想・喪・葬・添 最終話別れの日は雲一つない晴天だった。
まるで天が江澄の新しい門出を祝福しているかのように、清々しい風まで吹いている。
旅行に行く人々の顔は期待で輝いているし、出張に行く人でさえ曦臣程心を曇らせている者はいないだろう。
隣には無二の親友がいるというのに、ただ一人この空間に溶け込めなかった。
何を話せばいいかわからないまま、あっという間に保安検査場の前まで着いてしまった。
「忘れ物はない?」
「ああ、見送りありがとう。向こうに着いたら連絡する」
「うん。待ってる」
「偶には帰国するから、そうしたらまた飯行こうな」
「うん。それも待ってる」
曦臣はいつも通りの穏やかな顔をしている。
しかし、仮面の様に貼り付けた笑顔であることに、江澄はとっくに気が付いていた。
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