを笑わない。俺のやり方を笑わない。セックスの仕方を笑わない。俺は身体を反転させ、彼の上に乗る。狡噛が笑う。彼は俺がどうやって楽しませるのか期待しているようだった。俺はそうセックスが上手くないから、そんなに期待されても困るのだが。 俺は一度ペニスを引き抜きしごく。コンドームが音を立てる。俺はそれが面白くて手首をストロークさせる。狡噛が歯を噛み締める。どうだ、俺も出来るだろう、俺はそう笑って、彼のペニスをまた挿入させる。狡噛は繰り返し息を吐く。俺のセックスが気に入らないのか、それともその逆なのか。俺は彼の額に浮かぶ汗を拭った。それを掬って飲むと、いつもよりずっと美味かった。彼が興奮しているせいだとしたら俺は喜ぶだろうし、彼もそうであるだろう。俺はそんなことを考え、またキスをした。 472 時緒🍴自家通販実施中TRAINING5/21ワンライお題【喝采/踏切/稲光】ちょっとしたホラー夏五です。夜蛾先生に頼まれて踏切の怪異に挑む二人です。雨が降る 踏切で奇妙なことが起こると高専に電話があったのは、じめじめとした梅雨の時期で、その日も雨が降っていた。 「行ってくれるか」そう夜蛾先生は教室に俺と傑を呼び出して言った。踏切で何が起こっているのか俺たちも先生も知らされていない状態だったから正直不安だったが、電話の主人はもっと取り乱していて、一体何が起こっているのか知れそうにもなかったのだという。ただ先生は拍手をする人間がいる、いや、人間じゃあないかもしれない、とだけ言った。俺はそこでなぜか嫌な予感がしたが、呪術師はこの世ならざるものを恐れてはならないし逃げてもいけない。俺はそれを思い出し、薄暗い部屋でサングラスを掛け直した。 「傑も行くの? 俺一人でもいいけど?」 1468 時緒🍴自家通販実施中TRAINING5/14ワンライお題【祝福/胡蝶の夢/ふりがな】幸せで、怖い夢をみる五条のお話です。高専時代のお話。毎夜みる夢 繰り返し何度も見る夢がある。俺はその中で高専の教師をしていて、硝子や、面倒だが可愛らしい生徒たちに囲まれている。そしてそんな俺の隣には髪型を変えた傑もいて、彼もどうやら俺と同じく教師らしいことが分かる。俺たちはその夢の中では呪術師を続けていて、やはり友人であり恋人同士だった。 ここまではよくある俺の願望なんだろう。でも不思議なのは、見たこともない小さな女の子の双子二人が傑になついていることで、彼女らは俺にひらがなで書かれた肩たたき券(肩の部分には可愛らしいふりがながふられている)をくれる。「傑さまと仲良くしてくれてありがとう」「傑さまは寂しがり屋さんだから」そんなふうに俺に言った後、「結婚式は私たちがお花を撒いてあげるからね」なんてませたことを言ってきゃーって叫びながら走り去ってゆく。どうやら彼女らは俺たちの関係を知っているようで、傑も俺もここにいる人々には隠していないようだった。俺が面倒を見ている生徒たちも笑っている。「早く結婚しなよ先生」「見てるだけで恥ずかしいから早く結婚したら」「傑さんと一緒にいたらちょっとはマシになるんじゃないですか」生徒たちは口が悪かったが、俺たちの仲を祝福してくれる。いやあ、僕もそろそろ結婚したいんだけどね、傑が恥ずかしがってさぁ。——僕? あれ、俺は今僕って言った? なんで? そういえば傑がせめて僕って言えって言ってたよな。俺って言うのはよしたほうがいいって。夢の中でそれを思い出してるのかな。俺はまばたきをする。しかし次の瞬間双子が消え、傑が消え、生徒たちも消え、結局残ったのは硝子だけだった。そして彼女は言うのだ。「また気づいちゃったね」と。「気づかなきゃ夢を見てられたのに」と。俺は混乱する。僕は混乱する。そしてまばたきをして、ぼんやりと天井に向かって手を伸ばす。この部屋には、最後まで残ってくれた硝子ももういない。僕は、いや俺は、自分の部屋でどうでもいい夢を見ていたことに気づく。すぐにどっちが夢なのか分からなくて、携帯電話を触る。表示された年月日から、まだ自分が高専生であることに気づく。良かった、俺はまだ高専生だ、傑もいる、硝子もいる、見知らぬ生徒たちや双子の少女たちもいない。俺は吐きそうになりながら着替え、傑の部屋を訪ねる。するとそこにはまだ眠っている彼がいて、俺はその横顔の尊さに泣きそうになりながらベッドの脇に座り込む。 1454 時緒🍴自家通販実施中TRAINING5/7ワンライお題【ドーパミン/ペルシャ猫/征服】夏油が五条より薬に頼るお話です。ちょっとうす暗い感じです。オーバードーズ 傑は基本的にどんな依頼でも断らない。知らない男が部屋の隅に見えて困っているっていう事故物件のような軽いものから、山中に打ち捨てられた土地神のような、郷土史を調べて挑まねばならない入り組んだものまで、彼はどんな依頼でも断ることがなかった。俺はそれをアメコミの超人的なヒーローの正義感のような、完璧なもののように、つまり欺瞞のように思っていたし、傑もそう見られていると分かっていただろうけれど、それでも彼は自分のスタンスを変えず、俺はそんな彼を一番側で見るのをやめなかった。 だって傑は不安定だったのだ。もう俺たちはその頃をとっくに通り過ぎてるっていうのに、彼はまるで自我が出来上がり、それを疑い出す思春期の少年みたいだった。俺はそんな彼を見ずにはいられなかった。 1971 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/30ワンライお題【アセトアミノフェン/八月/まやかし】薬を濫用する夏油と何も出来ない五条のお話です。さしすが風邪をひきます。高専時代と教師時代のお話。甘い、熱い、苦い 一、 八月のある日、傑の机の引き出しの中から大量の薬を見つけた。俺はそれを部屋に持って帰ってゴミ箱に捨てたが、その次の日に探ると、薬は二倍の量になって傑の引き出しの中に入っていた。それ以来俺は傑の机の中を見ていない。ただの風邪薬じゃないか、そう思ったので。そう思わずにはいられなかったので。そう思わなきゃ恐ろしすぎたので。 二、 傑の手のひらは熱い。彼は特に体温が高いわけではないが、なぜか俺を触る時にだけ、傑のそれは熱くなる。興奮するからだろうか? それとも俺の体温が下がっているのだろうか? 三、 「硝子の風邪、早く治るといいな」 八月、硝子が風邪をひいた。原因は過労。反転術式の使いすぎで、身体が悲鳴を上げたのだ。彼女はそれでも任務にあたろうとしたし、上層部もそうさせようとしたので、夜蛾先生が抗議し今は病室で眠っていた。でも、病室で煙草を吸ったので、それはさすがに先生に怒られていた。 1481 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/23ワンライお題【心筋梗塞/依存症/いっぱい】世話になった呪術師の寝ずの番をする五条と夏油のお話です。微糖。寝ずの番 呪術界の大家が死んだ。それは御三家にも影響が及ぶほどで、もちろん俺たち高専生も、幸せに心筋梗塞で死んだ彼の実家に通夜に行くことになった。そしてどういうわけか俺は、いや、俺と傑は寝ずの番の一人に選ばれることとなったのだった。 寝ずの番をすると言っても、いっぱいの花に囲まれた彼を見つめる以外にはすることはなかった。あとは輝く刀に自分の顔を映し出したりとか遊ぶくらいだ。葬儀で刀を置くのは、猫を避けるためだそうだ。猫は古代より悪と描かれていて、ちょっとした隙に故人の身体を奪ってしまうのだという。でも、この人の命はまた奪われる。自然死をした呪術師は、身体の一部を奪われたら呪詛師に呼び出される可能性があるため、自然死ではない方法で二度死ぬよう、今は忙しく御三家の呪術師たちが走り回っている。滑稽だ、馬鹿らしい。でも、俺も世話になった人だった、さまざまな呪法に通じたあの人が、誰かに利用されては困る。 1396 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/16ワンライお題【マーメイド/生霊/胸】さしす。八百比丘尼を保護しろという任務を命じられた三人のお話です。人魚と紫陽花 人魚の呪霊が流す涙を体内に取り込むと、長生きが出来る。 そんな噂が非合法の骨董マーケットの間で立ったのは、俺たちがまだ高専一年の夏に差しかかった頃のことだった。古式ゆかしい八百比丘尼が現代に現れたのなら、伝承通り肉を食えばいい。でも何故今回は肉でなく涙なのか。俺にはそれが分からず、傑も不思議そうな顔をしていたように思う。 「それで今回の俺たちの任務は?」 「八百比丘尼の保護」 「あぁ、面倒臭そうだなぁ……」 そんなこんなで、俺は傑と二人で八百比丘尼を探す羽目になったのだった。 でも、八百比丘尼は、人魚はすぐに見つかった。彼女が自分から、俺たちが学ぶ高専に近づいてきたからだ。彼女は教室で多分涙なのだろう、透明な液体が入った瓶を下げた胸元にナイフを置いて、生霊みたいな顔をして、「もう、私を殺してください」と言った。いや、俺たちが命じられたのはあんたの保護でそういう物理的な殺害じゃない。というか不老不死なのにナイフで刺せば死ぬのか。俺はそれを疑問に思ったが、教室にいる誰もがそれを尋ねなかった。 2176 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/9ワンライお題【鬱血/閉世界仮説/フラスコ】さしすがちょっと辛い任務にあたるお話です。しゃべっているのは五条と夏油だけです。仄暗い感じです。光を灯す 桜が散ろうとする頃、フラスコや、シリンダーが並ぶ部屋にその少女はいた。手錠をかけられて机に繋がれた腕は鬱血していて、だが彼女は明るくこう言った。 「お兄さん、あの方は?」 あの方はどこに行ったのです? 約束したのに。 俺はその問いにすぐに答えられなかった。答えたのは傑だった。あなたの言うあの方は私たちに捕らえられました(私たちが殺しました)。さぁ、怪我を治してもらいましょう。傑の言葉を聞いていた硝子が足を踏み出す。俺はそれを見ていられず、することも出来ることもなく、連続殺人犯のアジトから出たのだった。 呪術師の娘が連続殺人犯、正しくは呪詛師にさらわれたのは、今から一週間前のことだった。俺たちがそれを助け出したのは昨日の話。彼女の残穢をたどって探し出したから任務はそう難しくなく、むしろこんな簡単な仕事を他の呪術師が早急にしなかったことが不思議だった。ただ呪詛師は呪いをかけていたから、最強の俺たち以外の他の呪術師は、そのトラップにひっかかったのかもしれない。それより不思議なのは、少女が今も男を待っているということだ。伝え聞いたところによると、彼女は例の男をいまだに慕って待っているらしい。高専に戻って食事をとって傑の部屋に帰る途中、まるでロミオとジュリエットみたいだなって言う彼に、俺はロマンチストすぎると友人の部屋の扉を開きながら言った。 2420 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/2ワンライお題【ダージリン/壁/窒息死】眠れずに夏油の部屋に行った五条が、自分たちの終わりについて考えるあまじょっぱいお話です。世界が終わるとしたら 深夜二時、眠れなくて傑の部屋にゆくと、彼は俺が実家からの土産だと渡したティーカップを片手に、優雅に文芸雑誌を読んでいた。彼の好みは知らないが、そんなに趣味がいいものでないことは察しがつく。いや、今はそんなことどうでもいいな。きっと眠っていると思っていたのに、彼が起きていて、恋人が起きていて、俺はそれが嬉しいのだ。 「なんで起きてんの?」 「それはこっちの台詞。私は今日の仕事で疲れてかえって眠れない、からかな」 傑はそう言って額をかいた。今日の任務は確かに疲れた。精神的にも、肉体的にも。これについては今度話すことにしよう。あまりにもな事件だったから、俺の中でもまだ整理がついていないので。 「俺にもそれちょうだい」 2324 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/26ワンライお題【泡立つ/殉教者/投影】不穏な夢を見た五条が、夏油と一緒にその夢に重なるような任務に行くちょっと寂しいお話です。波の花 こんな夢を見た。 その夢の中での季節はぎらつく夏で、夏油傑はなぜか袈裟を着た殉教者だった。足元は泡立つ浅い海辺であり、砂浜の転がる白い波の花が十字架にかされる彼の美しい身体を汚していた。そして彼はついにエリエリレマサバクタニとつぶやく。神よ、どうして私をお見捨てになったのですか、と。俺はそこでこれは夢だと気づいた。それほどに真に迫ったものだったから、勘違いしそうだったのだ。考えてみればキリスト教徒は袈裟なんて着ない。これは多分、きっと昨日二人で見た映画を夢に投影したのだろう。キリストが苦しむばかりの映画を見て、俺は恋人を脳内で苦しめようとしたのだろう。昨日ちょっと喧嘩をしたし。俺はそう思い、いやそう思ったところで、目が覚めたのだった。 2819 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/19ワンライお題【種/ゴシック体/燃やす】傑の元に不幸の手紙が来るお話です。最後はイチャイチャしています。透き通った煙草 傑の部屋に、パソコンでプリントされたゴシック体の手紙が届いたのは、俺たちが二年に上がるころ、ちょうど高専の花々が花霞にある昼時のことだった。 最初のうちはラブレターかと思った。だが宛名もパソコンでプリントされ、差出人の名前もなく、中身もパソコンでプリント、となると、デジタルなのかアナログなのか分からないそれは、よく読めば不幸の手紙であったのだった。今時メールじゃないのがまた強い効果を呼びそうで、俺はそれに舌を出して嘔吐物をこぼす格好をした。正論吐いて呪われてちゃ世話ねぇな。それは傑に対するからかいだったのだが、通じたのかは分からない。 「傑も隅におけないなぁ。こんな熱烈なラブレターをもらうなんてさ」 3477 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/12ワンライお題【三途の川/キャリーオーバー/腹いせ】訓練で渋谷に行ったさしすが色々おしゃべりしてる甘ったるいお話です。チョコレートドリンク 渋谷の街は、三途の川に似ているとよく思う。 もちろん俺は死んでもいないから、そんな場所には行ったことがない。ただの概念としての見解だ。けれど会話のさざめきや、重なる足音、イヤホンをさした耳から漏れる音楽なんかが、どうもこの世のものとは思えない、って俺はあの場所を訪れる度に思った。 これをふとした話題として傑に言った時、傑はそれは地獄じゃないの? と言った。審判を受けた人々が蠢いている場所、それが渋谷なんじゃないかって。そしてあの交差点は、それぞれの地獄に向かっているんじゃないかって。 「地獄ね……」 俺は交差点がよく見えるカフェで、行き交う人を見ながら言った。隣には傑と、珍しく高専の結界の中から出た硝子がいる。今日の任務は細かな弱い呪霊を一度に祓うってものだった。そして夜蛾先生がその実習場所に選んだのが、あの交差点ってわけだ。強いものが出て来た時は高専に連絡するように言われていたが、正直全て祓ってしまった方がやりやすいっていうのが俺の考えだったし、傑も硝子もそうだったろうと思う。 2745 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/5ワンライお題【横断歩道/女遊び/脱臼】任務に行ったら夏油の元クラスメイトに会って、カラオケに行くお話です。五条が不機嫌です。カラオケルームの秘密 今回の任務は簡単なものだった。というのも、最近中高生の間で話題になっているらしい、『横断歩道の幽霊』という単純な祓いだったからだ。 わざわざ東京のど真ん中に行ってまで、数人から話を聞いたところによると、どうも学生のたまり場のコンビニ近くの横断歩道の信号の下に、小さな女の子が立っているのだという。その子は車のひき逃げにあった子だったり、自分から車線に飛び込んだいじめられっ子だったりと、怯える中高生たちから聞く話は色々だったが、小学生の女の子、というのは共通していた。赤いランドセルを背負っている、というのも。それ自体は今のところ何かをするわけではないらしいのだが、こういった話はすぐに大きくなるから、それを事前にとめたい、というのが依頼主であり、窓でもあったコンビニのアルバイトからの言葉だった。 3238 時緒🍴自家通販実施中TRAINING2/26ワンライお題【静止画/マカロン/正気の沙汰】マカロンを買いに行った五条が簡単な事件に巻き込まれて、夏油も巻き込む軽いお話です。少女たちのマカロン マカロンをつまんでいると、珍しく傑が俺の部屋のドアを開いた。手つきはあくまでも優しく、けれど決して逃がさないといったふうに。もしかしたら、彼は夜蛾先生か誰かから、俺を連れて来るように言われているのかもしれない。俺にとってはどうでもいいことだったけれど、彼にとっては大事なことなんだろう。 「あ、傑。何か用?」 振り返りながら俺は言う。すると傑はため息をついて、次のように言った。 「何か用? じゃないよ。学長の呼び出しを無視するなんて正気の沙汰?」 そう言われれば、俺は今朝から昼過ぎに学長室に来るように、大切な用事があると呼ばれていたのだった。理由は知らされていなかったから、また五条家のごたごたか何かだろう。携帯の時計を見ると午後二時になっていた。まぁ、これじゃあ怒られても仕方がない。でも俺にだって用事があるのだ。何でもかんでも怠惰と決めつけて欲しくない。 1479 時緒🍴自家通販実施中TRAINING高専の傑の部屋で一緒に寝ていた夜中、不思議な体験をする夏五のお話です。ある人のために 深夜、カサ、と耳元で音が鳴った。 その時俺は傑の部屋の大きなベッドに彼とともにいて、ささやかな音に気づいたのは奇跡と言っても良かった。正しくはわずかに残穢を感じたからだったが、そこに悪意はなかった。 傑もすぐに起きた。冷えていた足元は絡まってあたたまり、俺たちはぬくもりを求め合って触れ合っていたのを思い出す。もう冬だった。そろそろ来年の進級が決まる頃だ。俺たちにも後輩が出来て、二年生になる。 「なぁ、傑これってさ」 「……うん」 残穢じゃないか? 俺たちは眠い目をこすって、密やかに言葉を交わした。あたりはまだ暗いが、目が慣れているせいでお互いの表情は見えた。傑はほどいた長い髪をまとめて、ヘアゴムでくくった。俺は一応サングラスを探してみたけれど、どこかに落としたのか見つからなかった。その代わりにベッドサイドの棚に右手で触れると、カサ、と音が鳴った。それはさっき聞いた音だった。かすかに残穢を感じる、そんな紙の音だった。 2351 時緒🍴自家通販実施中TRAINING2/19ワンライお題【いちごオレ/メンチカツ/砂浜】海で任務を終えた後ダラダラしてたら逆ナンされる夏五です。夏油がタラシです。パラソルの裏の秘密 海水浴場での任務が終わったのは、まだ昼にもなっていない頃のことだった。 今回俺たちに与えられたのは、夏場によくある人々を海に引っ張り込む呪霊の討伐で、場所に力を左右されるそれは結構すぐに倒すことが出来た。何せ砂浜まで引っ張っていってしまえばそれは水をなくした魚のようになり、かつての鯨のようには生きていけなかったからだ。 仕事が終わってからは、俺たちは海水浴客に混じってパラソルを立て、そこで各自持ってきた水着を着て横になった。硝子は肌を焼きたくないのか日焼け止めを塗っていたけれど、俺は面倒で何もしなかった。傑はそんな俺を心配していたみたいだったが(俺は肌が白かったので)、女じゃないんだからそんなに皮膚も弱くないと俺は一蹴した。まぁ、これが後で風呂に入る時に後悔することになるんだけれども。 2621 時緒🍴自家通販実施中TRAINING2/12ワンライお題【完成品/覆面/ベランダ】任務で出会った男の子の裂けてしまったぬいぐるみを、夏油が手直ししてあげるお話です。あなたの優しい手 初夏の昼過ぎ、ベランダの扉を開けると、傑が縫い物をしていた。大きな手のひらの中には覆面ヒーローのぬいぐるみ、ただし腕や背中が裂けて、中の綿が出てしまっている。彼は扉が開いても、黙々とそのぬいぐるみを縫い続けていた。マリオカートをやろうと意気込んできた俺は、それに言葉をなくしてしまう。 「それ、いつまでやんの」 最初のうちは物珍しくて見ていた俺も、段々と暇になって訪ねてしまった。でも傑は「あとちょっと」と言うだけで、俺の質問にはきちんと答えてくれない。 「それ、誰の?」 しかしそう尋ねると、傑はようやく顔を上げて、コントローラーをさげている俺を振り返った。切れ長の瞳、さらさらの髪、時間をかけて拡張した大きなピアスに、ほのかに香る昨日の湯の石鹸の匂い。そんな傑を構成するもの全てに、俺はそんな質問、しなくてもよかったなんて思ってしまう。 1952 時緒🍴自家通販実施中TRAINING2/5ワンライお題【玉手箱/アイロン/忖度】夏油が高専を去った後、夏油が持っていた写真を見る五条のお話です。ちょっと暗めです。瞳の先 傑がいなくなってすぐ、彼の部屋は高専の上層部によって手が入った。傑が使っていた呪具から、傑が使っていた教科書まで、彼が呪いを残せるもの全てが持ち出され、やがて呪術師の手によって祓われ焼かれた。それは突然のことだったので、俺は少し待ってくれ、俺にもその箱たちの中身を見せてくれとせがんだ。けれど彼らは友人だった、いや五条家の人間だった俺の気持ちを認めず、結局この手には何も残らなかった。傑がいた教室はいつの間にか席は二つになり、彼が三年間を過ごした寮の部屋は封印された。俺は最後に会った時、何も出来なかった自分が不甲斐なく思えた。けれど彼が生きているだろうことには、少しばかり安堵した。あんな大量殺人を犯した友人が生きていることを、だ。高専に潜り込んでいる五条家の間諜に調べさせたところによると、上は彼を殺そうとはせず、様子見をするようだった。もしかしたら、傑が何か企んだのかもしれない。呪詛師となった彼が仲間を得たら、高専といえどおいそれと手出しは出来ないだろうから。 1916 時緒🍴自家通販実施中TRAINING1/29ワンライお題【頬骨/十年後/卵白】割と真面目に仕事をする2人のお話です。ちょっと薄暗い感じでキスしてます。地下室の花束 小学校にもまだ上がらない頃、もし十年経ったら、自分はとんでもない大人(いや、子どもか?)になるって思っていた。それくらい俺に意見する人はいなくて、親でさえ俺を持て余していたからだ。 父は俺が六眼や無下限呪法を持つ子だと分かった時、母を褒め称えるとともに、俺を恐れて違う女に手を出したのだという。母はそれを悲しんで俺に慰めを求めたが、やはり俺の目が恐ろしくなって、お抱えの呪術師たちに我が子を任せて子育てをしなかった。とはいえ、これは五条が呪術界の御三家というものだから仕方がなかったのかもしれない。生まれた時から尊大な名を背負うと定められた古い名家だ、昔の風習が残っていても誰が責められただろう。そんな家に生まれた男と、そんな男が選んだ女だ。最低の人間が出来たってしょうがない。 2618 時緒🍴自家通販実施中TRAINING1/22夏五ワンライ。お題【天井/プルタブ/映画館】映画を見に行った二人がいちゃいちゃするお話です。ライフ・イズ・コメディ! 傑と映画館に行くことになった。これって初デートだなぁ、俺たちも結構恋人らしいことをするもんだなぁ、そう俺は思って、なぜ傑がよりにもよってクレヨンしんちゃんの映画を選んだのか考えもしなかった。チケットまで事前に用意したのも怪しかったが、俺は傑と一緒に映画を観に行く、そんな事実だけに興奮してしまって、やっぱりなぜ傑って奴がクレヨンしんちゃんを選んだんだ?、恋愛映画でもないのに、とは考えなかった。でも『モーレツ! 大人帝国の逆襲』とか『アッパレ! 戦国大合戦』は俺を映画館に連れて行った五条家の呪術師も泣いていたから(俺は情緒の育っていない子どもだったので、結構長い間教育のために分かりやすい勧善懲悪のアニメ映画を見に連れて行かれていたのである)、映画の優しいジャイアンみたいに、クレヨンしんちゃんも映画は大人になると泣けるのかなって思った。それに傑と映画館に行けるんなら別に何の映画でも良かったから、もしこのチケットの映画で泣けなくたって、それはそれでいいだろうって。それで傑だけ泣いたら、ちょっと居心地が悪いかなぁ。 2312 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡宜コミュフィールド3開催おめでとうございます!ちょっと不穏な映画を見る狡噛さんと宜野座さんのお話です。それでもラブラブめにしてみました。楽しんでいただけるととても嬉しいです!エンドロール テレビの中の男女は、めかしこんで摩天楼のホテルでディナーをとっている。しかしその装いに反して、彼らの表情は明るくない。テーブルランプが映し出すのは、静まり返った二人の顔だ。物語も終盤のシーンだから、そろそろ別れがやって来るのだろう。それか、もしかしたら奇跡的に恋愛が上手くゆくか。破綻しそうになったそれが、今さら解決するとは思えないが。 俺はそんなことを考えながら、深夜モノクローム版の恋愛映画のディスクを持って来た狡噛を見た。ソファに座る彼は何も考えていないように見えた。多くの人がそうであるように主人公たちに感情移入することもなく、ただ映画を評論するように見ているようだった。一方の俺はただ二時間を無駄にしただけで、何も得てはいなかった。古い恋愛映画、歯のうく台詞、美貌の男女が抱き合うさま。俺はそれらを見て、早く終わってくれと思った。そろそろ時間だ、十二時を過ぎる。俺はそれまでに狡噛と言葉を交わしたかった。 1880 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題④問2 構成上の反復青い目の殺人 出島で連続して青い目の男女が瞳を切りつけられる事件が起こった。それは今のところ解決していない。被害者の共通事項を探しても、青い目以外には何もないのだ。年齢も、性別も、宗教も、日本にやってきた理由や出島にやって来た日本人の理由も。この奇妙な事件は連続して起こり、解決はまだ見えない。公安局だけでは手に余ると思ったのか、厚生省は俺たちにも協力を申し出て来た。移民が犯人とみたのかもしれない。ならば俺たちの方が良く知っているし、公安局には不利にはたらくだろう。しかし、俺たちの手に事件が渡って一週間経っても、犯人が見つかることはなかった。その間も青い目の人々は切り裂かれ続け、その美しい目を失った。幸い今は再正技術が発達しているから、彼らは新しい目元の皮膚も、新しい目も得ることが出来た。だが、切り裂かれた恐怖からは一生逃れられないのだ。 869 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題④重ねて重ねて重ねまくる問1 語句の反復使用瞳と独白 狡噛の目は美しい、しかしどう美しいのかについて語る術を俺は持たない。彼は単純に美しい目をしていて、それはDNA上の問題でしかない気がした。例えば猛禽類の瞳の色、狼の瞳の色、そんな狩りをする動物の色と同じだと例えでもすれば伝わるのかもしれないが、彼の目が持つ美しさについて俺はそんな陳腐な言葉を使いたくなかった。狡噛の目は美しい、それでいいのではないか、彼を愛しているから理由が欲しいのかもしれないが、ただ美しい、それだけでいいではないか。俺はそう思ってその美しい瞳を閉じた狡噛のまぶたを撫でる。そのふれた指が彼の瞳の美しさを自分に伝えている気がした。狡噛は笑うかも知れない。けれど彼の目の美しさは、誰にも奪えないものなのだ。と、そこまで考えて、セクシーな女が彼の目を宝石に喩えるなら許せるかもしれない、ふと俺はそう思った。 362 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題③ 追加問題問2書いてみた長い文を変則的な節や言葉遣いを用いてみる。埋葬されたスプーンその2 宜野座がスプーンを落とすのはそう珍しいことでもなかったが、そう握力が弱いわけでもなかったので、狡噛が病室にやってきても驚きはしても動揺はしないと思っていたけれど、いざ顔を見たらステンレスのスプーンを落としてしまっていたーー狡噛は煙草を吸いながらこう言った、この部屋少し暑すぎやしないかと、ただそれだけのことを宜野座に伝えたいわけでもなかろうに、そんなありきたりなことを言って場を繋いだーー天気の話題よりマシか、そう宜野座は思いつつ、そっちの方がマシな場合もあるだろうと思ったーー狡噛は訳の分からない引用をすることが多々あり、宜野座はその度に彼が好む哲学書から古い漫画までデバイスで調べねばならなかったーー俺はドラえもんじゃないんだぜ、仕事の最中に言われたあの言葉は屈辱だったというか、お前がそんなに役に立ったことはないだろうと宜野座は思わずにはいられなかったーー確かに狡噛は有能な捜査官だったが、あの青い猫型ロボットのようには自分を慈しんではくれなかった、じゃあキスをしよう、そう宜野座は思い、狡噛の腕を引っ張った、狡噛は何も抵抗しなかった、俺が何も馬鹿なことをやらかさないことを知っているのだろうと宜野座は思い、苛立ったがそれでも酒や煙草の味がするキスを楽しんだ、途中で看護師や医者がやってきたが無視してキスをしたーーキスを止めたのは花城がやってきて、迷惑をかけないでちょうだいと言われた時だったーーこれくらい位じゃないか、そう狡噛は言い、また煙草をつけ、任務で負傷しベッドに横たわる宜野座に覆いかぶさってキスをした、花城はもう何も言わなかった、恋人が危険な状態にあったのだ、仕方がないと思ったのだろう、けれど宜野座は彼女を少しかわいそうに思って、そうして彼女が話し出すであろう新しい捜査情報に耳を傾け始めたのだった。 761 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題③追加問題問1 15字前後で200〜300文字を書く煙草と飴 狡噛は煙草を吸っていた。咎める者は誰もいない。ここは出島のマーケットだからだ。シーシャを嗜む者もいる。そんな甘ったるい空気の中で宜野座はため息をついた。さっきから聞き込みはうまく行っていない。いつもなら調査は順調なはずなのに。そんな時、狡噛は若い娘からキャンディーを買った。簡単な話だ。どっさりと飴を買って情報を得るなんて。しかし狡噛は隠れ蓑のキャンディーを捨てることもなく、煙草の代わりに飴を舐めた。そして宜野座の腕を引っ張りキスをする。宜野座は観念する。仕事のためなら仕方がないと。それから、いささか役得だなと思いながら。 264 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題③問2700文字に達するまで一文で執筆する埋葬されたスプーン 宜野座はステンレスのスプーンを落としたーーその時狡噛は煙草を吸っていたーーあろうことか病室でーーそれも高級なそこで狡噛は自分がリラックスするために煙草を吸っていたーーしかし宜野座は狡噛を咎めはしなかったーーもとより宜野座が咎めることなどこの世にはないのだったーー宜野座はそこで狡噛の腕を引っ張り久しぶりに彼にキスをしたーー辛い煙草の味だったーーそう品質も良くないのに高いだけの煙草の味だったーー宜野座はその味に安堵したーーそれが自分が脇腹を撃たれて昏睡状態になる前に感じた味と同じものだったからだーー「やめるか?」ーー狡噛はそう尋ねたーー宜野座はどう答えていいいか分からなかったーーそもそも何をやめるかを彼は教えてもらっていないかったーー突然のキスかそれとも行動課の仕事かーー「いいや」ーー宜野座はそう言ったーー自分では何を言っているのか分からなかったがそう答えねばならない気がしたーー狡噛と宜野座はまたキスをしたーー口の中を絡めとるようにそうすると酒の味もしたーーもちろん血の味もーーまた馬鹿をやったのかと宜野座は思ったーー狡噛は無茶をする男だったーー執行官時代などは顕著だが仕事のために自分の命を落としても構わないと思うところがあったーー自分はその度に彼を叱ったが狡噛が改善することはなかったーーそういえばどうしてスプーンを落としたのだろうと宜野座は思ったーー狡噛は自分を眺めに来たのだったーー恋人の様子を見に来たのだったーー狡噛は仕事を切り上げてきたのだろうと宜野座は思ったーー癖のある黒髪青い目筋肉のついた体それらをすベて愛おしく思ったーーこの男は訪問に驚かれても動じないそんな男だったーーそしてようやく宜野座は、この時自分が狡噛を、心の底から、赤子が泣くように、埋葬された男を愛するように、そんな不確かな状況で愛していたのだと知った。 773 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題③問115文字程度の文章で200〜300文字書く恋人の鉢植え ギノは鉢植えに水をやっていた。俺はその名前を知らない。だが、彼は丁寧に世話をしていた。聞けば幼い頃からの趣味だという。彼は資格も持っているそうだ。今は夕暮れ時だ。俺はそろそろ食事がしたかった。けれど、彼が水をやり終えるまで待たねばならない。それほどまでに植物はギノを癒していた。 「お前が先に行ってもいいんだぞ」 ギノが言う。そんな選択肢俺にはないというのに。だから俺は煙草を吸いながら待つ。まるで彼の部屋にマーキングするように。 217 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題②句読点を使わないで文章を書く…難しい…。ベッドシーツの上で 本が落ちベッドに沈み込むとギノは何もかもが終わったようなこれから始まるような顔をしたので俺はなんなら自分のペースで始めてやると彼の長い髪を掴んでベッドに押し倒しばたつく彼の唇に自分のそれを重ねたもののギノはすぐに寝るのは嫌だったのかたいそう暴れて俺の腹を蹴り俺がそれに反応するととても楽しそうに笑って本が散らばるベッドの上で俺の腰に足を絡めゆっくりと腰を揺らし始めあぁこうやって始めるつもりなのだと思った俺は彼が笑っているのを確認してきつく抱きしめあご裏をじゅぶじゅぶとしゃぶり始めたが彼はそれが気に入らなかったのか切長の青い目で俺の頬をなぞり俺の脇腹を足で突き俺を押し倒そうとしたもののそんなのにやられる男でも俺はなかったから俺は何度も何度もキスをして彼が俺に身体を委ねるのを待ちつつことを前にベッドシーツの上でじっくりと進めていった。 370 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題①問21からつながっているなんちゃってハイジャックものです。女たちの顔 不幸にも飛行機に乗り合わせた人々は震えていた。ハイジャックを試みた少年兵は殺したが、それによって俺たちも同様の力を持つ人間と見られたのだ。老婦人は夫にしがみつき、涙を流していた。唇は震え、口紅は歯について剥がれていた。涙でぐしゃぐしゃになった顔はファンデーションが剥げていた。飛行機に乗り合わせていた女たちはほとんどがそんなふうだった。男たちは尊厳を保つため震えながらも席を立たなかったが、女たちは、添乗員でさえ突然の襲撃とその後の死に怯えていた。 「これで犯人は全部?」 「いいや、あと一人パイロットを人質に取ったやつがいる」 ギノが言う。俺はそれを聞きながら、さぁ、どうやって殺す?と考えた。そんな俺の目に、婦人たちは震えていた。しかし自分たちを助けてくれたのだから、失敬だと思っているのか涙を浮かべながらもこちらを見ていたが。いや、あんたたちの最初の感情の方が正しいんだ、俺はそう思う。俺の手は血に濡れている。今回撃ったのがギノでも。あんたたちの本能は正しいんだ。俺はそう思って、コックピットに向かった。最後の敵がいるコックピットに。 472 時緒🍴自家通販実施中TRAINING練習問題①問1血に沈んだイヤリング 花城がベレッタを取り出す。しかしそれはギノがジャケットからそのまま標的を撃ったのと同時だった。男が倒れる。フルフェイスのヘルメットが割れて、幼い少年の死んだ目があらわになった。花城はその少年が動かないことを確認して、自分そのものといったイヤリングを取り返した。だが、それは血まみれで、つけられたものではなかった。 「花城、俺が」 銃撃で焼けたスーツを脱ぎながらギノが言った。花城は素直にイヤリングを差し出す。するとギノは上等に仕立てたスーツでそのイヤリングを拭き、上司に返す。どうせ捨ててしまうから、汚れてもいいというところなのだろう。 「ありがとう、つけていないと落ち着かなくて」 花城が言う。ひし形の赤い宝石がはめ込まれたイヤリングがまた、彼女の耳元を飾る。俺はそれを見て、俺たちを攻撃しようとした少年兵の血の色だ、と思った。彼女はそれを耳に飾っているのだと。きらきらと、光を受けて輝くそれを飾っているのだと。 410 時緒🍴自家通販実施中TRAINING自分なりに京都アニメーションに捧げるものを書きたくて筆を取ったのですが、何だか違う感じに(いつものシビュラシステム云々の感じに)なりました。宜野座さんが一人で喋っているだけですが一応狡宜です。色彩の少女 あぁ、誰かと思ったら狡噛か。いや、今日は部屋を片付けていてな。父さんが遺したものとか、おばあさんから送られたものとか。ほら、これは青柳がくれた誕生日祝いのキャンドルで、こっちはあの人がくれた犬のリード。自分では持っているものは少ないと思っていたんだが違ったな。こうやってみると、案外田舎に蔵でも持ってたんじゃないかってくらい段ボール箱があるよ。 この箱は……あぁ、監視官時代のものだ。中を見せろって? 何嫉妬してるんだよ、この中身もプレゼントじゃないか、貰いすぎだって? そりゃあ出世頭だったからな、ものを貰うことは多かったんだよ。でもこの段ボール箱の中身はちょっと違うかもしれない。これをくれた人は、これまでとは違うから。綺麗な油絵だろう? くれたのは当時女子高生の引きこもりの女の子で、何というか、逸話みたいなものがあるんだ。気になるか? じゃあ話をしよう。俺がまだシビュラを信じてた頃に、シビュラが振り回した一人の女の子について。 2805 時緒🍴自家通販実施中TRAINING結婚式にボディガードで参加する行動課のお話。大切にします、だから全部ください 海外調整局の職員の結婚式があった。特別捜査官という肩書きがあるとはいえ、潜在犯の俺には関係のない話だが、結婚した職員は花城の古くからの知り合いで、なおかつボディガードが必要なレベルの男だった。だから花城は俺たちをその結婚式に出席させ、身辺警護をさせたのだった。 結婚式は退屈なものだった。花嫁は美しく眼福で、振る舞われる食事も美味かったが、ブライズメイドたちの陰口には辟易したし、俺を潜在犯と知らずに声をかけてくる無知な女たちは気の毒だった。でもまぁ、式というものはそういうものだ。天井から下げられたシャンデリアに絡みつく白い花々はひらひらと花びらを落とし、それを拾った子供たちはきゃあきゃあと駆け回って遊んでいる。ウエディングプランナーだけは警備にあたる俺たちのことを知っていて、恐ろしそうにこちらを見ていた。きっと潜在犯が怖いんだろう。ここ出島じゃあ、珍しくもないはずだが。 1980 時緒🍴自家通販実施中TRAINING夏に告白する狡噛さんのお話。好きって言えてほんとによかった 蝉が鳴いていた。珍しくホロではない学校の標本木にしがみついた彼らは、もう夏も終わると告げているようで、俺はなぜか唾を飲み込んでしまった。ギノは首筋に汗を流しながら、タブレットで問題集を解いていた。ここが分かりにくくて、狡噛は一発で解けたか? 解説が分かりにくいんだよな、巻末のさ。ギノはそんなことを言って笑った。お前ならなんでも出来るだろうけど、そう言って。俺は彼の言葉を聞いて、その問題に苦労しなかったことを思い出した。多分俺は何にも苦労せず生きていくんだろう。そう思う。今までだってそうだった。だから彼が公安局を志望すると言った時、強がりながらそれに従うように追従したのだ、志望を。公安局ならきっと俺も苦労するだろうって、そんなふうに先生に言われたことがあったから。潜在犯と接する仕事。この国の治安を守る仕事。それらはリスクは高いがエリートコースだ。先生は志望を公安局にした俺を呼び出すと、まぁ、狡噛なら出来るだろうな、と言った。俺はそうであってくれと思った。だってそうしたらギノとずっと一緒にいられるから。あぁ、蝉が鳴いている。俺は拳をぎゅうと握りしめる。彼はタブレットを見ている。太陽が反射するタブレット。俺は何も持っていない。制服の尻ポケットに文庫本を入れているくらいで何もしていない。でも、いつもとは違う何かをしようとしている。俺はおかしいんだろうか? あぁ、駄目だ、もう駄目だ。 2020 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡噛さんに怪我させちゃう学生時代の宜野座さんのお話です。君が隠してるもの、僕も持ってるよ ギノとつるむようになって一ヶ月が過ぎた。最初こそやめたほうがいいよとアドバイスをしてくれる友人たちも多かったが、それらを全て無視していると何も言われなくなった。それでも彼らは全国一位ってラベリングされた俺に話しかけてきて、ギノをなかったように扱い、これまで通りに振る舞った。明日のテストはどうする? 考査のことどう考えてる? 将来何になりたい? 狡噛なら楽勝だもんな、官僚にだってなれるよ。分かりやすいお世辞に分かりやすく笑顔を返しながら、俺はギノのことばかり考えた。ギノは俺が話しかけるたび嫌がって逃げようとした。俺がまるで下心があるみたいに、これは俺の勝手な推測だけれど、魅力的な優等生役をするために自分に話しかけているように見せているんじゃないかと思っているようで、俺が何かを話すたびに伊達眼鏡をかちゃかちゃと鳴らして嫌そうに顔をしかめた。それは一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、三ヶ月経っても変わらなかった。変わったのは彼が俺を振り払って、その時俺が怪我をしたからだった。ギノは顔色を変えた。周囲に同級生はいなかったからギノがいじめられることはないだろう。ただギノの少し長い爪は俺の目元に引っ掻き傷を作って、鉄くさい血の味がした。ギノは動揺していた。彼はいつも言葉で人を傷つけていたけれど、自分が殴られでもしない限り誰かを殴ることなんてない人間だった。そして俺はその時思った。あぁ、ようやく関係が変わるんじゃないかって。 2002 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狙撃される宜野座さんと看病する狡噛さんの話。神頼みなんてらしくないな ギノが狙撃された。任務中の出来事だった。彼はビルの高層階でターゲットを狙っており、スポッターとなった須郷とともに行動していた。まだ須郷がいて良かった。捕虜にでもなれば目も当てられない悲惨な状況に落とされただろうから。だが、俺はそこにいなかったことを後悔した。俺は出島の街を歩き、ギノが狙っていた敵に接近しようとしていた。当初はギノは撃つつもりはなかっただろう。だが、俺のターゲットはギノを確認し、自分が殺されるかもしれないと部下に命令してギノを撃った。そうして彼は今集中治療室にいる。花城は大丈夫だと言った。俺もそれを信じている。信じて彼の手を握っている。包帯を頭に巻かれた、彼の手を握っている。 ギノは頭を撃たれたのだそうだ。あちらの狙撃手も腕が良かったのだろう。俺は彼が後遺症を残さないことを祈って、ただ、ただ神に祈った。かつては無神論者とドッグタグに書いた俺がである。神頼みなんてらしくないなと思いつつも、それでも祈らずにはいられなかった。ただ助かってくれと静かに祈る時、人は神を見るのだろう。静かに誰かの無事を願う時、人は神を見るのだろう。神なんて信じないって言ってられたのは自分が一人だった時だ。いや、俺は神を信じているのだろうか? 神かどうかなんてどうでもよくて、ただ大きな力に祈っているのではないか。俺はそんなことを思い、静かに息を吐いた。 2060 時緒🍴自家通販実施中TRAINING何回も同じ夢を見る宜野座さんのお話。ハッピーエンドです。沈めても沈めても浮かび上がるのは 眠り入る寸前の時に、うたた寝をする時に、必ずと言っていいほど見る夢がある。俺はそこでは花屋をしていて、狡噛はその店の客として現れる。季節の花を頼みたいのですが、そうですね、ではこちらはいかがでしょうか? 会話はいつも違うが、ありふれた感触でそれは始まる。俺は花を束ねながら、これは嘘だと勘づいている。嘘じゃないな、夢だと気づいている。狡噛は花束を愛でるような男ではないし、俺も花屋にはならなかった。しかしそれは平和な夢で、俺はそれが好きだった。ごっこ遊びのようで、とても好きだった。けれどそれは眠り入ればすぐに消えてしまって、うたた寝が終わればすぐに消えてしまって、俺はそれを悲しく思う。しかし俺は何度もその夢を見て幸せな気持ちになる。心地いい夢、温かい夢。俺はそんな夢に、何度も何度も沈んでゆく。 1981 時緒🍴自家通販実施中TRAINING出島を歩いていて結婚式に出会う狡宜です。言えないよ、一言じゃ済まないから 言葉にしたら消えてしまうようなものについて、たまに考えることがある。愛しているって言葉は軽薄になるが消えない。消えてしまうのは、もっと些細で、小さくて、壊れそうなものだ。そして狡噛が一番大切にしているもの。彼が俺にどうにかしてそれをくれたのは学生時代のことで、初めてキスをした日のことだった。ギノ、愛してる、どこにも行かないでくれ。彼はそう俺にお願いをして、何度も、何度もキスをした。俺はそれにうなずいた。別に行くところなんてなかったし、彼のそばが一番心地よい気がした。けれど違ったのだ、彼はひとところにとどまる人間じゃなかった。彼は居心地の良さを求めてどこにでも行く人間だった。だから俺がいなくなることはなくても、彼がいなくなることはあった。それが彼が日本を飛び出た理由なんだろう。人間関係を全て捨てて、そしてそこで新しく何かを築き上げて、それすらすぐに捨ててしまう。言葉にしたら消えてしまうようなものについて考えると、彼はそれをよく使うことが分かった。でも俺はそれを使えない。一言じゃ済まないから。一生どこにも行かないくでくれ、そばにいてくれ、俺を愛してくれ、そんなふうに言葉が止まらなくなるから。 2147 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡噛さんの隠していたおはじきやビー玉を見つけてしまった宜野座さんのお話。希望に似たものを集めて愛でる 狡噛の部屋に清掃ドローンを入れて、そのごみを念のため確認していると、小さなガラスで出来たおはじきと、ビー玉が出て来た。いったいどこに隠していたのだろうそれは、俺がつまむときらきらと輝いて、窓ガラスから差し込む光にもその小さな身体を光らせた。水色、オレンジ色、緑色、白い筋が入ったものや、丸い点が入ったもの。それらはこの何もない部屋には不釣り合いだったが、不思議と懐かしくなった。狡噛が幼い頃遊んでいたものなのだろうか? それをここまで持って来たのだろうか? 俺はそんなことを考えて楽しくなり、それらをポケットに入れるともう出勤していった狡噛の帰りを待った。彼が帰ってきたらこのおもちゃの出どころを尋ねよう。そんなことを考えながら。 2022 時緒🍴自家通販実施中TRAINING何となく前回の続き。二人で浴室に入って、髪の毛を少し切ってもらう宜野座さんのお話。意味なんかないはずだけど 髪を伸ばしていることに確かな意味なんてない。伸ばし初めの時は、よく聞かれたものだ。願掛けをしてるんですか、何を願っているんですかって。俺はそれを聞かれる度に何も考えていないんだって言い返して、実際のところどうなのだろうと悩んだ。理由もなしにこんなに髪型を変えるだなんて、そんなことはきっとない。俺は多分どこかで狡噛に会たくて髪を伸ばしていた。そうしたら会えたのだ、あの奔放な男に。それからはずっと惰性で伸ばしている。また会えたらいいと、自分から突き放しておいてまた会えたらいいと。狡噛は知らないだろう。外務省で再び出会った時は髪型は変えないんだなと言われた。何か理由でもあるのかとも言われた。俺は意味なんてないさとつぶやいて、少し伸びた髪を触った。果たして願掛けをして髪を伸ばしていたと言えば彼は喜ぶだろうか? そこまで思われていたと思って喜ぶだろうか? それともいつものようにクールに振る舞う? 俺は分からない。彼の考えが俺には分からない。彼を喜ばせたいけれど、どう振る舞えばあの男が俺を愛してくれるかが分からない。願掛けで髪を伸ばしていたと言えば重いと思われるかもしれない。それともロマンチストな彼は喜ぶだろうか。俺には分からない。 2027 時緒🍴自家通販実施中TRAINING夕食を一緒に取る二人。前回の続きですがこれだけでも読めます。少し話した後に、抱きしめたくなるんだ 狡噛は何も喋らない。彼は俺の部屋にやって来ても、持参した古本を読むか、いつの間にか置かれるようになったレコードを流すかで、積極的に俺に触れようとしなかった。別にそれに不満があるわけじゃない。彼と過ごす穏やかな時間は俺にとってかけがえのないものだったし、狡噛慎也という人間が側にいるだけで安堵した。触れなくても体温が伝わって、彼の規則的な呼吸に泣きたいくらい安心した。子どもが母親の手を離さないように、ゆっくりとした心音に触れるため腹に頭を押し付けるように、俺は彼の横顔を見つめ続けた。そりゃあ触れたいと思う。手を握ったり、彼を抱きしめたりしたい。けれどその先に待っているのはセックスというだけで、そうすれば自分が今抱いている焦燥感が消え去ってしまいそうな気がした。俺は彼を愛している。だったら彼が心地よいようにしたかった。レコードをかけて、ジャズを流して、見知らぬ題名の本を読む彼の側に座って、俺はいつもデバイスを触った。彼の好きな音楽を探り、熱心に集中する本を調べた。でもそれだけだ。それだけで何も出来なかった。だから俺は口を開くのだろう。彼をそっとしてやりたいのに、用事にかこつけて、彼の声を聞き出したいのだ。彼がどんなふうに本に感想を抱くのか、この音楽のどこがいいのか。掠れ声がセクシーな歌手の声に耳を傾けるのは何故なのか。俺はそんな簡単な不思議を知りたくて、狡噛に向かって声をかけた。 2060 時緒🍴自家通販実施中TRAININGなんとなく続くシリーズ(狡宜)。いつからなんて覚えてやしない ギノを好きになった時のことは覚えてはいない。彼はずっと初めて出来た親しい友人で、俺を担当した気難しい哲学教師にも狡噛くんにもついに親友ができましたか、と言われたので、そうかようやく親友が出来たのか、と思っていた。あの哲学しかやって来なかった先生がどうして俺たちの関係を親友と表したのかは知らないが、あの先生は俺に親友が出来ないことを心配していたらしく、そこにギノが収まったことでホッとしたようだった。何でもできる狡噛慎也。友人は広く浅く。けれど自分が悩んだ時に頼れる誰かはいない。秘密を話せる誰かはいない。先生はそれを知っていて、ギノを親友と評したのかもしれない。それくらい俺は友人がいなかった。語り合うクラスメイトがいなかったわけではないが、気がつけば俺は人混みの中でいつも一人だった。 1894 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡宜コミュのWebラリーに置いていたものです。朝の二人。日曜日のオムレツ 食事は基本的に狡噛が作る。三食全てとまではいかないが、一食、いや二食程度は彼が作る。俺はそれをぼんやりと食べて感想を言って、食器洗い機に皿を放り込む。その皿も狡噛が選んだもので、見たこともない色であったり、不思議な形をしていたりする。狡噛の飯はうまい。和食も洋食も中華も、山岳で食べられるスパイシーな料理も、彼は自分のものにしてしまっていた。俺が知っているのは料理の下手くそな狡噛慎也だったから最初は驚いた。狡噛は特に味覚がおかしいところがあったし、俺はそんな彼を愛してもいたので。 「それで、今日は午後からどうする?」 小さなオムレツをフォークで突きながら狡噛は言った。コップにはオレンジジュース、脇の小鉢には名前も知らない野菜のサラダ。俺はそれらを均等に口に入れながら、彼の提案をぼんやりと考えた。 826 時緒🍴自家通販実施中TRAINING時間がない中で愛し合おうとする狡噛さんの話。800文字チャレンジ100日目。お付き合いありがとうございました!タイムリミット(あなたを愛する時間) 時間がない。だからといって手抜きはしたくない。たっぷりいつものように時間がかけられないとはいえ、彼を愛するのに手を抜きたくはない。そんなことを思いながら俺はギノに口付けを落とす。キスだけで終わっておく? あとは夜にとっておく? それとも短い時間を共にしてから出勤する? 俺は悩みながら、静かに身を寄せるギノを抱きしめた。彼は俺にされるがままにされている。少しくらい出勤が遅れてもかまわないとでも思っているのだろうか? 俺はそんなことを思って、そんなことあるはずがないとも思った。彼は仕事に関してはストイックで真面目だ。こんなことが許されるはずがない。以前だってこんな時に始めようとしたら、左で殴られたことがあった。彼は少し性欲が淡白で、キスだけで満足できるところがあるのだ。ただ触れられたらそれでいい、そう考えるところが。だからこうやってキスをしているのも、大した意味はないんだろう。セックスに繋げようなんて、そんなこと絶対に考えていない。セックスなんて夜にする深い営みくらいにしか思っていない。俺はそれを悔しく思う。急げば出勤までに間に合うのに、彼はそれをしてくれないと。 991 時緒🍴自家通販実施中TRAININGお墓参りをする宜野座さんのお話。何かが変わってゆく様子。800文字チャレンジ99日目。ただ、君を待つ(二度と離さない) 狡噛がいなくなって数年が経った。だというのに俺はまだ彼を待っていて、自分から別れを告げたくせにまだ待っていて、海外に派遣されることはないかとか、共同捜査にあたることはないかとか、そんなことばかりを考えていた。そんな俺を常守は見ていられないようだった。考えてみれば、彼女が別れの時間を俺に渡したのだから、そう思うのも仕方がないのかもしれない。彼女は俺が撃てないことを、狡噛を殺せないことを知っていた。そしてその代わりに別れを告げることも。だから俺は彼女についてゆこうと決めたのだが、それでも彼女にはひどい役目を課していると思う。俺が知らない何かを知っている彼女は、今日だって局長室に呼ばれて行った。何かが動いているのは分かっていた。先日は外務省から花城フレデリカがやって来たし、口の堅い須郷を口説き音して聞けば、外務省に新しい部署を作るにあたって求められた、とのことだった。何かが動き出していた。俺が何も知らない何かが。俺が何も知らないのは、いつだって同じことだった。いつだって俺はただ転がる球で、跳ねては物事の本質を知る人々に笑われていた。出世が見込めるときはそれでも満足していたが、それがなくなった今ではどうしていいのか分からない。執行官が下手に動けば上司である監視官が処罰される。だから俺は、ゴム毬のように、ずっと跳ねているしかないのだろう。 966 時緒🍴自家通販実施中TRAINING仕事でミスをした狡噛さんと怒る宜野座さんのお話。800文字チャレンジ98日目。ミステイク(ヒューマンエラー) ギノの機嫌が悪いのは、俺が仕事でミスをしたからだ。それもどうとでもなる、小学生でも見つけられるミスをしたからだ。彼は仕事には厳しい男で、そういうのを嫌う人間だったから、俺は絶賛無視をされている。どちらが子供っぽいかは分からないが、彼の腹の虫が治まるまでは、俺は一言も口をきけないだろう。けれど波は俺になびいてきている。花城はさっきからいらいらしているし(仕事中に喧嘩をするなと言いたいんだろう)、須郷も気遣わしげだ(彼は誰かが喧嘩をしていると収めようとするところがあった)。だからここでギノが俺を許してくれれば全ては丸く収まるのだが、まだそれはうまく行きそうになかった。それくらい、彼は強情だったのだ。笑ってしまうくらいに。 897 時緒🍴自家通販実施中TRAINING寝ずの番をする二人の話。800文字チャレンジ97日目。このまま夜明けまで(あなたと二人なら) 犯人と見られる人間がバーチャルの売春宿に入って数時間が過ぎた。俺とギノはパトカーをホロで隠してそれを伺っている。裏には二係がいる。今回は大規模な捜査で、失敗するわけにはいかなかった。だというのに、俺はギノとともに夜を過ごしていることを喜んでいた。彼が潜在犯とともに過ごすことを喜ぶかどうかは分からない。ただ恋人だった期間が長かった分、甘い雰囲気は流れた。また一緒にいたい。許されるなら一緒にいたい。でもその選択肢を捨てたのは俺だった。ギノは情が篤い男だから、潜在犯になっただけで俺を捨てはしない。彼が俺と距離をとっているのは、俺が佐々山を殺した犯人に、いもしない犯人に夢中になっているからだった。それに色相だってそんなに悪くはないんだ。もし矯正施設でプログラムを受ければ一般人に戻れるかもしれないくらいに。けれどそれを勧めるギノを拒否して、俺は彼とともに働いている。 984 1234