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    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

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    TRAINING異国の軍隊に雇われた狡噛がマラリアにかかって宜野座の夢を見たり、襲撃されて怪我をしたりするお話です。
    やし酒と煙草を一本 ここでは、国家のために戦い傷を負い、入院した兵士は王から煙草を一箱下賜される。
     それは傭兵の俺も例外ではなかったらしく、野戦病院で目が覚めると、枕元には太陽のマークが刻まれた赤い煙草が置かれていた。皆はそれをありがたがって万歳、万歳と蚊帳の中、汚れた額にこすり付けていた。俺はそこまでこの国の王に忠誠心がなかったから病室で吸っても良かったのだが、夜刺されてもまずいと思いやめた。だから俺は皆がそうするように■■■王万歳と言い、王室のマークを額にこすり付け、胸ポケットに入れた。
     俺がこの野戦病院に入ることとなったのは、怪我が理由ではなく(勿論怪我はしていたが)マラリアが理由だった。最初のうちは気づかなかった。長い雨期が続き、鬱々としていた時に軽く発熱し、頭痛や悪寒に襲われ、嘔吐した時に従軍医師にマラリアと診断された。そこからは地獄だった。黒水熱を併発した俺は助かる見込みのない患者の部屋に隔離され、一週間と数日苦しんだ。死亡率は三十%というんだから、助かったのは奇跡だと言われた。流石に俺もこの時は神に感謝した。けれどまぁ、助かった俺はまた明日から軍という死地に戻る。生きてゆくために。
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    TRAINING練習問題⑤簡潔性
    形容詞も副詞も使わずに描写すること。
    彼の汗を拭う 狡噛の額から汗が垂れる。それはベッドサイドのライトに光り、俺の目をくらませる。俺はそれが悔しくて彼の腹筋に触る。彼はやめろといったふうに俺の手を振り払う。俺はそれに抵抗し、彼の筋肉を触る。肩や背中、腰、太もも、それから惚れている顔のラインなどを。狡噛はそれを笑わない。俺のやり方を笑わない。セックスの仕方を笑わない。俺は身体を反転させ、彼の上に乗る。狡噛が笑う。彼は俺がどうやって楽しませるのか期待しているようだった。俺はそうセックスが上手くないから、そんなに期待されても困るのだが。
     俺は一度ペニスを引き抜きしごく。コンドームが音を立てる。俺はそれが面白くて手首をストロークさせる。狡噛が歯を噛み締める。どうだ、俺も出来るだろう、俺はそう笑って、彼のペニスをまた挿入させる。狡噛は繰り返し息を吐く。俺のセックスが気に入らないのか、それともその逆なのか。俺は彼の額に浮かぶ汗を拭った。それを掬って飲むと、いつもよりずっと美味かった。彼が興奮しているせいだとしたら俺は喜ぶだろうし、彼もそうであるだろう。俺はそんなことを考え、またキスをした。
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    TRAINING5/14ワンライ
    お題【祝福/胡蝶の夢/ふりがな】
    幸せで、怖い夢をみる五条のお話です。高専時代のお話。
    毎夜みる夢 繰り返し何度も見る夢がある。俺はその中で高専の教師をしていて、硝子や、面倒だが可愛らしい生徒たちに囲まれている。そしてそんな俺の隣には髪型を変えた傑もいて、彼もどうやら俺と同じく教師らしいことが分かる。俺たちはその夢の中では呪術師を続けていて、やはり友人であり恋人同士だった。
     ここまではよくある俺の願望なんだろう。でも不思議なのは、見たこともない小さな女の子の双子二人が傑になついていることで、彼女らは俺にひらがなで書かれた肩たたき券(肩の部分には可愛らしいふりがながふられている)をくれる。「傑さまと仲良くしてくれてありがとう」「傑さまは寂しがり屋さんだから」そんなふうに俺に言った後、「結婚式は私たちがお花を撒いてあげるからね」なんてませたことを言ってきゃーって叫びながら走り去ってゆく。どうやら彼女らは俺たちの関係を知っているようで、傑も俺もここにいる人々には隠していないようだった。俺が面倒を見ている生徒たちも笑っている。「早く結婚しなよ先生」「見てるだけで恥ずかしいから早く結婚したら」「傑さんと一緒にいたらちょっとはマシになるんじゃないですか」生徒たちは口が悪かったが、俺たちの仲を祝福してくれる。いやあ、僕もそろそろ結婚したいんだけどね、傑が恥ずかしがってさぁ。——僕? あれ、俺は今僕って言った? なんで? そういえば傑がせめて僕って言えって言ってたよな。俺って言うのはよしたほうがいいって。夢の中でそれを思い出してるのかな。俺はまばたきをする。しかし次の瞬間双子が消え、傑が消え、生徒たちも消え、結局残ったのは硝子だけだった。そして彼女は言うのだ。「また気づいちゃったね」と。「気づかなきゃ夢を見てられたのに」と。俺は混乱する。僕は混乱する。そしてまばたきをして、ぼんやりと天井に向かって手を伸ばす。この部屋には、最後まで残ってくれた硝子ももういない。僕は、いや俺は、自分の部屋でどうでもいい夢を見ていたことに気づく。すぐにどっちが夢なのか分からなくて、携帯電話を触る。表示された年月日から、まだ自分が高専生であることに気づく。良かった、俺はまだ高専生だ、傑もいる、硝子もいる、見知らぬ生徒たちや双子の少女たちもいない。俺は吐きそうになりながら着替え、傑の部屋を訪ねる。するとそこにはまだ眠っている彼がいて、俺はその横顔の尊さに泣きそうになりながらベッドの脇に座り込む。
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    TRAINING4/16ワンライ
    お題【マーメイド/生霊/胸】
    さしす。八百比丘尼を保護しろという任務を命じられた三人のお話です。
    人魚と紫陽花 人魚の呪霊が流す涙を体内に取り込むと、長生きが出来る。
     そんな噂が非合法の骨董マーケットの間で立ったのは、俺たちがまだ高専一年の夏に差しかかった頃のことだった。古式ゆかしい八百比丘尼が現代に現れたのなら、伝承通り肉を食えばいい。でも何故今回は肉でなく涙なのか。俺にはそれが分からず、傑も不思議そうな顔をしていたように思う。
    「それで今回の俺たちの任務は?」
    「八百比丘尼の保護」
    「あぁ、面倒臭そうだなぁ……」
     そんなこんなで、俺は傑と二人で八百比丘尼を探す羽目になったのだった。
     でも、八百比丘尼は、人魚はすぐに見つかった。彼女が自分から、俺たちが学ぶ高専に近づいてきたからだ。彼女は教室で多分涙なのだろう、透明な液体が入った瓶を下げた胸元にナイフを置いて、生霊みたいな顔をして、「もう、私を殺してください」と言った。いや、俺たちが命じられたのはあんたの保護でそういう物理的な殺害じゃない。というか不老不死なのにナイフで刺せば死ぬのか。俺はそれを疑問に思ったが、教室にいる誰もがそれを尋ねなかった。
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    TRAINING4/9ワンライ
    お題【鬱血/閉世界仮説/フラスコ】
    さしすがちょっと辛い任務にあたるお話です。しゃべっているのは五条と夏油だけです。仄暗い感じです。
    光を灯す 桜が散ろうとする頃、フラスコや、シリンダーが並ぶ部屋にその少女はいた。手錠をかけられて机に繋がれた腕は鬱血していて、だが彼女は明るくこう言った。
    「お兄さん、あの方は?」
     あの方はどこに行ったのです? 約束したのに。
     俺はその問いにすぐに答えられなかった。答えたのは傑だった。あなたの言うあの方は私たちに捕らえられました(私たちが殺しました)。さぁ、怪我を治してもらいましょう。傑の言葉を聞いていた硝子が足を踏み出す。俺はそれを見ていられず、することも出来ることもなく、連続殺人犯のアジトから出たのだった。
     
     
     呪術師の娘が連続殺人犯、正しくは呪詛師にさらわれたのは、今から一週間前のことだった。俺たちがそれを助け出したのは昨日の話。彼女の残穢をたどって探し出したから任務はそう難しくなく、むしろこんな簡単な仕事を他の呪術師が早急にしなかったことが不思議だった。ただ呪詛師は呪いをかけていたから、最強の俺たち以外の他の呪術師は、そのトラップにひっかかったのかもしれない。それより不思議なのは、少女が今も男を待っているということだ。伝え聞いたところによると、彼女は例の男をいまだに慕って待っているらしい。高専に戻って食事をとって傑の部屋に帰る途中、まるでロミオとジュリエットみたいだなって言う彼に、俺はロマンチストすぎると友人の部屋の扉を開きながら言った。
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    TRAINING3/12ワンライ
    お題【三途の川/キャリーオーバー/腹いせ】
    訓練で渋谷に行ったさしすが色々おしゃべりしてる甘ったるいお話です。
    チョコレートドリンク 渋谷の街は、三途の川に似ているとよく思う。
     もちろん俺は死んでもいないから、そんな場所には行ったことがない。ただの概念としての見解だ。けれど会話のさざめきや、重なる足音、イヤホンをさした耳から漏れる音楽なんかが、どうもこの世のものとは思えない、って俺はあの場所を訪れる度に思った。
     これをふとした話題として傑に言った時、傑はそれは地獄じゃないの? と言った。審判を受けた人々が蠢いている場所、それが渋谷なんじゃないかって。そしてあの交差点は、それぞれの地獄に向かっているんじゃないかって。
    「地獄ね……」
     俺は交差点がよく見えるカフェで、行き交う人を見ながら言った。隣には傑と、珍しく高専の結界の中から出た硝子がいる。今日の任務は細かな弱い呪霊を一度に祓うってものだった。そして夜蛾先生がその実習場所に選んだのが、あの交差点ってわけだ。強いものが出て来た時は高専に連絡するように言われていたが、正直全て祓ってしまった方がやりやすいっていうのが俺の考えだったし、傑も硝子もそうだったろうと思う。
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    TRAINING2/5ワンライ
    お題【玉手箱/アイロン/忖度】

    夏油が高専を去った後、夏油が持っていた写真を見る五条のお話です。ちょっと暗めです。
    瞳の先 傑がいなくなってすぐ、彼の部屋は高専の上層部によって手が入った。傑が使っていた呪具から、傑が使っていた教科書まで、彼が呪いを残せるもの全てが持ち出され、やがて呪術師の手によって祓われ焼かれた。それは突然のことだったので、俺は少し待ってくれ、俺にもその箱たちの中身を見せてくれとせがんだ。けれど彼らは友人だった、いや五条家の人間だった俺の気持ちを認めず、結局この手には何も残らなかった。傑がいた教室はいつの間にか席は二つになり、彼が三年間を過ごした寮の部屋は封印された。俺は最後に会った時、何も出来なかった自分が不甲斐なく思えた。けれど彼が生きているだろうことには、少しばかり安堵した。あんな大量殺人を犯した友人が生きていることを、だ。高専に潜り込んでいる五条家の間諜に調べさせたところによると、上は彼を殺そうとはせず、様子見をするようだった。もしかしたら、傑が何か企んだのかもしれない。呪詛師となった彼が仲間を得たら、高専といえどおいそれと手出しは出来ないだろうから。
    1916

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    TRAINING1/22夏五ワンライ。
    お題【天井/プルタブ/映画館】
    映画を見に行った二人がいちゃいちゃするお話です。
    ライフ・イズ・コメディ! 傑と映画館に行くことになった。これって初デートだなぁ、俺たちも結構恋人らしいことをするもんだなぁ、そう俺は思って、なぜ傑がよりにもよってクレヨンしんちゃんの映画を選んだのか考えもしなかった。チケットまで事前に用意したのも怪しかったが、俺は傑と一緒に映画を観に行く、そんな事実だけに興奮してしまって、やっぱりなぜ傑って奴がクレヨンしんちゃんを選んだんだ?、恋愛映画でもないのに、とは考えなかった。でも『モーレツ! 大人帝国の逆襲』とか『アッパレ! 戦国大合戦』は俺を映画館に連れて行った五条家の呪術師も泣いていたから(俺は情緒の育っていない子どもだったので、結構長い間教育のために分かりやすい勧善懲悪のアニメ映画を見に連れて行かれていたのである)、映画の優しいジャイアンみたいに、クレヨンしんちゃんも映画は大人になると泣けるのかなって思った。それに傑と映画館に行けるんなら別に何の映画でも良かったから、もしこのチケットの映画で泣けなくたって、それはそれでいいだろうって。それで傑だけ泣いたら、ちょっと居心地が悪いかなぁ。
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    TRAINING狡宜コミュフィールド3開催おめでとうございます!
    ちょっと不穏な映画を見る狡噛さんと宜野座さんのお話です。
    それでもラブラブめにしてみました。楽しんでいただけるととても嬉しいです!
    エンドロール テレビの中の男女は、めかしこんで摩天楼のホテルでディナーをとっている。しかしその装いに反して、彼らの表情は明るくない。テーブルランプが映し出すのは、静まり返った二人の顔だ。物語も終盤のシーンだから、そろそろ別れがやって来るのだろう。それか、もしかしたら奇跡的に恋愛が上手くゆくか。破綻しそうになったそれが、今さら解決するとは思えないが。
     俺はそんなことを考えながら、深夜モノクローム版の恋愛映画のディスクを持って来た狡噛を見た。ソファに座る彼は何も考えていないように見えた。多くの人がそうであるように主人公たちに感情移入することもなく、ただ映画を評論するように見ているようだった。一方の俺はただ二時間を無駄にしただけで、何も得てはいなかった。古い恋愛映画、歯のうく台詞、美貌の男女が抱き合うさま。俺はそれらを見て、早く終わってくれと思った。そろそろ時間だ、十二時を過ぎる。俺はそれまでに狡噛と言葉を交わしたかった。
    1880

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    TRAINING練習問題③ 追加問題
    問2書いてみた長い文を変則的な節や言葉遣いを用いてみる。
    埋葬されたスプーンその2 宜野座がスプーンを落とすのはそう珍しいことでもなかったが、そう握力が弱いわけでもなかったので、狡噛が病室にやってきても驚きはしても動揺はしないと思っていたけれど、いざ顔を見たらステンレスのスプーンを落としてしまっていたーー狡噛は煙草を吸いながらこう言った、この部屋少し暑すぎやしないかと、ただそれだけのことを宜野座に伝えたいわけでもなかろうに、そんなありきたりなことを言って場を繋いだーー天気の話題よりマシか、そう宜野座は思いつつ、そっちの方がマシな場合もあるだろうと思ったーー狡噛は訳の分からない引用をすることが多々あり、宜野座はその度に彼が好む哲学書から古い漫画までデバイスで調べねばならなかったーー俺はドラえもんじゃないんだぜ、仕事の最中に言われたあの言葉は屈辱だったというか、お前がそんなに役に立ったことはないだろうと宜野座は思わずにはいられなかったーー確かに狡噛は有能な捜査官だったが、あの青い猫型ロボットのようには自分を慈しんではくれなかった、じゃあキスをしよう、そう宜野座は思い、狡噛の腕を引っ張った、狡噛は何も抵抗しなかった、俺が何も馬鹿なことをやらかさないことを知っているのだろうと宜野座は思い、苛立ったがそれでも酒や煙草の味がするキスを楽しんだ、途中で看護師や医者がやってきたが無視してキスをしたーーキスを止めたのは花城がやってきて、迷惑をかけないでちょうだいと言われた時だったーーこれくらい位じゃないか、そう狡噛は言い、また煙草をつけ、任務で負傷しベッドに横たわる宜野座に覆いかぶさってキスをした、花城はもう何も言わなかった、恋人が危険な状態にあったのだ、仕方がないと思ったのだろう、けれど宜野座は彼女を少しかわいそうに思って、そうして彼女が話し出すであろう新しい捜査情報に耳を傾け始めたのだった。
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    TRAINING練習問題③問2
    700文字に達するまで一文で執筆する
    埋葬されたスプーン 宜野座はステンレスのスプーンを落としたーーその時狡噛は煙草を吸っていたーーあろうことか病室でーーそれも高級なそこで狡噛は自分がリラックスするために煙草を吸っていたーーしかし宜野座は狡噛を咎めはしなかったーーもとより宜野座が咎めることなどこの世にはないのだったーー宜野座はそこで狡噛の腕を引っ張り久しぶりに彼にキスをしたーー辛い煙草の味だったーーそう品質も良くないのに高いだけの煙草の味だったーー宜野座はその味に安堵したーーそれが自分が脇腹を撃たれて昏睡状態になる前に感じた味と同じものだったからだーー「やめるか?」ーー狡噛はそう尋ねたーー宜野座はどう答えていいいか分からなかったーーそもそも何をやめるかを彼は教えてもらっていないかったーー突然のキスかそれとも行動課の仕事かーー「いいや」ーー宜野座はそう言ったーー自分では何を言っているのか分からなかったがそう答えねばならない気がしたーー狡噛と宜野座はまたキスをしたーー口の中を絡めとるようにそうすると酒の味もしたーーもちろん血の味もーーまた馬鹿をやったのかと宜野座は思ったーー狡噛は無茶をする男だったーー執行官時代などは顕著だが仕事のために自分の命を落としても構わないと思うところがあったーー自分はその度に彼を叱ったが狡噛が改善することはなかったーーそういえばどうしてスプーンを落としたのだろうと宜野座は思ったーー狡噛は自分を眺めに来たのだったーー恋人の様子を見に来たのだったーー狡噛は仕事を切り上げてきたのだろうと宜野座は思ったーー癖のある黒髪青い目筋肉のついた体それらをすベて愛おしく思ったーーこの男は訪問に驚かれても動じないそんな男だったーーそしてようやく宜野座は、この時自分が狡噛を、心の底から、赤子が泣くように、埋葬された男を愛するように、そんな不確かな状況で愛していたのだと知った。
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    TRAINING練習問題①問2
    1からつながっているなんちゃってハイジャックものです。
    女たちの顔 不幸にも飛行機に乗り合わせた人々は震えていた。ハイジャックを試みた少年兵は殺したが、それによって俺たちも同様の力を持つ人間と見られたのだ。老婦人は夫にしがみつき、涙を流していた。唇は震え、口紅は歯について剥がれていた。涙でぐしゃぐしゃになった顔はファンデーションが剥げていた。飛行機に乗り合わせていた女たちはほとんどがそんなふうだった。男たちは尊厳を保つため震えながらも席を立たなかったが、女たちは、添乗員でさえ突然の襲撃とその後の死に怯えていた。
    「これで犯人は全部?」
    「いいや、あと一人パイロットを人質に取ったやつがいる」
     ギノが言う。俺はそれを聞きながら、さぁ、どうやって殺す?と考えた。そんな俺の目に、婦人たちは震えていた。しかし自分たちを助けてくれたのだから、失敬だと思っているのか涙を浮かべながらもこちらを見ていたが。いや、あんたたちの最初の感情の方が正しいんだ、俺はそう思う。俺の手は血に濡れている。今回撃ったのがギノでも。あんたたちの本能は正しいんだ。俺はそう思って、コックピットに向かった。最後の敵がいるコックピットに。
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    TRAINING自分なりに京都アニメーションに捧げるものを書きたくて筆を取ったのですが、何だか違う感じに(いつものシビュラシステム云々の感じに)なりました。
    宜野座さんが一人で喋っているだけですが一応狡宜です。
    色彩の少女 あぁ、誰かと思ったら狡噛か。いや、今日は部屋を片付けていてな。父さんが遺したものとか、おばあさんから送られたものとか。ほら、これは青柳がくれた誕生日祝いのキャンドルで、こっちはあの人がくれた犬のリード。自分では持っているものは少ないと思っていたんだが違ったな。こうやってみると、案外田舎に蔵でも持ってたんじゃないかってくらい段ボール箱があるよ。
     この箱は……あぁ、監視官時代のものだ。中を見せろって? 何嫉妬してるんだよ、この中身もプレゼントじゃないか、貰いすぎだって? そりゃあ出世頭だったからな、ものを貰うことは多かったんだよ。でもこの段ボール箱の中身はちょっと違うかもしれない。これをくれた人は、これまでとは違うから。綺麗な油絵だろう? くれたのは当時女子高生の引きこもりの女の子で、何というか、逸話みたいなものがあるんだ。気になるか? じゃあ話をしよう。俺がまだシビュラを信じてた頃に、シビュラが振り回した一人の女の子について。
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    TRAINING夏に告白する狡噛さんのお話。
    好きって言えてほんとによかった 蝉が鳴いていた。珍しくホロではない学校の標本木にしがみついた彼らは、もう夏も終わると告げているようで、俺はなぜか唾を飲み込んでしまった。ギノは首筋に汗を流しながら、タブレットで問題集を解いていた。ここが分かりにくくて、狡噛は一発で解けたか? 解説が分かりにくいんだよな、巻末のさ。ギノはそんなことを言って笑った。お前ならなんでも出来るだろうけど、そう言って。俺は彼の言葉を聞いて、その問題に苦労しなかったことを思い出した。多分俺は何にも苦労せず生きていくんだろう。そう思う。今までだってそうだった。だから彼が公安局を志望すると言った時、強がりながらそれに従うように追従したのだ、志望を。公安局ならきっと俺も苦労するだろうって、そんなふうに先生に言われたことがあったから。潜在犯と接する仕事。この国の治安を守る仕事。それらはリスクは高いがエリートコースだ。先生は志望を公安局にした俺を呼び出すと、まぁ、狡噛なら出来るだろうな、と言った。俺はそうであってくれと思った。だってそうしたらギノとずっと一緒にいられるから。あぁ、蝉が鳴いている。俺は拳をぎゅうと握りしめる。彼はタブレットを見ている。太陽が反射するタブレット。俺は何も持っていない。制服の尻ポケットに文庫本を入れているくらいで何もしていない。でも、いつもとは違う何かをしようとしている。俺はおかしいんだろうか? あぁ、駄目だ、もう駄目だ。
    2020

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    TRAINING狡噛さんに怪我させちゃう学生時代の宜野座さんのお話です。
    君が隠してるもの、僕も持ってるよ ギノとつるむようになって一ヶ月が過ぎた。最初こそやめたほうがいいよとアドバイスをしてくれる友人たちも多かったが、それらを全て無視していると何も言われなくなった。それでも彼らは全国一位ってラベリングされた俺に話しかけてきて、ギノをなかったように扱い、これまで通りに振る舞った。明日のテストはどうする? 考査のことどう考えてる? 将来何になりたい? 狡噛なら楽勝だもんな、官僚にだってなれるよ。分かりやすいお世辞に分かりやすく笑顔を返しながら、俺はギノのことばかり考えた。ギノは俺が話しかけるたび嫌がって逃げようとした。俺がまるで下心があるみたいに、これは俺の勝手な推測だけれど、魅力的な優等生役をするために自分に話しかけているように見せているんじゃないかと思っているようで、俺が何かを話すたびに伊達眼鏡をかちゃかちゃと鳴らして嫌そうに顔をしかめた。それは一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、三ヶ月経っても変わらなかった。変わったのは彼が俺を振り払って、その時俺が怪我をしたからだった。ギノは顔色を変えた。周囲に同級生はいなかったからギノがいじめられることはないだろう。ただギノの少し長い爪は俺の目元に引っ掻き傷を作って、鉄くさい血の味がした。ギノは動揺していた。彼はいつも言葉で人を傷つけていたけれど、自分が殴られでもしない限り誰かを殴ることなんてない人間だった。そして俺はその時思った。あぁ、ようやく関係が変わるんじゃないかって。
    2002

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    TRAINING狙撃される宜野座さんと看病する狡噛さんの話。
    神頼みなんてらしくないな ギノが狙撃された。任務中の出来事だった。彼はビルの高層階でターゲットを狙っており、スポッターとなった須郷とともに行動していた。まだ須郷がいて良かった。捕虜にでもなれば目も当てられない悲惨な状況に落とされただろうから。だが、俺はそこにいなかったことを後悔した。俺は出島の街を歩き、ギノが狙っていた敵に接近しようとしていた。当初はギノは撃つつもりはなかっただろう。だが、俺のターゲットはギノを確認し、自分が殺されるかもしれないと部下に命令してギノを撃った。そうして彼は今集中治療室にいる。花城は大丈夫だと言った。俺もそれを信じている。信じて彼の手を握っている。包帯を頭に巻かれた、彼の手を握っている。
     ギノは頭を撃たれたのだそうだ。あちらの狙撃手も腕が良かったのだろう。俺は彼が後遺症を残さないことを祈って、ただ、ただ神に祈った。かつては無神論者とドッグタグに書いた俺がである。神頼みなんてらしくないなと思いつつも、それでも祈らずにはいられなかった。ただ助かってくれと静かに祈る時、人は神を見るのだろう。静かに誰かの無事を願う時、人は神を見るのだろう。神なんて信じないって言ってられたのは自分が一人だった時だ。いや、俺は神を信じているのだろうか? 神かどうかなんてどうでもよくて、ただ大きな力に祈っているのではないか。俺はそんなことを思い、静かに息を吐いた。
    2060

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    TRAINING出島を歩いていて結婚式に出会う狡宜です。
    言えないよ、一言じゃ済まないから 言葉にしたら消えてしまうようなものについて、たまに考えることがある。愛しているって言葉は軽薄になるが消えない。消えてしまうのは、もっと些細で、小さくて、壊れそうなものだ。そして狡噛が一番大切にしているもの。彼が俺にどうにかしてそれをくれたのは学生時代のことで、初めてキスをした日のことだった。ギノ、愛してる、どこにも行かないでくれ。彼はそう俺にお願いをして、何度も、何度もキスをした。俺はそれにうなずいた。別に行くところなんてなかったし、彼のそばが一番心地よい気がした。けれど違ったのだ、彼はひとところにとどまる人間じゃなかった。彼は居心地の良さを求めてどこにでも行く人間だった。だから俺がいなくなることはなくても、彼がいなくなることはあった。それが彼が日本を飛び出た理由なんだろう。人間関係を全て捨てて、そしてそこで新しく何かを築き上げて、それすらすぐに捨ててしまう。言葉にしたら消えてしまうようなものについて考えると、彼はそれをよく使うことが分かった。でも俺はそれを使えない。一言じゃ済まないから。一生どこにも行かないくでくれ、そばにいてくれ、俺を愛してくれ、そんなふうに言葉が止まらなくなるから。
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    TRAINING何となく前回の続き。
    二人で浴室に入って、髪の毛を少し切ってもらう宜野座さんのお話。
    意味なんかないはずだけど 髪を伸ばしていることに確かな意味なんてない。伸ばし初めの時は、よく聞かれたものだ。願掛けをしてるんですか、何を願っているんですかって。俺はそれを聞かれる度に何も考えていないんだって言い返して、実際のところどうなのだろうと悩んだ。理由もなしにこんなに髪型を変えるだなんて、そんなことはきっとない。俺は多分どこかで狡噛に会たくて髪を伸ばしていた。そうしたら会えたのだ、あの奔放な男に。それからはずっと惰性で伸ばしている。また会えたらいいと、自分から突き放しておいてまた会えたらいいと。狡噛は知らないだろう。外務省で再び出会った時は髪型は変えないんだなと言われた。何か理由でもあるのかとも言われた。俺は意味なんてないさとつぶやいて、少し伸びた髪を触った。果たして願掛けをして髪を伸ばしていたと言えば彼は喜ぶだろうか? そこまで思われていたと思って喜ぶだろうか? それともいつものようにクールに振る舞う? 俺は分からない。彼の考えが俺には分からない。彼を喜ばせたいけれど、どう振る舞えばあの男が俺を愛してくれるかが分からない。願掛けで髪を伸ばしていたと言えば重いと思われるかもしれない。それともロマンチストな彼は喜ぶだろうか。俺には分からない。
    2027

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    TRAINING夕食を一緒に取る二人。前回の続きですがこれだけでも読めます。
    少し話した後に、抱きしめたくなるんだ 狡噛は何も喋らない。彼は俺の部屋にやって来ても、持参した古本を読むか、いつの間にか置かれるようになったレコードを流すかで、積極的に俺に触れようとしなかった。別にそれに不満があるわけじゃない。彼と過ごす穏やかな時間は俺にとってかけがえのないものだったし、狡噛慎也という人間が側にいるだけで安堵した。触れなくても体温が伝わって、彼の規則的な呼吸に泣きたいくらい安心した。子どもが母親の手を離さないように、ゆっくりとした心音に触れるため腹に頭を押し付けるように、俺は彼の横顔を見つめ続けた。そりゃあ触れたいと思う。手を握ったり、彼を抱きしめたりしたい。けれどその先に待っているのはセックスというだけで、そうすれば自分が今抱いている焦燥感が消え去ってしまいそうな気がした。俺は彼を愛している。だったら彼が心地よいようにしたかった。レコードをかけて、ジャズを流して、見知らぬ題名の本を読む彼の側に座って、俺はいつもデバイスを触った。彼の好きな音楽を探り、熱心に集中する本を調べた。でもそれだけだ。それだけで何も出来なかった。だから俺は口を開くのだろう。彼をそっとしてやりたいのに、用事にかこつけて、彼の声を聞き出したいのだ。彼がどんなふうに本に感想を抱くのか、この音楽のどこがいいのか。掠れ声がセクシーな歌手の声に耳を傾けるのは何故なのか。俺はそんな簡単な不思議を知りたくて、狡噛に向かって声をかけた。
    2060

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    TRAINING時間がない中で愛し合おうとする狡噛さんの話。
    800文字チャレンジ100日目。
    お付き合いありがとうございました!
    タイムリミット(あなたを愛する時間) 時間がない。だからといって手抜きはしたくない。たっぷりいつものように時間がかけられないとはいえ、彼を愛するのに手を抜きたくはない。そんなことを思いながら俺はギノに口付けを落とす。キスだけで終わっておく? あとは夜にとっておく? それとも短い時間を共にしてから出勤する? 俺は悩みながら、静かに身を寄せるギノを抱きしめた。彼は俺にされるがままにされている。少しくらい出勤が遅れてもかまわないとでも思っているのだろうか? 俺はそんなことを思って、そんなことあるはずがないとも思った。彼は仕事に関してはストイックで真面目だ。こんなことが許されるはずがない。以前だってこんな時に始めようとしたら、左で殴られたことがあった。彼は少し性欲が淡白で、キスだけで満足できるところがあるのだ。ただ触れられたらそれでいい、そう考えるところが。だからこうやってキスをしているのも、大した意味はないんだろう。セックスに繋げようなんて、そんなこと絶対に考えていない。セックスなんて夜にする深い営みくらいにしか思っていない。俺はそれを悔しく思う。急げば出勤までに間に合うのに、彼はそれをしてくれないと。
    991

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    TRAININGお墓参りをする宜野座さんのお話。何かが変わってゆく様子。
    800文字チャレンジ99日目。
    ただ、君を待つ(二度と離さない) 狡噛がいなくなって数年が経った。だというのに俺はまだ彼を待っていて、自分から別れを告げたくせにまだ待っていて、海外に派遣されることはないかとか、共同捜査にあたることはないかとか、そんなことばかりを考えていた。そんな俺を常守は見ていられないようだった。考えてみれば、彼女が別れの時間を俺に渡したのだから、そう思うのも仕方がないのかもしれない。彼女は俺が撃てないことを、狡噛を殺せないことを知っていた。そしてその代わりに別れを告げることも。だから俺は彼女についてゆこうと決めたのだが、それでも彼女にはひどい役目を課していると思う。俺が知らない何かを知っている彼女は、今日だって局長室に呼ばれて行った。何かが動いているのは分かっていた。先日は外務省から花城フレデリカがやって来たし、口の堅い須郷を口説き音して聞けば、外務省に新しい部署を作るにあたって求められた、とのことだった。何かが動き出していた。俺が何も知らない何かが。俺が何も知らないのは、いつだって同じことだった。いつだって俺はただ転がる球で、跳ねては物事の本質を知る人々に笑われていた。出世が見込めるときはそれでも満足していたが、それがなくなった今ではどうしていいのか分からない。執行官が下手に動けば上司である監視官が処罰される。だから俺は、ゴム毬のように、ずっと跳ねているしかないのだろう。
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